次世代の若者のために、農作物だけでなく、仕組みと前例を作る | 多摩イノベーションエコシステム促進事業
次世代の若者のために、農作物だけでなく、仕組みと前例を作る

次世代の若者のために、農作物だけでなく、仕組みと前例を作る

ファームマチダ東京株式会社 代表取締役 松井 優一

 本事業では、地域内外の中小企業・スタートアップや大企業、大学等が連携して、地域の課題解決を図るためのプロジェクトや、多様な主体が交流できる会員組織(コミュニティ)の立ち上げなど、イノベーション創出に向けた取組を進めています。このインタビュー連載では、多摩地域のイノベーションをリードする注目企業をご紹介することで、皆様に多摩地域の魅力を発信していきます。

 ファームマチダ東京株式会社の松井優一代表取締役は、会社員生活を経て2021年12月から東京都町田市で農業を営んでいます。「農作物だけでなく、仕組みと前例を作る」という理念の下、自身の地元でもある町田を農業の力で盛り上げようと活動する松井氏に、農業に懸ける熱い思いや、これから農業の道を志す次世代の若者たちに残したいものについて、話を聞きました。

インタビューに答えていただいた松井優一代表取締役

農業を志すきっかけとなった農薬メーカー時代の経験

農業を始めるに至った経緯を教えてください。

松井:農薬メーカーの会社員時代に、農家や農薬販売店を訪れて農薬のセールス活動を行っていたのですが、そこで「君、本当に農業のこと知ってるの?」、「そんなに良いなら、なぜ自分で使わないの?」といった質問に頻繁に直面していました。これらに対して私自身が満足のいく答えを持っていないことにしばしばもどかしさを感じ、その経験から、自分自身で農業を行ってみたいという気持ちが強くなっていきました。そして2016年に熊本地震が起きます。九州エリアを担当していた私は、困っている人がいる状況でも農薬を販売しなければいけないことに対して、「自分の仕事は本当に人の役に立っているのか」と疑問を感じるようになりました。農薬ソリューションは害虫被害による減収を防ぐという意味で農業従事者にとって必要な技術であり、やりがいを感じていましたが、より農業業界全体の売上増加、人手不足の解消といった根本的な問題解決に携わりたいと思い、スマート農業機器の開発を手掛ける企業へ転職しました。その後、メーカーやベンダーの立場ではなく、実際に農業現場でスマート農業機器などのソリューションを活用し、技術の活用事例を発信していきたいという思いから2021年12月に農業で独立を果たしました。

ファームマチダ東京の3つの特徴

現在はどのような農業をされているのでしょうか。

松井:30アール(約3000㎡)の農地で主に、玉ねぎ、さつまいも、ブルーベリーを育てています。当社の特徴としては「都市農業(※)」「スマート農業」「半農半X」が挙げられます。都市農業のメリットは生産者と消費者が同じ空間にいることです。生産者の顔が見えることによって購入する側としては安心感が得られますし、農協に卸す以外に直販も可能です。スマート農業とはロボット、ICT、IoT、AIなどの先端技術を農業生産の現場で活用しようとする取り組みです。作物収量の向上、作業の省力化、技術の伝承などの効果が期待されており、当社では自動草刈り機を導入したり、生産履歴を管理するツールとしてアプリを利用したりしています。半農半Xとは、農業生産に加えて別の生業をもつ取り組みです。不確定要素の大きい農業生産による収入を補いうるというメリットがあります。当社の場合は、ブログやSNSの企画運営のほか、農業ビジネスにおけるアドバイザリー業務を行っています。
 ※都市農業とは、「市街地及びその周辺の地域において行われる農業」(都市農業振興基本法第2条)であり、消費地に近いという利点を生かした新鮮な農産物の供給や農業体験の場の提供、災害に備えたオープンスペースの確保、やすらぎや潤いといった緑地空間の提供など、多様な役割を果たしている(参照:農林水産省ホームページ)。

お掃除ロボットのように自動で動き回りながら農地の草を刈る「自動草刈り機」

次世代の若者のために“制度のバグ”を潰しておく

「農作物だけでなく、仕組みと前例をつくる」という経営理念を掲げていらっしゃいます。詳しくご紹介いただけますか。

松井:日本の農業には制度的な問題点が存在します。前例主義はその象徴で、前例がない取組は検討の対象にもならないケースが少なくありません。これらはまるで解決が困難な「バグ」のようなものです。新規で就農しようとする人が非常に少ないため、こうした問題点は長い間放置されてきました。次の世代を生きる若者たちのためにも、“制度のバグ”をつぶして時代に合わせた仕組みや前例をつくれるようベストを尽くすことが、現役世代を生きる我々の責任です。

