地域とつながり、地域とともに子どもたちを育む放課後デイサービス | 多摩イノベーションエコシステム促進事業
地域とつながり、地域とともに子どもたちを育む放課後デイサービス

地域とつながり、地域とともに子どもたちを育む放課後デイサービス

ワイド・リンク株式会社 代表取締役社長 廣澤 竜騎

 本事業では、地域内外の中小企業・スタートアップや大企業、大学等が連携して、地域の課題解決を図るためのプロジェクトや、多様な主体が交流できる会員組織(コミュニティ)の立ち上げなど、イノベーション創出に向けた取組を進めています。このインタビュー連載では、多摩地域のイノベーションをリードする注目企業をご紹介することで、皆様に多摩地域の魅力を発信していきます。

 ワイド・リンク株式会社は放課後等デイサービス「遊&学Stories」で、発達障がい、身体障がい、自閉症等を持つ子どもたちを受け入れています。地域に根差して、子どもの困りごとだけでなく、お年寄りなど幅広い住民の困りごとに手を差し伸べる事業を展開しようとする代表取締役社長の廣澤竜騎氏に、サービスの詳細と今後の展望、多摩地域の活性化に懸ける思いを聞きました。

インタビューに答えていただいた代表取締役社長の廣澤竜騎氏。

「心身ともに豊かな生活」が人生のテーマ

2020年3月の会社設立までの経緯を教えてください。

廣澤:直近は、有料老人ホームを300施設ほど手掛ける株式会社ベネッセスタイルケアで営業部長をしていました。それ以前は法人の福利厚生を扱う会社やスポーツクラブなど、人々の生活や余暇を充実させる仕事に従事していました。「心身ともに豊かな生活」が、私の人生におけるテーマです。現代は介護の時代と言われていますが、前職で福祉の大切さに気づき、自分らしく、終の棲家で尊厳を持って過ごすお手伝いをする仕事に誇りを持っていました。そんななか私自身が結婚して、子どもが産まれ、自治会や子ども会など地域との関わりが増えてきたんです。そうすると地域を支える担い手の少なさが見えてきました。地域に貢献できる仕事をしようと思い、起業に至ったのです。

経験を生かして放課後等デイサービスを開始

どのような思いから放課後等デイサービスを始めたのですか。

廣澤:父が立川市で15年以上「遊学塾」という学習塾を営んでいるんです。そろそろ後期高齢者に差し掛かろうとしていたのに加えて、母が亡くなり、家業を継ごうと考えていました。とは言っても、少子化が進むなか、新たに始める学習塾でどうやって他社と差別化を図ろうか思案しながらも、教材や商材のネタ探しに奔走していたときに、「廣澤さんは福祉の経験があって子どもへの思いもある。両方を掛け合わせた事業があるよ」とある企業の方から教えてもらったんです。話を聞いてみると、少子化にも関わらず、障がいを持つ子の割合は増えていて、そんな子どもたちの居場所がないことがわかりました。私がチャレンジする場所かもしれない、と思いました。放課後等デイサービスの事業スキームは介護保険を扱うスキームと一緒なんです。対象が高齢者から子どもに変わるだけ。「知見がある、いけるぞ!」ということで周りに声を掛けたところ、「一緒にやりたい」という仲間もいたので、放課後等デイサービスを一緒に始めました。

可能性を広げ、地域の人々とつながるために

「ワイド・リンク」、さらには「遊&学Stories」という名前に込めた思いを聞かせてください。

廣澤:営業をしていたときも、父の学習塾を見ていたときも、大事なのは地域に根差すこと、地域に貢献することだと感じていました。そのような強みを持った事業所を作りたかったんです。前職で「福祉は究極のサービス業」という考えに感銘を受け、サービス業としてお客様をお迎えし、ご満足いただく仕事がしたかったので、あえて株式会社で「ワイド・リンク」という名前をつけました。ワイドは広がる、リンクはつながる。地域が持つ可能性がもっと広がり、地域の方々とのご縁がもっとつながることができたらという思いです。よく遊び、よく学べる居場所となるようにと父が始めた学習塾が「遊学塾」という名前なので、その思いを受け継ぎながら、私の場合は子どもたち一人ひとりの成長の物語を育むことができたらという思いを加えて「Stories」とつけました。少し長いんですけどね(笑)。

