地域に根差したタクシー会社アナログ情報を付加価値としてイノベーションに挑む | 多摩イノベーションエコシステム促進事業
地域に根差したタクシー会社アナログ情報を付加価値としてイノベーションに挑む

地域に根差したタクシー会社アナログ情報を付加価値としてイノベーションに挑む

三幸自動車株式会社 代表取締役社長 町田栄一郎

 本事業では、地域内外の中小企業・スタートアップや大企業、大学等が連携して、地域の課題解決を図るためのプロジェクトや、多様な主体が交流できる会員組織(コミュニティ)の立ち上げなど、イノベーション創出に向けた取組を進めています。
このインタビュー連載では、多摩地域のイノベーションをリードする注目企業をご紹介することで、皆様に多摩地域の魅力を発信していきます。


 コロナ禍の外出自粛により、タクシー業界は大きな影響を受けました。タクシー事業から撤退する企業が増えるなかで、三幸自動車は、地元の観光名所をめぐるオーダーメイドツアーや地元大学との連携など、ユニークな取組で存在感を発揮しています。銀行員としてロサンゼルスに駐在する中で米国の宅地建物取引士を取得するなど、異色の経歴を持つ3代目の町田栄一郎代表取締役社長に、独自の経営スタイルについてうかがいました。

インタビューにお答えいただいた町田栄一郎代表

多くの経験を積んでからタクシー業界に乗り込んだ

入社の経緯を教えてください。

町田:昭和30年にタクシー会社を祖父が創業し、父が継いでいました。3代目の私は大学在学中に公認会計士試験に合格していたのですが、教授から「最初は一般企業に入って頭を下げることを覚えなさい」と助言をいただき、新卒で信託銀行に就職しました。法人融資、海外不動産、M&Aなどを経験し、11 年間在籍したのち三幸自動車に入社しました。ちょうどロサンゼルス支社に勤務していたころで、この転身は周囲からも外資系投資銀行にも転職できるのに、何故と驚かれました。しかし、タクシー業界というまったくの異業種だからこそ、古巣への裏切りにもならないと思い、銀行を辞めました。

銀行での様々な経験が柔軟な経営スタイルに活かされる

どこよりも早くユニバーサルデザインタクシーを導入

会社としては2000年からUDタクシー(ユニバーサルデザインタクシー)をいち早く導入されています。

町田:まず、UDタクシーとは、車いすのまま乗り込めるスロープや、腰の弱い方や高齢者の方が乗り降りしやすいステップ等を装備した、誰もが利用しやすいタクシー車両のことを言います。導入したのは、地元のお客様のニーズに応えるため、そして多摩地域から移動困難者を一人でもなくしたいと考えたからです。そのために、私も含めた6名のドライバーがホームヘルパー2級(現在の介護職員初任者研修)の資格を取得し、また、定期的に社内研修を行うことで介護の知識や技術の浸透を図っています。現在、16台のUDタクシーが稼働しており、ピーク時は1カ月に300件以上もご利用いただいていました。現在は、コロナ禍でタクシー利用自体が減っており、それに比例してご利用も減少しています。

車椅子に乗ったまま乗車できるユニバーサルデザインタクシー

コロナ禍に新たなサービスをスタート

コロナ禍に新たなサービスにも挑戦されていますよね。

町田:『タク配』のことですね。外出が憚られる状況でしたので、駅ビルに入っている複数の飲食店と提携してタクシー宅配サービスを行いました。普通のデリバリーサービスは一つの店舗のメニューの中からしか選べませんが、我々は中華とサンドイッチとカレー、といったように、店舗をまたいでメニューを組み合わせて注文することができたので、お客様からは喜ばれていました。しかし、コロナ禍が収束するにつれて本業のタクシー事業が忙しくなってきたため、現在は休止しています。

個性あふれるドライバーが数多く勤務

現在は何名のドライバーさんが所属されていますか。

町田:都内の営業所では68名が所属していて、さまざまなバックボーンをお持ちの方がいます。例えば著名な外資系ホテルを定年まで勤めあげた方などは、お酒に酔ったお客様への接客が素晴らしいんです。ホテルの宴会場での経験が生きているのでしょうね。4人家族のお客様へ、釣り好きのドライバーが趣味を生かしてマス刷りとBBQを組み合わせたツアーを組んだこともあります。他にも個性的で魅力的なドライバーさんが多いですよ。

地元に密着したオーダーメイドツアー

オーダーメイドツアーの取組についてもご紹介ください。

町田:オーダーメイドツアーは、名所や地元有名店等をタクシーで周遊するツアーのことで、年齢や障がい等の有無にかかわらず、どなたでも気兼ねなく、楽しく参加できるレジャーです。

 例えば、当社のある西東京市から六本木までイルミネーションを観に行き、戻ってきてから地元のレストランでお食事をするプランがあります。その際、レストランと提携してワインの無料サービスをつけることで、お客様に当社のツアーを利用するメリットを提供しています。こうしたツアーはレストラン側の売上にもつながり地元活性化にもなります。

 私たちのミッションは、お客様に地域の魅力というアナログ情報を付加価値として伝え体験してもらうことで、誰でも手軽に外出できる文化や地元周遊ツアーの市場を創造することだと考えています。また、当社は地元に密着した企業ですので、適正な価格で地域企業にもお客様にも貢献できるサービスを心がけています。

柔軟な思考からイノベーションは生まれる

多摩地域の学生と連動した取組をされていますが、どのような思いでやられているのでしょうか。

町田:学生の皆さんの常識にとらわれない考え方を参考にしたいんです。利益や採算などは考えていません。例えば、2023年には、東京工科大学の学生にUDタクシーによるオーダーメイドツアーに無料モニターとして乗っていただきました。率直に感じたことや思いついたアイデア等をフィードバックしてもらうことを通じて、若くて柔軟な感性に触れることができ、とても参考になりました。イノベーションというのはそうしたところから起こると考えています。

大学の授業等のDVDを制作してゼミに配布している

タクシー会社の利点を活かしアナログ情報を付加価値としてイノベーションを創出したい

地域に根差したタクシー会社として、今後どのような未来を描いていますか

町田:タクシー会社は乗客のリアルなアナログ情報を持っています。その情報に人が介在して付加価値を創出して、付加価値を活かしたサービスが対価性を生み出しイノベーションになると考えております。

 例えば、利用者接点というアナログ情報に、利用者状況という価値を付加する。具体的には、普段からタクシーを利用しているお年寄りの方がいるとします。その方の顔色が悪くなっている・足元がおぼつかなくなっているというアナログ情報を、運転手が察知したときに、メールなどで家族に知らせるサービスがあれば、高齢の親と離れて暮らしている方にとってはとても有益です。また、昔は地域にご近所付き合いが残っていて、地域社会で暮らしの安心安全を守っていました。そうした状況が少なくなってきている現代では、タクシーに乗ること自体が、安否確認につながるかもしれません。A地点からB地点へ移動するというタクシーの原点を生かしながら、イノベーションにより新たなサービスが生まれるといいですね。

会社情報

会社名 三幸自動車株式会社
設立 1955年12月
本社所在地 〒188-0013 東京都西東京市向台町1-15-21
ウェブサイト https://sankotaxi.com/top
事業内容 一般乗用旅客自動車運送事業 福祉タクシー事業(介助タクシー) 貨物自動車運送事業(フードデリバリーのみ)

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