子供を育てるお母さんの「働きたい」を手助けする | 多摩イノベーションエコシステム促進事業
子供を育てるお母さんの「働きたい」を手助けする

子供を育てるお母さんの「働きたい」を手助けする

株式会社キャリア・マム 代表取締役 堤 香苗

 本事業では、地域内外の中小企業・スタートアップや大企業、大学等が連携して、地域の課題解決を図るためのプロジェクトや、多様な主体が交流できる会員組織(コミュニティ)の立ち上げなど、イノベーション創出に向けた取組を進めています。このインタビュー連載では、多摩地域のイノベーションをリードする注目企業をご紹介することで、皆様に多摩地域の魅力を発信していきます。

 株式会社キャリア・マムは、キャリア支援をはじめとした、子育てをしながら働く女性の支援につながる様々な事業を展開しています。子育て時に女性が経験する課題や思いに共感し、「ライフステージが変化してもまた働きたい」という会員が全国10万人以上登録しており、在宅ワークについてはコロナ禍より前から既に取り組んでいました。子育て中に起業し、働く女性の支援に尽力している代表取締役の堤香苗氏に話を聞きました。

インタビューを受けていただいた堤香苗代表取締役

働くことを通じて、自分らしく生きる女性を支える

御社の経営理念を教えてください。

堤:私たちは「女性のキャリアと社会をつなぐ ~自分らしく生きる楽しさを多様な働き方でかなえる~」という経営理念を掲げています。最近は「働き方改革」など、働き方に関する議論が注目を集めていますが、本来は生きる楽しさの中に「働く」「学ぶ」「集う」といった要素があるのではないかと考えています。私たちはその中の「働く」ことを通じて、生きる楽しさを支えるサービスを提供していくことを目指しています。

1,500人もの育児サークルが母体となる

株式会社キャリア・マムの始まりは、ご自身が立ち上げた育児サークルだと聞いています。

堤:そうなんです。子育てに追われるお母さんが、自分らしさや生きている実感を持ってもらいたいという思いで、私が子育て中の1995年に、「PAO」という育児サークルを立ち上げました。主な活動内容は、会報誌の発行や親子で楽しめるイベントの企画・運営などです。なかでも印象に残っているのが、障害の有無にかかわらず子供たちとお母さん方がみんなで一緒に楽しもうという趣旨で、多摩地域で開催したイベントです。まだインターネットが発達していない時代に、口コミで千葉や神奈川など遠方から500組以上の親子が集まってくれたのです。「PAO」の評判が高まるとともに、私を含めた、地域のママ友達数人で立ち上げたところから、会員数は約1,500人にまで膨れ上がりました。

その後、株式会社キャリア・マムの設立に至るまでにどのような流れがあったのでしょうか。

堤:多くのママたちと交流する中で、「子育てをしながらでも自分らしく働きたい」という声が頻繁に聞こえてきました。この彼女たちの切実な願いを実現するため、1,500人のママネットワークを活用した事業はできないものかと、営業活動に奔走しました。その結果、広告代理店からのオファーがあり、西武グループが新しく作る商業施設のネーミングに主婦目線でアプローチする業務を引き受けることになりました。そこでまとめたレポートが高い評価を受け、自信を深めました。その後、別会社の一事業部を経て、株式会社キャリア・マムを設立し、現在に至っています。

全国の会員を生かした4つの事業が経営の柱

御社の事業概要を教えてください。

堤:①キャリア支援事業、②アウトソーシング事業、③コンテンツ事業、④おしごとカフェやコワーキングスペースの運営で、これら4つの事業を柱としています。キャリア支援事業は官公庁から受託する形で、各自治体や地域に要望に応じたトレーニングプログラムを提案しています。プログラム内容は時代のニーズと共に変化していますが、主に自宅での作業が可能なスキルの提供として、最近ではWEBサイト制作やWEBライティング、画像・動画編集といった内容でご提供しています。2023年に実施している、埼玉県女性キャリアセンター(埼玉県)の事業では、Zoomと対面会場での、ハイブリッド形式でのプログラム提供を行っています。アウトソーシング事業は民間から事業の一部を請け負い、全国の在宅ワーカーで編成したチームが制作から納品までを行います。コンテンツ事業は、自社のメディア制作ノウハウを活用して、ホームページや動画、冊子など、主にプロモーションなどに関連するコンテンツを制作しています。おしごとカフェやコワーキングスペースの運営では、子育てをしているお母さんがパソコン持参で仕事ができる場所を提供しています。

