ベトナム出身のAIエキスパートが挑む、画像処理の最前線
株式会社MITECH
代表取締役社長 高 昇
本事業では、地域内外の中小企業・スタートアップや大企業、大学等が連携して、地域の課題解決を図るためのプロジェクトや、多様な主体が交流できる会員組織(コミュニティ)の立ち上げなど、イノベーション創出に向けた取組を進めています。このインタビュー連載では、多摩地域のイノベーションをリードする注目企業をご紹介することで、皆様に多摩地域の魅力を発信していきます。
株式会社MITECH(エム・アイ・テック)は、AIと最先端の画像処理技術を駆使して、製造現場が抱える課題の解決に挑むスタートアップです。代表取締役の高昇(たか・のぼる)氏は、ベトナム出身の工学博士。なぜ日本で起業することを選び、どのような思いで技術と向き合ってきたのか。株式会社MITECHの強みや事業の未来像について、お話を伺いました。
32歳のときに奨学金留学で日本へ
- 高さんはベトナムのハノイ工科大学で学ばれたとのことですが、在学中はどのような専門分野に取り組まれていたのでしょうか?
高:大学では電子工学を専攻していて、特に半導体や電子回路の設計などを学んでいました。卒業当時のベトナムは、まだ今ほど発展しておらず、研究職のような新しいことに挑戦できる環境は限られていました。本当は研究の道に進みたかったのですが、当時は選択肢が少なかったためハノイにあるIT企業に就職し、そこで9年間働きました。
- なぜ日本で学び、働くことを選ばれたのでしょうか?
高:ハノイで働いた9年の間に、ベトナムも少しずつ発展しましたが、当時はまだコア技術分野まで進んでおらず、主に海外メーカーのコンピューターやソフトウェアを販売していました。インターネットも普及しておらず、接続はダイヤルアップ方式が主流でした。もともとアメリカへの留学を考えていたため、IT企業を退職し、英語力を高めながら奨学金を探していました。当時、日本については「メイド・イン・ジャパン」くらいしか知りませんでしたが、アメリカの奨学金の結果を待っている間に、偶然新聞で日本の奨学金募集の記事を見つけて応募しました。アメリカの合格通知より先に日本の奨学金の合格連絡が届き、それが日本に来るきっかけになりました。32歳のときです。若くはなかったですね(笑)。
そのとき初めて日本語の勉強を始めて、奨学金をいただいて立命館大学に入学しました。機械学習に興味があったので、2003年からその分野の研究に取り組みました。今でいうAIですね。修士と博士課程を経て、2008年3月に博士号を取得しました。その後、滋賀県の企業に就職しました。日本がなぜここまで発展したのか、日本人はどんな価値観を持ち、どんな文化で働いているのかを知りたかったからです。日本が世界に向けて技術や製品を発信できる理由を、自分の目で確かめたかった。入社後は、外観検査装置やロボット制御ソフト、衣類の自動折りたたみ装置の開発などを担当しました。

仕事への熱意が日本のモノづくりの強さの理由
- 日本の企業で働いて、その答えは見えてきましたか?
高:はい、わかりました。数年間働くなかで、まず強く感じたのは日本人の仕事への熱意です。朝8時から夜10時まで働くこともありましたが、ただ長時間というだけでなく、その時間の中身がとても濃い。仕事中には必ずメモを取り、どんな業務も丁寧にこなしていて、常に整理整頓が行き届いていました。どんな作業にも真剣に向き合う姿勢に感銘を受けました。
それから、研究熱心なところも印象的でした。たとえば、世界で新しい技術や特許が出てくると、すぐにみんなで勉強会を開いて、「これまでの技術とどこが違うのか」「どうやって応用できるのか」といった議論をして、実際の改善に取り入れていく。そうした姿勢から、日本のものづくりの強さの一端が見えた気がしました。
- 日本で起業しようと決意された背景には、どのような思いがあったのでしょうか?
