本事業では、地域内外の中小企業・スタートアップや大企業、大学等が連携して、地域の課題解決を図るためのプロジェクトや、多様な主体が交流できる会員組織(コミュニティ)の立ち上げなど、イノベーション創出に向けた取組を進めています。このインタビュー連載では、多摩地域のイノベーションをリードする注目企業をご紹介することで、皆様に多摩地域の魅力を発信していきます。
電子機器やシステムの開発・販売を行う株式会社シーデックスは、時代の変化に取り残されないよう、AIという新たな領域に挑戦しています。「魚卵加工事業者向けの異物検出システム」という、大手企業が踏み込めないニッチな領域に目をつけ、製品化に向けて試行錯誤を続けています。稲城市で36年以上も事業を続けてきた代表取締役の小原操氏に、話を伺いました。
RFIDとシステムLSIが事業の柱
- 御社の事業内容について教えてください。
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小原:弊社の主な事業の一つがRFID(Radio Frequency Identification)製品の開発です。RFIDは物の識別と管理を電波によって非接触で行う仕組みです。これは小さなICタグとして商品などに取り付けて使われるのですが、バーコードに代わる技術として、特に生産、在庫、物流管理の分野で広く使用されています。具体的な応用例としては、UNIQLOなどの小売業界での導入が有名ですよね。UNIQLOでは、商品にRFIDタグを付けることで生産効率の向上、在庫管理の効率化に成功し、セルフレジの導入により顧客のストレスを軽減しました。弊社では、ICタグ自体は作っておらず、それを制御する端末を開発しています。
もう一つの事業の柱が、システムLSI(Large Scale Integration)の受託制作・技術者派遣です。システムLSIとは、複数の異なる機能や種類の集積回路(IC)を一つのLSI(大規模集積回路)に実装して、一つのシステムとして機能するように設計されたものです。これは主に電子機器やデジタル家電などに組み込まれる制御用のコンピュータシステムに利用されます。システムLSIは従来のように個別のチップを用意し、電子基板に実装するのと比べて、配線や部品数、実装面積、消費電力を削減し、機器の小型化や駆動時間の延長に貢献してくれます。ただ、開発には非常に高価な設計ツールが必要になるため、弊社は製造の一部を請け負ったり、技術者を派遣することが多いです。
時代に取り残されないようにAI事業を模索
- 近年は、AI事業にも取り組んでいると伺っています。
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小原:日本の産業構造が変化する中で、我々も変わっていかなければいけません。会社の新しい柱となる事業を模索する中で、近年はAIを用いた画像認識に力を入れています。数年ほど前から取り組み始めましたが、始めた当時はAIを用いてどのような事業をすればいいか見当もつきませんでした。しかし、早くやらないと、世の中からどんどん取り残されていくだけで、弊社の技術者も育たない。何か行動を起こさなければならないということで、まずは具体的なテーマを探すことにしました。そんな中、偶然、異業種交流会で同席した宮城県気仙沼市の魚卵加工事業者が、ある課題について話しているのを聞きました。
魚卵加工事業者が抱える人手不足問題
- その課題とはどのような内容だったのでしょうか。
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小原:魚卵を出荷する際には、異物が混入していないか人の目でチェックをするのですが、最近は人手不足で困っているとのことでした。少し前までは東南アジアの方々がたくさん来ていたのですが、最近はほとんど来ないし、地元の方々も高齢化が進んで辞めていってしまう。今後、もっと人手不足が深刻になるのは目に見えていると。また、異物を発見するにも熟練のコツがいるんです。アニサキスのような透明な生き物や魚の骨などを見つけたり、「これは果たしてゴミなのか?」といったことは一朝一夕では判断できるようにはなりません。
そのとき、AIの画像認識を用いれば解決できるのではないかと思いました。AIは学習しますから、熟練者のようにAIを育て、それをコピーしてしまえばいい。とても将来性がある事業だと思いました。しかし、開発には少なく見積もって数千万単位、もしかしたら億単位の開発費がかかるかもしれません。とても地方の工場には負担できる額ではなかったため、当時は開発を見送りました。
電気通信大学の研究室と連携してシステムを開発
- その後、どうなりましたか?
