医療機器というニッチな領域で、医師たちの”あったらいいな”をかたちにする | 多摩イノベーションエコシステム促進事業
医療機器というニッチな領域で、医師たちの”あったらいいな”をかたちにする

医療機器というニッチな領域で、医師たちの”あったらいいな”をかたちにする

リブト株式会社 代表取締役 後藤 広明

 本事業では、地域内外の中小企業・スタートアップや大企業、大学等が連携して、地域の課題解決を図るためのプロジェクトや、多様な主体が交流できる会員組織(コミュニティ)の立ち上げなど、イノベーション創出に向けた取組を進めています。このインタビュー連載では、多摩地域のイノベーションをリードする注目企業をご紹介することで、皆様に多摩地域の魅力を発信していきます。

 規制が多い日本の医療機器業界は、ベンチャー企業が育ちにくいと言われています。そうした背景のなかで、八王子市に拠点を構える医療機器ベンチャーのリブト株式会社は、2022年12月で創業16年目を迎えました。なぜ小資本でも生き残ってこれたのか。キーワードは「医師たちの声」と「ニッチな領域」です。経験と発想力と確固たる信念を武器に、「嚥下内視鏡」分野のトップランナーである後藤広明代表取締役に話を聞きました。

インタビューにお答え頂いた後藤広明代表取締役

規制だらけの医療機器業界

医療機器業界は参入障壁が高いと言われていますが、それはなぜでしょうか

後藤:医療機器メーカーを経営するためには、国の規制をいくつもクリアしなければなりません。製造するためには医療機器製造販売業許可及び医療機器製造業登録が、品質を担保するためのISO13485への対応が必要です。一部規制緩和されていますが、製造販売業許可を取得するためには、3年間の安全管理業務を経験していなければなりません。まったくの未経験から始めようとした場合は、安全管理業務の経験者を雇ったり医療系コンサルティング会社に委託するなど、まとまった資金が必要になります。知識や経験、資本力がなければ、スタートラインに立つことすらできないのが現状です。

後藤社長はどのような経緯で起業に至ったのでしょうか

後藤:あまり覚えていないのですが、子どものころから将来は自分の会社を作りたいと周囲の友人たちに言っていたようです。なので、起業志向はもともと強かったと思います。企業で経験を積んでから自分で事業を起こしたいと考えていましたので、大学卒業後は大手医療機器メーカーのオリンパス株式会社で、エンジニアとして6年間、内視鏡用処置具(手術器具)の開発・設計に携わり、その後は営業本部で医師の方々と連携しながら、新規事業の立ち上げに関わっていました。そこでの経験があったから、最小限の資金でいまの会社を立ち上げることができたし、後にヒット商品を生み出すこともできました。医療機器は命に関わるものですから、医療事故のリスクを限りなくゼロに近づけなければなりません。しかし、そこを突き詰めすぎると商品が完成しない。その按配は経験者にしか分からないのですが、私はたまたまエンジニアと営業の経験があったため、こうして医療機器メーカーを経営できていると思っています。

嚥下内視鏡の領域で日本屈指のプレーヤーに

先ほどおっしゃったヒット商品について教えてください

後藤:嚥下(えんげ)機能の状態を調べる携帯用の内視鏡ビデオカメラです。嚥下とは食物を飲み込む動作で、飲み込んだ物が誤って気管に入ってしまうことを「誤嚥」と呼びます。健康な方は、誤嚥をしても、自然にむせて体外にはき出せるのですが、高齢になるにつれて嚥下機能が衰えると、食物が肺に入って誤嚥性肺炎を発症してしまうことがあります。嚥下機能の低下がさらに進行すると食物が食べられなくなり、最終的にはお腹に穴を開けてチューブを通し、胃に食べ物を流し込む胃瘻(いろう)等をしなければなりません。
 それを防ぐためには、内視鏡検査で嚥下機能の衰えを早期に発見する必要があります。しかし、足が不自由などの理由で病院に通えないお年寄りは、なかなか検査を受けられません。そうした方々のもとを訪れて手軽に検査できる内視鏡を作れないかと、ある医師の方に相談されたのが、開発のきっかけでした。今ではこの領域において日本屈指のプレーヤーに成長したと自負しています。

主力商品の携帯用嚥下内視鏡カメラ

社名に込めた、医師との共存共栄の思い

“医師の声”を取り入れたことが成功の秘訣だったのですね

後藤:医師の方たちの“あったらいいな”を形にする、それが我々の経営スタイルです。社名のリブトとは、Live Togetherの略です。医師の方たちに頼らせていただきながら、我々にできることなら損をしない限りは何でもやるという、共存共栄の精神が込められています。内視鏡カメラだけでなく、嚥下機能を鍛えるトレーニング器具も製造・販売しているのですが、単価が低く送料も含めると利益はあまり出ません。でも、世の中が求めているのはこういう製品なんです。誰かがやらなければいけない仕事をやるのが我々の使命です。大企業が手を出せないニッチな領域こそ、我々が輝ける場所だと思っています。

