教職経験×プログラミング技術。独自の武器で通信制高校の校務DXに挑む | 多摩イノベーションエコシステム促進事業
教職経験×プログラミング技術。独自の武器で通信制高校の校務DXに挑む

教職経験×プログラミング技術。独自の武器で通信制高校の校務DXに挑む

株式会社ぱんぷきんラボ 代表取締役 保坂 英之

 本事業では、地域内外の中小企業・スタートアップや大企業、大学等が連携して、地域の課題解決を図るためのプロジェクトや、多様な主体が交流できる会員組織(コミュニティ)の立ち上げなど、イノベーション創出に向けた取組を進めています。このインタビュー連載では、多摩地域のイノベーションをリードする注目企業をご紹介することで、皆様に多摩地域の魅力を発信していきます。

 株式会社ぱんぷきんラボは、コロナ禍の2021年に創業した学校ICTの発展を支援するITベンチャー企業です。特に通信制高校専用の校務支援システムという高い専門性を必要とする分野に特化しており、独自の戦略を採用しています。自身も通信制高校の教師として、14年間にわたって教鞭を執ってきた保坂英之代表取締役に、事業を興した経緯や想い、事業内容について詳しく話を伺いました。

インタビューに答えていただいた保坂英之氏

通信制高校で働く教職員の負担を軽減する

通信制高校専用の校務支援システムとはどのようなものなのでしょうか。

保坂:通信制高校では、レポート(添削指導)、スクーリング(登校・面接指導)、試験(単位認定試験)の3つを中心に学習が進められます。なかでも大きなウェイトを占めるのがレポートです。いわゆる提出物ですが、1,000人規模の学校では年間で約10万件の提出物が発生します。今までは、学校の先生がこれらの提出物をExcelなどに手作業で入力して管理していたため、間違いや漏れが発生し、またセキュリティ面の脆弱性も課題でした。通信制高校は全日制高校に比べて扱うデータ量が膨大で、且つ生徒毎に学習方法も異なるため、世の中にある既存の校務システムでは対応しきれません。そこにニーズを見いだし、弊社では通信制高校の教職員が事務処理を行う校務システムを開発しました。

通信制高校に通う子どもたちをサポートしたい

そもそも、なぜ通信制高校という校務が複雑な学校に特化したサービスで起業しようと思ったのでしょうか。

保坂:私は教育系の大学院を卒業後、通信制高校の教師として14年間、教鞭を執ってきました。近年、通信制高校では、様々な問題から全日制の学校になじめず不登校になってしまった生徒の割合が増えてきています。彼らは学習意欲こそ高いものの、努力してもなかなか社会に適応できないというジレンマを抱えています。そうした子供たちをサポートしてあげたいという思いが、教育に関わる仕事を続けている根底にあります。一方で、14年間の教師生活のなかで、自分の思い描く理想の学校教育を実現するには、一教員のままでは難しいと感じていました。そこで40歳を前に一念発起して株式会社ぱんぷきんラボを設立しました。

駆け出しの自分にできること

『ぱんぷきんラボ』という社名が印象的です。その由来は?

保坂:皆さんから必ずと言っていいほどよく聞いていただきます。それこそが狙いです。最初は「○○エデュケーション」のようなかっこいい名前を考えていたのですが、お世話になった方に「誰も覚えてくれないよ。社名はインパクトがないとダメだぞ」と言われて、なるほどな、と感心しました。「好きな食べ物は?」と聞かれてカボチャが好きですと返すと「それでいいんじゃない」と言われ、カボチャを英語にしただけです(笑)。せめてもう少しクリエイティブな要素を入れたかったので、最後に「ラボ」をつけました。ちょっとふざけたネーミングですが、駆け出しの自分には何もなかったので、多くの方の印象に残るような社名にしました。

通信制高校での経験×プログラミング技術

教員として働きながら起業の準備をするのはさぞかし大変だったと思いますし、不安もあったのではないでしょうか。

保坂:そうですね、振り返ってみてもだいぶ努力したと思います。毎日、仕事から帰ると子どもの世話をしつつ、睡眠時間を削りながら起業のための勉強や準備の時間を捻出していました。22時以降が勝負でしたね。ただ、勝算があるとも感じていました。もともと学生のころから趣味でプログラミングを学んでいて、教員時代もプログラミングの勉強を続けていました。プログラミングを理解していて、かつ通信制高校の教育現場に深く精通している人間はなかなかいません。通信制高校での経験とプログラミング技術の掛け算が、起業するにあたって武器になると思っていました。

教育DXは桜の花、校務DXは桜の根

いわゆるeラーニングのような生徒が使用する教育用システムではなく、教職員向けの校務用システムに絞った狙いは?

