腐食の3次元計測・解析一筋14年。大手企業を飛び出し業界の第一人者に | 多摩イノベーションエコシステム促進事業
腐食の3次元計測・解析一筋14年。大手企業を飛び出し業界の第一人者に

腐食の3次元計測・解析一筋14年。大手企業を飛び出し業界の第一人者に

株式会社セイコーウェーブ 代表取締役社長 新村 稔

 本事業では、地域内外の中小企業・スタートアップや大企業、大学等が連携して、地域の課題解決を図るためのプロジェクトや、多様な主体が交流できる会員組織(コミュニティ)の立ち上げなど、イノベーション創出に向けた取組を進めています。このインタビュー連載では、多摩地域のイノベーションをリードする注目企業をご紹介することで、皆様に多摩地域の魅力を発信していきます。

 株式会社セイコーウェーブは、2010年の創業以来、一貫して非破壊検査業務用3次元計測装置(※1)の開発・販売に取組んできた企業です。「この仕事は社会に必要とされている」と誇りを持って事業に取組んでいる、大手電機メーカー出身の新村稔代表取締役社長に、起業に至った経緯や製品開発の苦労、他社に負けない強みなど、14年間の歩みについてお話を伺いました。

※1. 非破壊検査とはプラントやインフラ設備等の物を壊すことなく、その欠陥や劣化の状況を調べ出す検査を指す。

インタビューに答えていただいた新村稔氏

腐食の程度を測定し、メンテナンスに役立てる

現在の主力製品について教えていただけますか。

新村:主に石油精製・石油化学工業における生産プラントの腐食状況を3次元で計測するハンディタイプの装置と、それを解析するソフトウェアです。例えば、プラントの生産設備に使われている鉄は使用しているうちに腐食によって肉厚が減ります。その際、腐食の程度が安全性を担保する上で非常に重要になります。そこで、3次元計測装置を用いて現状を数値化し、すぐにメンテナンスが必要な状態なのか、いつ・どれくらいメンテナンスをすればいいのか、という判断を下すわけです。石油系以外にも、生産設備を持っている工場や鉄橋など、腐食が起こる場所であればどこでも使用可能です。

どのような仕組みで計測しているのでしょうか。

新村:プロジェクターから投影される白色パターン光(LED)を高速度カメラがとらえることで3次元データを取得します。小型なので手持ちでもスムーズに計測可能です。3次元計測ができる3Dスキャナーは他社でも製造していますが、弊社の製品のように外で使えるものは、世の中にあまりないんですね。腐食を解析するソフトウェアもほとんど見たことがありません。こうした独自性が我々の強みです。腐食の3次元計測と解析に関しては、14年以上取組んでいるので、自分で言うのも恐縮ですが、日本では第一人者じゃないかなと思っています。

3次元計測装置『3DSL-ScanProHD』

転職した企業が倒産。逆境からの起業

御社の成り立ちについて伺います。2010年にアメリカと日本の両国で法人を設立されていますが、どのような経緯があったのでしょうか。

新村:弊社には私の他に共同創業者が二人います。一人はマット・ベリスというアメリカ人で、彼とは、私がセイコーエプソンでプロジェクターの開発をしていた際に出会いました。当時、彼はプロジェクターに使われるデバイスを開発するスタートアップを経営していたのですが、私は「この会社は絶対に伸びる」とほれ込んで、意を決してセイコーエプソンを辞め、その会社に移ったのです。しかし、私の見込みとは相反して、移ったその年(2008年8月)に会社は資金難で倒産してしまいました。

その後、光学に造詣が深いベリスとともに、光を使った新しい事業ができないかと模索する中で出会ったのがもう一人の共同創業者である、ケンタッキー大学教授のダニエル・ラウです。3人の力を合わせて起業し、ラウが技術開発やソフトウェア開発、ベリスがマーケティングや資金調達、私はエレキ設計、つまり電子回路や電子機器の設計と全体をまとめる役割を担いました。こうした経緯から、アメリカと日本で法人を起ち上げるに至りました。

アメリカ大手石油企業からの発注

3次元計測装置はどのような経緯で誕生したのでしょうか。

新村:創業後まもなく、アメリカのシェブロンという石油企業が我々の3次元計測の技術を評価してくれて、石油パイプラインの腐食を計測する装置の開発を依頼してくれたんです。シェブロンはそれまでピットゲージという器具を使った、人間の手で測定する従来の測定方法を用いていたのですが、3次元で一度に広範囲を計測できる装置がほしいということで、シェブロン向けに現在の主力製品である3次元計測装置を2012年に開発しました。この製品はパイプライン以外の計測もできるため、石油化学工業の圧力容器や、配管、橋梁の腐食の計測にも展開しています。

失敗を経て、良いものは他社製品でも活用する方針へ

これまで開発に苦労した製品などはありますか?