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小原:その魚卵加工事業者は、我々の後に大手企業にも相談したと知人づてに聞きました。しかし、マーケット規模が小さすぎて、費用対効果を考えると大手企業も二の足を踏んでしまい、実現しなかったそうです。その話を聞いて発想を転換しました。我々も一度は見送りましたが、大手企業が入っていけない領域だからこそ、我々のような中小企業が活路を見いだせるのではないかと。ただ、AIは我々の専門外の領域です。そこで、開発に際して電気通信大学の中村友昭研究所と連携することにしました。実は、弊社は以前から産学連携に目をつけ、電気通信大学のUECアライアンスセンターという施設に開発部を置いているんです。人工知能の分野に関しては専門家である中村准教授の研究室の知見を借りながら、2022年に魚卵加工事業者の作業員の負担軽減と生産性の向上を目的にした「AI搭載画像認識・検査支援システム」を開発しました。
UECアライアンスセンター内の企業とも連携
- 電気通信大学以外にも連携の事例はありますか?
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小原:この画像認識システムを作るにあたって、UECアライアンスセンターに入居している株式会社モデュレックスという照明器具を手がける企業にも協力していただきました。魚卵加工事業者からは、人間の目に見えないものまで取り除いてほしいというオーダーがあったのですが、例えば魚の骨は透明ですし、アニサキスのような透明な生き物は、イクラの皮と見分けるのが大変です。そういった透明な異物は通常の光のもとでは見つけにくいですが、紫外線を当てれば発見することができます。こうした特殊な光の照射に関する部分を、モデュレックス社に手掛けていただきました。
魚卵以外の工場にも横展開が可能
- このシステムは魚卵だけでなく、他のものにも応用できるのでしょうか。
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小原:本システムは工場の生産ラインにおいて、AI画像認識を使って異物をリアルタイムで検出できますので、魚卵以外にも応用可能です。展示会に出展するといろいろな企業から声がかかりましたので、市場ニーズがあると感じています。例えば、細かく切った野菜がパッケージされてスーパーで売っていますよね。野菜はイクラのような魚卵と違って大量生産が必要です。生産ラインに高速で流れてくる大量の野菜から異物を取り除くのにも、このシステムは適しています。また、ある缶詰工場では、マグロのフレークが時速30kmの速さでベルトコンベアの上を流れていて、異物混入チェックの体制に課題感を感じているそうです。このような話題が出てきたりするので、まだまだ需要はあると言えるでしょう。
静かな環境を求めていい人材が集まる
- 創業以来、稲城市で事業をやってこられていますが、なぜここで起業しようと思ったのでしょうか。
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小原:もともと、都心には行きたくなかったっていうのがあります。ごちゃごちゃして煩わしいことが多いじゃないですか。私自身は岩手県出身で、田舎のほうが性に合っています。稲城市に会社を構えたのは、たまたま知り合いがやっているコンビニエンスストアの上の部屋が空いていたから。そして、いざ稲城市で事業をやってみると、思いのほかいい人材が集まってきました。都心の人気エリアに人は集まりがちですが、実際に私たちの会社で働くようになった若者たちは、賑やかな場所よりも、静かな環境で仕事に集中したいと考える人が多かった。そうしたこともあって、多摩地域に落ち着きました。
いずれはこの会社を社員に引き継ぎたい
- 今後の展望をお聞かせください。
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小原:私もいい歳になったので、この会社を社員に引き継ぎたいと考えています。M&Aの話をよく持ち掛けられますが、私は社員に渡したい。そのために、次代を担う人材の教育を進めています。安心して次の代に引き継ぐためにも、新しい主力事業を作り出していかなければなりません。現在、力を入れているAI事業が成長して、継続的に利益を生み出してくれるようになればいいですね。
会社情報
会社名 | 株式会社シーデックス |
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設立 | 1987年10月 |
本社所在地 | 東京都稲城市百村1623-1 パストラルハイム稲城ビル2階 |
ウェブサイト | https://www.cdex.co.jp/index.html |
事業内容 | AI・画像処理、通信システムの設計・開発/GHz帯信号システムの設計・開発/UHF帯RFID機器とシステムの開発・販売/システムLSI・ASIC開発、FPGA開発/技術者派遣 |