目に見えない感性を、AIで可視化する | 多摩イノベーションエコシステム促進事業
目に見えない感性を、AIで可視化する

目に見えない感性を、AIで可視化する

感性AI株式会社 代表取締役CEO 秋山 正晴

 本事業では、地域内外の中小企業・スタートアップや大企業、大学等が連携して、地域の課題解決を図るためのプロジェクトや、多様な主体が交流できる会員組織(コミュニティ)の立ち上げなど、イノベーション創出に向けた取組を進めています。このインタビュー連載では、多摩地域のイノベーションをリードする注目企業をご紹介することで、皆様に多摩地域の魅力を発信していきます。

 電気通信大学と京王電鉄が共同で設立した感性AI株式会社は、“感性”という人間の持つ性質をAIによって定量化し、マーケティングソリューションとして提供するベンチャー企業です。“知”と“技術”を持つ大学と、資本とビジネスのノウハウを持つ大企業がタッグを組んだ先には何があるのか。“感性”と“AI”を融合した先進的なビジネスを展開する代表取締役CEOの秋山正晴氏に話を聞きました。

代表取締役CEOの秋山正晴氏

京王電鉄と電気通信大学がタッグを組む

2018年の設立までの経緯について教えてください。

秋山:従前より、京王電鉄では、将来的に沿線の人口が減ると予測されるなかで事業構造の変革に取り組む必要があり、AIの事業が選択肢として浮上していました。一方、電気通信大学では、大学が持っている技術をいかに世の中に展開するかが重要と考え、大学発ベンチャーの育成に取り組んでいました。また、電気通信大学の坂本真樹教授は「感性の定量化」におけるAI研究の第一人者として広く注目されていました。このため、京王電鉄と坂本教授が提携して感性に関するAIビジネスを展開することを決めました。弊社は坂本教授の研究室が有する知的財産を商業利用できるという大きな強みを持っています。

産学連携のメリットは?

秋山:鉄道会社が単独で会社を設立してAI事業を始めても、技術力には限界がありますが、大学が培ってきた経験や特許などのライセンスは事業に信頼感や安心感をもたらしてくれ、会社としての強みになります。また、企業から大学の研究室に対して「こういった研究に取り組みたい」というリクエストをいただくこともあります。プロセスとしましては、弊社が主体となって、まず最初にヒアリングを実施し、現状把握・課題抽出をさせていただきます。次に、ヒアリング結果を基に課題解決のためのプランを作成・提案させていただき、実施プランを確定の上でお引き受けすることになります。大学単独では実現困難なプロジェクトもありますが、その場合も、弊社が協力し、共同研究という形で経験を積んでいます。

ネーミングやデザインを分析する『感性アナリティクス』

御社の事業内容を教えてください。

秋山:弊社の事業はコンサルティング事業とAIソリューションの提供の二つに分かれます。前者は、主にメーカー様に対して「人の感性に訴えるモノづくり」を提案しています。例えば「心やすらぐ」というのがどのような印象か、お客様と「爽やかなーうっとおしい」「静的なー動的な」などの43対の評価尺度についてディスカッションを通じて決定し、当社の「オノマトペ生成システム」に入力、もっとも「心やすらぐ」オノマトペを決定、当該オノマトペを「オノマトペ色彩推薦システム」に入力し、最も「心やすらぐ」色彩が決定しました。後者は『感性アナリティクス』というウェブ型のサービスを提供しています。例えば商品のネーミングやパッケージを決定する際に、商品のコンセプトと、商品名やパッケージデザインからお客様が受ける印象が一致しているかを分析できます。これを活用することで、市場調査に要した時間を大幅に短縮することが可能です。また、企画会議に導入し、企画の品質を向上させた上で市場調査を実施することもできます。

主なクライアントはBtoC企業と広告代理店

顧客としてはどのような業界が多いですか?

秋山:食品・飲料メーカーや製薬メーカー、日用品メーカーなどBtoCの企業、そしてこれらの企業をクライアントに持つ広告代理店が主要な顧客です。メーカー企業は多くの商品を取り扱っているため、短時間かつ低コストでモニター調査を行いたいという要望があります。感性アナリティクスは、これらのニーズに迅速に対応するためのAIツールとして活用されています。また、広告代理店はクライアントに対して適切な商品名を提案する際に、根拠となるデータを提供し、クライアントの納得感を高めるために弊社のサービスを利用しています。

