「多摩地域の課題を解決するためには、どのような価値を顧客に提供すれば良いのだろう」「協業することでどのような解決策を提案できるだろうか」
このようなお悩みを解決するため、令和5年6月と7月の2回(前編・後編)に分けて、多摩地域の課題解決に向けたビジネスアイデアについて考えるワークショップを開催しました。
後編となる今回は、前編で議論した関心テーマ(環境・エネルギー、子ども・教育、物流・モビリティ、健康・医療)ごとにグループに分かれ、課題の振り返りと、課題解決に向けたソリューションの検討や、他社との協業に向けたポイント等、協業スキームの検討をメインとしたディスカッションを行いました。
この報告では、当日のイベントの様子や参加者からのご意見を紹介します。
【イントロダクション】
―グループワークの流れ―
今回のグループワークは、以下のとおりテーマごとに実施しました。議論のベースとなるフレームワークにはリーンキャンバスを用いました。
まず、ディスカッションの起点となる課題・提供価値の目線を合わせるための事前情報として、業界全体として抱える課題や最新のトレンド、コアとなる取組について、深堀りしました。特に前編でディスカッションした内容の振り返りと、そこで挙がった課題を掘り下げた説明を行いました。
次に、ディスカッションの対象とする課題および、その課題を持つ顧客への提供価値に関して目線合わせをしました。また、前編でのディスカッションを踏まえて、課題・価値提供の素案を事務局側から提供し、今回のディスカッションの方向性を決定しました。
そして、設定した課題および提供価値をベースに、参加者の皆様や、皆様が知る事業者が持つソリューションを取り上げ、解決策について検討しました。
最後に、以上の議論を踏まえて、より具体的にビジネスとして成り立つアイディアを整理していきました。
【各テーマのディスカッションの様子】
―健康・医療―
<テーマ概観・課題の説明>
「健康・医療」においては、「予防医療制度の不足」「医療体制のひっ迫」「高齢化の加速・社会保障費の財政圧迫」が国全体としての主要課題とされています。
今回は特に前回のWSで議題の中心となった「医師不足・過労働」「介護人材不足」「不健康寿命の延伸」についての課題が挙げられました。特に、特定の医療機関に患者が集中していることや民間事業者との連携・役割分担できていない点について具体例が示されました。また、介護現場の人材不足による負担増大は全国と同様に今後多摩地域でも問題となることが予想されており、身体的介護だけでなく精神的介護や介護状況下における他疾患への対応などの多くの課題が提示されました。
また、最新のトレンドとして医療体制のひっ迫に対応するために「キュアサービス」を提供する民間事業者が増加していること、介護職における機械化(マッスルスーツの導入)、監視体制の強化、AIの導入の事例などが紹介されました。
<ディスカッションの様子>
2つのグループに分かれてディスカッションを行いました。
グループA:医療機関を中心としたグループ
前編でのディスカッションを踏まえ、「医療機関のキャパシティひっ迫」を主要テーマとして設定しました。サブテーマとして「健康管理に関する意識の低さ」(≒大病となってからの受診)と「自発的に医療機関を受診しない層に対する受診促進機会や仕組みの少なさ」(≒医療機関と関連事業者の連携が不足することによる医療機関のひっ迫)を課題に設定し、それらに対する提供価値と解決可能性の検討を行いました。健康意識の増進と簡易検査の促進を行うことのできるビジネスアイデア等について議論が活発に行われました
グループB:福祉、介護を中心としたグループ
前編でのディスカッションを踏まえ、「介護現場の人材不足・負担増大」を主要テーマとして設定しました。サブテーマとして「多摩地域の集合住宅居住者の高齢化」「介護施設におけるプライバシーに配慮した見守りカメラの導入」を課題に設定し、それらに対する提供価値と解決可能性の検討を行いました。集合住宅居住者の介護負担を低減するサービスや、プライバシーに配慮した介護や見守りに関するビジネスアイデア等について議論が活発に行われました。
―物流・モビリティ―
<テーマ概観・課題の説明>
「物流・モビリティ」における主要課題として挙げられるのは「ドライバー不足」「労働環境の改善並びに2024年問題への対応」「公共交通機関の赤字」「安全性の確保」の4つとなります。特に物流業界が2024年に直面するとされる売上・利益減少/賃金低下の問題は喫緊にせまっており、業界横断での交通網の整備や法整備を通じた問題解決が急がれています。
今回は特に前回のWSで議題の中心となった「遠隔地・過疎地における交通・物流手段の不足」についての課題が挙げられました。物流・交通手段が不足している原因は大きく「交通・物流事業者の慢性的な赤字」「都市圏故の交通・物流に対する危機意識の不足」が挙げられます。これらに対応していくために物流に関わる物流・交通事業者だけでなく、自治体やITシステム導入企業と協力しての物流全体の改善が求められます。
具体的な課題解決事例としてはAIを用いたデマンド交通やAIを用いた配送ルートの最適化が紹介されました。いずれのソリューションもAIを用いて人流・物流の最適化を行うことにより少ないリソースで最大限の効率を求めることにより交通・物流手段の不足を解消しつつ、最新のサービス・ソリューションを地域に導入することで、地域全体で物流・交通に対する危機意識・改善意識の機運醸成も狙った取り組みであると言えます。
<ディスカッションの様子>
前編のディスカッションに引き続き「遠隔地・過疎地における交通・物流手段の不足」をサブテーマとして設定しました。特に、物流人材が不足しており、配達依頼のある荷物の総量に対して、圧倒的に荷物の届け手が足りていないことを課題として設定し、それらに対する提供価値と解決可能性の検討を行っていきました。具体的には物流人材を増やしてラストワンマイルの運送に役立てることのできるビジネスアイデア等について、多様な人材活用の視点や安全面や法規制の視点から検討されました。
