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奥多摩の水とともに歩んできた歴史ある酒蔵。23代当主が行う選択と集中

小澤酒造株式会社

代表取締役社長 小澤 幹夫

インタビューにご回答いただいた小澤幹夫氏

 本事業では、地域内外の中小企業・スタートアップや大企業、大学等が連携して、地域の課題解決を図るためのプロジェクトや、多様な主体が交流できる会員組織(コミュニティ)の立ち上げなど、イノベーション創出に向けた取組を進めています。このインタビュー連載では、多摩地域のイノベーションをリードする注目企業をご紹介することで、皆様に多摩地域の魅力を発信していきます。

 銘酒『澤乃井』で知られる、奥多摩の老舗酒蔵・小澤酒造。今では当たり前となった酒蔵見学をいち早く取り入れ、さらにレストランやカフェの展開を通じて、地域観光を牽引してきた存在でもあります。今回は、23代目当主であり代表取締役社長を務める小澤幹夫氏に、事業の歩みと現在地、そして酒造りに込める思いを伺いました。

23代続く蔵元のルーツと、小澤酒造のはじまり

小澤酒造の歴史をご紹介ください。

小澤:私で23代目になります。ご先祖はもともと山梨にいて、武田信玄の家臣だったそうです。ただ、ご存知のとおり信玄公は戦に敗れ、山梨にとどまることが難しくなった。ご先祖も重臣の立場にあったため、身を隠すようにこの地へ移り住んだと伝えられています。その際、地元の小澤さんという方から名前をいただき、小澤姓を名乗るようになったそうです。そこからこの地に根を下ろし、商いを始めたと聞いています。酒造業を始めたのは七代目のとき。当主として本格的に酒づくりに取り組み、これが現在の小澤酒造の原点となりました。

清酒『澤乃井』を形づくる、奥多摩の水と土地

全国的にもファンが多い清酒『澤乃井』はどのようなお酒ですか?

小澤:日本酒は、基本的に米と水というシンプルな原料からつくられるため、酒蔵のある土地の特性に大きく左右されます。中でも、特に重要なのが「水」です。私たちの蔵があるこの地域は、渓谷に囲まれた山あいに位置しており、水資源が非常に豊かです。水はけもよく、たとえば、奥多摩わさびが育つほどの清らかな湧き水が湧き出る、そんな土地柄です。

『澤乃井』の味の根底にあるのも、やはりこの湧き水だと考えています。実際、商品にも「奥多摩湧水仕込み」と記しているとおり、この土地ならではの水で仕込むことが、澤乃井らしさをかたちづくっているのだと思います。酒質は、いわゆる辛口というほどではありませんが、中辛程度の仕上がりで、ほんのりと酸味があり、しっかりとした味わいが感じられるタイプの酒です。私自身、地酒の本質は、その土地の食文化との結びつきにあると考えています。東京の地酒として澤乃井を醸すうえで、特に重視しているのが、江戸料理との相性です。佃煮など醤油を多く使った料理といかに調和するか。そこは常に意識してきました。

ちなみに澤乃井という酒名も、もともとはこの地の旧地名「沢井村」に由来しています。漢字の「澤」も「井」も水を連想させる文字で、水に恵まれたこの地域性を象徴する名前として、非常にふさわしいものだと感じています。

先々代が切り拓いた「酒蔵見学」

先々代が酒蔵見学をいち早く導入されたと伺っています。どのような経緯で始まったのでしょうか?

小澤:もっと多くの人に小澤酒造の酒を知ってもらいたいというシンプルな思いからでした。私たちは東京にある酒蔵で、しかも駅から近いという立地条件にも恵まれていた。だったらもう、「お客さんに直接来てもらおう」と考えたんです。実際に来て、見て、体験して、澤乃井を知ってもらおうという発想でした。

ただ当時は、酒蔵は神聖な場所という感覚が強く残っていて、外部の人間が立ち入るなんてとんでもない、というのが業界の常識でした。もちろん、弊社の現場スタッフからも猛反対がありました。そんな中、当時の当主が「じゃあ俺が全部案内する。俺がやるなら文句はないだろう」と言って、自ら先頭に立って見学ツアーをスタートさせた。それがすべての始まりだったんです。

ありがたいことにこの取り組みは評判を呼び、たくさんのお客さまにお越しいただけるようになりました。ただ、見学そのものはせいぜい30分程度。せっかく足を運んでもらって「はい、終わり」では物足りないし、申し訳ないという気持ちがありました。そこで、見学に加えて楽しめるようにと、食事処、きき酒処、売店など、体験型のコンテンツを少しずつ整備していったんです。今では、年間およそ10万人もの方にご来訪いただいています。バブル期には大型バスで団体のお客さまが次々に訪れ、年間20万人近くに達した年もありましたね。

逆境の6年で進めた「選択と集中」

2019年に代表取締役社長に就任されてから、これまでどのような取り組みを進めてこられましたか?

小澤:よく「選択と集中」という言葉がありますが、この6年間は、まさにその繰り返しだったように感じています。2019年に発生した台風19号、続いて襲ってきた新型コロナウイルスの影響。そしてようやく落ち着くかと思えば、今度は原料米の供給問題。振り返ってみても、ずっと厳しい状況が続いてきました。その中で芽生えたのが「会社として持続可能な、強い体制をつくる必要がある」という危機感です。

祖父の時代はバブル景気の真っただ中で、美術館や飲食店など、観光部門を次々と拡大していく攻めの経営ができていた時代でした。でも、今はそういったすべての事業を維持していくのは現実的ではありません。そこで、「どうにもならないものは思い切って閉じる」「磨けば光るものはブラッシュアップする」という方針を掲げ、事業全体を見直してきました。この「選択と集中」を進めるうえで重要な判断基準にしたのが、この土地に根ざした“水”とのつながりです。水との関連性が見出せない事業については、迷うことなく閉じるという判断をしてきました。

こうした収益効率の改善に取り組むと同時に、商品の棚卸しも徹底的に実施。昔から造ってきたけれど売上が伸びない商品は、思い切って終売にする。その一方で、リブランディングによって伸ばせる可能性があるアイテムには積極的に投資して育ててきました。とにかく会社を未来につなぐために、必要な取捨選択を、ひたすら積み重ねてきた6年間だったと思っています。

“水”で地域をつなぐ。ラフティング会社との体験型コラボ

異業種との協業事例はありますか?

