本事業では、地域内外の中小企業・スタートアップや大企業、大学等が連携して、地域の課題解決を図るためのプロジェクトや、多様な主体が交流できる会員組織(コミュニティ)の立ち上げなど、イノベーション創出に向けた取組を進めています。
このインタビュー連載では、多摩地域のイノベーションをリードする注目企業をご紹介することで、皆様に多摩地域の魅力を発信していきます。
金属を削る工作機械は、刃先の始動位置を設定する「位置決め」が重要です。株式会社メトロールは、精密な位置決めを実現する高精度センサーを生産しています。技術に対する評価は高く、取引のある国は70カ国を超えています。その背景には、社内の柔軟なチームワーク・開発体制が活かされているようです。松橋卓司代表取締役社長に、社内の一体感を高める秘訣などについて聞きました。
創業時からの理念は「他社のモノマネをしない」
- メトロールの設立経緯を教えてください
-
松橋:大手精密機械メーカーで胃カメラの開発に携わっていた父が、46年前に創業しました。父が会社員時代、開発のサポート体制が決して十分ではなかった点を踏まえ、「技術者が自由にお金を使って、失敗も許容され、世の中にない製品を開発できる会社にしたい」という信念に基づき設立したそうです。
また、創業当時からベンチャー企業のように、時代を先取りする開発に果敢に挑戦する精神を大事にしています。「他社のモノマネをしない」といった理念も、その一つです。
正確な位置決めを行う高精度センサーを生産
- 主力製品は何でしょう
-
松橋:
金属を削る工作機械は刃先の始動位置を設定する「位置決め」が重要で、1000分の1~1万分の1㍉単位で正確に測定し設定する必要があります。当社では、この位置決めを自動で行う高精度センサーを生産しています。
工作機械には「刃こぼれ」が付き物で、稼働していくうちに狂いが生じます。一昔前までは現場の職人が刃こぼれによる影響を体感覚で対応して始動位置を設定していました。しかし、職人の高齢化等により、生産ラインの自動化が進んでいます。このため、自動で正確に位置決めを行うことができる私たちの技術に対するニーズが高まっています。工作機械に加え医療用機器や半導体製造装置、産業用ロボットのメーカーに加え、機械のユーザーも主な顧客です。メーカー単位では200社以上との取引があります。
食品業界から、精密工学へ転身
- 松橋社長は食品業界で働いていたと伺っています
-
松橋:「サラリーマンは性に合わないだろうなあ」と思い、大学時代は漁師を目指しており、ムツゴロウさんこと畑正憲さんもお世話になった北海道の漁師に弟子入りしたこともあります。大学卒業後は日清食品に10年間勤務。営業成績が良かったこともあり、会社には目をかけてもらいました。その後、経営不振だった豆腐会社に転じ、ニガリを使った本物の豆腐を開発。ヒット商品となり会社再建を果たしました。その時が40歳。父が後継ぎを探していたので、現在の会社に入社しました。柔らかい世界から精密工学という硬い世界への転身です。
日本企業で初めて、海外企業間取引でのクレジットカードによる国際決済を導入
- メトロールに入社して、どういった印象を抱きましたか
-
松橋:食品業界に身を置いて学んだことがあります。「これで有名になってやろう」といった邪な気持ちで開発した商品は、どれだけ宣伝しても寿命が短いということです。一方、開発者の強い思い入れを純粋に反映させた商品の方がロングセラーになります。メトロールの製品を初めて見た瞬間、「売れるだろうな」という予感が働きました。ただ、売るためには、技術に頼るだけではなく販売方法にも工夫を凝らしました。インターネットの時代が到来したので世界に直接情報を発信。海外企業間の取引としては日本企業で初めて、クレジットカードによる国際電子決済を導入しました。こうした戦略が奏功し、南アフリカやブラジルの奥地をはじめ、取引のある国は70カ国を超えています。
80歳のエンジニアと新卒2年目の技術者が共同開発した製品が、東京都ベンチャー技術大賞に
- 従業員構成を教えてください
-
松橋:
正社員とパートを併せて120人で、地元の主婦を中心に3分の2が女性です。若返りも進み正社員の平均年齢は34歳です。大企業の早期退職者を中心としたシニアの雇用にも積極的で、現在は7人が働いています。80歳のエンジニアと新卒2年目の技術者が共同で開発した製品が、東京都ベンチャー技術大賞を受賞 したことがあります。全く異なるキャリアの人間が、ノルマや命令ではなく対話に基づき取り組むような風通しの良いところが、当社の社風です。
3カ月に1回の社内交流
- 社内の一体感を醸成するため、どういったことに取り組んでいますか
-
松橋:社内に女性が多いこともあって、私自身、常日頃から従業員との対話を重視し、お互いの信頼感を高めるようにしています。また、新型コロナウイルス感染症の拡大で難しくなっていますが、新入社員の歓迎や提案制度の発表会など、社内行事に合わせ3カ月に1回の割合でパーティーを開催しています。寿司をつまんだりビールを飲んだり。就業時間内に行います。親睦を深めるのが目的で、説教くさいことは言いません。日帰り旅行も全額会社負担で実施します。これも出勤扱い。一流ホテルで食事をして劇団四季の舞台などに触れ、プロの技に触れます。
独自の技術を保有する中小企業がたくさん存在し、連携しやすい環境が整備
- 事業を展開する上で、立川をはじめとした多摩地域の魅力は
-
松橋:立川にはかつて、軍用の飛行場や日産自動車の村山工場が存在したこともあって、ものづくりの集積地といった様相を呈していることです。メッキ加工や熱処理加工などの製造インフラを支え、独自の技術・製品を保有する中小企業がたくさん存在し、連携しやすい環境が整備されています。だからと言って、部品をすべて周辺企業から調達しているわけではありませんが、周辺企業との付き合いによって「品質の良い部材は日本製に限る」といった考えが醸成されています。部品の国内調達率は95%を超えています。
自然豊かな多摩で有機栽培による米作りに熱中
- 多摩ならではの休日の楽しみ方はありますか
-
松橋:甲州街道沿いの谷保天満宮(国立市)の裏にある田んぼで、NPO法人の「くにたち農園の会」が有機栽培による米作りを行っています。農園の会の関係者と仲良くなり、私も4年ほど前から参加しています。苗床を作って田植えを行い収穫し、餅をついてしめ縄を作ります。春から秋にかけては忙しい休日を過ごしています。
会社情報
会社名 | 株式会社メトロール |
---|---|
設立 | 1976年6月 |
本社所在地 | 〒190-0011 東京都立川市高松町1-100 立飛リアルエステート 25号棟 5階 |
ウェブサイト | https://www.metrol.co.jp/ |
事業内容 | 生産設備の自動化、無人化ソリューションの提供を「位置決めタッチスイッチ」の製造販売を通じて行う。先端の測定子(コンタクト)で検知物に触れることでON/OFFの信号を出力するアンプを使用しない接触式の高精度センサー。主にワーク・治具・XYテーブルなどの位置決めに使用されています。 汎用性が高く幅広い業界の設備やロボットに搭載され、水やクーラントが飛散する悪環境下でも高精度な位置決めを実現し、コストダウン、生産性向上、不良改善に貢献する。 |