”尖った”技術と情熱で、新たな診断技術とヘルスケアサービスを創出する | 多摩イノベーションエコシステム促進事業
”尖った”技術と情熱で、新たな診断技術とヘルスケアサービスを創出する

”尖った”技術と情熱で、新たな診断技術とヘルスケアサービスを創出する

TL Genomics Inc. 代表取締役社長 久保 知大

 本事業では、地域内外の中小企業・スタートアップや大企業、大学等が連携して、地域の課題解決を図るためのプロジェクトや、多様な主体が交流できる会員組織(コミュニティ)の立ち上げなど、イノベーション創出に向けた取組を進めています。このインタビュー連載では、多摩地域のイノベーションをリードする注目企業をご紹介することで、皆様に多摩地域の魅力を発信していきます。

                                         

 日本では胎児の先天性疾患を調べる出生前診断に対して、倫理的な問題から慎重な意見が多いと言われています。また、欧米に比べると費用も高く、まだまだ一般に普及しているとは言えない状況です。この難しいテーマに正面から向き合い、科学とビジネスの力で解決しようと奮闘するTL Genomicsの久保代表が、熱い想いを語ってくれました。

インタビューにお答えいただいた代表取締役社長・久保知大氏

一つの論文がきっかけでアメリカに渡る

20代の頃はアメリカで研究者の道を歩まれていますね。

久保:もともと京都大学の大学院で分子生物学を学んでいました。博士論文で、これまで知られていなかった分子生物の現象を発見できたので、その分野で著名なコロンビア大学の教授が来日した際、「こういうデータがあってこういう現象を見つけたから、そのメカニズムを研究したい」と伝えたところ、興味を持ってもらいすぐに留学が決まりました。もちろん、指導して下さった日本の教授の紹介や推薦があってのことです。16年前に書いたその論文はいまだに引用され続けていますよ、時代を先取りした研究でした。(笑)。

コロンビア大学時代について笑いを交えながら振り返る久保さん

人がやらないことをやる

出生前診断の事業で起業されています。なぜこの分野を選んだのですか。

久保: NIPTという出生前診断の検査方法が日本でも導入され始めたころ、倫理的な問題も絡んで賛否両論が巻き起こっていました。ただ、倫理問題は、時代の価値観や判断で変わるもので、変化のきっかけの一つが技術だと考えています。私は、サイエンスをやってきた者として、そういう技術をつくるのは意義があると思いました。また、倫理問題が絡むことは皆避ける傾向にあるので、人がやらないなら自分がやろうという考えもあり、出生前診断の分野で起業しようと決意しました。

NIPTの課題に新サービスのヒントあり

NIPTと呼ばれる従来の出生前診断と、御社で開発されているサービスではどのような違いがありますか。

久保:NIPTは胎盤に由来する血中のDNAを網羅的に解析しますが、当社は母体血中に流れる胎児細胞を取り出して、そのゲノムを解析するサービスを開発しています。
 胎盤と胎児は同じ受精卵から出発しますが、稀に途中でどちらか一方に染色体異常が起こることがあるため、胎盤のDNAよりも胎児細胞を使う診断の方が正確性が高いという考えがあり、それを採用しています。
 また、胎児細胞を取り出す際に使用する遠心分離という操作は、ただでさえ少ない胎児細胞をロスするので、当社は遠心分離を使わない新たな技術「マイクロ流路デバイス」で胎児細胞を分離しています。

研究設備に囲まれながら技術について語った

「マイクロ流路デバイス」という“尖った”技術

「マイクロ流路デバイス」の技術について詳しく教えてください。

久保:「母体血中の胎児細胞は大きい」という先行研究を参考にして、胎児細胞を分離できるように独自のマイクロ流路デバイスを設計しました。
 当社の強みは二つ。一つは、こういったデバイスの処理量を何十倍にもする技術を開発したこと。もう一つは、通常血液試料をデバイスに流すと目詰まりが生じるのですが、それを防ぐ技術を開発したことです。日本の学会からも表彰していただきました。

