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親子が歩む、新しい学びと成長のかたち――「親子副業」の実践

株式会社バビロニア

代表取締役 野田 拓也

インタビューに答えていただいた野田拓也氏

 本事業では、地域内外の中小企業・スタートアップや大企業、大学等が連携して、地域の課題解決を図るためのプロジェクトや、多様な主体が交流できる会員組織(コミュニティ)の立ち上げなど、イノベーション創出に向けた取組を進めています。このインタビュー連載では、多摩地域のイノベーションをリードする注目企業をご紹介することで、皆様に多摩地域の魅力を発信していきます。

 親子で一緒に副業として事業を立ち上げるという「親子副業」を提唱する、IT技術者の野田拓也氏。株式会社バビロニアは、野田氏が息子さんとともに立ち上げた会社です。当初は、息子さんのマネーリテラシーを育むことを目的に始めた「親子副業」でしたが、実践を重ねるなかで見えてきたのは、単なる金融教育にとどまらない、さまざまな学びと成長の可能性でした。野田氏に、「親子副業」に込めた思いや、その背景にある考えについて伺いました。

息子さんの何気ない一言がきっかけに

親子副業を始めた経緯を教えてください。

野田:コロナ禍で家にいる時間が増えたある日、家族の会話の中で息子が「将来はお金持ちになりたいよね」と話しはじめたんです。私は金融業界で働いていたこともあり、もともと金融教育は早いうちから始めたいと考えていたので、これはいい機会だと思い、息子と一緒にお金の勉強を始めました。息子も「中学生で投資の本を読んでる俺、ちょっとかっこよくない?」なんて思いながら楽しんでいたのですが、ある日、友達から「そんな本読んでて恥ずかしくないの?」「お金儲けってなんか下心あるよね」と言われてしまって。「中学生がお金を稼ごうとすることにネガティブな印象があるのは、おかしいと思う。そうじゃないってことを、ちゃんと友達に伝えたい」と、彼なりに強く感じたようでした。

ちょうどそのころ、ある本の中に「お金持ちになるには、雇われる側ではなく、会社を持つ側にならなければいけない」という考え方が紹介されていました。それを読んだ息子と、「だったら、自分で会社を作って、同世代にお金のことを教えるビジネスを始めてみたらどうか」という話になりました。こうして立ち上げたのが株式会社バビロニアです。私は本業があるので副業として関わり、息子は学業の傍ら、副業として運営に取り組む。いわば「親子で副業をする」というスタイルでスタートしました。社長は息子で、私はサポート役に徹しました。

実はかつて、息子はいわゆる「中1ギャップ」に直面していました。新しい環境になじめず、友達もうまくできず、成績も思うように伸びない。自分で「俺、陰キャだから一人でも楽しいし」と冗談めかしては、強がる日々を送っていたんです。ところが、中学2年の7月に社長業をスタートし、迎えた9月、2学期が始まるタイミングで、突然「俺、学級委員に立候補する」と言い出したんです。それを聞いたときは、正直「えっ!? そんなキャラだったっけ?」とこちらが驚いてしまうほどの変化でした。

厳しいフィードバックを糧に、着実に改善

実際、どのような事業を始めたのでしょうか。

野田:立ち上げた事業は、子ども向けのオンライン金融教室です。基礎編・投資編・起業編の3コースから構成され、それぞれ全12回ずつのカリキュラムで展開しています。このサービスには、息子自身が『StarBurst』という名前をつけ、自らの手で一歩ずつ形にしていきました。ビジネスですから、当然うまくいかないこともたくさんあります。実際、最初のモニターとして参加してくれた息子の友達からは、「お金を取れるレベルじゃない」「お前が一人で気持ちよく喋ってるだけだよ」といった、忌憚のない厳しいフィードバックが届きました。友達だからこその率直な意見だったと思います。

正直、もう諦めるかなと思っていたのですが、息子は「ちょっと1週間時間がほしい」と言って、アンケートをじっくり読み直しながら考え始めました。そして1週間後、「授業の構成を変えたい」と自分から提案してきたのです。具体的には、「前半はお父さんに講義をしてほしい。お金のことを教えてくれたお父さんの話がすごく面白かったし、やっぱり教えるのはお父さんのほうがうまいから」、そして「後半は自分が中心になって、生徒たちとディスカッションをしたい」と。こうして始まった新しいスタイルの授業は、第一期生の時点で非常に好評を得ました。保護者の方からは、「うちの子が、あんなにしっかり意見を話せるとは思わなかった」「以前より成長しているのを感じる」といった声も頂き、息子自身も手応えを感じたようでした。

挫折を乗り越えることで、自信と自己肯定感を得る

取り組む中で、思わぬ壁にぶつかるようなことはありましたか?

野田:この『StarBurst』が、ありがたいことに「みたかビジネスプランコンテスト」の最終審査まで残りました。ただ、最終審査のプレゼンは息子一人で行わなければならず、そのプレッシャーが相当大きかったようです。審査の3日前、息子が突然泣きながら「もう無理だ、期待に応えられない」「社長を辞めたい」と弱音を吐きました。学校の勉強とビジネスの両立で、完全にキャパオーバーになっていたようです。私は「本業はあくまで学校の勉強なんだから、副業であるこの活動は一旦辞退しよう」と提案しました。ところが妻は「本当にそれでいいの?」と問いかけてきたのです。「やるって言った以上、その言葉には責任があるんじゃない?」「忙しくなったからやめるって言う社長の会社、あなたならどう思う?」と。