新村:歯を3次元計測するデンタルスキャナーを開発しようとしたことがありますが、結局、製品化できずに諦めました。例えば歯のクラウン(かぶせもの)を作る際に、ピンクのグニャっとした印象材で型取りをしてから、歯科技工士がクラウンを作りますよね。これまでは製作に最低3日かかっていたものが、デンタルスキャナーで計測した3Dデータを使えば、ミリングマシーンという機械によってその場ですぐにクラウンを作ることが可能になります。試行錯誤して何度もプロトタイプを作り、合計で4億円ほど資金を投入したのですが、最後まで我々が狙った性能のものは開発できず、10年ほど前に暗礁に乗り上げてしまいました。これは本当に苦労しましたね。デンタル業界は腐食に比べるとマーケットが圧倒的に大きくて魅力的だったのですが……。

いつかもう一度、開発に挑戦したいという気持ちはありますか?

新村:いや、それはありません。こうした失敗から学びを得て、「無理をしてまで作らない」「世の中にいいハードウェアがあれば、自分たちの強みであるソフトウェアと組み合わせてお客様に提案する」という事業方針で今後は進めるつもりです。実を申しますと、今使っているこの3次元計測装置は当社の製品ではないんです。今までは自分たちで作っていましたが、自社開発していた計測装置の方は昨年で製造を中止し、現在は中国のSHINING 3Dというグローバル企業の製品を取り扱っています。こちらの製品をハードウェアとして、セット搭載の凹凸解析用ソフトウェアや別売りの解析・評価用ソフトウェアによって圧⼒容器、橋梁、コンクリート構造物の点検を可能にしています。ただし、世の中にないものに関しては自分たちで作ります。最近はお客様から、「今の3次元計測装置はパソコンにケーブルで繋がないと使えないのが不便。パソコンもケーブルも使わずに現場で測定できるものがほしい」というご要望をいただいています。今後はこうした製品を開発していくつもりです。

自社開発していた3次元計測装置。昨年製造を中止した

特殊なドローンシステムで他社との連携を模索

他社と連携して新製品を開発するといったような事例はありますか?

新村:これまで開発に関しては基本的に社内で完結していたのですが、実は昨年にアメリカの法人が他社に吸収合併され、開発体制が弱くなってしまいました。そのため、開発に関しては神戸の企業と連携しています。他にも、弊社で設計した回路基板を町田の企業に作ってもらったり、立川の加工業者に製品本体を収める箱である筐体(きょうたい)を製造してもらったりと、協力会社の力を借りながら事業を進めています。

また、他社連携を模索している事業が一つあります。防爆地域で使用できるドローンの開発です。防爆地域とは石油コンビナートのような、爆発のリスクのある一般の電子機器が使えない場所で、ゾーン(※2)0~2まで分けられているのですが、そのうちのゾーン2で使用できるドローンシステムの特許を昨年、取得しました。通常のドローンとの違いは、①電源を有線で供給する、②ガス検知器を置き、ガスを検知した場合は電力が切れる、③電力が切れても落下しないようにドローンをバルーンで釣る、といった3点です。このドローンシステムを利用すれば、安全な設備点検が可能になります。現在、この事業に開発資金を提供してくれる企業を探しているところです。

※2. 防爆地域は最も危険とされる特別危険箇所のゾーン0から、通常の状態において爆発性雰囲気を生成するおそれが少ない、または時間が短い箇所とされるゾーン2までの3つに分類される。これ以外にも、粉塵が爆発する可能性のある箇所はゾーン20~22に分類される。

多摩地域は健康志向のブルーベリー好きにうれしい環境

現在は立川に事業所を構えていらっしゃいますが、新村さまと多摩地域のこれまでの関りは?

新村:私の出身は栃木県なのですが、セイコーエプソン時代に日野の事業所で働いていて、そのとき住んでいたのが武蔵野市でした。アメリカから帰ってきた後も武蔵野市に住んでいて、2年前に立川に引っ越したんですね。自宅が立川になったものですから、オフィスも立川がいいという理由で三鷹から移りました。多摩地域は自然が多くていいですよね。農家も残っていますから地元の農産物が手に入る。新村家は特にブルーベリーが好きで、ブルーベリー農家がたくさんあるのは助かります。健康志向なんです。ランニングも趣味で、よく多摩湖まで走りに行っています。天気がいいと富士山がしっかり見えますよ。走っていると無心になれてストレス解消になりますし、いろいろなアイデアが湧いてくるのもいいですよね。

チャンスはこれから。現場で使いやすい製品を開発したい

今後の事業の目標を教えてください。

新村:これまで企業は腐食の検査に関して、あまり予算を割いてこなかったと思います。しかし、これからは石油にしても石油化学にしても需要がなかなか伸びない。つまり、新しくプラントを作るお金がない。だから今ある設備をもっと有効活用する必要が出てきて、保守管理にはかなりのお金が回ってくると予想しています。そうした中で、従来のような手作業で腐食を計測する技術を持った人材はどんどん減ってきています。プラントの現場で我々の製品を選んでいただけるよう、現場で使いやすい製品を開発していきたい。プラントや社会インフラがより安全になり、人々が安心して暮らしていけるような技術開発・商品展開をして、社会に貢献したいです。地味ですが、これからも続けていきたいと思っています。

会社情報

会社名 株式会社セイコーウェーブ
設立 2010年4月
本社所在地 東京都立川市高松町1-24-11ブロードマンション205号
ウェブサイト https://www.seikowave.jp/
事業内容 3Dスキャナーの開発と販売、計測受託/損傷解析ソフトウェアの開発と販売/供用適性評価規格準拠ソフトウェアの販売(API579-2016, WES2820-2015)

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