フリースクールから地域社会の拠点へ。『まなびナビ』が目指す人生100年時代の学び
まなびナビ合同会社
代表 中河西 慎平
本事業では、地域内外の中小企業・スタートアップや大企業、大学等が連携して、地域の課題解決を図るためのプロジェクトや、多様な主体が交流できる会員組織(コミュニティ)の立ち上げなど、イノベーション創出に向けた取組を進めています。このインタビュー連載では、多摩地域のイノベーションをリードする注目企業をご紹介することで、皆様に多摩地域の魅力を発信していきます。
学校に行けない・行かない子どもたちにとって、安心して過ごせる居場所であること。そこを出発点に、一人ひとりに合った学びを柔軟に設計していく。まなびナビ合同会社が運営する「まなびナビ」は、フリースクールを軸に、子どもたちの学びの場づくりに取り組んでいます。地域に根ざした展開を進める代表の中河西慎平氏に、事業内容と強みについて伺いました。
事業の柱は不登校児向けのフリースクール
- 事業内容をご紹介ください。
中河西:事業は大きく「スクール事業」と「コンテンツ事業」の2本柱です。中心になっているのはスクール事業で、「多様な学びスクール まなびナビ」を運営しています。2024年6月に稲城校を開校し、現在は1校体制。今後は2027年を目安に、府中をはじめとする多摩地域での新規開校を計画しています。さらに2030年までに5校舎へ広げていきたい、というのがいま描いているロードマップです。
- まなびナビのサービスを具体的に教えてください。
中河西:大きく分けると、サービスは4つあります。まず一つ目がフリースクールです。いわゆる学校に行けない子、あるいは行かない選択をしている子たちが、日中を過ごす場所になります。利用割合としてはいちばん多く、対象は小中学生です。二つ目が放課後の学習サポート。こちらは16時から18時半まで実施していて、学習塾のように1コマ60分単位で通ってもらう形式です。こちらも小中学生が中心になります。そして残りの二つは、この4月からスタート予定で、一つは通信制高校のサポート校「学びナビ高等学院」。高校生を対象にした取り組みです。もう一つが「キャリアスクール」で、高校生以上が学習や進路準備のために通える場として位置づけています。

- そもそもフリースクールでは、どんなことを教えているのでしょうか。
中河西:基本的に、これを必ずやらなければいけないというカリキュラムはありません。学校の場合は学習指導要領に沿った教育を提供する必要がありますが、フリースクールにはその縛りがないんです。どちらかというと、学びを詰め込む場というよりも、日中、学校に行けない子どもたちが安心して過ごせる居場所を提供することが中心になります。まずはそこが、フリースクールのいちばん大事な役割ですね。
学習設計力が生む、まなびナビならではの強み
- まなびナビの強み、他のフリースクールとの違いはどこにあるとお考えですか。
中河西:フリースクールの中では、比較的、学習色が強いほうだと思います。いい意味で、少し塾っぽさがあるかもしれません。特に強みだと感じているのは、教材や検定系のコンテンツを自分で設計できる点です。もともと10年ほど学習塾業界にいたので、教材づくりや指導にはある程度の蓄積がありますし、小中学校レベルであれば全教科対応できます。そこは大きなベースになっています。

