製造委託先の半数は多摩地域のものづくり企業。地域密着経営を貫くファブレス企業 | 多摩イノベーションエコシステム促進事業
製造委託先の半数は多摩地域のものづくり企業。地域密着経営を貫くファブレス企業

製造委託先の半数は多摩地域のものづくり企業。地域密着経営を貫くファブレス企業

新協電子株式会社 代表取締役社長 中西 英樹

 本事業では、地域内外の中小企業・スタートアップや大企業、大学等が連携して、地域の課題解決を図るためのプロジェクトや、多様な主体が交流できる会員組織(コミュニティ)の立ち上げなど、イノベーション創出に向けた取組を進めています。このインタビュー連載では、多摩地域のイノベーションをリードする注目企業をご紹介することで、皆様に多摩地域の魅力を発信していきます。

 八王子市で事業を行う新協電子株式会社は、生産設備を持たず他社に製造を委託する「ファブレス経営」で電子機器を開発する企業です。多摩地域のものづくり企業と連携して製品を開発し、人材も多摩地域から集めるという経営スタイルは、まさに地域密着型。多摩地域のものづくりを支える代表取締役社長の中西英樹氏に、事業内容や独自の経営方法について、詳しくお話を伺いました。

インタビューに答えていただいた中西英樹氏

大手企業が手を出しにくいニッチな領域で勝負

業務内容について教えてください。

中西:弊社は主に社会インフラシステム向けの電子機器を開発・販売しています。例えば、鉄道の進入監視システムは弊社の代表的な製品です。駅のホームに電車が進入する際、人が飛び出していないかを監視する機器なのですが、停電が発生したときに電車が来てしまうと大変な事態になりますよね。そこで、停電しても1秒以内に復旧する特殊な機器を開発しています。通常、カメラの映像は電気ケーブルで送信されますが、弊社ではこれを光変換し、光ファイバーで送信するため、狭く入り組んだ場所でも取り回しが良いという特長があります。この機器は鉄道会社だけでなく、原子力発電所や皇室関連の施設でも採用されています。鉄道や原発、皇室関連の施設は数が限られているため、大企業が手を出しにくいニッチな領域です。そのため、大手企業との価格競争に巻き込まれることなく、安定的に利益をあげやすいのです。

社内には鉄道監視システムのデモンストレーションが設置されている
大手企業には、製品のコアとなる箇所をその企業用にカスタマイズして販売することが多いという

委託先の半数以上が多摩地域の企業

御社の生産体制はどうなっていますか?

中西:弊社は自社で生産工場を持たず、他社に製造を委託するファブレス企業です。板金加工、メッキ加工、ケーブル製造、基盤製造、部品実装など、すべて異なる会社に委託して製品を作り上げています。毎月の支払い先は、部品販売会社も含めて約100社にもなります。各工程にはおおよそ3~4社が関わっており、委託先の半数以上が多摩地域の中小企業です。多摩地域はもともと多くのメーカーの工場が集まっていたため、ものづくり企業が多いのです。八王子市の産業振興課、商工会議所や多摩信用金庫が、そうしたものづくり企業を紹介してくれて、お付き合いが始まることが多いですね。

ものづくり企業と連携し新製品を開発

多摩地域の企業と連携して新製品を作った例を教えていただけますか?

中西:最近では、あきる野市の企業と協力し、面白い製品を開発しました。同社の社長が「インパクトバッテリー」という、衝撃を受けると電気を発する電子部品を開発したのですが、非常に個性的で魅力的な技術である一方、部品単体では使用用途がお客様へ伝わりにくい悩みがありました。そこで、首都圏産業活性化協会(TAMA協会)や東京都中小企業振興公社からの依頼や助成を受けることで、弊社がこの技術を応用し、貨物列車やトラックなどでの輸送時の振動を解析するシステムを開発し、展示会に出展しました。結果的に、医療用フィルムを製造している大手企業から使用したいとの発注がありました。振動に弱い精密な製品を運ぶ企業にとって、需要があったようです。

また、最近のヒット製品として「インカム」があります。インカムとは、ハンズフリーで相互通信が可能な無線機の一種で、ハンバーガーショップの店員さんが使っているマイク付きヘッドセットを想像していただけるとわかりやすいかと思います。もともとはある大手企業が製造していたのですが、諸事情で撤退したため、困っていたメーカーの要請を受けて、弊社が八王子にある企業にプラスチック成型を依頼し、製造を行っています。このインカムは、医療現場や遊戯施設でも広く使用されています。このように、新しい開発依頼が来た際には、ものづくり企業の各社と相談しながら製品を作り上げるのが弊社のスタイルです。

中央に見える白い機器がヒット商品のインカム

大企業を辞めて義理の父の事業を継ぐ

中西様は2代目だとうかがっています。以前はどのような仕事をされていましたか?

中西:もともとは富士通でSEの開発環境を作るソフトウェア開発を担当していました。今で言うビジュアルベーシック(※1)のようなものですね。昔は各社が独自でソフトウェアの開発環境を持っていて、その開発の一部をその頃は中国の企業に発注していたのですが、発注先の社長が私と同世代か若いくらいで、とても生き生きと働いておられるんです。その姿を見て、「富士通の看板がなくても、彼らは私と付き合ってくれるだろうか」と考えるようになりました。そんなとき、弊社を創業した義理の父から「会社を売るか、貴方が継ぐかどちらがいい?」と相談され、冒険したい気持ちが湧き、42歳で富士通を辞め、新協電子株式会社を継ぐことになりました。
※1.Visual Basic(ビジュアルベーシック)は、1991年にマイクロソフト社によって開発・提供されたプログラミング言語のこと。

大企業からの転身に不安はありませんでしたか?

