紙加工×デザインで、多摩の若い芸術家・クリエイターの可能性を引き出す | 多摩イノベーションエコシステム促進事業
紙加工×デザインで、多摩の若い芸術家・クリエイターの可能性を引き出す

紙加工×デザインで、多摩の若い芸術家・クリエイターの可能性を引き出す

福永紙工株式会社 代表取締役 山田明良

 本事業では、地域内外の中小企業・スタートアップや大企業、大学等が連携して、地域の課題解決を図るためのプロジェクトや、多様な主体が交流できる会員組織(コミュニティ)の立ち上げなど、イノベーション創出に向けた取組を進めています。このインタビュー連載では、多摩地域のイノベーションをリードする注目企業をご紹介することで、皆様に多摩地域の魅力を発信していきます。

                                           

 昭和記念公園に隣接した大型複合施設「GREEN SPRINGS」(立川市)にあるショップ「SUPER PAPER MARKET」では、国内外のクリエイティブな企業、作家の紙製品を取り扱っています。企画運営しているのは立川に本社を構える創業60年の福永紙工で、国内だけでなく海外にも向けて紙のデザインプロダクトの企画・製造・販売をしています。山田明良社長は「アートやデザインが若い世代から広がっていく環境を、多摩で作りたい」と意欲を示しています。

インタビューにお答え頂いた山田明良社長

バブルの崩壊を契機に、アパレル業界から転身

福永紙工に入社する前はアパレル業界で働いていたそうですね

山田:学生時代からファッションやロックが好きでした。その流れでアパレル商社に入社しました。主に取り扱っていたのは、欧州の新進気鋭のデザイナーが手掛ける洋服です。芸能人の顧客も多く、入社時は5人の会社でしたが、バブル経済が追い風になって3年で100人の会社に成長しました。しかしバブル崩壊とともに経営不振に陥ったのをきっかけに、妻の実家である福永紙工に転職しました。

異業種からの転職となりましたが、どういった印象を受けましたか

山田:当社は印刷から加工まで一貫して行え、特殊印刷や厚紙印刷、折り加工といった領域で高度な技術を備えて。会社が成長する高いポテンシャルを持っており、「デザインの要素を組み入れたらもっとよくなるのでは」といった思いが次第に膨らんできました。

デザイナーと、「かみの工作所」プロジェクトを発足

何がきっかけで、デザイン性に特化した紙製品の企画・販売を始めたのですか

山田:萩原修(しゅう)さんというデザインディレクターと知り合いになったことです。萩原さんは地元が国分寺で、多摩地域で活動するデザイナーと地域を結ぶ活動を行っていました。グラフィックや空間関連のデザイナーを萩原さんに紹介頂いて、当社にお招きし、紙の可能性を追求する「かみの工作所」プロジェクトを2006年に始動しました。このプロジェクトでデザイン性に優れた立体的な紙製品を開発できましたが、当社の既存顧客は反応があまりよくなくて。一方で、萩原さんと親しいデザイナーやメディア関係者の反応は良く、新たな顧客に売り出した結果、美術館のアートショップなど新たなルートを開拓することに成功しました。

必需品ではないが、心を癒す商品を開発

代表的な作品を挙げてください

山田:一つが、トラフ建築設計事務所と共同で開発した「空気の器」です。細かい切り込みの入った平面の丸い紙の真ん中を押さえながら周りを引っ張れば、花瓶の形のほか、小物を入れるトレーやワインの包装など、自由に形を変えられます。文具や食器等どれに類するのか、カテゴライズが明確にされづらい商品ではあるのですが、「何に使うのか分からないけど美しい」といった声に支えられて、10年以上売れ続けています。不思議な現象ですね。必需品ではないけれど、心を癒すためにも必要。僕らの製品は基本的に、そんな世界に属しています。だから競争原理が働かず、希望する価格で販売できるのです。
 もう一つが、建築模型用添景セットである「TERADAMOKEI(テラダモケイ)」です。建築模型用添景セットとは、あらかじめカットされたパーツを切り離し、組み立てて作る100分の1スケールの建築模型です。実にニッチな領域ではありますが確実にファンがついてきてくれて、10年以上販売し続けております。これは建築家/デザイナーである寺田尚樹さんと弊社が設立した紙模型のブランドになります。

