多摩地域で子ども用の日焼け止め事業を展開する大学生の挑戦 | 多摩イノベーションエコシステム促進事業
多摩地域で子ども用の日焼け止め事業を展開する大学生の挑戦

多摩地域で子ども用の日焼け止め事業を展開する大学生の挑戦

株式会社Sunshine Delight 代表取締役 伊藤 瑛加

 本事業では、地域内外の中小企業・スタートアップや大企業、大学等が連携して、地域の課題解決を図るためのプロジェクトや、多様な主体が交流できる会員組織(コミュニティ)の立ち上げなど、イノベーション創出に向けた取組を進めています。このインタビュー連載では、多摩地域のイノベーションをリードする注目企業をご紹介することで、皆様に多摩地域の魅力を発信していきます。

 中央大学に通う現役大学生(本取材時点)の伊藤瑛加さんは、2019年、自身が高校3年生のときに、子ども用の日焼け止めを開発・販売する株式会社Sunshine Delightを起業した学生起業家です。「太陽の下で安心して暮らせる環境をつくる」という理念を掲げ、日焼け止めの習慣化を提案しながら子ども用日焼け止め事業を推し進める伊藤さんに、事業の内容や思いについて、話を聞きました。

インタビューに答えていただいた伊藤瑛加代表取締役

母親の肌を見て生まれた疑問がビジネスの種になる

なぜ日焼け止めに着目したのでしょうか。

伊藤:農業を営む母親の存在が、私が紫外線対策に興味をもつきっかけとなりました。母は屋外での作業が多く、シミやシワができやすいため、鏡を見ては「シミが大きくなっちゃったな」と気にしている姿をよく見ました。母は日焼け対策として帽子や長袖を着用していましたが、「なぜ顔にシミやシワができるんだろう」という疑問が幼い頃から私の中でずっとありました。
 それから時が経ち、高校生のときにビジネスを学ぶ授業を受ける中で、母のように日焼けによる肌のトラブルに悩んでいる人を助けることができないかと考えるようになりました。調査を進めると、「人は18歳までに生涯に受ける紫外線量の約半分を浴びる」、「子どもの日焼けは皮膚がん等の発症リスクを高める原因でもあるため、子どものほうが大人よりも紫外線対策が必要」、「日本の紫外線対策は美容を目的としており、欧米と比べて遅れている」といったことを知りました。そこから、幼少期から歯磨きや手洗いのように日焼け止めも習慣化できないかという考えに至り、子ども用の日焼け止めの開発に着目しました。

化粧品大手・コーセーとの協業により商品を開発

高校生がビジネスを始めるのは容易ではないと思います。どのようにして商品化までたどり着いたのですか?

伊藤:まず、日本政策金融公庫が開催する高校生ビジネスグランプリに応募し、東京都でベスト15に選んでいただきました。その後、JA主催のスタートアップ支援「JAアクセラレータープログラム」に参加し、本格的な事業化に向けて模索する中で、弊社の理念に共感してくださった大手化粧品メーカーの株式会社コーセーさんと、子ども用の日焼け止めを共同開発するチャンスをいただきました。弊社は日焼け止めの普及活動を中心に取り組み、コーセーさんは日焼け止めの製造を中心に取り組む形で協業をさせていただいています。コーセーさんは大企業であるので、品質、製造規模、製造スピード等に関して、自社のみで構築していくより、かなり進んだ段階からスタートを切れました。また、私が学生だったこともあり、一気に信用力を高めていただいたことも、大きなメリットだったと感じています。現在も事業を進める中での相談相手として助言をいただいたり、今後の事業展開について相談に乗っていただいています。

子どもがつけても安心・安全な成分

共同開発した日焼け止めの特長は?

伊藤:当製品はお肌に優しいだけでなく、大容量のポンプ設計で使いやすさにも配慮しています。さらに、子どもへの使用テストを経て安全性に最大限配慮した成分で作られています。
 一般的に日焼け止めの成分には、紫外線吸収剤と紫外線反射剤の2種類が使われます。吸収剤は紫外線と化学反応を起こして熱エネルギーに変換されるため、敏感肌の方にアレルギー反応を引き起こすことがあります。そのため、当製品では紫外線反射剤のみを使用しています。紫外線吸収剤には紫外線を吸収するだけでなく、肌に塗った際に残る白さをなくす効果があり、その点紫外線吸収剤のみでは白さが残るデメリットがあります。一方で、実際に肌に塗っていると白さが残ることで、子どもが自分で塗ったときに、周囲の大人も量を塗れているかが一目で判断でき「白いのがなくなるまで塗ろうね」という声がけもしやすいという、利用者からの声をいただいています。

オリジナルの絵本を作り啓発活動と営業活動に活用

子ども用の日焼け止めの販売にあたって、どのような活動を行いましたか?