独創的な技術がつまったマイクロ流路デバイス

一つ一つの細胞の染色体コピー数を検出する新たな特許技術

もう一つの売りである、染色体検出の特許技術とはどのような技術でしょうか。

久保:母体血中から胎児細胞を取り出した後、その細胞の染色体を検査するために開発した技術です。NIPTが広く普及した結果、世界的には出生前診断の検査価格は非常に低くなっており、その価格に照準を合わせたコスト競争力のある新たな染色体解析技術を開発しました。
 当社が開発した特許技術だと、コストでも勝負できるし、早くて作業も簡単で、また、従来からあるFISHと呼ばれる検査よりも感度が高く、画期的な技術だと思っています。

フットワークは軽く、発想は自由に

いま説明された技術で、他にも事業を展開されていると聞きました。

久保:例えば、マイクロ流路デバイスは、細胞医薬品の分野で海外の企業と一緒に仕事をしています。当社のマイクロデバイスは、新しい方法で血液細胞を分離できるので、ちょうどその企業がもっている培養技術と相性が良かったみたいです。今はその海外企業からの依頼で、血液分離装置を日本のメーカーと一緒に開発しています。あと、染色体の解析技術は、白血病や骨髄移植の分野で新たな体外診断薬の開発を進めていて、国内の医療機関との臨床研究で、これまで骨髄でやらなくてはいけなかった検査が末梢血で出来るようになるかも知れない、そういうデータが出てきています。そうなると、患者のQOLが大きく改善します。他にも、染色体の解析で新たなヘルスケアサービスを展開する計画が進んでいます。
 私は基礎研究者でしたから、基礎研究では研究者の興味のおもむくままに研究して技術を開発すればいいと思っていましたし、いまでもそう思っています。一方で、当社はこれまで誰も出来なかった胎児細胞の診断を実現するために新しい技術を作ってきました。こういった技術は基礎研究とは違い、目的があって開発したものなので、他にも応用がきくはずだと思っています。この、“技術ありき”でどれだけ事業を展開していけるか、そういう意味でいま申し上げたような第二第三の事業を成功させていくことも重要だと思っています。

御社の技術を生かして多摩地区の企業と協業するイメージはありますか。

久保:異分野の企業と交流して新しいものを生み出していくことはとても重要だと思います。
 多摩地区にはメーカーがたくさんありますから、フットワークは軽く、発想は自由に、行動は豊かに、泥臭く、そういった姿勢で付き合える企業があると、必ず面白いことができると思います。

オンとオフの切り替えが容易

多摩小金井ベンチャーポートに拠点を構えられています。多摩の魅力はどこにあると思いますか。

久保:緑が多くて、それでいて都心へのアクセスもいいので、オン・オフを切り替えやすい環境が魅力だと思います。会社からは、小金井公園まで歩いて行けますし、野川公園とか武蔵野公園にも歩いて行けます。仕事で煮詰まった時とか、気分転換にはちょうどいいです。

会社情報

会社名 TL Genomics Inc.
設立 2015年1月
本社所在地 〒184-0012 東京都小金井市中町2-24-16 多摩小金井ベンチャーポート306
ウェブサイト  https://tlgenomics.com/
事業内容 今までにない新しい技術を創出することに価値を見出し、便利で豊かな社会を作る、技術開発型のスタートアップ企業。独自の特許技術という強みを持ちながら、国内外のベンチャー企業や事業会社と積極的に技術交流を図り、ダイナミズムにあふれた技術シナジーから新たな付加価値を創出している。目下、分子生物学や細胞生物学といったバイオ技術から、MEMS (Micro Electro Mechanical Systems) 技術を応用したマイクロ流路デバイスといった工学分野まで、幅広い分野にまたがり、創薬プラットフォームや分子診断薬の開発および事業化に取り組んでいる。

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