デザイン会社と協業し、ゼロからヒット商品を生み出す | 多摩イノベーションエコシステム促進事業
デザイン会社と協業し、ゼロからヒット商品を生み出す

デザイン会社と協業し、ゼロからヒット商品を生み出す

株式会社コスモテック 代表取締役 高見澤 友伸

 本事業では、地域内外の中小企業・スタートアップや大企業、大学等が連携して、地域の課題解決を図るためのプロジェクトや、多様な主体が交流できる会員組織(コミュニティ)の立ち上げなど、イノベーション創出に向けた取組を進めています。このインタビュー連載では、多摩地域のイノベーションをリードする注目企業をご紹介することで、皆様に多摩地域の魅力を発信していきます。 

 機能性フィルムの市場で一貫してBtoB向けビジネスを展開してきたコスモテック株式会社は、リーマンショックを契機に事業縮小を余儀なくされました。それを打破したのが「いつでも どこでも かける おもいだせる」をコンセプトに開発したBtoC向け商品「wemo」シリーズです。まったくノウハウがないところから、なぜ畑違いの分野でヒット商品を生み出すことができたのか。代表取締役社長の高見澤友伸氏に、その理由をうかがいました。

代表取締役社長の高見澤友伸氏

液晶産業の拡大とともに会社も成長

会社の成り立ちと、高見澤様の入社の経緯を教えてください。

高見澤:当社は1989年の創業で、工業用粘着テープの製造・販売を行っています。事業の9割は機能性フィルムと言われる分野で、90年代に日本の液晶産業が急拡大するのに伴い、当社も液晶ディスプレイ事業で成長を遂げました。その後、日本の液晶産業が衰退し、産業構造が変化するのに合わせて、現在では主に半導体や電子部品向けの製造工程用テープを製造しています。私は、もともと大学で数学やコンピューターサイエンスを専攻し、卒業後は日本IBMでITエンジニアとして働いていました。その後、ITコンサルティング会社での経験を積んだ後、家業を継ぐために2001年に入社しました。

顧客密着主義の戦略で大手メーカーに対抗

御社の主力製品である機能性フィルム『COSMOTAC®』についてご紹介ください。

高見澤:

御社の主力製品である機能性フィルム『COSMOTAC®』についてご紹介ください。

高見澤:機能性フィルムとは、わかりやすく言うと粘着テープです。一般的なセロテープとは異なり、我々が製造するのは工業用の粘着テープです。工業用は一般的な粘着テープと比べて粘着力が強いので、主に電子部品の固定などに使用されています。『COSMOTAC®』は当社の製品ブランドの総称で、Apple社におけるiPhoneのようなものですね。製造プロセスを簡単に説明しますと、複数の高分子材料を混合し、それをフィルムに薄く塗布して機能性フィルムを製造します。材料の配合によって性能が大きく変わるため、お客様の要望に合わせてカスタマイズ製品を提供する技術と柔軟性が、当社の強みとなっています。大手メーカーが大量生産に特化するのに対し、当社はお客様に密着し、ニーズに応えることを重視した戦略でビジネスを展開しています。

日本市場の縮小により、高まる海外向けビジネスの重要度

海外向けのビジネスにも取り組まれていますが、始めたきっかけは?

高見澤:海外展開の契機には、液晶産業との深い関わりがあります。日本の製造業者が液晶パネルの製造拠点を韓国や台湾に設け始めたことで、技術が海外に流出しました。驚くことに、その設計図には当社の製品名まで記載されていたのです。それが海外からの注文を受けるきっかけとなり、製品の輸出が本格化しました。さらに、当社の取引先が中国市場に進出することになり、2002年には中国の蘇州に製造工場を設立しました。現在、日本国内と海外での売上高の比率は1:1になるまで海外の売上が伸びています。日本市場の縮小が進む中で、海外でのビジネスを拡大することは、今後重要だと考えています。

海外向けビジネスは中国市場がメインですか?

高見澤:今は中国が主要な市場です。中国は巨大な市場であり、我々も相応の投資を行い、生産力を向上させています。ただし、半導体の電子部品に関してはアメリカの対中輸出規制により、世界的な分断が起こっています。中国市場はビジネスにおけるリスクが高い面もあるため、コロナ禍以降、台湾市場へのビジネスにも力を入れるようになりました。しかし、台湾も中国との対立からリスクを抱えていますので、今後はASEAN諸国にも注目しながら海外ビジネスを展開していく必要があります。