高:もともと研究を続けたいという思いがあり、滋賀県の企業を退職し、電気通信大学と東京大学で研究者としてスーパーコンピューター関連の仕事に携わっていました。大学での仕事も非常にやりがいがあり充実していたのですが、一方で、立命館大学時代から携わっていたAIや機械学習の分野で勝負したいという思いが次第に強くなり、思い切って東大を辞めて、AIと画像処理を専門とする会社を立ち上げました。それが現在の株式会社MITECHです。創業は2018年になります。
AIの専門家だからこその強み
- 改めて、御社の事業内容について教えてください。
高:私たちは、AIと画像処理の技術を活用して、製造業向けの外観検査ソフトを開発しています。工場でつくられる製品に対してカメラを使い、不良箇所がないかを自動でチェックするソフトです。たとえばキャップが外れていたり、ラベルが切れていたりといった異常を検知する。それが「外観検査」と呼ばれる工程です。
この検査作業は、これまで人の目で行われてきましたが、今は人手不足が深刻で、現場では検査員を確保するのも難しくなってきています。そうした背景もあり、AIによる自動化のニーズが非常に高まっているんです。しかも最近は、ようやく技術的にも“実用に耐える”レベルに達してきたと感じています。
以前から画像処理による自動検査という考え自体はありましたが、従来の技術では対応が難しいケースも多くありました。でもAIの登場によって、これまで機械では難しかった判断が、だんだんと可能になってきた。たとえば「人間なら見ればすぐわかるけど、従来のシステムでは見抜けない」といった微妙な違いも、AIなら認識できるようになってきたんです。これには、近年のCPUやGPUの進化、高性能化・低価格化も大きく関係しています。
私自身は大学時代からAIを専門に研究してきましたので、アルゴリズムの中身まできちんと理解しています。だからゼロからシステムを構築することもできるし、現場で「もっと精度を上げてほしい」といった要望にも柔軟に対応できるのが強みです。不具合や課題が出たときにも中身に手を入れてチューニングできる。この“中までわかっている強み”が、他のAI企業との違いだと思っています。

AIで飛躍的に進化する画像処理
- AIを使った画像処理には、従来の技術と比べてどのような優位性や革新性があるのでしょうか?
高:たとえば、普通の丸と、ちょっとだけ歪んだ丸があったとして、人間なら「なんか違うな」とパッと見てすぐにわかりますよね。でも、従来の画像処理では、そういう“なんとなくの違い”を判断するのがとても難しかったんです。どうしていたかというと、縦と横の比率とか、面積、色の濃淡といった数値的なパラメーターを人間が選んで、それをもとに判断していました。でも、形の違いが複雑になってくると、それだけでは対応しきれない。人間なら直感的に「これ違うよね」とわかることでも、プログラムでは「縦横比がこれくらい、色がこれくらい」と、一つひとつ数値化していかなきゃいけなかった。従来は、せいぜい10個とか20個くらいのパラメーターを使って判断していたんです。
でもAIは違います。10個じゃなくて、1万個、10万個、あるいは何億、何兆というパラメーターの中から「違い」を自動的に見つけてくれる。つまり、人間の目では見えないレベルの特徴を、膨大な情報の中から拾い上げて判断できるのがAIの強みなんです。簡単に言えば、「なんとなく違う」を、数字として説明できるようになってきたということですね。以前は、その膨大なパラメーターを扱うのが大変だったんですが、今はパソコンの性能も上がって、一般的な環境でも扱えるようになってきました。
- 処理できる容量がまったく違うわけですね。
高:本当に桁違いです。しかも、昔はそのパラメーターを「縦横比はどうか」「色はどうか」といった具合に、人間が頭をひねって考えていたんです。でもAIは、そういう特徴も自動で見つけてくれる。しかも10万個、100万個というレベルで。「考える」ことすらAIがやってくれるようになった。それが従来の画像処理との大きな違いですね。

半導体の表面検査から無呼吸症候群の予測アルゴリズムまで
- いろいろな製品を開発されていると思いますが、具体的にはどのような事例があるのでしょうか?