松井様が“制度のバグ”と感じているものは何でしょうか。

松井:例えば、新規就農希望者は直接、地主さんから農地を借りることはできません。ただし、上記に関わらず町田市内では、農家の子女は農業未経験であっても農地の継承や貸借が可能になっています。ここに農家と非農家の家系間の不公平があります。また、農地を利用するには地主さんの他に農業委員会の許可を得る必要があります。加えて、町田市においては農業委員会の許可を得るために2年間の農業研修が求められるケースが多く存在します。私が研修を受けた際の同期は20人いたのですが、その中で実際に就農したのは私だけです。他にも例を挙げると、国の新規就農者支援の仕組みの一つとして、就農直後の3年間は毎年120万円を支給してもらえる制度があります。しかし、法人と個人事業主では支援要件の達成条件が異なっており、私のような法人化している者は支給要件の達成が事実上極めて難しく、支援制度として機能していない実情があります。制度があること自体はありがたいのですが、時代に合った形に修正していく必要があると考えています。

 また、制度を変えるだけでなく、制度を理解し、やりたいことをルールの範囲内に収まるようにやっていくことも今の時代は必要です。実は、農地でなくても農業はできます。宅地を活用する方法です。「宅地畑」とも言われるのですが、会社員をやっている私の知人は宅地畑で週末だけ農業を営んでいます。制度を理解し、戦略を立てることで変えられることもあると思います。

新しい取組に果敢に挑戦し、新たな前例を作る

次世代の就農者が参考になるような事例を作ったことはありますか?

松井:「小規模事業者持続化補助金」という制度については知っていましたが、農業関係者の間では申請方法があまり知られておらず、また、自分たちには関係のない制度だという先入観があるからなのか、この制度を活用する農家についてはこれまで聞いたことがありませんでした。弊社は東京都商工会連合会が運営する多摩・島しょ経営支援拠点(T2BASE)(※)のサポートを活用することでこの補助金を獲得し、農業機械の購入費に充てました。町田市農業協同組合(JA町田市)で初の法人正組合員となったことも、新しい前例と言えるでしょう。これにより志をもった次世代の若者たちが、法人を率いて事業展開できる見通しが明るくなったと考えています。
※T2BASE(Tama – Tousho Business Assist & Support Experts)では、多摩・島しょ経営支援拠点(東京都商工会連合会と多摩・島しょ地域の商工会・商工会議所との連携機関)が地域の継続的な発展に向けて、地域の小規模事業者のあらゆる相談に対して支援を行う。(参照:東京都商工会連合 多摩・島しょ経営支援機関ホームページ(https://t2base.tokyo/))。

小規模事業者持続化補助金を利用して購入したトラクター

作物を作ることで“生産者”としての自分を実感

仕事のやりがいはどこに感じていますか。

松井:農業に従事することで、自分が実際に生産者であるという実感を持ちやすいと思います。私自身も消費者としてさまざまなコンテンツを見たり、製品を使用したりしていますが、自分で農作物を育てることには、ある種の手触り感というか、特別な魅力があると感じています。先ほど言った“制度のバグ潰し”も、次の世代の役に立っている実感があります。今まで放置された宿題を、今、自分が片づけている感覚です。また、会社員時代と違って自分で全てを意思決定できるのも魅力です。

反対に、難しさを感じる点はありますか。

松井:売り上げを伸ばすのに時間がかかるという点です。生産量や販売量の増加という面では、農業は容易にスケールアップしないのが現実です。土を耕すところから農作物を収穫して現金化するまでにも時間がかかります。農業には辛抱強さが必要です。

地域の特色を生かした協業で活性化を目指す

創業してまだ2年と短い期間ですが、他社と協業した経験はありますか。

松井:実際に協業まで発展したケースはないのですが、弊社が入居している町田新産業創造センター(MBDA)に間に入っていただき、いくつかの事業者とマッチング面会をしました。農業は協業がしやすい分野だと考えています。協業により、普段は農業に関わりのない分野の方々とのタッチポイントを作ることができます。当社の拠点である町田市は、飲食店や宿泊施設が多いことが特徴です。地域の特色を生かした協業によって、多くの人を巻き込みながら、地域全体の活性化を目指しています。

町田への思い。思い描く未来

そもそもなぜ町田で農業をやろうと?

松井:町田は自分が生まれ育った故郷であり、大事な場所です。自分の強みである農業の分野で、地元を盛り上げたいという思いから、町田で農業を始めました。町田は八王子に次ぐ農地面積があり、実は東京の農業において優位性があるんです。これを使わない手はありません。学生時代から農業分野に携わってきた自分のバックグラウンドをしっかり生かして、地元に貢献したいです。今後の目標は、町田が「農業が盛んな地域」として認識されるようにすることです。あるいは、農作物でも加工品でもいいのですが、「町田といえば、これがあるよね」と言われるような、地元の特産品を生み出したいです。

会社情報

会社名 ファームマチダ東京株式会社
設立 2021年12月
本社所在地 東京都町田市中町一丁目4番2号 町田新産業創造センター2階
ウェブサイト https://fmtokyo.co.jp/
事業内容 農業およびそれに附帯する一切の事業

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