オノマトペを駆使して感性を定量化する

「感性の定量化」とはどのようなことなのかをご説明いただけますでしょうか。

秋山:「感性の定量化」とは、人々の感覚や感情を具体的な数値として計測するプロセスを指します。これを実現するためにはいろいろな手法があるのですが、我々のアプローチでは、言語情報から五感に関連する情報を収集し、AIを用いて数値化します。このプロセスにおいて、オノマトペと呼ばれる擬音語や擬態語が活用されています。オノマトペは、感性を表現しやすい言葉であり、そこから人々の感性を比較的正確に測定できることが研究によって示されています。弊社は、オノマトペを活用したAIモデルを開発しました。商品名やキャッチコピーなどの言語情報を入力すると、それに関連する連想語を生成します。連想語は、商品名やキャッチコピーに対する人々の感性や印象を示すものであり、これを通じて商品やコンセプトに関する新たな洞察を得ることができます。感性アナリティクスは、分析ツールとしてだけでなく、アイデア出しをサポートするツールとしても活用されています。

暗黙の知識も数値で即座に証明できる

ヒット商品には「ぱぴぷぺぽ」の音が商品名に含まれていることが多いと聞いたことがあります。特定の音によっても印象が変わることはあるのでしょうか。

秋山:その通りです。感性アナリティクスは、こうした暗黙の知識を具体的な数値で示すことができます。たとえば、お菓子の商品名には破裂音が多く使われることがありますが、これは商品名に含まれる音が商品の印象に影響を与えるからです。別の例として、市販薬の商品名には末尾に「ん」がつくものが多いですが、これらのネーミングは「安心感」の数値が高くなる傾向があります。感性アナリティクスはそれだけでなく、例えば「安心感があり、かつ女性的なイメージ」といった複数の要素を組み合わせて商品名の効果を瞬時に分析することができます。

画像分析によりパッケージデザインの比較が可能に

感性アナリティクスは言葉だけでなく画像も分析できるのですよね。

秋山:はい。パッケージデザインを作成する場合、いくつかの候補案ができた段階で、消費者にどのようなイメージで伝わるかを画像からAIが分析してくれます。具体的には4つのマーケティング的な観点のほか、43種類の感覚的観点での点数を算出することができます。例えば、この二つのパッケージデザインのどちらが「やわらかい」印象を抱くのか比較してみます。すると、左側のほうが「やわらかい」の数値が高いことが分かります。メーカーは消費者に訴求したいポイントに訴求できるデザインかを、こうした数値を見て確認することができます。

上記のパッケージデザインを比較した際の数値

多摩地域の活性化につながるネットワークを広げたい

多摩イノベーションエコシステム促進事業に参加された理由と、多摩地域の魅力を教えてください。

秋山:もともと感性AIを創設した理由の一つに「地域の活性化」があります。京王電鉄も電気通信大学も多摩エリアを地盤にしていますので、この地から事業を大きくして、多摩地域の活性化につながる一助になればという思いがあります。多摩イノベーションエコシステム促進事業には、協業などを視野に入れた地域におけるネットワーク拡大を期待しています。例えば、ウェルネス分野の企業様が健康管理をするなかで「気持ち」も可視化したいという思いがあるとしたら、我々の技術が役に立つかもしれません。
 多摩地域の魅力として学生が多く活気があり、都心の喧騒から離れて仕事ができる点にあります。多摩地域は自然も残っていて生活と密着したエリアだと感じます。職住近接という言葉がありますが、通勤の負担が少なく生活にゆとりや癒しを感じながら仕事ができるのは魅力です。

誰しもが持つ感性。ゆくゆくは海外展開を目指す

今後、見据えている事業展開について教えてください。

秋山:AIは間違いなくこれからもっともっと伸びてきますし、必要とされる分野です。「感性」は近年注目が高まっている一方で、すごくあいまいな分野でもあり、興味はあっても活用できていない企業が多いのも現実です。弊社が成長していくためには、感性をビジネスにつなげていこうという機運を高めていくことが必要です。さらに、今は国内を中心に事業を行っていますが、お取引先には海外展開している企業様も多いため、今後は多言語化にも目を向けていかなければいけないと考えています。実は、音から感じ取るイメージは人間の本能的な部分で共通していると言われています。もちろん、国や文化で感じ方が異なる部分もありますが、感性は世界の誰しもが持ち合わせているものです。我々の技術を駆使して多摩から世界へと事業を拡大し、グローバル企業様などを支援していければと考えています。

会社情報

会社名 感性AI株式会社
設立 2018年5月
本社所在地 東京都調布市小島町一丁目1番1号 UECアライアンスセンター309号室
ウェブサイト https://www.kansei-ai.com/
事業内容 コンサルティング事業、AIソリューション事業

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