本事業では、地域内外の中小企業・スタートアップや大企業、大学等が連携して、地域の課題解決を図るためのプロジェクトや、多様な主体が交流できる会員組織(コミュニティ)の立ち上げなど、イノベーション創出に向けた取組を進めています。このインタビュー連載では、多摩地域のイノベーションをリードする注目企業をご紹介することで、皆様に多摩地域の魅力を発信していきます。
株式会社キャンパスクリエイトは電気通信大学発のTLO(Technology Licensing Organization)です。日本語で「技術移転機関」を意味するTLOは、技術や研究成果を持つ大学の研究者と企業をつなぐ、産と学の“仲介役”の役割を担います。産学連携をオープンイノベーションで実践するキャンパスクリエイトの高橋めぐみ代表取締役社長に、事業内容について話を伺いました。
当初は研究者のサポートをする会社として設立
- まずは御社の成り立ちについて教えてください。
高橋:当時の電気通信大学の学長が、「忙しい先生方が研究に専念できるよう、業務をサポートしてくれるような会社を作りたい」と弊社の前代表に声をかけたことがきっかけで設立されたと聞いています。設立のきっかけがいわば雑用のアウトソーシングですので、当初は先生方の学会運営の手伝いをしたり、消耗品の購入をしたりといった業務も行っていました。国からTLOの承認を受けたのは2003年です。それまではアウトソーシング事業の割合が多かったため、TLOの承認を受けていなかったのですが、「アウトソーシング事業」と大学の研究者と企業をつなぐ「技術移転事業」を明確に分けることで、2003年に経済産業省と文部科学省から承認されました。
- 高橋様が入社した時期はいつごろですか?
高橋:私が入社したのは2004年です。前職では新規事業の立ち上げを企画する部署で働いていました。「なぜこの仕事を選んだのですか?」とよく聞かれるのですが、理由の一つは家庭と仕事を両立したかったからです。それまでは自宅のある多摩地域から新宿に通っていたので、もう少し家の近くで働きたいなと思っており、技術畑出身ではないのですが、ご縁があって入社しました。
一般的なTLOとは逆のアプローチを採用
- では、御社の産学連携事業についてご紹介ください。
高橋:当社のサービスでは、企業が抱えている技術課題・経営課題・新規事業創出に係るニーズに対して、大学の研究者を中心とした多様なパートナーとの連携をコーディネートすることで企業のオープンイノベーションを支援しています。弊社の産学連携における特徴は、連携先を広域で探せるという点にあります。弊社は電気通信大学発のTLOではありますが、良い研究者がいれば全国どこの大学でも直接コンタクトしておつなぎしています。一般的なTLOは、研究者の知財や研究シーズを企業に売り込むアプローチが主流です。しかし、そのスタイルでは扱えるシーズが提携している大学に限定されてしまいます。その点、弊社は企業のニーズからスタートしてシーズ、つまり研究者を探すスタイルを採用しており、“研究者の選定”にはかなりこだわりを持って取組んでいます。
日本全国の研究者から一人を絞り込む方法とは
- 具体的にはどのように探すのでしょうか。
高橋:まずは論文などの公開情報を用いて100~150人の研究者をリストアップします。そこから企業が解決したい課題に対して、研究者が用いる手法が実行可能かどうかを調べます。なかにはこの手法を用いれば解決はできるが、実装コストが合わなかったり、そもそもその企業の工場には実装できない手法だったり、というケースがあるんです。こうした条件から20人ほどに絞り、研究者にヒアリングを行います。研究室の体制や予算、設備状況といった部分を確認し、企業と研究者の相性を総合的に判断するのがスタンダードな探し方です。
多摩地域の出版社と生体工学の専門家をマッチング
- 多摩地域の企業で御社が産学連携を手がけた事例はありますか?