「空気の器」を手にする山田社長
TERADA MOKEI 1/100建築模型用添景セット」シリーズ No.11 お花見編

デザイン・アート的な感性に基づく分析・直感力が大事

デザイン経営への注目度が高まっています

山田:新型コロナウイルスの世界的流行や、ロシアによるウクライナ侵攻などによって、半年先さえどうなっているのかが分からない時代に突入しました。ここで経営者に求められるのは、センスある反射神経です。数値やサイエンス的なものではなく、デザイン・アート的な感性に基づく分析力・直感力が、大企業だけではなく中小企業でも必要になってきています。抽象的かもしれませんが、「倫理的なものを含めて美しいと感じられない仕事には手を出さない」「儲かる仕事かもしれないが、環境に悪影響を与えそうなのでやめておこう」など、判断基準を持つことが重要です。

美しくて環境負荷が少ないものが求められていくだろう

どういったデザインに対するニーズが高まっていくと予測されていますか

山田:すごくシンプルだけど、美しくて環境負荷が少ないものに対する志向性が強まっていくと思います。この流れを踏まえて開発したのが「UNBOX(アンボックス)」。1枚の厚紙から、折り筋の位置によってサイズが異なる箱を作ることができます。例えば3枚のお皿が入っていた箱の中から2枚を取り出した場合、残り1枚に適した大きさに変えることが可能です。省スペース・省資源化につながり、スタイリッシュなデザインが評価され、2022年度のグッドデザイン賞を受賞しました。

UNBOXがグッドデザイン賞受賞 クリエイティブディレクション担当と撮影

若い芸術家やクリエイターの可能性を引き出したい

多摩の魅力はどんなところにありますか

山田:美大の数が多く、美大生の密度が高いところです。それだけに若い芸術家やクリエイターの可能性を、この地域でもっと引き出すことができないのかと思っています。私は武蔵野美術大学など美大で非常勤講師を務めていますが、美大生は一般的に破天荒なイメージがあるでしょ。でも、実際はびっくりするほど真面目。もっと破天荒にやった方が格好いい。絶対に。そのためには、もっと生き生きして自由な活動のできる環境づくりが必要です。幸いにも多摩地域は自然にも恵まれており、あらゆる点でポテンシャルは大です。

どういった環境づくりが必要ですか

山田:もっと多くの活躍できる場所を整備することです。例えば美術館。多摩地域は質・量ともにまだまだ不足しています。日本のアーティストは実力があったとしても、活動に必要なお金が不足していたり、評価が正当に認められなかったり、性格がおとなしかったりすると、芽を摘み取られてしまいます。このため海外に行ってしまう人が多く、結果として日本のアートマーケットは、世界の基準と比べるととても小さいです。発表できる場を増やすことで、アートやデザインが若い世代から広がっていく。そんな環境を作っていきたいですね。

会社情報

会社名 福永紙工株式会社
設立 1963年1月
本社所在地 東京都立川市錦町6-10-4
ウェブサイト https://www.fukunaga-print.co.jp/
事業内容 1. 主に紙製品、パッケージ等に係るデザイン、構造設計、DTP、印刷、打抜き加工、貼り加工、箔押/エンボス加工、レーザーカット加工などの設備と技術を用いての一貫製造 2. 自社オリジナル紙製品(かみの工作所、空気の器、テラダモケイなど)の開発、デザイン、製造、販売 3. クリエイティブに特化した紙にまつわる製品開発、企画立案、デザイン、設計、製造、ブランディング 4. 立川GREEN SPRINGS街区内TAKEOFF-SITEの企画および店舗運営

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