青梅線「沿線」地域を巻き込みながら運営する滞在型観光ホテルを展開 | 多摩イノベーションエコシステム促進事業
青梅線「沿線」地域を巻き込みながら運営する滞在型観光ホテルを展開

青梅線「沿線」地域を巻き込みながら運営する滞在型観光ホテルを展開

沿線まるごと株式会社 代表取締役 嶋田俊平

 本事業では、地域内外の中小企業・スタートアップや大企業、大学等が連携して、地域の課題解決を図るためのプロジェクトや、多様な主体が交流できる会員組織(コミュニティ)の立ち上げなど、イノベーション創出に向けた取組を進めています。このインタビュー連載では、多摩地域のイノベーションをリードする注目企業をご紹介することで、皆様に多摩地域の魅力を発信していきます。

 JR東日本の立川駅と奥多摩駅を結ぶ長さ37.2キロの青梅線のうち、青梅駅と奥多摩駅間は東京アドベンチャーラインという愛称が付けられています。その沿線で進められているプロジェクトが「沿線まるごとホテル」。空き家をホテルの客室に改修して滞在型観光を提案するもので、2023年度から本格的に事業を開始する予定です。事業を進める「沿線まるごと株式会社」の嶋田俊平社長に、開発の狙いなどについて聞きました。

インタビューにお答え頂いた嶋田社長

タイで幼少期を過ごしたことにより、熱帯雨林の再生に関心を持つ

幼少期は海外の暮らしが長かったと聞いています

嶋田:父親が海外で日本語教師として働いていたため、小3から小6にかけてタイで育ちました。タイに行く前は、国土の大半はジャングルが広がっているイメージを抱いていたのですが、実際は赤茶けた大地が広がり、木もひょろひょろ。調べてみると、先進国の製紙会社などが樹木を伐採した結果、豊かな熱帯雨林が減少したためでした。かつては木材の輸出国だったタイが、森林資源が枯渇して今では木材輸入国になっていることを知り、熱帯雨林の再生という仕事に就きたいという思いが芽生え、この分野に強い京都大学農学部に進学しました。

NPO活動を通じ、農山村の風景を守ることを決意

大学時代はNPOに参加されていたそうですね

嶋田:京都は林業が盛んなのに、大学はDNAや細胞、生態系にフォーカスした基礎研究が中心で、なかなか森づくりの現場に携わることができませんでした。そこで森林関連のNPOに加わり、鴨川の源流で林業が盛んな雲ケ畑集落(京都市北区)に通うことにしました。6年間、毎週足を運び、地元林業業者の仲間に加えてもらいながら林業のサポートを行いました。しかし、NPOが支援しても構造的な問題の解決は難しく、林業は厳しい状況が続いていました。木が売れないので土地を売る人が出てきて産業廃棄物の置き場などが出現するようになりました。そうした変化を目の当たりにして、「農山村の風景、暮らしを守る人間になる」と心に誓い、大学卒業後は環境と街づくり関連のコンサル会社に進みました。

森林セラピーをビジネスとして成立させる

環境コンサル時代、特に印象に残っている仕事は

嶋田:入社3年目の2006年から関わった長野県信濃町での新たな産業づくりです。パウダースノーに恵まれた黒姫高原を有するこの地は、かつて栄えていたスキー産業が衰退。そこで、森林セラピーを体験できる「癒しの森」事業に力を入れていましたが、マネタイズが難しく、私たちコンサルが支援することになりました。当時はメタボ検診やメンタルヘルス対策が注目されていた時期なので、企業従業員向けの健康をテーマにした研修や旅行を積極的に提案した結果、信濃町と協定を締結する企業がどんどん増えていき、ビジネスとして成立するようになりました。

ふるさとの夢をかたちにしたい

そのプロジェクトで得たものは何ですか

嶋田:伴走型の支援をすることのやりがいです。地域の方と一緒に汗をかいて地域を良くすることに達成感がありました。信濃町のプロジェクトの主要メンバーと、「他地域もサポートできたら楽しいな」と語り合う中で、会社を立ち上げることになりました。社名は、ふるさとの夢をかたちしたいという思いを込めて、「株式会社さとゆめ」としました。

 転機を迎えたのは2012年です。秋葉原の駅近くのJR山手線高架下に出店するアンテナショップの開発を支援したのですが、コンサルタントとしての机上での検討結果を提示することよりも、実際に地域の方の思いを実事業として形にして一緒に経営していくことに楽しさを感じました。「伴走型で地域を支援する仕事に専念したい」という思いが募って、翌年にコンサル会社を退職し、さとゆめの経営に専念することにしました。