一方で、今の子どもたちは、学校が提供する教科書中心の学びにうまくフィットしないケースも少なくありません。だからこそ、もっと子どもたちに合った学び方を探りたい。たとえばマインクラフトのようなツールを活用するなど、少し視点を変えたコンテンツを試行錯誤しながら形にしていく。そうした柔軟さは、他のフリースクールにはなかなかない部分かもしれません。
子どもに合わせてつくる、柔軟な教育コンテンツ
- そうした教育コンテンツをつくるうえで、具体的にどんな工夫をされていますか。
中河西:まず大事にしているのは、ぱっと見て面白そうと感じられること。見た目や入口のハードルを下げる工夫は意識しています。また、学校の標準的な進度よりも、もう少しやさしいところから始めたほうがいい子も多い。なので、その子の状態に合わせて、基礎の基礎から入っていける教材づくりを心がけています。紙の教材だけではありません。イベント型の授業も取り入れていて、たとえば漢字検定に挑戦したり、ルービックキューブやそろばんをやってみたり、地域のゴミ拾いに出かけたり。とにかくいろいろ試してみるんです。その中で、子どもたちの反応を見ながら、これは手応えがあると感じたものを残していく。そんなふうに、実践を重ねながらコンテンツを磨いています。
- イベント型の授業への子どもたちの反応は?
中河西:正直に言うと、集団で何かをやること自体が苦手な子は多いです。集団授業が好き、という子のほうが少ないかもしれません。たとえば、みんなで漢字検定を受けようといった取り組みに抵抗感を示す子もいます。それでも、あえて一緒にやる機会をつくっています。というのも、学校は集団の場ですし、その先の社会も基本的には集団の中で成り立っています。集団で何かに取り組む経験に少しずつ慣れていくことが、学校や社会との接続を考えたときに大切だと思っているからです。もちろん、ご家庭の方針もあります。得意なことだけを伸ばして、苦手なことは無理にやらせず自己肯定感を高めたいという考え方もあります。そのバランスはとても難しいところですが、対話を重ねながら一緒に考えています。

また、公的支援との違いで言えば、やはりスピード感です。公的な取り組みは予算や年度単位の制約があり、内容の更新に時間がかかることもあります。その点、民間である私たちは、この子にはこういう授業が必要だと感じたら、翌月、場合によってはその月からでも始めることができる。この柔軟さと機動力は強く意識している部分です。公的支援と競うというよりも、役割の違いを踏まえながら、民間だからこそできる動き方で価値を出していきたいと考えています。
リアルとオンラインをつなぐメタバース校
- 実際に教室に通う子もいれば、自宅からオンラインで学ぶ子もいるのでしょうか。
中河西:これまでもオンライン参加は可能ではあったのですが、正直に言うと中途半端な状態でした。システム上は対応できても、仕組みとして十分に整えきれていなかったんです。そこで2月から、正式にメタバース校という形でスタートさせることにしました。不登校の状況は本当にさまざまです。フリースクールはリアルな場なので、どうしても周囲に人がいる環境になります。そこに最初から入るのが難しい子もいますし、生活リズムが乱れていて通室自体がハードルになるケースもあります。
そうした子にとっては、まずは自宅から参加できることが大きな一歩になります。その入り口として、メタバース校を開校する、という位置づけです。実は、メタバース自体は以前から活用していました。一般的なオンラインフリースクールは、自宅からメタバースに参加する形式が中心ですが、うちは少し仕組みが違います。リアルに通っている子どもたちも一人一台パソコンを使い、メタバース上でコミュニケーションを取っています。つまり、もともとリアルとバーチャルがつながっている環境がある。そこに、自宅参加の子が加わるイメージです。リアルかオンラインかを分けるのではなく、同じ空間の中で緩やかにつながれる仕組みをつくっています。

地域とともに育てる学びの場
- 他社との連携した取り組みがあれば教えてください。
中河西:稲城市にあるIT企業、リーフテックさんと連携しています。たとえば、子どもたちが会社見学に伺い、ITコンサルの仕事を実際に見せていただいたり、代表の方に教室へ来ていただいて話をしてもらったりしています。私たちはそれを先輩トークと呼んでいます。
もう一つは、駅前の中華料理店、三来軒さんとの取り組みです。お店のマスコットキャラクターを子どもたちでつくろう、という話になり、まず子どもたちがイラストを描き、それをデザイナーの方に仕上げてもらって、シールやTシャツにしてお店にプレゼントしました。いわば地域のお店の課題解決に、子どもたちのアイデアを活かす形ですね。