高:たとえば、半導体の表面検査ですね。加工前のウェーハの表面に、小さな凹みや異物、キズがあるかどうかを検出します。表面の微細な凸凹なども対象になります。そうした欠陥を見つけるためのアルゴリズムを開発しています。半導体の表面検査に関しては多摩地域にある半導体検査装置のメーカーとも取引があり、地域の製造業の企業様とのつながりも大切にしています。これは、弊社が地域経済の発展に貢献しながら、地元企業とともに成長していくというビジョンを持っているからです。地域の企業様を大切にすることで、密接なコミュニケーションが可能になり、より具体的で迅速なニーズへの対応が実現します。また、地域企業と連携することで、地元特有の技術やノウハウを活用し、イノベーションを加速させることができます。こうした取り組みは、地域全体の活性化にも寄与し、結果的に私たちの事業にもポジティブな循環をもたらすと考えています。
また、薬品の缶の検査も手がけていて、こちらは缶のキズや凹み、異物の付着、場合によっては虫が付着していないかなどをチェックします。スマートフォンのカバーガラスの検査もやっています。生産ラインでは2〜3秒ごとに1枚ずつカバーガラスが流れてくるのですが、その表面にキズや異物がないかをリアルタイムで自動検出するシステムです。
他には、無呼吸症候群の予測アルゴリズムですね。無呼吸は放置すると命に関わる可能性があるため、たとえば30秒前に「この患者さんは今から無呼吸になるかもしれない」と予測できれば、機械が警告を出して介入できる。そうすれば無呼吸を未然に防ぐことができる。そういった予測アルゴリズムの開発にも取り組んでいます。
ベトナムの優秀な若手人材を活用
- 現在の開発体制について教えてください。
高:現在、日本にはエンジニアが5人、ベトナムには15人のチームがいます。ベトナムのエンジニアたちは、ロジックの設計やソフトウェアの開発が得意で、非常に優秀です。一方で、日本は少子化の影響もあって、エンジニアの確保がどんどん難しくなっています。ですので、ベトナムの優秀な人材を活用しつつ、日本語を教えて、可能であれば日本での就労も目指しています。日本とベトナム、両方の国にとってプラスになるような関係を築いていきたいと思っているんです。
また、私の母校であるハノイ工科大学から、優秀な学生や卒業生が参加してくれるのも強みです。若い世代が集まりやすい環境を生かして、今後も人材育成と技術力の向上に力を入れていきたいと考えています。電気通信大学UECアライアンスセンターに入居していることもあり、今後は電気通信大学の学生さん向けにもアルバイトやインターンの募集などを出し、実際に働いてもらいながら技術を伝えていくことも考えています。

自動機メーカーに協業ニーズあり
- どのような企業との協業ニーズがあるとお考えですか?
高:まず、自動機メーカーさんですね。いわゆる、製品をライン上で運んできたり、検査位置にセットしたりするための機械をつくる会社です。そういった自動機メーカーさんとは、うまく組める可能性があると思っています。自動機メーカーは機械系の技術に強い会社が多くて、画像処理やAIに関してはあまり専門ではないことが多い。そこは私たちが補完できる部分です。
それ以外にも、データ分析やIoT関連の技術にも強みがありますので、そういった分野でも協力可能です。単体の技術だけでなく、互いの技術や製品を組み合わせて“売れる製品”として世に出していければ、ビジネスの幅も広がるはずです。今はエンドユーザーに直接届ける方法を模索していますが、企業同士で新しい製品を共同開発するという形も、今後の大きな可能性だと考えています。
技術的に価値のある案件を増やしたい
- 最後に、今後の目標をお聞かせください。
高:これからも新しい技術を積極的に取り入れながら、会社を少しずつ成長させていきたいと考えています。優秀なエンジニアたちとチームをつくって、技術の力で社会に貢献していく。もちろん、売上が伸びることも嬉しいですが、単なる数字の追求ではなく、「技術的に価値のある案件」を一つひとつ積み重ねていきたい。急激な拡大を目指すのではなく、着実に成長しながら、高度な技術が集まる場をつくり、それを世の中に還元していく。そんな未来を目指しています。
会社情報
| 会社名 | 株式会社MITECH |
|---|---|
| 設立 | 2018年8月 |
| 本社所在地 | (本社)東京都府中市小柳町3-9-28 (調布Lab)東京都調布市小島町1-1-1国立大学法人電気通信大学UECアライアンスセンター 405号室 |
| ウェブサイト | https://www.mitech.jp/ |
| 事業内容 | 画像・AIソフトウェア受託開発/光学系を含むシステム受託開発/ハンドリング・搬送を含む検査装置受託開発/FPGA開発/開発支援・コンサルティング |