本事業では、地域内外の中小企業・スタートアップや大企業、大学等が連携して、地域の課題解決を図るためのプロジェクトや、多様な主体が交流できる会員組織(コミュニティ)の立ち上げなど、イノベーション創出に向けた取組を進めています。このインタビュー連載では、多摩地域のイノベーションをリードする注目企業をご紹介することで、皆様に多摩地域の魅力を発信していきます。
「Child Care Robot」の頭文字から由来した、電気通信大学発ベンチャーの株式会社ChiCaRo(チカロ)。遠隔地のおじいちゃんやおばあちゃんでも、画面を通じて子育てに参画できるコミュニケーションロボット「ChiCaRo」の開発を進めています。ChiCaRoの安﨑優太COOと、電通大人工知能先端研究センター特任助教で同社主席研究員の阿部香澄さんに、ロボットの導入効果などについて聞きました。
子育てと仕事の両立は難しいと実感
- 創業のきっかけを教えてください。
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阿部:私は学生時代に出産した後、育児をしながら大学の研究室で働き始め、ロボット分野の研究を行っていました。家では子どもから片時も目を離せず、初めての子育てでどうしたらいいかわからないことも多くて、戸惑うこともありました。
2014年の時です。ある日、大学の前を歩きながら研究室の長井隆行教授との間で「遠隔で操作できるロボットで、祖父母が子どもの面倒を見てくれるようになったら助かる。」といった話をしていたら、「やりましょう」といった形でとんとん拍子にプロジェクトが始動しました。
子育ての補助、特に0~3歳の子どもが危ないことをしていないかを育児経験・ノウハウのある祖父母が見守ってくれる、そんなロボットを開発することで、両親が目を離していられる時間を作り出したいと考えました。長時間にわたり子どもから目を離すことは難しかったとしても、1時間程度子どもの面倒をみてくれる存在をつくれたら仕事や家事もしやすくなるかなと思ったのです。
子どもの発達状況を個別に把握し、ゲームによって発達を促す機能も
- ロボットの特徴を教えてください。
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阿部:丸みを帯びた形状で倒れにくく壊れにくい、安全な形状としています。遠隔地から画面を通じて会話ができるだけでなく、画面の向こうからタブレットなどを使って操作し、ままごとなど身体を使った遊びによるコミュニケーションを実現しています。保育園でも、親が迎えに来るために保育士が多忙になる夕刻の時間帯などで利用されています。また、子どもの発達状況を遊びによって個別に把握し、ゲームによって発達を促す機能も組み込んでいます。具体的には、成長や年齢に応じたクイズや出されたお題に対して子どもがChiCaRoを通じてお絵描きをする機能など200種類の遊びで構成されています。
画面越しでも「東京の孫に会えるのが生きがい」との声も
- ユーザーの反応はどうでしたか。
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阿部:プロトタイプを開発した時、都外に住む利用者から「ロボットを通じて東京の孫に会えるのが生きがい」との声が届きました。ChiCaRoを通じて孫と話すとき、普段しない化粧をするようになったという話を伺い、嬉しい限りです。ただ、子どもはロボットの前でおとなしく座っているわけがなく、親がサポートする必要があります。また、子どもは力加減が分からないので倒したり壊したりします。実証実験を通じ、使われ方や細かいニーズを把握し、ユーザー視点での改良を重ねてきました。例えば顔の部分。うなずき動作をしたり周囲を見渡せるように顔が上下に動くようにしてありましたが、子どもはどうしてもロボットに乗りかかるので、最新モデルでは顔が動かない胴体との一体型にしています。
代表から声を掛けられ入社
- 安﨑さんはどういった経緯でChiCaRoに参画したのですか。
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安崎:代表取締役社長の奥温子(氏)に誘われる形で入社しました。奥とは大学時代からの仲間です。奥は5人兄弟の長女で、試験勉強をしながらミルクをあげるなど、幼いころから子育てに携わっていました。ChiCaRoで子育ての負担を減らしたいと熱意をもって取り組んでいて、そんな奥から「事業を手伝ってくれないか」と誘われました。私は当時人材紹介会社に勤めていたのですが、前職を辞めて、2022年にCOO(最高執行責任者)として入社しました。
リモートでも子育てへの相互理解で、コミュニケーションが取りやすい職場環境
- ChiCaRoの社内の雰囲気はどうですか。
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安崎:メンバーは10人ほどですが、仕事はオンラインで進めています。このため奥は沖縄、私は福岡に住むなど、拠点はバラバラです。しかし、コミュニケーションを取りやすい環境にあります。全員が子育てに関わっていて、互いの苦労を理解し合えているからです。「保育園に行かなければならなくなったけど、代わってくれる?」と相談を持ち掛けても、誰かが二つ返事で引き受けてくれます。リモートのメリットを十分に享受している会社です。
遠隔保育サービスの在り方を検証
- 多摩イノベーションエコシステム促進事業のリーディングプロジェクトに参加していますね。
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安崎:多摩地域では、子育て世代が暮らしやすい環境づくりに向けた様々な取組が進んでいます。しかし、都心部と比べると移動が不便なエリアが存在し、一部の地域では、支援制度やサービスを有効活用できていないケースがあると考えました。ChiCaRoはこれまで、一般家庭への導入がターゲットでしたが、保育の場へ導入することで、保護者がどこからでも子どもに関わる機会が創出できるかを検証したいと思い、プロジェクトに応募しました。
今回、株式会社シーズプレイス様の協力を得て、保育園と子育て広場へのChiCaRoの導入に関する実証実験を行いました。ご協力いただいた保育園では「テクノロジーで子育ての問題を解決していこう」と前向きにとらえて頂き、実証実験では、保育参観で活用しました。保護者が普段は見ることができない子どもの様子を知り、本取組についての理解を深める機会になったのではと期待しています。
多摩地域は自然が豊かで子育てに適した街
- 子育てという観点から多摩地域をどのように見ていますか
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阿部:現在は多摩地域に住んでいます。「自然が豊かでありながら、利便性を兼ね備えた場所で子どもを育てたい」という考えが夫と一致したためです。自然が残り古くからのお祭りに触れる機会も多く、新宿も近いため、とても気に入っています。大型の遊園地などが、京王線沿線を中心に点在している点も魅力的ですね。
サービスを通じ子育ての仲間と視点を増やし、少子化を抑制
- ChiCaRoを通じて、どんな未来を目指していますか。
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安崎:製品のコンセプトは「子育ての“みかた”を増やす」です。一緒に子育てをする仲間(味方)と、子育ての視点(見方)を増やしていこうという意味を込めています。コンセプトを踏襲すれば、「子育てっていいなあ」と思えるような世界を作り出し、少子化の抑止につながるでしょう。
阿部:子どもと1対1の時間を過ごすことが多い親は孤独感を抱えやすく、自己肯定感も低くなりがち。それが出生率の問題などにつながっています。ChiCaRoを通じた育児支援を通じ、こうした問題を変えていきたいですね。
会社情報
会社名 | 株式会社ChiCaRo |
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設立 | 2017年4月 |
本社所在地 | 〒182-8585 東京都調布市調布ヶ丘1-5-1 電気通信大学内西11号館 404号室 |
ウェブサイト | https://www.chicaro.co.jp/ |
事業内容 | 電気通信大学との『ロボットとこどものインタラクションに関する共同研究』から生まれた、遠隔コミュニケーションデバイス ChiCaRoの企画・製造・販売を行う。言語でのやりとりが主体でない乳幼児の興味を惹きつけてやり取りできる「乳幼児インタラクション技術」と、子どもの振る舞いにもとづく「乳幼児向けAI」を搭載している。 |