- 子どもたちの反応はどうでしたか。
中河西:とても喜んでいました。不登校の子は内向的な子も多く、絵を描くのが好きな子は本当に多いんです。自分の描いたものが形になって、お店に飾られ、誰かに喜んでもらえる。それは大きな自信になります。ただ、正直に言えば簡単ではありません。個性の強い子が多く、ここはやりたいけど、これは絶対やらないという子もいる。わがままと言えばそうかもしれませんし、個性とも言える。その捉え方は難しいところです。だからこそ、その子ができる範囲の中で、もう一歩だけ頑張ってみようと働きかけることを大事にしています。得意なこと、好きなことだけでなく、少し苦手なことにも挑戦する。そのバランスをどう取るかが、フリースクールの本質であり、いちばん難しい部分だと思っています。
楽しいことだけをやる、という考え方もあると思いますが、私は少し違います。長い目で見たときに、苦手なことや嫌なことと向き合う力は、子どものうちだからこそ育てられる部分もある。小中学生の時期に、無理のない範囲でその経験を積むことが大切だと考えています。もちろん、子どもたちの様子を見ながら。その調整を日々続けている、という感覚です。
地元・多摩で広げるネットワーク
- 多摩地域で事業を展開するなかで地域ならではのメリットは感じますか?
中河西:やはり、自分が地元出身であることは大きいと思います。私は稲城市の公立小中学校出身なので、その話をすると、地域で育って、地域でこういう取り組みをしているんですねと受け止めていただけることが多いんです。いわゆる昔からこの地域にいる方々との間に、顔の見える関係がある。そこから自然と信頼が生まれたり、応援したいと言っていただけたりすることは少なくありません。紹介をいただくこともありますし、地域の中で評価していただけることもある。そうした地域の信頼を事業に活かせているのは、地元でやっているからこその強みだと思います。
- 多摩イノベーションコミュニティに参加された背景について教えてください。
中河西:スクールの今後の展開を考えたとき、まずは多摩地域で事業を広げていきたいという思いがあります。将来的には区部での展開も見据えているので、多摩イノベーションコミュニティに参加し、ネットワークや協業の機会を得られることは、事業にとっても非常に大きな意味があります。多摩地域でつながりをつくりたい。その思いが、参加の大きな理由です。実際、稲城市は人口約10万人規模ですが、以前はフリースクールが一つもありませんでした。同じように、まだフリースクールがない自治体は多摩地域にもあります。そうした地域を中心に、必要とされている場所へ少しずつ広げていきたいと考えています。

人生100年時代に、学び続ける人を育てる
- 最後に、この事業のやりがいと今後の展望をお聞かせください。
中河西:やりがいは、やはり子どもたちの成長です。日々現場で支援をして、その子が少しずつ変わっていく。そしていつか卒業生がふらっと戻ってきて、下の子たちと交流する。そんな循環が生まれることが、いちばんの理想ですね。
スクールのミッションとして掲げているのは、「人生100年時代に、学び続ける人を育てる」ことです。今は小学生から利用できますが、仕組みとしては100歳まで関われる場にしたいと思っています。学校に通う期間だけでなく、卒業後の学び直しやキャリアチェンジのタイミングでも、また戻ってこられる。そんな、いつでも利用できるスクールを目指しています。
一つの仕事で人生が完結する時代ではなくなってきています。だからこそ、キャリアを変えるときに、自然に学ぶという選択ができる環境が必要だと思っています。MBAのような専門的な学びでなくてもいい。もっと身近で、地域の中に当たり前にある学びの場でありたい。主婦の方や高齢者もいて、子どもたちもいて、みんながそれぞれ学んでいる。ちょっとごちゃごちゃしているけれど、多世代が混ざり合う空間。そんな地域の中の学びの拠点になることが、目指している方向です。
会社情報
| 会社名 | まなびナビ合同会社 |
|---|---|
| 設立 | 2022年5月 |
| 本社所在地 | 東京都稲城市大丸124 岩瀬ビル2階E |
| ウェブサイト | https://mana-navigation.com/ |
| 事業内容 | スクール事業:多様な学びスクール「まなびナビ」の運営/クリエイティブ事業:教材、書籍、情報冊子の企画、作成 |