保坂:一般的に学校のDX化といえば、ほとんどの人が教育用のシステムを想像すると思います。桜の木に例えると、教育DXは桜の花で、我々が担う校務DXは根の部分だと考えています。根が腐れば花は咲きません。学校の運営において校務は大事な根っこなんです。また、華々しい花の部分は企業間競争も激しいですが、地味な根っこの部分は市場規模が小さいため大手企業は手を出しにくい。それに、近年は通信制高校の生徒数が増加傾向にあります。大手が進出しにくい分野で、且つ成長が見込める。我々はそこに活路を見いだしています。

教材大手の東京書籍と連携

普段の業務において他社と連携する機会などはありますか?

保坂:教材コンテンツを制作・販売している出版社の東京書籍様は通信制高校に特化した教材を提供しており、競合せず連携できていると思っています。例えば東京書籍様の営業先から校務システムの要望があった際に弊社のシステムを紹介いただくこともありますし、その逆の場合もあります。お互いに通信制高校の発展を目指すという共通する想いから相乗効果が生まれていると感じています。

また、連携ではないのですが、全国通信制高等学校評価機構という、通信制高校の指導・監督をするNPO法人のプラットフォームシステムの開発も弊社が手掛けています。もともと、私の元上司が評価機構の会員で、私が独立する際に「通信制高校と仕事をしていくのなら、ブランド力がある団体と付き合ったほうがいい」と助言していただきました。その後、評価機構に推薦いただき会員として入会しました。今はお仕事を受注している立場のため会員からは抜けて、いろいろとお手伝いをしています。開発だけでなく、問い合わせ窓口業務や、会員様のメールの設定といった細かいところまで、密にお付き合いさせていただいています。弊社としても評価機構のシステムを作っているという実績は業界内での信頼につながるため、助かっています。

生まれ育った地域と関わりながら事業をしたい

東大和市で事業をされていますが、なぜ多摩地域で創業したのですか?

保坂:私は生まれも育ちもずっと多摩地域です。府中市に生まれ、小中学生のときは国立市、高校時代はあきる野市にある東海大菅生高校に通っていました。自分が生まれ育ったこの地域の人たちと関わりながら事業を大きくしていきたい、落ち着いた雰囲気の中で地に足をつけて自分のやりたい事業を進めたい、そうした思いがありました。同時に地価が安いという経済的メリットもあります。我々のようなソフトウェアのサービスを手掛ける企業にとって、オフィスの場所に制約はありません。また、現在、入居しているビジネストというインキュベーション施設は費用が安く、事業の相談も受けてくれるためメリットが大きいと感じています。

目標は5年以内に全国シェア3割

今後の展望は? 全日制高校の校務システムに業務を拡大させる予定はありますか?

保坂:実は、弊社のシステムを導入していただいている学校が全日制高校も併設しており、全日制のシステムも作ってほしいという要望を受けているんです。ただ、我々がゼロから開発すると、すでに市場にあるシステムにコスト面で負けてしまう。競争の激しい場所で戦うより、弊社としてはまず通信制高校のシェアをしっかりとって、ブランドを確立することが先だと考えています。では、その次に全日制高校に進むというかというと、むしろ先ほど述べた教育DXで、弊社のシステムと連携できるツールを開発することが先だと考えています。通信制高校の市場は全日制高校の市場に比べて小さいですが、そのように視野を広げればもっとビジネスを広げられる可能性はあると思いますし、なにより通信制高校の発展というそもそもの理念も一貫できると思っています。

まずは当面の目標として、5年以内に通信制高校の市場で3割のシェアを確保したいです。現在、全国には約280の通信制高校があり、毎年10校以上増加しています。このままいけば5年後には300~400校ほどに増えている可能性があるので、まずは5年後までに100校に弊社のシステムを導入してもらうことが目標ですね。

会社情報

会社名 株式会社ぱんぷきんラボ
設立 2021年
本社所在地 東京都東大和市桜ケ丘2-137-5 B542
ウェブサイト https://pumpkin-labo.com/
事業内容 通信制高校専用校務支援システムの開発・販売/学校運営におけるデータ活用・戦略支援

            

インタビューをもっと見る

有限会社シューコーポレーションのインタビュー
有限会社シューコーポレーション

独自の水処理技術で畜産の現場を助けたい。親子2代に亙るあくなき挑戦

つばさホールディングス株式会社のインタビュー
つばさホールディングス株式会社

中小企業の再生を通じ、多摩地域で”強いローカル”を構築する企業へ

インタビュー一覧ページへ
コミュニティに参加する