山梨県小菅村の再生にJR東日本が関心

さとゆめでの仕事が、どういった形で沿線まるごとホテル事業に発展したのですか

嶋田:きっかけは、多摩川の源流部で山梨県の東部に位置する小菅村の活性化です。参画して5年間で観光客は8万から18万人へと大幅に増えたのですが、大半が通過型だったため、滞在型観光の確立に向けて「700人の村がひとつのホテルに」をコンセプトに掲げ、空き家を再生してホテルにし、2019年8月に開業しました。このコンセプトがテレビで話題になり注目を集めていたため、JR東日本八王子支社の関係者が視察に来られました。同支社は中央線や青梅線等を管轄しており、とくに過疎化が進む東京アドベンチャーライン沿線の活性化が喫緊の課題でした。奥多摩町と小菅村は隣接しているのですが、「ここまで小菅村に寄り添って伴走してこられたのはすごい」と高く評価してくださったので、JR東日本のCVCのアクセラレーションプログラムへ事業案を提出することにしました。そのプログラムの一環として行われたピッチイベントで上位に残ることができて本格的にJR東日本八王子支社さんとの沿線まるごとホテル事業が始動しました。

沿線まるごとホテルのフロントである青梅線の鳩ノ巣駅

実証実験では、30組の追加募集があっという間に完売

事業内容はどういったものですか

嶋田:無人の鳩ノ巣駅(奥多摩町)を中心に、周辺集落の空き家をホテルに改装、集落住民とともに運営します。駅にはコンシェルジュが迎えに上がり、地元住民しか知らない道や風景を案内するツアーや、地元食材を活用した「沿線ガストロノミー」などのサービスを提供します。60組限定のモニターツアーが好評だった結果を踏まえ、30組を追加しましたが、これもあっという間に完売。うまくいく確信を抱き、この事業に本腰をいれて取り組むため、伴走型地域支援のソフト部分に強みを持つさとゆめ社と、駅や鉄道等のハード部分に強みを持つJR東日本の共同出資で、2021年12月沿線まるごと株式会社を設立しました。2023年にも本格的な事業サービスを開始する予定です。

「沿線ガストロノミー」も売り物のひとつ

わさびの栽培農家などをコンシェルジュとして認定

サービスを提供するに当たっては、地域の方々との連携にも力を入れているようです

嶋田:地元で活躍されている3つの団体を沿線まるごとコンシェルジュとして認定しています。そのうちの1つが、奥多摩でわさび栽培に取り組んでいる2人組の「わさびブラザーズ」。「五感で楽しむ奥多摩わさびツアー」を中心に奥多摩とわさびの魅力を発信するツアーを準備しています。2つ目の「おくたま地域振興財団」には、森林セラピーのガイドとして活躍してもらいます。もう1つが奥多摩町内キャンプ場の運営や、観光用トイレの清掃サービスなどを展開する「奥多摩総合開発」。観光用トイレの清掃サービスを行うチームの愛称は「OPT(オピト=オクタマ・ピカピカ・トイレ)」で、床に這いつくばるような姿勢で磨き、トイレの中をきれいにします。トイレだけでなく、多摩川周辺の清掃活動も積極的に行っています。

電動自転車によるモビリティツーリズムも展開

観光という観点からの多摩の魅力は何でしょう

嶋田:素晴らしい自然に恵まれている点です。昔の街並みも残されており、多摩川の水を使った食材も豊富で、鳥鍋料理もおいしい。こうした魅力は十分に伝わっており、夏休み等には人が押し寄せます。しかし、それ以外の期間はさっぱり。奥多摩や多摩川流域の素晴らしさが、面として伝わっていないからだと思っています。沿線まるごとホテル事業では、電動自転車・バイクによって地域を散策するモビリティツーリズムも組み込む予定です。この事業については多摩イノベーションエコシステム促進事業のリーディングプロジェクトでも選定され、山間部の二次交通の発展を目的とした取組です。二次交通の発展は一社では難しい部分も多いため、多くの事業者と協力して山間部の課題解決に取り組んでいきたいです。

電動自転車によるモビリティツーリズム

会社情報

会社名 沿線まるごと株式会社
設立 2021年12月
本社所在地 〒198-0106 東京都西多摩郡奥多摩町棚澤390
ウェブサイト https://marugotohotel-omeline.com/
事業内容 ・古民家宿泊事業(空き家改修から宿泊事業運営) ・地域観光事業(地域ガイド運営・地域体験運営) ・小売り・eコマース事業(地産品販売) ・その他サービス事業(伴走型地域課題解決コンサルティング)など

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