本事業では、地域内外の中小企業・スタートアップや大企業、大学等が連携して、地域の課題解決を図るためのプロジェクトや、多様な主体が交流できる会員組織(コミュニティ)の立ち上げなど、イノベーション創出に向けた取組を進めています。このインタビュー連載では、多摩地域のイノベーションをリードする注目企業をご紹介することで、皆様に多摩地域の魅力を発信していきます。
LightBank株式会社は半永久的に光る「電解コンデンサレスLED電球」の開発からスタートした、あかりで人々を幸せにする照明メーカーです。人の縁と口コミで信頼度を高め、いまではマンション業界を中心に商業施設、レストラン、ゴルフ場などの照明をデザインから手掛ける加賀谷史央・代表取締役に、事業内容について詳しく話を聞きました。
現在も継承する松下幸之助さんの教え
- 前職のパナソニック株式会社時代に、「経営の神様」と呼ばれた松下幸之助さんから学んだことはございますか?
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加賀谷:それはもう、たくさんあります。経営者としての考え方のすべてがそうです。幸之助さんから教えていただいた哲学が、そのまま現在の会社の経営理念や判断基準となっているのは間違いありません。例えば、世の中にどうやって貢献していくかというところ。幸之助さんは「企業は社会の公器である」とおっしゃいました。つまり、ひと・もの・かねは社会からの預かりものなので、大切に扱い、付加価値をつけて返さなければならない、と説いています。それと同じ理念が会社のど真ん中にあります。長くサラリーマン生活を続けている中で、そうした思いを実現できなくなってきていたので、自分で城を作って実践したほうがいいとの思いから、パナソニックを辞めて会社を起こそうと決めました。
すべての発端は「もったいない」の思い
- 「電解コンデンサレスLED電球」はどのような製品なのか、ご紹介ください。
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加賀谷:LEDは発光ダイオードと呼ばれる半導体素子なので、本来は半永久的に使えるものです。ただ、綺麗な電流を作ってLEDを光らせるためには交流電源から直流電流に変換する電源回路が必要になる。それが電解コンデンサです。ところが電解コンデンサには寿命があり、使用環境や温度により寿命が左右される問題もある。けれども代替部品はない。そのため、多くの資源と労力を懸けて作ったLED電球を、たった数十円の電解コンデンサのために捨てざるを得ないわけです。それは、すごくもったいない話ですよね。蛍光灯より寿命が伸びたものの、LEDのポテンシャルを生かせていないわけですから。それならば、電解コンデンサを取ってしまえばいいじゃないか。そんな思いから始まり、実際に電解コンデンサを取り除いて、原理的には半永久的に光るのが「電解コンデサレスLED電球」です。
常識を覆す革命的な電球の開発に成功
- 前社長の北島敏朗さんと協力して、基礎技術を完成させたそうですね。
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加賀谷:北島はパナソニック時代の先輩で、格好よく言うと天才、わかりやすく言うと電気オタクです(笑)。すでにパナソニックを辞めていましたが、あるとき私の赴任先の中国に遊びに来たんです。そこで電解コンデンサを取る相談をしたところ、アッサリ「できるよ」と。周りから「電解コンデンサがない電源なんかない」と言われて諦めかけていたのですが、北島の言葉を聞いて「必ずできる」と確信しました。「今さらハンダゴテを持ちたくない」と言う北島を説得して、次に中国に来たときにラボと部材を用意して、回路検証をしてもらいました。外で雪が降っていて、暖房もない寒い日でした。北島が新たに作製した試作品LED電球と、光の強度を測定する測定器を用意して実験を行いました。頭の中にイメージがあったんでしょうね。2回試して完成しました。最初はフリッカーというチラつきが出てうまくいかなかったと思ったのですが、それはラボの蛍光灯のチラつきを拾っていただけだったんです。測定器が蛍光灯など外部の光を拾わないように新聞紙で包んで、試作品LED電球の光を測定をしたところ、チラつきが消えたので「あぁ、できた! できた!」って。これはすごいことだぞと、感動しました。
大学の研究室と共同でマンションを彩る
- 製品化した長寿命LED電球が順調に売れて、現在に至るわけですか?