小澤:以前、地元のラフティング会社さんとコラボレーションしたことがありました。私たちは“水”をコンセプトに掲げる酒蔵ですし、ラフティングもまさに“水”を体感するアクティビティ。そこで、水を共通テーマに、地域の魅力を五感で体験できるイベントを企画したんです。

具体的には、多摩川でラフティングを楽しみながら、地域や川の自然環境について学び、そのあと酒蔵を見学。そして最後に、地元の湧き水で仕込んだ日本酒を味わっていただく。そんな、自然・地域・水を全身で感じられる体験型のプログラムでした。

おかげさまで大変好評をいただいたのですが、準備や運営には相応の時間とエネルギーも必要で(笑)、現在は一時的にお休みしています。ただ、ラフティング会社の社長とは「またタイミングが合えばやろう」と話しているところです。

西多摩×立川で広域観光へ。強みを補完し合う連携づくり

現在進行形の取り組みはありますか?

小澤:現在は、立川市との連携強化に力を入れています。私たちの酒蔵を含む西多摩エリアには、ラフティングやキャンプ、バーベキュー、サイクリング、登山など、自然を活かした観光資源が豊富にあります。一方、立川は交通の便がよく、宿泊施設などのインフラも整っていてアクセス面では非常に便利ですが、観光コンテンツ自体はやや弱いという課題があります。

だからこそ、両エリアが手を取り合い、それぞれの強みを補完し合う形で連携を進めているところです。たとえば、立川に泊まってもらい、翌日はあきる野や五日市といった西多摩の自然に触れに行ってもらう。そんな流れをつくることで、西多摩の魅力をより多くの人に届けられるのではないかと考えています。

現在は私たち観光事業者だけでなく、商工会議所や行政も巻き込みながら、地域全体での広域観光の仕組みづくりに取り組んでいるところです。

小澤酒造の魅力は?

改めて、小澤酒造の一番の魅力とは?

小澤:一番の魅力……難しいですね。というのも、私にとってはあまりにも日常の風景すぎて、これまであまり意識したことがなかったんです。でも、改めて考えてみると、やはり歴史ある建物と奥多摩の自然に囲まれたこの空間そのものが、小澤酒造の最大の魅力なのではないかと思います。ここで生まれ育ち、この土地で仕込んだ酒を、同じ空気の中で味わう。自分にとってはごく当たり前の風景なんですが、よくよく考えれば、それってとても贅沢なことなんですよね。

ワインの世界で「テロワール」という概念がありますが、それに近い感覚かもしれません。たとえば、フランスでブドウ畑を眺めながら、その土地で育てられたワインを飲む。そんな体験と同じように、ここでも、地元の水と空気、風景に包まれながら、この土地で育まれた酒を味わうことができる。そんな「土地と酒の一体感」を全身で感じられる場所が、ここにはある。酒そのものの味わいだけでなく、その背景にある空気や風土ごと楽しんでいただけること、それが、小澤酒造ならではの魅力だと思います。

海外展開の現在地。特別な酒から日常に寄り添う酒へ

ちなみに、海外展開についてはいかがですか?

小澤:はい、取り組んでいます。実は海外展開は、私が蔵に戻ってきてから本格的にスタートした取り組みで、それまではほとんど手をつけていなかった分野なんです。

戻ってからは、まず自分自身で海外に足を運び、現地での販路開拓から始めました。手探りではありましたが、おかげさまで少しずつ成果が見えはじめ、取り扱っていただける国も徐々に増えてきています。これからも、地道に、そして着実に展開を広げていくつもりです。取り扱い国の拡大、出荷量の増加、そして何よりも、「澤乃井」という名前をより多くの方に知っていただき、実際に飲んで味わってもらうこと。それはすでに取り組んでいるテーマでもありますし、今後も長く続けていくべき大切な課題だと捉えています。

海外市場については、日本酒が広まりつつあるというニュースもよく聞きますが、実際に現地での肌感覚としてはいかがですか?

小澤:正直に言うと、まだまだこれからだなという印象です。私自身、年に何度か海外に足を運んでいますが、現地での日本酒の評価は非常に高く、人気があるのも事実です。ただ、実際にどこで飲まれているのかというと、たとえばアメリカでは、ニューヨークのマンハッタンやロサンゼルス、シカゴといった大都市の、高級レストランや高級スーパーに限られているのが現状です。

つまり、一般の家庭で気軽に楽しまれるような日常のお酒としては、まだ浸透していないんですね。アメリカは世界の中では比較的日本酒の受け入れが進んでいる国ではありますが、それでもこのレベル。そう考えると、他の国ではまだこれからという印象が強いです。ただ、その分、まだまだ伸びしろがあるとも感じています。いかに特別な酒ではなく、日常に寄り添う酒として届けられるか。それが、これからの挑戦だと思っています。

会社情報

会社名 小澤酒造株式会社
設立 元禄15年/1702年
本社所在地 東京都青梅市沢井2-770
ウェブサイト https://www.sawanoi-sake.com/
事業内容 清酒製造業、飲食業等