伊藤:子どもたちが日焼け止め対策を習慣化するためには、教育とセットで行うことが重要です。そのために絵本を制作し、保育所・幼稚園・認定こども園といった保育施設で活用することを考えました。ストーリーは、「たいようちゃん」と「園児のゆうちゃん」の2人の掛け合いを通して、帽子・水分補給・日焼け止めの大切さを学ぶことができるといった内容です。紙芝居のように全員参加型で楽しめます。私が実際に保育施設で読み聞かせを行い、絵本を配ることを通じた啓発活動をしています。日焼け止めを導入していただいた保育所の先生さんからは「外遊び全般の知識を得ることができた」、「普段はそんなに手を挙げない子が手を挙げていた」等、いろいろな声をいただいて、多少なりとも啓発につながっているのではないかと感じています。

保育所に設置した日焼け止めと読み聞かせに使った絵本

一筋縄ではいかなかった保育施設への導入

現在の課題はどこにあると感じていますか?

伊藤:様々なイベントで、保育施設への日焼け止め導入について独自アンケートを取ったところ、約9割の保護者の方々から導入してほしいという意見が得られました。しかし、実際に行動に移してみると想像以上に難しく、そうすんなりとは進みませんでした。保育所には自治体の認可保育所と民間の認可外保育所があり、それぞれに導入の障壁があります。認可保育所の場合は自治体での導入事例がないと、園への導入が難しかったり、保育所・幼稚園・認定こども園によって管轄がバラバラで誰に話を持っていけばいいか分からないといった難しさがありました。民間の保育園にヒアリングした際も、安全性への不安であったり、そもそも紫外線対策の必要性を感じていなかったり、保育士の負担が大きいという声等が聞かれました。また、保護者全員にご案内をして同意を得ていくためには、多くのステップを踏まないといけないことも分かりました。

小学校への導入事例を足掛かりにして障壁を越える

今後はどのようにしてその障壁を突破していきますか?

伊藤:ずは保育施設に限らず、弊社が拠点とする三鷹市の小学校や中学校で導入事例を作り、多摩全域に広げていくことを考えています。三鷹市が出資する株式会社まちづくり三鷹の「三鷹ビジネスプランコンテスト」に応募、優秀賞をいただいたことや、地元とのご縁から日焼け止めの必要性や紫外線の危険性、幼少期からのケアの必要性を丁寧に説明することで、三鷹市立北野小学校に導入していただけました。そこから展開を進めていきたいです。ただし、「プールが汚れる」、「化粧品だから」という理由で日焼け止めの持ち込みが禁止されている学校は数多くあります。こうしたルールを変えるために、自治体を巻き込んだアプローチをかけています。また、民間の保育施設については、安全性への不安を解消し、紫外線対策の必要性を認識してもらうために、小児科医の先生方に協力していただき、医学的根拠に基づいた情報を発信しています。

太陽と自然に触れてほしい。多摩地域と子どもたちへの思い

伊藤さんにとって多摩地域で事業をする意味とは?

伊藤:私は三鷹で生まれ三鷹で育ち、小学生のころは武蔵野市の学校に通っていました。現在は中央大学に通っていて、大学3年生まで多摩キャンパスだったこともあり、多摩地域への思いは強いです。多摩地域は自然がたくさん残っていて公園も多いですし、都心に比べて学校の校庭も広いと感じます。せっかく素晴らしい環境が整っているのですから、子どもたちには、日焼け止めを塗ることで、もっと外に出て自然と触れ合う時間を増やしてほしいです。日焼け止め事業を通じて、そういった環境や楽しさを後押ししていきたいです。自然が多く外で遊べる環境が整っている多摩地域は、子どもの日焼け止め対策を広める活動をするのに最適な場所だと思っています。

三鷹市から多摩地域、そして全国に

周囲の反応や、今後の目標を教えてください。

伊藤:日ごろから三鷹市内のイベントに数多く出展させていただいているのですが、そのたびに「子どもの日焼け止め対策は必要だと思うからがんばってね」、「近くの保育園にも話してみるね」などと応援の声をかけてもらうことが多く、地元からの期待も感じます。その期待に応えたい気持ちが強いです。今の目標は、前述の三鷹市北野小学校様のような自治体を巻き込んで事業を推進していくアプローチを横展開し、多摩地域での製品導入を進めることです。それによって、子どもの紫外線対策の必要性に対する認識を、三鷹市から多摩地域、そして全国に広げたいと考えています。

会社情報

会社名 株式会社Sunshine Delight
設立 2019年7月
本社所在地 東京都三鷹市上連雀3-1-3 武蔵野ヒルズ1階
ウェブサイト https://www.sunshinedelight.net/
事業内容 日焼け止め及び紫外線対策教材の販売

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