高橋:吉祥寺にあるコアミックスという出版社から、漫画を読んでいるときの人の感情を可視化したいという要望があり、電気通信大学の板倉・水野研究室をコーディネートしました。板倉先生と水野先生は生体工学の専門家です。漫画を読んでいる状態を生体計測することで、感情を推定するという研究を行いました。コアミックスがこの研究を行った理由は、同社が若手の育成や発掘に積極的に取り組んでいることが背景にあります。というのも、名前の売れていない若手の作品はいくら良い漫画でもなかなか売れないそうです。そこで、良い作品を読みたい読者に実力のある若手の作品を届けられないか、といった思いからこの研究は始まりました。さらに、この研究は作家や編集者の育成にも活用できます。漫画はストーリーやコマ割りなど、ものすごく戦略的に考えて描かれています。その戦略どおり読者の脳が反応しているかどうかを測定することで、漫画を描く際の材料として活用できないかと考えているようです。
企業と研究者の間に生じる時間的感覚のズレ
- 産学連携をするにあたり、どのような部分に課題を感じますか?
高橋:企業側は当然、ビジネスとして成立させたいという思いがあるので、成果をアウトプットしたい。一方、研究は結果が出るまで時間がかかってしまうものです。企業側がいくら「3カ月で結果を出して」と言っても、研究者からすれば「1年は必要だよ」と。そうした時間的感覚のズレはどうしても生じてしまいます。特に、企業側の受注案件だとどうしても納期がありますよね。企業としては急かしたくなるのは当然なのですが、研究室のリソースにも限りがあります。そのため、このような場合には、企業のスピードに対応できるリソースを持っている研究室と、企業から要望があってもしっかりとそれに応えられる先生を選ぶ必要があります。
- 企業と研究者の間にハレーションが生じないようにするために工夫していることはありますか?
高橋:最近は共同研究をスタートする前に、トライアルをするようお願いしています。その研究自体が企業のニーズを満たすかどうかを確認するという目的もあるのですが、研究者のタイプを把握するという意味でも重要です。この研究者は納期を守ってくれるのか、メールの返信はどのくらいで来るのかなど、研究者の気質や性格を理解したうえで、企業側とテンポを合わせてコミュニケーションが問題なく取れるようであれば、本格的に予算を組んでもらい共同研究を進めるようにしています。
多摩地域の大学を実証実験の場にしたい
- 多摩地域の魅力やポテンシャルについてはどう感じていますか?
高橋:多摩地域の特色は“普通”なところだと思います。普通の人たちが普通に生活しているスタンダードな街。例えば、この“普通”を日本の街づくりに生かせたら面白いですよね。地域の過疎化が進む日本では、様々な自治体が街づくりに苦慮しています。普通の人が普通に生活しやすい、子育てしやすい、そうした街のモデルに、多摩地域はなれるのではないでしょうか。
そして、多摩地域には電気通信大学のほかにも数多く大学があります。地域貢献の一環で大学が街づくりの実証実験の場を提供をしてくれないかなと、最近はよく考えています。例えばロボット一つ走らせるにしても、街で行うには規制が多くハードルが高いです。現状では安全面の観点から大学のキャンパス内の活用も難しいのですが、ルールを緩和するなどして大学が実証実験の場として活用されれば、地域のためになると思うんです。他にも、例えば実績のないスタートアップが大学で実証実験を行うことで、信用獲得につながるというメリットも考えられます。
ニーズ探索から出口戦略の支援まで
- 最後に御社の今後の展望についてお聞かせください。
高橋:弊社の特色は、企業のニーズ探索からマッチング、共同研究まで、伴走しながら支援する点にあります。一般的なTLOの産学連携はマッチングしかやらないのですが、我々はかなり長い時間をかけて企業に伴走します。そして、この先しっかりやりたいと考えているのは、出口戦略の支援です。私たちと組むことで、共同研究の成功だけでなく、ビジネスにつながる成功率を上げたいと思っています。我々の事業は最終的には産業界に貢献しないと意味がありません。企業がしっかりと利益を出せるよう支援し、その利益の一部が大学の研究者に還元されて、研究がさらに活性化するサイクルを生み出せるような会社にしていきたいと考えています。
会社情報
会社名 | 株式会社キャンパスクリエイト |
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設立 | 1999年9月 |
本社所在地 | 東京都調布市調布ヶ丘1-5-1 国立大学法人電気通信大学産学官連携センター内 |
ウェブサイト | https://www.campuscreate.com/ |
事業内容 | 企業のニーズに対して、日本全国の大学等との連携による課題解決/産業振興 |