中西:その頃は挑戦したい気持ちのほうが不安より強かったです。ただ、最初は「こんなはずじゃなかった」と思うこともありました。当時は日野に事務所があったのですが、私が来た初日に「社長、トイレが壊れました」と言われて、「そんなことまで私に相談するの?」と驚いた覚えがあります。また、コストや売上もどんぶり勘定で、見込みの売上や、いついくら現金が入ってくるのかといったことも、会社として把握していませんでした。よくそんな状態でやってこれていましたよね……。まずはそうした点を改善していきました。

経営を立て直すため様々な改善に取組む

中西様が社長に就任してから変えたこと、工夫されていることは?

中西:人事評価の等級をガラス張りにし、どのようなスキルがあれば等級が上がるのかをオープンにしました。年齢に関係なく、やる気のある方が公平に評価されるようにしたのです。また、会議を極力減らすためにMicrosoft Teamsというツールを活用しています。例えば「商談」「新製品開発」といったスレッドを立て、その中でコミュニケーションを図ることで、社員全員が個人のパソコンから業務の進捗などを把握できるように工夫しています。また、私も含めて全社員のプロフィールも見られるようになっています。

弊社は非常に休みやすい会社です。有給さえ残っていれば、各個人がTeamsに書き込むだけで休めるようにしています。休み中にやってもらいたい仕事がある場合も、Teamsに「○○さん、○○をお願いします」と書けば、周囲がしっかりサポートしてくれます。他にも、毎月第1月曜に全員が集まり、トヨタの「なぜなぜ分析(※2)」のように、先月のミスを共有し、同じミスを繰り返さないようデータベース化しています。
※2.問題解決や改善に向けて問題の原因を探る方法の一つで、トヨタ自動車から生まれた手法。

設備に投資するのではなく人材に投資する

人材についての考え方も教えてください。

中西:私が経営を引き継いでから、人材採用の方針も見直しました。それまでの15年間は中途採用だけでしたが、なかなか定着しない状態が続いていたそうです。そこで、新卒採用に切り替えイチから育てようと考え、八王子にある国立東京工業高等専門学校に足しげく通い、先生から生徒を紹介してもらいました。そのときに採用した社員が今では40歳になり、リーダーとして活躍してくれています。東京高専とはそこから付き合いが始まり、インターンシップの授業を受け持つようになりました。学生は弊社で2週間ほど実地勉強して、単位を取得するというプログラムです。こうしたつながりができたおかげで、東京高専から新卒で入社してくれる方が増え、今では社員28人中8人が東京高専の卒業生です。基本的に私は職住近接が望ましいと考えており、多摩地区からの採用を積極的に進めています。おかげで社員の定着率も格段に上がりました。

採用だけでなく、育成にも力を入れています。例えば、元インテル・ジャパン社長の西岡郁夫氏が主催する「西岡塾」に社員を派遣し、リーダー育成のプログラムを受けてもらっています。一橋大学の楠木建教授や松井証券の松井道夫社長など、錚々たる方々が講師として教えてくれるプログラムです。現在は西岡塾を卒業した方々が幹部として活躍しています。こうした人材育成の取組みが評価され、2021年度の東京都中小企業技能人材育成大賞にて優秀賞に選ばれました。ファブレス経営は設備投資が必要ないため、人材に対して投資しています。設備を持たない弊社にとって、ノウハウを持つ人材が財産だからです。

東京都中小企業技能人材育成大賞で優秀賞に選出された

ニッチな領域で勝負する「ブルーアイランド戦法」

最後に、会社として今後の展望をお聞かせください。

中西:弊社のPURPOSE(目的)として、「テクノロジーの追求と平穏な暮らし」を掲げています。この「平穏な暮らし」を実現するために、社員の方のワークライフバランスを重視し、規模の拡大だけを追求するのではない「M1410活動」を行っています。この活動は、社員40人で10億円の売上を目指すというものです。現在は28人で7億円の売上なので、それほど無理な目標ではありません。その目標を達成するために、我々は「ブルーアイランド戦法」をとっています。ブルーオーシャンはすぐに大企業が進出してレッドオーシャンになってしまうので、大企業が入ってこられない小さな島「ブルーアイランド」で楽しく暮らそうという考え方です。これからもニッチな領域で、少し尖った面白いモノを作り続けていきたいですね。

会社情報

会社名 新協電子株式会社
設立 1966年5月7日
本社所在地 東京都八王子市台町1丁目22-19
ウェブサイト https://www.sinkyo.co.jp/
事業内容 社会インフラ向け通信機械、 器具及び部分品の製造販売

インタビューをもっと見る

福永紙工株式会社のインタビュー
福永紙工株式会社

紙加工×デザインで、多摩の若い芸術家・クリエイターの可能性を引き出す

株式会社 志成データムのインタビュー
株式会社 志成データム

理研や総研と連携し、血管年齢と血圧を同時に測れる血圧計を開発

インタビュー一覧ページへ
コミュニティに参加する