腰痛に苦しむ働く人々の悩みをマッスルスーツで解決 | 多摩イノベーションエコシステム促進事業
腰痛に苦しむ働く人々の悩みをマッスルスーツで解決

腰痛に苦しむ働く人々の悩みをマッスルスーツで解決

イノフィス株式会社 取締役 依田 大

 本事業では、地域内外の中小企業・スタートアップや大企業、大学等が連携して、地域の課題解決を図るためのプロジェクトや、多様な主体が交流できる会員組織(コミュニティ)の立ち上げなど、イノベーション創出に向けた取組を進めています。このインタビュー連載では、多摩地域のイノベーションをリードする注目企業をご紹介することで、皆様に多摩地域の魅力を発信していきます。

 株式会社イノフィスは、重い物を持ち上げる動きや中腰姿勢を保つ際に体をサポートする「マッスルスーツ」を製造・販売している東京理科大学発のベンチャー企業です。もともとは介護業界の過酷な業務をサポートするために2000年に開発を開始。10年以上の試行錯誤の末、2013年に製品化が実現し、それを受けて株式会社イノフィスが設立されました。取締役の依田大様にマッスルスーツは現在どのような現場で活用されているのか話を聞きました。

インタビューを受けていただいた依田大取締役

社会的意義に惹かれイノフィス社にジョイン

依田様の入社の経緯を教えてください。

依田:新卒でリクルートに入社し、その後海外でのMBA留学を経てコンサルティングファームで計6年間勤務しました。コンサルティングファーム時代は提案こそするものの、最終的な意思決定や業務執行は事業会社において行われていました。自身の志向として、やりがいを感じるのは事業会社であると考えていたころに、ちょうど当時の社長と面識があって、「うちに来ないか」と誘われたことがきっかけで、2018年7月にイノフィス社に加わりました。なかでも、肉体的に困りごとがある方々が健康的に働くことができるという、製品の社会的意義に惹かれたことが、入社の大きな要因です。

介護の現場を体験して分かった介護業務の過酷さ

新しい領域に挑戦するにあたって、行動したことはありますか?

依田:入社当初は介護業界に対する知見が乏しく、理解を深めるために弊社の製品を導入いただいている特別養護老人ホームに24時間滞在しました。その中で、過酷な労働環境で働く介護士の方々の現実に直面しました。例えば、夜勤の時間は最低限の人数で回されており、彼らは夜の12時からおむつ交換をし、その後3時ごろからは床ずれ防止の体位変換の作業に移ります。そして4時半から再びおむつ交換を行い、終えたら車椅子に乗せて食堂へと移動します。このような腰に高い負荷がかかる作業を延々と続けているのです。これらを実際に経験することで、腰痛がどれほど仕事に影響を与えるかを理解しました。また、彼らの仕事をサポートするためにもっとマッスルスーツを広め、貢献していきたいという気持ちが一層強まりました。

独自に開発した人工筋肉が腰の負担をサポート

マッスルスーツはどのような製品なのかご紹介ください。

依田:当社のマッスルスーツは、主に腰や腕の部位をサポートするスーツがあり、特に腰の負担軽減に焦点を当てて製品を展開しています。基本的に電力を一切使用せず、バッテリーの代わりに弊社が開発した「人工筋肉」で動くモデルになります。人工筋肉は身体の運動をサポートするため、この製品を使用することで、例えば重量物の上げ下げや、中腰の姿勢を維持したりする作業の際に、腰の負担を軽減することが可能です。

『マッスルスーツExo-Power』。最大補助力は27kg

腰痛が解消し、私生活にも好影響をもたらす

マッスルスーツを使った方々からはどのような声が聞かれますか?

依田:使用者から最初に寄せられる感想はやはり「腰が楽になった」というものです。もちろんこれは私たちにとって非常にうれしい声なのですが、それだけでなく、「マッスルスーツの利用によって仕事以外の時間の過ごし方が変わった」という声も多く寄せられています。

 ある方は、腰の痛みから週末は休養やマッサージが必要でしたが、マッスルスーツの使用により痛みがなくなりました。その結果、治療や休息に費やす時間が減り、代わりに大好きなゴルフを再開できたという感謝の声が寄せられました。他にも「自分が好きなことや趣味に時間を充てることができるようになった」との報告もあります。こうした声を聞くと、マッスルスーツが仕事以外の時間を、より豊かに過ごせる手助けにもなっていることが分かり、非常にうれしく思っています。

製造業、農業、介護現場など様々な領域で活用される

マッスルスーツはどのような現場で活用されることが多いでしょうか。

依田:製造業のお客様が全体の4割、農業・介護がそれぞれ2割で、その他の業界が2割ほどといった構成です。製造業の領域はもっと伸ばしていきたいですが、特に注力したい分野の一つが物流業界です。物流業界では腰痛が深刻な課題となっており、業務上疾病の8割が腰痛です。この割合はかなり高いですよね。

 また、以前は、マッスルスーツは50万円台や80万円台といった高価格帯がネックとなっていましたが、企業努力により2019年に一気に価格を10万円台まで引き下げたことで、個人のお客様にも手の届く価格となり、結果として農業関係者の中での需要が増加しました。重いものを運ぶ作業が発生する、例えば白菜やキャベツなどの栽培に携わる農家の方々、または長時間中腰で作業を続けるいちご農家の方々にも、マッスルスーツが広く受け入れられています。

縫製に強い企業とタッグを組んで新製品を開発

今年の6月には日本シグマックス株式会社との共同開発で新製品を販売されていますが、どのような製品なのでしょうか。

依田:弊社は元々サポート力が非常に強い「外骨格(エクソスケルトン)」と呼ばれるマッスルスーツの開発においては深い知見がありました。一方で、今回新たに展開しようとしていたのは外骨格ではなく、「サポータータイプ」のスーツであり、縫製に関する知識は不足していました。特に、装着時間が長いタイプの製品となるため、縫製における装着感、つけ心地に関する知見が重要であると考えました。