将来を見据えて、場作りから始める

先ほど、コワーキングCoCoプレイス(ココリア多摩センター内)を拝見しましたが、保育室が併設されているんですね。

堤:コワーキングCoCoプレイスは、保育士が常駐している保育室を併設し、子どもを見守りながら仕事をするという新しい働き方を提案しています。子育てや家事を自宅でするママに適した在宅ワークの業務を中心に据えつつも、なぜこうした事業を展開しているかというと、およそ25年も会社を経営していると、なんとなくコミュニティの大切さがわかってくるんです。将来的にはキャリア支援や創業支援、地域活性化やコミュニティづくりがますます重要になると見据え、そのためにまずは場作りが必要だと考えました。コワーキングCoCoプレイスやおしごとカフェの運営を行っているのはそうした理由からです。最初は子供を預けて利用されるのは女性が中心だろうと考えていましたが、実際には60歳で定年を迎え、新しい第二の人生を築きたいと願うシニアの方々にも多く利用していただいているのは、面白い発見でした。「東京都認定インキュベーション施設(東京都)」や、「多摩市認定ビジネス支援施設(多摩市)」にも認定されており、幅広い方に利用いただきたいです。

コワーキングCoCoプレイス
コワーキングCoCoプレイスに併設された保育室

業務委託の方々を信頼し、重要な仕事もお任せする

在宅ワーカーとの連携について、御社の特徴を教えてください。

堤:一般的に、在宅ワーカーなど業務委託の方と連携している多くの企業では、マネージャーや難しい仕事は社員が担当しますが、当社では「業務委託の方にも正社員の方と同じ業務を任せられる」という考え方を持っており、マネージング業務なども在宅ワーカーの方にお願いしています。上下関係ではなく、お互いが同じ目線で、きっちりとコミュニケーションをとりながら進めていこうというスタンスを取っています。それまで信頼されなかった人が信頼を受けるようになると、働き方や成果に良い変化が生まれるものです。皆さんが素晴らしい成果を上げてくれているので、これからもこの方針で取り組んでいくつもりです。

 また、私たちの抱える在宅ワーカーの方々の中には、非常に高いスキルを持つメンバーもいますが、基本的には小規模な仕事を協力して行い、「一人前は難しいけれども、十分の一人前を10人で集めていこうね」というアプローチが基本です。スピードよりも、丁寧で誠実な仕事を大切にしています。

多摩地域だからこそ事業を成長させられた理由とは

御社と多摩地域との関わりは?

堤:キャリア・マムという会社は多摩地域だからこそ成長できたと思っています。多摩地域には主要な電子機器メーカーの研究所や工場が数多くあり、職場で結婚し、退職した女性が多く暮らしています。特に、コンピューター関連の知識や高度なパソコンスキルを持つ女性が多く、彼女たちの力を生かしてビジネスを展開することができました。また、都心から離れているという点は、かえって有利に働きました。例えば、多摩地域は子どものために良い生活環境を整え、より子どもと向き合いやすい環境だと考えていますが、職住近接の環境下とは働き方が異なります。しかし、多摩地域でも仕事を行うことを重視する方々がたくさんいらっしゃいます。そのため、従来の外勤ではなく、在宅ワークという新しい働き方を提案しやすかったのではないかと思います。

これまで出会った方々の思いを背負って事業を進めていく

堤様が子供を育てる女性を応援したいと考える、モチベーションの源泉はどこにあるのでしょうか。

堤:今の私は、いろいろな人の影響を受けています。例えば、私がまだ子育て真っ最中のころ、障害を持つお子さんが公園でほかの子どもたちとうまく遊べないからと、夜の8時に親子二人でブランコで遊んでいるのを見た時に、彼女たちをなんとかしないといけないと思ったんですね。こうした現状を変えるには、他人任せにするのではなく、自らが動く必要があるとそのとき感じました。また、若い友人を癌で亡くした経験もあります。これも私に大きな影響を与えました。彼女も女性が子育てをしながらでも働きやすい世の中にしたいという志を持っていました。彼女の思いと、これまで出会ってきたたくさんの方々の思いも背負って、この事業を成長させていきたいと思っています。

会社情報

会社名 株式会社キャリア・マム
設立 2020年8月
本社所在地 東京都多摩市落合1-46-1 ココリア多摩センター 5階
ウェブサイト https://corp.c-mam.co.jp/
事業内容 キャリア支援事業/アウトソーシング事業/コンテンツ事業/おしごとカフェ、コワーキングCoCoプレイスの運営

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