「恩返しの気持ち」と「物事が進む速さ」から、地元企業と連携

八王子市を拠点にしている理由と、利点を教えてください

後藤:前職のオリンパスが八王子市にあったため、サラリーマン時代に八王子に家を買いました。その後、起業を検討していた時には商工会議所が主催する八王子創業塾にもお世話になり、起業した際には八王子市に恩返しをしたいという思いもありました。利点としては、他の企業さんも規模がそこまで大きくないので、すぐに社長と話しができる点が挙げられます。互いに決定権があるため、即断即決で物事が進みます。また、もともとオリンパスのおひざ元ということもあり精密加工の技術力がある企業が多いので、試作の際は地元企業にお願いするようにしています。市の助成金が下りたプロジェクトも、できるだけ地元企業に発注して八王子市にお金が落ちるようにしています。周りの皆さんもそうした地元を大切にするマインドをお持ちですね。

行政と共同して避難所開設支援サービスを開発

八王子市とも共同でリーディングプロジェクトに取り組まれていますね。

後藤:避難所開設支援サービスのことですね。当社は医療機器メーカですが、コロナで医療崩壊を目の当たりにしました。医療崩壊を回避するには予防が重要であり、そのため、最近は防災にも着手しています。首都直下型地震が起きた際、八王子市は都心の人々を受け入れるために、150もの避難所を迅速に開設する必要があります。我々は、災害対策本部への避難所開設の連絡や、開設状況のWEBページへの表示を、ボタン一つで簡単にできるサービスの開発を八王子市と共に進めています。このサービスは以前に我々が開発した「混雑アラート」という、AIで混雑状況や換気状況(CO2濃度)を可視化するシステムを活用することで、新型コロナウイルスの感染対策にも対応した避難所開設を実現できます。もともとあった技術を、社会のニーズに合わせてうまく組み合わせた成功例だと思います。

エンジニアと商品企画、二つの視点でビジネスを生み出す後藤社長

周囲と達成感や充実感を共有。後藤社長の仕事論

常に新しいビジネスを追い求める情熱はどこから湧き出てくるのでしょうか

後藤:もともと企画することが好きな性質なのだと思います。学生時代の文化祭のように、ビジネスも周囲を巻き込みながら皆でワイワイ楽しんでしまう。利益ばかり追いかけるのではなく、達成感や充実感を、私が関わる方々と共有する。それが私の仕事に対するスタンスです。現代社会は疲弊している大人が多いと思います。だからこそ、大人が楽しそうに仕事をする姿を子どもたちに見せることが大切です。今年、次男が高校を卒業するのですが、卒業後は家族で日本を旅する計画を立てています。私自身が楽しみながらリモートで働く姿を間近で子どもに見せようと思っています。また、旅の道中では所持品が限られてきますから、足りないものは自分で作るなど、工夫をしながらまかなっていく必要があります。子どもにとってそうした経験は発想力が鍛えられますし、今後の人生にも生きてくるでしょう。

経営方針を転換し、居心地の良さを追求

創業から16年目を迎えました。10年以上続くベンチャー企業は全体の1割以下とも言われているなかで、長く続けられている秘訣は何でしょうか

後藤:社員の居心地の良さを意識しています。昔は、事業規模を大きくするために厳しさを求めていましたが、そのやり方に社員の方々がついてこれないという弊害があったため、やり方を変えていきました。仕事をやらされるのではなく、楽しめる環境が居心地の良さにつながります。また、コロナ禍の前からリモート勤務を推し進め、エンジニアにとってより居心地が良い働き方を追求しています。私もどんどん旅に出たいですしね。今後も、大企業が手を出せないニッチな領域で好きなモノづくりを粛々と進め、“あったらいいな”を具現化した製品を世の中にたくさん送り出していきたいです。

創業16年目を迎えても後藤社長の情熱は衰えなる様子がない

会社情報

会社名 リブト株式会社
設立 2007年12月
本社所在地 〒192-0046 東京都八王子市明神町4-9-1-301
ウェブサイト https://livet.jp
事業内容 「医師たちのあったらいいな」をカタチにするをモットーに2007年に設立された医療系ベンチャー企業。大企業が市場規模等(市場が小さすぎる)の理由で手が出し難いニッチ領域やまだ顕在化していない潜在市場に対し、果敢にチャレンジしている。

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