 そのタイミングで縫製に関して強みを持つ日本シグマックス株式会社を金融機関からご紹介いただきました。シグマックス社は、医療系コルセットやスポーツ選手が使用するザムストというサポーターを開発しており、縫製において信頼性があってスポーツ業界でも成功しています。シグマックス社とのコラボレーションが実現できれば、お互いの強みを生かして新しい製品を開発できるのではないかと考え、協業に至りました。その結果開発されたのが、『マッスルスーツ Soft-Power』です。

森永乳業東京多摩工場と協力し、新製品の効果を検証

多摩イノベーションエコシステムのリーディングプロジェクトでは、森永乳業株式会社東京多摩工場に『マッスルスーツ Soft-Power』を提供されていますね。

依田:森永乳業さんの東京多摩工場は物流拠点としても機能しています。先ほどお伝えした通り、物流業界では業務上疾病の8割を腰痛が占めています。腰痛に悩まされながらも、その対処法がなかなか限られているというのが実情でした。だからこそ、私たちは特に物流業界向けに新しい製品『マッスルスーツ Soft-Power』を活用いただきたいと考えています。

『マッスルスーツ Soft-Power』

 もともと私たちが提供していた「外骨格タイプ」の製品は、物流業界ではなかなか受け入れられにくい実情がありました。物流業界ではフォークリフトを運転してピッキング作業をしたり、複合的な作業が多々あります。しかし、外骨格タイプのスーツを着用すると、①車両操作、②深くかがむ、③少し速い歩行、などが難しくなります。そのため、作業ごとにスーツを脱いで、フォークリフトに乗って、またスーツを着てピッキング作業をして……と、何度も着脱が必要になります。これでは、手間がかかって誰もやりたがりません。だからこそ、私たちは物流業界に合わせて、着たままでフォークリフトを運転し、ピッキング作業もできる、あらゆる動きに対応可能なスーツを開発しました。リーディングプロジェクトでは、森永乳業さんに実際に使用していただき、現在その効果を測定している最中です。

効果測定はどのような方法で行っているのでしょうか。

依田:アンケート調査の他に、同じ条件下でマッスルスーツを着用した場合と着用しなかった場合の作業時間の違いや、センサーを貼って筋肉の活動量などを定量的に測定する予定です。今後の社会実装を目指す上で重要なのは、マッスルスーツ導入がどの程度の効果があるのか、そしてROI(投資収益率)を含めた投資対効果をしっかりと示すことです。まずは、今回のプログラムを通じてこれらの点を明確に示せるよう努めたいと思います。さらに、多くの企業に役立ててもらうためには、現状の認知度がまだ低いことを認識し、認知度を同時に高めていく必要があります。これらを来年度以降も積極的に取り組んでいく予定です。

生まれ育った多摩地域への愛着

依田様が思う多摩地域の魅力とは?

依田:私はもともと調布市の出身で、大学を卒業するまでずっと調布に住んでいましたし、八王子にもよく足を運んでいましたから、多摩地域には愛着があります。東京の都心部は人が多く、やや過密感がある一方で、多摩地域はゆとりが感じられ、街自体にも余裕があるように思います。多摩地域のお気に入りスポットは高尾山です。自然が豊かで、今でも時々訪れるほどです。

少子高齢化が進む国々に焦点を絞り海外展開を拡大

海外展開についても現況と展望をお聞かせください。

依田:現在、日本以外で17の国と地域でマッスルスーツを販売しています。マッスルスーツが普及し始めている主な理由は、高齢化社会における人手不足の深刻な状況と、これに伴う介護の負担の増加です。展開している国々も基本的には少子高齢化が進んでいる地域に焦点を当てており、その結果、先進国であるドイツやフランス、さらには韓国などが中心となっています。今後も少子高齢化が深刻化していく国々に向けて、私たちの製品が社会課題の解決に向けてお役立ちできることを願っています。そのためにも、積極的な海外展開を進めていこうと考えています。

海外展開において難しい点や苦労されている点は?

依田:日本でも同様の課題がありましたが、製品が新しいカテゴリーに属するため、初めて進出する国では製品に対する知識がまったくない状態からスタートすることになります。例えば、「マッスルスーツって何?」という質問から始まり、「これはパワーアップするの?」、「100kg持ち上げられるの?」などの疑問が出てくることがよくあります。こういった状況では、まずは製品の特長や利点について丁寧に説明し、パワーアップスーツではなく、腰の負担軽減を主眼に置いたマッスルスーツである旨を説明することが大切です。これには時間とお金のリソースがかかり大変ですが、市場を育成していくためには必要です。

既存製品にとらわれず様々な製品を開発したい

最後に、今後の目標をお聞かせください。

依田:少子高齢化が引き起こす社会課題がますます深刻化していると感じますし、多くの方がお困りになっていることも事実です。既存の製品だけでは解決できないこともありますので、既存製品にとらわれず、より多くの方に貢献できる製品を開発していくことが必要だと考えています。今後も少子高齢化というキーワードを踏まえつつ、世界中の多くの人々に貢献できる製品を開発していきたいと思っています。

会社情報

会社名 イノフィス株式会社
設立 2013年12月
本社所在地 東京都八王子市東町7-6エバーズ第12八王子ビル3階
ウェブサイト https://innophys.jp/
事業内容 介護福祉機器の開発、設計、製造、販売/産業用特殊機器の開発、設計、製造、販売/機器開発技術シーズの発掘および事業化コンサルティング/機器開発技術シーズの知財取得・維持・管理/製品の認証取得・維持・管理

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