本事業では、地域内外の中小企業・スタートアップや大企業、大学等が連携して、地域の課題解決を図るためのプロジェクトや、多様な主体が交流できる会員組織(コミュニティ)の立ち上げなど、イノベーション創出に向けた取組を進めています。このインタビュー連載では、多摩地域のイノベーションをリードする注目企業をご紹介することで、皆様に多摩地域の魅力を発信していきます。
日本では子どもの人口が減少している一方で、「発達障がい」と診断される子どもの数は増加傾向にあります。しかし、日本における支援体制は欧米諸国に比べて遅れているのが現状です。長年、認知科学を研究しているレデックス株式会社の五藤博義代表取締役社長は、子どもたちがゲームプレイをすることで認知機能の評価・記録を行うことができる放課後等デイサービスや児童発達支援などの福祉施設向けのツールを開発し、発達に困りごとを抱える子どもたちの「学びの環境」の改善に努めています。五藤氏に子ども達の学習環境改善への取組について伺いました。
子どもの特性を理解し、教育の現場で活用してもらう
- どのような事業を行っているのか教えてください。
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五藤:現在、私たちは発達の困りごとのある子どもたちを支援するためのツールを開発しています。デジタルコンテンツの形態で、パッケージソフト、iPad向けアプリ(一部iPhone・Android向けアプリにも展開)、クラウドサービスとして展開しており、主に放課後等デイサービスや児童発達支援施設などの福祉施設向けにサービスを提供しています。このツールは基本的にゲーム形式で、ゲームを通して子どもたちの認知機能を自動的に測定できるため、個々の子どもの特性を理解し、それに合わせた育成方法を検討することが可能になります。さらには認知機能の改善を促進する要素も含んでいます。弊社はこの技術に関する特許を有しており、現在、放課後等デイサービスや児童発達支援施設での利用数は約500から600に及びます。
誰でも簡単に使える『脳バランサーキッズ』と『Life Skills』
- 主力製品をご紹介いただけますか?
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五藤:弊社の最も売れている製品は『脳バランサーキッズ』というもので、これは子どもたちがゲームをすることで、その特性を自動的に分析し、記録できる機能を持っています。従来、専門資格を持った人が対面で1時間以上かけて行う必要があった評価を、この製品では簡単に行うことができます。たったの10分から15分のゲームプレイで自動的に記録・評価が行われ、例えば、4月と7月の成績を比較することで、その期間にどれだけ能力が伸びたかのレポートを作成することもできます。
もう一つの主力製品が『Life Skills』です。この製品はゲームをプレイすることで認知機能を評価・記録をすることに加え、生活機能と社会機能※を身につけるためのツールとして設計されています。支援を受ける人のレベルに応じて、生活機能や社会機能を身につけるための支援方法は多様になります。熟練した支援者は、対象者の状況を見ながら支援方法を工夫しますが、このプロセスを自動化するのが『Life Skills』というクラウドサービスです。このサービスでは、ゲームを通じて認知機能を測定しながら、個人に必要な生活機能と社会機能を選択し、そのレベルに合わせた支援方法を提案するレポートを自動的に作成します。このサービスは、放課後等デイサービスで年齢の高い子どもたちがいる施設や、就労移行支援施設などで利用されています。
※生活機能は個人が日常生活を自立的に遂行するための基本的な能力。これには食事、着替え、移動などの日々の活動が含まれる。一方、社会機能はコミュニケーション能力、人間関係の構築、社会内での適応能力など、他人との関わり合いや社会的な状況に適応する能力を指す。
全ての子どもたちの能力を最大限に伸ばしたい
- なぜ、発達の困りごとがある子どもたちを支援しようと思ったのでしょうか。
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五藤:私自身がADHDの特性を持っており、勉強の方法が他の人とは全く異なります。例えば、数学や物理の公式は暗記せず、イメージを理解してから自分で導き出します。私にとって暗記は非常に苦手です。高校3年生の時、公立高校に所属していましたが、9月の校内模試では学年で下位でした。私は授業での学習が得意ではなかったため、自分で1週間勉強する許可をもらい、12月の校内模試では学年上位にまで上昇。翌春の大学受験ではストレートで東京大学に合格しました。いわゆる普通に何かを聞いて覚えるという勉強は、私はできなかったんですね。
私の場合はたまたま自由な校風の学校だったので、学校を休んで自分で勉強するようなことが許されたのですが、世の中には自分に合わない環境に置かれている子どもたちがたくさんいます。私のミッションは、全ての子どもたちがそれぞれの能力を伸ばせるような学習環境を作ることです。公式を覚えたりとか年号を覚えたりとか、自分に合わない勉強方法に時間を費やすようなことをなくしてあげたいんです。みんな素晴らしい能力を持っているわけですから、もし子どもたちがそれぞれの能力を最大限に伸ばせるようになれば、日本だけでなく世界中の社会が変わるきっかけになるのではないかと考えています。
株式会社トータルブレインケアと提携し大人向け製品を開発
- 他社と協業して大人向けの製品を出されていますが、ご紹介いただけますか?