―子ども・教育―
<テーマ概観・課題の説明>
「子ども・教育」における主要課題として「保育の効率性と質の向上」が大きな課題となっていて、前回の議論を踏まえて、特に「非効率な園の運営の改善」についての課題が挙げられました。これはオーナー型/公立保育園や幼稚園が多く、新しい技術を取り入れるのに時間がかかるという多摩地域の特性にも起因しています。非効率な園の運営は保育士の業務負担増加にも繋がり、保育士の離職の原因の一つとなっています。また、ITリテラシーの不足、固定観念、予算の不足等の複合要因により旧来の業務が改善されないケースが散見されています。保育士の業務負荷が高いことは、本来の業務である「乳幼児に対する保育・教育サービスの提供」に多くの時間を割くことができなくなり、保育業界全体が提供する価値サービスの低下にも繋がります。
こうした課題に対し、園の主要サービスである「乳幼児に対する保育・教育」以外の業務をデジタル化することにより園全体の生産性の向上化を図っていくことが重要となります。
<ディスカッションの様子>
前編のディスカッションに引き続き「非効率な保育園/幼稚園の運営」をサブテーマとして設定しました。特に、保護者とのコミュニケーションに時間と労力がかかる点や保育現場の業務負担が高いことのほか、園運営・運営を紙で行っていて管理・整理が難しいこと、教材やイベントを手作りで行っていて負担となっている点などを課題に設定し、それらに対する提供価値と解決策の検討を行っていきました。具体的には、DX化による主業務以外の業務軽減により、保育士が主業務である育児・幼児教育に注力できる環境構築や、園全体の業務改革を行うためのビジネスアイデア等について、DX化が進まない背景、理由についての視点も含めて議論が展開されました。
―環境・エネルギー―
<テーマ概観・課題の説明>
テーマが幅広く、様々な切り口の課題やテーマがある「環境・エネルギー」の分野に関しては、前回の議論を踏まえて、サブテーマとして「サーキュラーエコノミー」と「森林保全」を設定しました。
サーキュラーエコノミーについては、再生材の活用、部品リユースの普及促進や利用型ビジネスモデルの普及促進、さらにそれらを評価する仕組みや関係ステークホルダーとの関係構築も必要になります。再生資源、再生可能資源由来の原材料の使用、使用済タイヤの有効利用を含む包括的な取り組みを加速させ、サーキュラーエコノミーの実現に貢献している事例として、大手タイヤメーカーの取組が紹介されました。
森林保全については、「林業者」「木材加工流通業」「利用者・建設業・消費者」の三位一体での取り組みが必要であるため、各プレイヤーを巻き込んだプロジェクト推進が求められています。林業事業者は造林保育、素材生産を行い、木材加工・流通業者は輸送、製材・合板・集成材工場での生産を行います。最終的な利用者・建設業・消費者が住宅・一般建築物、各種木造建築や木質バイオマス・バイオ炭での利用を行います。これらのステークホルダーが協力して森林経営、DX化による省力化、バイオマスの活用促進やカーボンクレジットの利用を行っていく必要がある点が紹介されました。
<ディスカッションの様子>
2つのグループに分かれてディスカッションが行われました。
グループA:森林保全を中心としたグループ
グループAでは森林保全をサブテーマとして設定し、ディスカッションを行いました。具体的には、森林保全活動に関わる事業者の経営難と国産木材の減少を課題に設定し、それらに対する提供価値と解決可能性の検討を行っていきました。ライフサイクルの中に木材と接する機会を作り、自然環境教育や、木材の適正な消費行動に繋げることで森林保全に寄与し、木材の魅力を活かした観光業等に広げていくビジネスアイデア等が議論されました。
グループB:サーキュラーエコノミーを中心としたグループ
グループBではサーキュラーエコノミーの形成がサブテーマとして設定してディスカッションを行いました。具体的には、多摩地域に豊富に存在する自然エネルギーの未利用や無駄になっているエネルギーが存在しているが、シェアリングなどによる有効活用のビジネスや仕組みが不足していることを課題に設定し、それらに対する提供価値と解決可能性の検討を行っていきました。各種自然エネルギーのリユースマーケットプラットフォーム、利用者の行動変容を促すポイントシステムといったビジネスアイデア等が議論されました。
【交流会】
自由参加の交流会では、さらに深い情報交換やディスカッション、名刺交換などが行われました。
協業や次回のワークショップへ向けた提案に関する議論など活発な交流が行われました。
【参加者の声】
ご参加いただいた方の声を一部ご紹介致します。今回は会場の中で上がった質疑応答を中心にご紹介します。
「毎回のWSで刺激があり、多摩地区内での横のつながりができて、ビジネスにとても役立つ。特に同じ事業分野でも違ったビジネスモデルを展開されている企業との交流は勉強になる。」(中小企業)
「以前のWSよりアウトプットにフォーカスした内容となっていた。課題ホルダーの方も多く参加しており、直面している課題の詳細を聞くことができた。」(大企業)
「行政、民間など様々な立場の方がきており、法規制や協業における注意点等も踏まえた具体的な議論ができた。」(スタートアップ)
多くの方に満足いただけるイベントとなりました。
今後もコミュニティ会員向けにイベントを開催していきますので、
ご関心のある方は是非ご入会ください!
コミュニティの入会概要と申し込みページ
https://tama-innovation-ecosystem.jp/community/
コミュニティで今後予定しているイベント
https://tama-innovation-ecosystem.jp/event/