デザイン会社と共同開発したwemoシリーズが大ヒット

ここ数年、BtoCの事業にも取り組み始めていますね。

高見澤:BtoCの事業に取り組み始めた経緯は、2016年に行われた東京ビジネスデザインアワードにさかのぼります。このアワードは東京都がデザイナーと中小メーカーを結びつけ、新しい事業を生み出す試みでした。当社はそれまでBtoBの事業しかやってきていませんでしたが、リーマンショック以降、我々を取り巻く経営環境は厳しさを増すばかりでした。そこで何とか売り上げを伸ばすためにBtoCの領域にも挑戦したいと考え、「肌に貼るステッカー」をテーマとして応募しました。このアイデアに触発されたデザイナーから、肌に貼るメモ帳として利用できる可能性を提案され、一緒にビジネスプランを考えていったところ、優秀賞を獲得することができたのです。コストの問題からその時点ではうまくいかなかったのですが、メモ帳としてのニーズは存在していることは明らかでした。そこで、そのデザイナーと協業し、パッチンバンドに表面処理を施すことで、ボールペンで書かれた文字を消せるメモ帳を開発しました。展示会での評判も非常に高く、それを受けて本格的な資金投入を行い、2017年11月に製品を発売しました。それが大ヒットとなり、現在では「いつでも どこでも かける おもいだせる」がコンセプトのるwemoシリーズとして、さまざまなバリエーションを展開しています。

「いつでも どこでも かける おもいだせる」がコンセプトのwemoシリーズ

デザイン、マーケティングなど多岐にわたる協業メリット

デザイン会社と協業したことでどのようなメリットがありましたか?

高見澤:我々だけでしたら、もっと無味乾燥な商品になり、話題になっていなかったと思います。キーカラーにオレンジを使う発想はないですから。パッと見たところ靴ベラのようなデザインも「この製品は何だろう?」と手に取ってもらえるような工夫が施されています。さらに、BtoC市場への進出において、我々には不足していたマーケティングのノウハウを提供してもらいました。商品を売るにはストーリーが必要です。もともと、看護師の方が腕に直接メモを取っていることから着想を得ていたので、「忙しい看護師の方のための商品」というストーリーを全面に打ち出そうと提案していただきました。定規のようなメモリも、看護師は傷の長さを計測するためにメジャーを持ち歩いていることを参考にしており、ストーリーをより強固にするために組み込みました。その結果、現在では看護師の方をはじめ、幅広いユーザーにwemoをご使用いただいています。

看護師の行動からヒントを得て開発したパッチンバンドタイプ

オープンイノベーションから新たなビジネスを作る

多摩イノベーションエコシステムに参加した理由は?

高見澤:新しいビジネスの創出にはオープンイノベーションが不可欠だと考えているからです。同じ志を持つ人々が集まることで、新たなアイデアやプロジェクトが生まれる可能性があります。それが地域社会の課題解決につながることもあれば、新しい製品やサービスの創出につながることもあるでしょう。重要なのは、その中心に自社も位置することです。なぜなら、粘着テープが必要とされる場面で当社を知っていただけていれば、声がかかる可能性があるからです。多摩地域には、一見地味で目立たないが、実は魅力的な要素技術を持つ中小企業が多く存在しています。当社だけでなく、様々な企業と協力し、新たなプロジェクトや製品を共同で開発することで、新しい価値を創造できると信じています。我々がデザイン会社と協業することでwemoを生み出せたように、オープンイノベーションは企業の成長には不可欠だと感じていますので、多摩イノベーションエコシステムを通じて新しいビジネスがどんどん生まれていってほしいと願っています。

高見澤様と多摩地域の関わりについて教えてください。

高見澤:私は生まれも育ちも国立で、高校時代は立川に通っていました。大学に進学してからは一度多摩地域を離れましたが、結婚を機に再び立川に戻ってきました。ここは大都市に近接しながらも自然環境が豊かで住みやすい場所です。通勤も楽ですし、買い物にも不便しません。また、トレッキングが趣味なのですが、高尾山方面に行けば多くのハイキングコースがあり、中央線を使えば山梨まで足を伸ばすこともできます。都会が苦手なのもあるかもしれませんが、多摩地域は大好きです。

高度を保った安定飛行が長期的な事業継続につながる

2008年に社長に就任されて16年が経ちました。今後の経営の展望をお聞かせください。

高見澤:私がいなくても安定して事業を継続できる体制を整えたいです。そのためには、事業構造としての強靭さが必要です。当社は以前、売上の大半を液晶産業に頼っていた状態で、リーマンショックで屋台骨が揺らぐような会社でした。一つの産業に依存せず、新しい事業を開発して多角的な事業を展開することが重要です。現在の体制は新規事業開発が属人的になっており、まずはそこを変えなければなりません。また、製造業の会社が成長するかどうかは外部環境に大きく左右されるため、無理に急成長を追求するのではなく、安定的な成長を目指すことが大切です。たとえ低い高度だとしても安定して飛行することを目指し、長期的な経営を目指しています。

会社情報

会社名 株式会社コスモテック
設立 1989年11月
本社所在地 東京都立川市錦町5-5-35
ウェブサイト https://www.cosmotec.ne.jp/
事業内容 粘着製品の印刷・加工・開発及び製造販売/粘着シート・テープの開発及び製造販売/印刷インクの開発製造/転写シール(熱・溶剤・感圧)の開発及び製造販売/上記に関するコンサルティング

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