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加賀谷:いや、ほとんど売れませんでしたね。どの店も扱ってくれないので、私自身が売り歩いて「半永久的に光るLED電球ができました」と言っても、誰も信じてくれない。LEDって壊れないと思っている人に壊れないLEDができましたといったところで、逆にこの人は騙そうとしてるんじゃないかって目で見られることが多かったです。そこでちょっとでも信じてもらうために東京都中小企業振興公社の「事業可能性評価」※に応募し、通過してホームページで紹介されると、最初にマンションの管理会社が反応してくれました。そして、マンションの理事長さんが集まる場で講演させてもらい、長寿命LED電球が本当に壊れないので、ランニングコストの削減になるし、環境にも優しいということで使っていただけることになったんです。それがきっかけで製品の確かさが口コミで広がりました。現在もマンションへの販売が8割となっています。
マンションへの販売が増える一方、お客様にとって大事なのは電球ではなく光、もっと言えば光空間なんだという思いも強まりました。そんな時に知り合いから、有名な教授がいるから会わないかという話をいただき、東京都市大学の建築学科で空間心理を研究されている小林茂雄教授を紹介してもらいました。教授の助けを借りて、初めてデザイン付きのマンション照明を手掛けました。千代田区番町のタワーマンションの共有部分、庭園、廊下、エントランス、駐車場などに教授の設計に沿ってLED電球を取り付けました。空間を美しく魅せる、まさに「小林マジック」の評判はものすごく良く、マンションでの販売が伸び始めました。
※創業者の新規事業計画に対して、各分野の専門家から事業化に対して総合的評価・アドバイスが受けられます。特に成長性や新規性が評価された事業計画に対しては、財務・知財・マーケティング等、公社の各種メニューを活用した継続的な経営支援が3年間受けられます。
(参照:東京都中小企業振興公社)
(https://www.tokyo-kosha.or.jp/support/shien/hyoka/index.html)
ドラマ『相棒』を支える撮影用照明も発売
- 2021年頃から始めた撮影用照明事業でも、周囲の協力や他社との連携があるようですね。
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加賀谷:東映株式会社東京撮影所が吊り下げ式の常夜灯を改修するということで、コンペに参加しました。そこで圧倒的に良いという評価を得て、採用にいたり、これがきっかけで撮影業界に参入しました。その後、撮影用照明を作れないかと相談されたので、撮影技師さんに一から教えてもらいました。荒く使うから頑丈なほうがいいとか、つまみは出っ張らない方がいいなどアドバイスをたくさん頂き、がんばって制作しました。1号機は手厳しく言われましたが、改良を重ねて現在の『雷電』ができました。これまで『相棒』や戦隊モノなど、数えきれないほど多くの東映作品で使用されていると聞いています。また、今年1月に東京たま未来メッセで開催された『たま未来・産業フェア』で初めて名刺交換させていただいた溶接加工を行う会社さんとは、『雷電』を連結するフレームに関して打ち合わせする予定です。
多摩地域にはもの作りの伝統、風土が残る
- 2016年に小金井市に本社を移転した理由、多摩地域で事業を営むメリットを教えてください。
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加賀谷:私が小金井市に住んでいるので、住と職が近いほうがいいと思いまして。サラリーマン時代に通勤電車で苦労して、これからの時代は「もの」を持つより「時間」を使えるほうがリッチだと考えたのです。多摩地域は本当に住みやすく、海外で仕事をするうえでは多摩地域でも「東京」ブランドを使えるのも有利と考えました。また多摩地域は、東芝、NEC、富士通などの世界的な電機メーカーの工場があったことで、もの作りの伝統と言うか、風土が残っていると感じます。経営者としては事務所費用を抑えられるところも魅力ですね。現在従業員は14名ですが、多くが多摩地域に住んでいます。
世界も視野に、より良い光を提供していく
- 最後に、今後の目標をお聞かせください。
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加賀谷:2024年1月1日付けで『KKテクノロジーズ』から『LightBank』に社名変更したのは、光のインフラになりたいという思いからです。使い捨ての時代が終わり、長く使えることが非常に大切になる世の中の流れを見ても、当社の製品は役に立てると感じています。国民の生活を支える基盤となる自信があります。人がいるところには必ず光があるので、事業を広げようと思えば際限ないですが、ある程度カテゴライズしながら進めていけたらいいなと思っています。いま一番喜んでいただいているのはマンションですが、オフィスの環境も「机がドーン、蛍光灯がズラーッ」という時代ではなくなって、従業員の健康や快適さを考慮するなど、多様化しています。そのようなニーズに合わせて、これからも質の良い光を提供していきたいと考えています。また、電球は世界共通の部分も多くグローバル展開しやすいので、今後は海外を含め、どこまで可能性を広げていくか。会社の体力と実力を見ながら進めていこうと思います。
会社情報
会社名 | LightBank株式会社(旧KKテクノロジーズ株式会社) |
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設立 | 2014年1月 |
本社所在地 | 東京都小金井市中町4-14-11 アサノビル2階 |
ウェブサイト | https://kktech.co.jp/ |
事業内容 | エレクトロニクス製品全般の開発及び販売。 |