デジタルツインの“究極”を目指して起業した、3Dのスペシャリスト | 多摩イノベーションエコシステム促進事業
デジタルツインの“究極”を目指して起業した、3Dのスペシャリスト

デジタルツインの“究極”を目指して起業した、3Dのスペシャリスト

株式会社インフォモーフ 代表取締役 庄原 誠

 本事業では、地域内外の中小企業・スタートアップや大企業、大学等が連携して、地域の課題解決を図るためのプロジェクトや、多様な主体が交流できる会員組織(コミュニティ)の立ち上げなど、イノベーション創出に向けた取組を進めています。このインタビュー連載では、多摩地域のイノベーションをリードする注目企業をご紹介することで、皆様に多摩地域の魅力を発信していきます。

 株式会社インフォモーフは3次元(3D)空間を構築するサービスを開発している企業です。3D空間はメタバース空間のような「フル3DCG(3 次元コンピュータグラフィックス)空間」と、現実世界から収集したデータを元に作られる「デジタルツイン」の大きく二つに分類できます。代表取締役の庄原誠氏は後者のデジタルツインを手掛けています。目まぐるしく進化し続けている3Dの分野で格闘する庄原氏に、事業についてお話を伺いました。

インタビューに答えていただいた庄原誠氏

手軽に3D空間を構築。建設・不動産企業に需要あり

御社が開発を進めている『インフォモーフ3D』とはどのようなサービスですか?

庄原:インフォモーフ3Dは、動画から3Dモデルを構築するサービスです。特別なカメラを必要とせず、スマホのカメラで撮影した動画から3D空間の構築を可能にするものです。クラウドにアップした3Dデータをそのまま見られるため、離れた場所からでもリモート会議などで確認できる手軽さが特長です。最初は災害現場で活用できないかと2019年9月頃から開発を始めたのですが、それだけでは需要が限られておりどうしてもビジネスにならないため、今後は建設系の企業や不動産企業向けに展開していこうと開発を進めています。これらの企業では、例えば現場監督が建設途中の建物をチェックした際に、修正箇所等を伝える手段として、3次元の地図が役に立ちます。

インフォモーフ3Dで建物の内部を再現したもの

最先端技術を融合。早期の社会実装を目指す

事業としてはどのフェーズにあるのでしょうか。

庄原:この分野の技術はものすごい速さで進歩しています。例えば、ある技術が学会で発表されても、そのときには既に一昔前の技術になっているくらいキャッチアップするのが大変で、商品化が難しいのが現状です。ただ、我々も技術面で追いついてきたこともあり、これからは世の中で広く使ってもらえるよう、社会実装していきたいと考えています。積極的に最新技術を取り入れて開発を進めており、他社にはないサービスを提供したいと考えています。

例えばどのような技術が使われていますか?

庄原:3D空間を作る上で最も簡単なやり方は、LiDAR(ライダー)という、物体との距離を測る技術が組み込まれたカメラで撮影したデータを用いる方法です。でも、普通のスマホで撮影したデータが使えたほうが便利ですよね。実はそれが技術的に難しいんです。スマホで撮影したデータで3D空間を作るには、空間の距離(深度)を推定するAIや、NeRF (Neural Radiance Fields)と呼ばれる新しい3D空間生成方法等、様々な最先端技術が必要になるのですが、インフォモーフ3Dはこうした技術を融合することで、スマホカメラからでも3D空間を構築することができます。

プロジェクションマッピングの墨出しを開発

他にはどのような事業をされているのでしょうか。

庄原:売上としては受託案件が大きいですね。なるべく難易度が高い案件に取り組むようにしていて、3Dモデルを使ったウェブサイトやウェブアプリの開発などを受託したり、公になっている案件だと、他社と連携してプロジェクションマッピングを使った建築の“墨出し”(※1)のシステムも開発しました。この部屋の床には白いテープの中に赤い線が引いてあります。これは墨出し職人が引いてくれたものです。これと同じように、プロジェクションマッピングを用いて墨出し線を高精度に投影するシステムを開発しました。他には、もともと私はカメラを開発していた関係から、このように光学機器のキャリブレーション(※2)など、映像機器や画像処理を中心とした開発の手伝いをすることが多いです。
※1. 建築や土木工事を行う際に、施工図の情報を現場に記す作業のこと
※2. 計測器が示す値の正確性を標準器と呼ばれる機器を用いて比較し、計測器の偏りを明らかにするだけでなく、正しい値を計測できるように調整する作業

墨出し職人による赤い線がオフィスの床一面に引かれている

様々なキャリアを経て起業にたどり着く

リコー(※3)に勤められていたとのことですが、どのような経緯で起業に至ったのですか?