すると息子は、「そんな会社はダメだと思う」、「とにかくコンテストまではやり切る」と気持ちを切り替えました。そして、コンテストを一区切りにして、一旦ビジネスからは離れて勉強に集中する、という結論に至ったのです。ところが、当日のプレゼンを無事に終えた息子は、奨励賞をいただくことができました。すると現金なもので、「俺、いけるかもしれない」「やっぱりまだやりたいかも」と(笑)。こうした挫折や葛藤を経験し、自分で乗り越えることができたことで、「自分はできる」という実感が芽生え、自己肯定感も大きく高まったように思います。

親子副業の最大の魅力は“生きる力”が育つこと

「中1ギャップ」に悩んだころから大きく成長したのですね。

野田:現在、息子は「将来自分でダンスイベントを企画・運営する会社を作る」という目標を掲げています。その夢を実現するためには、まず自分自身が名の知れたダンサーになることが近道だと考え、アメリカ・ロサンゼルスへのダンス留学に向けて準備を進めているところです。自ら、ダンスと語学の両方を学べる現地の学校を調べ上げ、面談まで済ませてきました。そして最後に一言、「あとはお金だけだから、お父さんよろしく!」と(笑)。

将来のビジョンやキャリアを自分の中で明確に描き、それに向かって「今、自分は何をすべきか」を考え、実際に行動に移す。その姿を目の当たりにして、あらためて感じたのは、親子副業の一番の価値は「ビジネス」や「お金を稼ぐこと」そのものではなく、こうした“生きる力”を育むための土台になるということです。IQや偏差値のような数値で測れる能力ではなく、たとえばコミュニケーション力や、失敗から学んで立ち直る力、最後までやり抜く力といった、生きるうえで欠かせない力――いわゆる「非認知能力」が、「親子副業」を通じて大きく育ったと感じています。

実は“親”にとっても大きなメリットが

親子副業を通じて、親自身にも新たな気づきや学びがありそうですね。

野田:自分で会社を立ち上げたり、スモールビジネスを始めたりする経験は、本業で新規事業に関わっている人以外にはなかなかないと思います。でも、実際にやってみると、これまで見えなかった世界が見えるようになるし、行動しなければ出会えなかった人たちとのご縁も一気に広がります。新しい世界に飛び込むことで、親世代もまだまだ成長できるのです。

そして何より大きいのが、“生きがいづくり”という点です。これからの人生、ただ何となく過ごすのではなく、「社会の役に立っている」「誰かとつながっている」と感じられる時間を、自分で作っていかないと、きっと老後がつまらなくなってしまう。だからこそ、今のうちからセカンドキャリアを少しずつ築いていくことが大切だと感じています。親が自分のセカンドキャリアを模索しながら、子どもがファーストキャリアの第一歩を踏み出す。そのプロセスを親子で一緒に学びながら進められるというのは、親にとって何よりの財産であり、大きなメリットです。

『親子副業アイデアコンテスト』を開催

高校卒業を機に、息子さんは会長に就任し、現在は野田様が株式会社バビロニアを運営されているとうかがいました。現在の主な活動内容についてお聞かせいただけますか?

野田:現在の私は、元の勤務先と業務委託契約を結んで仕事を続ける一方で、「親子副業」を広める活動に力を注いでいます。これは、私の中ではビジネスというよりも、どちらかというと“社会貢献活動”という位置づけです。親世代の意識改革というと少し大げさかもしれませんが、すでに終身雇用の時代は終わり、これからの社会では、多様なスキルやマインドセットが求められると感じています。いわゆるアントレプレナーシップ教育を家庭の中にも取り入れていかないと、「良い大学に入って、良い会社に就職することがゴール」という、画一的な価値観に縛られたままになってしまう。だからこそ、親子で一緒に挑戦する「親子副業」のような取り組みを、もっと多くの家庭に知ってもらいたいという思いで、この活動を続けています。

主な取り組みの一つが、『親子副業アイデアコンテスト』です。実際に親子で副業を始めるのはハードルが高いと感じる方も多いため、まずは“アイデアを考える”という入り口を設け、気軽に参加できる形式にしています。賞金も用意し、親子で楽しみながら未来について考えるきっかけになればという思いで開催しています。今年で4回目を迎えるこのコンテストでは、過去の参加者の中から実際に会社を立ち上げた親子も現れており、着実に成果が広がりつつあります。さらに、書籍『親子副業』の出版や、2024年にスタートしたかわさきFMのラジオ番組『親子ベンチャーラボ』など、イベント・出版・ラジオといった多様なメディアを通じて、親子副業の取り組みを発信しています。

親子副業の可能性を、もっと多くの家庭へ

最後に今後の展望をお聞かせください。

野田:直近の目標は、『親子副業アイデアコンテスト』を少なくとも10回までは継続開催し、より多くの親子が「親子副業」にチャレンジできる環境を広げていくことです。また、以前から取り組みたいと考えているのが、フリースクールなどの教育機関との連携です。家庭や学校だけではなかなか触れることの少ない“マネーリテラシー”や“起業マインド”を、もっと身近に、そして楽しく学べる形で提供できたらと模索しています。

また、多摩エリアには、たとえば武蔵野大学のアントレプレナーシップ学部のように、起業家教育に力を入れている大学も複数存在します。こうした地域の教育機関と連携し、親子で取り組めるビジネス教育のカリキュラムを共同開発するなど、多摩から新たなビジネスを生み出す土壌作りにもつなげていきたいですね。今後も、これらの取り組みを通じて、親子が楽しみながら“生きる力”や“経済感覚”を自然と育めるような学びの場を、積極的に創出していきたいと考えています。

会社情報

会社名 株式会社バビロニア
設立 2020年7月
本社所在地 東京都三鷹市深大寺1-7-48
ウェブサイト https://www.babylonia-inc.com/
事業内容 金融ITコンサルティング事業/教育支援事業/起業・副業支援事業