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五藤:弊社のサービスは子ども向けに対応していますが、実は大人向けのサービスも非常に需要があります。特に高齢者にとっては、認知症予防という重要な側面があります。弊社は、大人向けの認知機能改善に関わるサービスを展開する株式会社トータルブレインケアとの協業により、「脳体力トレーナーCogEvo」を開発しました。これは脳のリハビリテーションに由来し、科学的根拠(エビデンス)に基づいた認知機能のチェックとトレーニングが可能なクラウドサービスです。日常生活での過度なストレス、疲労、睡眠不足、加齢による認知機能の変化を早期にチェックすることができます。弊社はトータルブレインケア社との提携を行っており、私自身もその会社のCTO(最高技術責任者)を務めています。トータルブレインケア社は、営業力や人間関係の構築に優れており、販売面で強みを発揮しています。一方で、私たちの会社はコンテンツの制作を担当しており、特に思考方法や研究などの理論的な裏付けを提供するという点で重要な役割を果たしています。
- どのようなきっかけで協業が始まったのでしょうか。
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五藤:私が作成したコンテンツに興味を持っていただいた結果、提供してほしいという要望がありました。いろいろと考えたのですが、子どもと大人の市場は大きく異なることから、弊社は子ども向けに特化することに決定しました。そのため、大人向けのコンテンツはトータルブレインケア社に提供することとし、総代理店契約を締結しました。弊社は大人向けコンテンツにおける販売力の底上げができ、トータルブレインケア社は販売コンテンツの品質向上が図ることができたと考えております。
個人の特性に合った最適な生き方を提案
- 他に協業の事例はありますか?
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五藤:他に、弊社は医師であり研究者でもある本田真美先生を中心に、他のいくつかの会社と共に本田式認知特性研究所という企業組合を形成し、事業を展開しています。人がどのように活動するのが最適かを判断するには、主に三つの要素を考慮する必要があります。何ができるかという「認知機能」、どのような特性を持っているかという「認知特性※1」、そしてその人が本来どのようなことをしたいのかという「基本的な欲求」です。これら三つの要素を「本田認知特性テスト※2」を通して測定することで、個人の特性に合った最適な生き方を提案します。この三つの要素のうち弊社では「認知機能」に関する測定を担当しています。また、この企業組合において弊社の関与により、「認知機能」に関する測定だけでなく、従前のアンケート結果による認知特性の分析から、ゲームを通した様々な場面での判断を活用し測定を行えるようになったことで、より精度の高い認知特性の測定を実現いたしました。現在私たちは大学受験向けのオンラインサービスを製品化していますが、将来的には企業内での人材配置や人事活用などの分野にも応用していく予定です。このサービスは2022年から活動を開始していますが、現在、LINEでの友達登録者数が10万人を超えるほどの注目を集めています。
※1 認知特性とは視覚、聴覚などの五感を通じて感知した情報を脳で外界の情報を処理する能力。一般的には視覚が70~75%、聴覚が20~25%の割合と言われているが、同じ情報を得ても人によって比率は異なり、それぞれに得手不得手な認知の仕方がある。
※2 本田式認知特性テストとは医学博士の本田真美先生を中心とした専門家グループが考案した個人の認知特性を測定するためのテストである。
豊富な自然が生活の必須条件
- 五藤様にとっての多摩地域の魅力とは何でしょうか。
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五藤:私は多摩地域の町田市に住んで40年になります。この地域は公園が非常に多く、自然に恵まれています。長年、自然豊かな環境で生活してきたため、自然が豊富なことは私にとって住む場所を選ぶ際の必須条件の一つです。その点で、多摩地域は23区とは異なり、自然が多く、住みやすい環境だと感じています。また、町田市は福祉面でも充実しており、例えばジムが非常にリーズナブルな料金で利用できます。以前は誰でも100円で利用できましたが、途中で高齢者以外は300円に値上がりしました。しかし、私が高齢者になったことで、再び100円でジムを利用できるようになりました(笑)。
自分たちの技術や知見を利用してほしい
- 最後に、今後の展望についてお聞かせください。
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五藤:弊社は、外見からは分かりにくい人間の特性を客観的に評価することに特化しています。この技術は、人事活用や人材配置、採用プロセス、さらには営業職などの様々な業務領域で活用可能です。個々人の特性を理解することで、人々はより自分の能力を伸ばすことができると信じています。弊社の技術や知見が様々な企業に利用され、それによって日本がさらに発展することを期待しています。
会社情報
会社名 | レデックス株式会社 |
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設立 | 2005年7月 |
本社所在地 | 東京都町田市南つくし野1-3-6 |
ウェブサイト | https://www.ledex.co.jp/ |
事業内容 | 教育ソフト・ゲームソフトの企画・開発/高齢者向け能力開発コンテンツの企画・開発/学習塾支援システムの開発・運用/学び空間の企画・設計・開発/教育全般のコンサルティング |