庄原:それまでもいくつかの会社で、カメラや医療機器関連の事業領域で、ソフトウエア開発や画像処理開発などの業務に関わってきました。リコーには2011年に入社し、THETA(シータ)という360度カメラの開発を一から手がけました。THETAが事業化して一段落したところで退職し、移動体やドローンのベンチャー企業、個人事業主を経て、ちょうど5年前に八王子市のインキュベーション施設が工学院大学に開所したタイミングでインフォモーフ社を設立しました。せっかく大学内にあるのだから、学生たちを巻き込んで、自分たちで何かを作り、世に問うてみたいと思いました。学生たちには将来起業することも視野に入れて、ここで何か学んでもらえればと思っています。
※3. 大手光学機器メーカー

世界各国から優秀な学生が集まる

現在は東京都立大学のインキュベーション施設に入居されていますね。大学のインキュベーション施設に入居するメリットはどんなところに感じますか?

庄原: やはり、学生を集めやすいのが最大の利点だと感じます。工学院大学のインキュベーション施設の契約期限のタイミングで、新たなインキュベーション施設の入居企業を募集していた都立大学に移りました。工学院大学も都立大学も理系の学部があり、関心を持ってくれる学生が多く、今は7人の学生にアルバイトとして手伝ってもらっています。多摩地域は大学が多いので、工学院大学にいたときは近隣の大学からも学生が来てくれていました。なかには優秀な留学生もおり、アフリカや南米などの学生にも手伝っていただきました。多くの外国人が来てくれる日は、日本にいることを忘れてしまうような国際色豊かで、楽しい空間でした。現在入居している都立大学の日野キャンパスも優秀な学生が多いです。システムデザイン学部という、弊社の事業と親和性の高い学部の学生が来てくれるのもありがたいですね。

採用面以外ではどのようなメリットを感じますか?

庄原:助成金やイベントの案内をしてくれるなど、事業のサポートをしていただける点です。たま未来・産業フェアやSusHi Tech Tokyoで開催されたイベントに参加できたのも、インキュベーション施設からの紹介がきっかけでした。そうした情報が入ってくるのも、インキュベーション施設に入居する魅力の一つだと思います。

都心とのちょうどいい距離感

多摩地域で事業を行うメリットは感じますか?

庄原:都心に比べて企業の数が少なく、その分、学生に見つけてもらいやすいので、ベンチャー企業の採用という面ではメリットになるのではないでしょうか。あとは、都心からそこそこ距離が離れているので、開発に集中できる点も良いですね。一方、こちらから都心に行こうと思えば、1時間ほどで行けます。この距離感がちょうど良いです。

デジタルツインの“究極の形”を目指して

社名の「インフォモーフ」にはどういう思いが込められているのでしょうか。

庄原:インフォモーフには「人格をコンピューターに転送する」という意味があります。先日の都知事選では候補者を模した対話型AIが話題になりましたが、AIをもっと実際の人間に近づけるには、人格のようなものをAIに学習させないといけません。人格の話になると、人間とは何か、というテーマに行きつきます。もともと、私自身がそのような分野に興味がありました。「コンピューターで人格を再現する」。私が今、取り組んでいる3D空間、つまりデジタルツインの究極の形がそこにあると思い、社名にしました。

今後もしばらくはデジタルツインの領域に注力していこうと考えています。この分野で技術的に面白いことを積極的に続けていきたいです。そのうえで、人の役に立つ、社会課題を解決するようなサービスを開発したいですね。

会社情報

会社名 株式会社インフォモーフ
設立 2019年9月17日
本社所在地 東京都日野市旭が丘6-6 東京都立大学日野キャンパス6号館114号室
ウェブサイト https://infomorph.jp/
事業内容 空間コンピューティング関連の研究開発(デジタルツインプラットフォーム構築、3D構築、位置情報推定)/機械学習(AI)、画像処理、カメラ、xR、ロボティクスに関するシステム・ソフトウエア開発/新製品開発サポート・システムアーキテクト・プロトタイプ開発/360度カメラ応用/新規開発支援、コンサルタント

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