地域全体で子どもたちを見守る環境作りが大切

ここ「北野町ハウス」は一軒家ということもあって、地域に溶け込んでいる印象を受けます。

廣澤:最初に、ここから歩いて2分くらいの場所に「北野町クラブ」を作り、ここが2店舗目です。ただ、2店舗目を作りたいという思いが先にあったわけではなくて、当時の北野町町会の副会長さんから「大事なご家族が住んでいた家を壊すのは忍びない。外観を残しながら何かに使えないか」という相談を受けたのが始まりです。物件を見た瞬間、完全に一目惚れしました。家の中だけリノベーションして事業を始めたところ、予想通り地域の方々が「何になったの?」と気遣ってくれて、近所の学校からここに通う子どもたちには「気をつけてね」とか「おかえり」という言葉をかけてくれています。大家さんがクリスマスにサンタクロースの格好で遊びにきてくれたり、ハロウィーンにはご近所宅を練り歩きお菓子をいただいたり、昔から地域に馴染んでいるこの家で事業を始めたことで、自然とつながりが芽生えました。

都内では珍しい一軒家の放課後等デイサービス「北野町ハウス」

学校、家庭との三位一体で子どもたちを見守る

子どもたちが通う学校やご家庭とは、どのように連携されているのでしょうか。

廣澤:子どもたちを真ん中に、学校、ご家庭、私たちが三位一体となることが大事だと考えています。各家庭とはコミュニケーションを密に取り、保護者に協力してもらい学校に授業の様子を見に行かせてもらっています。保育所等訪問支援という制度もあるので、いまは月に20回ほど学校を訪問して、先生方に相談を受けるまでになりました。弊社は子どもたち一人ひとりの「自分らしさ」を見つけること、そして伸ばしていくことを最優先に考えているので、運動が得意な子、勉強が得意な子、絵を描くのが得意な子など、個性に合った個別支援計画を進めています。現在、子どもの登録者数は100名ほどいます。弊社は児童指導員という役職名ではなく、オリジナルで「ストーリーサポーター」と呼んでいるのですが、受け入れる子どもを1日10人までとし、「ストーリーサポーター」が3人ないし4人で対応しています。ストーリーサポーターの配置人数は定められた児童当たりの児童指導員の基準より多い人数を設置しており、1人あたりの子どもがストーリーサポーターと関わる機会を増やしています。この施策により、弊社では子どもにより質の高いサポートを提供できていると考えています。

「北野町ハウス」に通う子どもたちと一緒に

多摩地域から日本全体を元気にしたい

多摩地域との関わりを教えてください。

廣澤:中学を卒業するまでは山梨県山中湖村に住んでいました。その後、両親が経営していたペンションを廃業して東京に出てきて、学習塾を始めたのが立川市です。私は多摩大学卒業で、友達の多くが多摩地域に住んでいます。今では、山梨県より多摩地域で過ごした時間のほうが長くなり、多摩地域に恩返ししたいと強く思っています。放課後等デイサービス以外にも、この地域に住む高齢者の生活のお困りごとを解決する取組も始めています。私自身は草むしりくらいしかできませんが、私がハブとなって、電気屋さん、お掃除屋さん、工務店さんなどと力を合わせれば問題を解決できるのではないかと思っています。「廣澤さんがなんとかしてくれる」という連携を築いて、住みやすい街にしたいんです。そうした横展開のある共生社会ができれば、きっと日本全体がもっと元気になるはず。そんな動きを多摩地域から発信することができたら最高だと思います。

地域に貢献し、地域活性化につながるソーシャルビジネスの展開ができる企業

現在進めているプランや今後の展望をお聞かせください。

廣澤:「ADC(アフター・デイ・ケア)協同組合」での取組に発起人である一般社団法人チャイルドライフ代表の庄司様と力を合わせていこうと考えています。庄司様とは「遊&学Stories」一店舗目のオープン時に見学に来てくださった際に、この協同組合構想のお話をいただきました。放課後デイサービス業界における「同業の事業所同士につながりがない」、「小規模な運営体制により運営コストが大きい」、「「サービス(療育)の質の安定化がより一層求められる時流となった」という3つの課題を、協同組合を発足することで、複数事業所が力を合わせ、コスト削減と質の高いサービス提供を両立する教育研修制度の構築を行おうという庄司様の発想に私も共感し、協同組合に参画いたしました。この協同組合は2年目を迎え、100事業所ほどが集まっています。弊社はこの協同組合の中ではサービス品質向上のための教育委員会を担当させていただいており、指導員の教育プランの確立などを考えています。また協同組合として交渉することで、必要経費の削減も進めています。ADC協同組合ではその他にも三鷹市で、放課後等デイサービスに高齢者のデイサービスを併設することで、多世代交流を図れる新たな福祉拠点を作ろうと進めています。おじいちゃん、おばあちゃんが、学校から帰ってきた子どもたちと一緒に本を読んだり、お菓子を食べたり、おしゃべりを楽しんだりする。ここ「北野町ハウス」のように一軒家を再利用すれば、深刻化している空き家問題の解決にもなると思います。

 今後の課題としては、就労問題があります。子どもたちが大きくなったとき、果たして働き口があるか。子どもたちの可能性もわからず就労しなさい、雇ってくださいは無責任です。いま、八王子の工場の社長さんと話をしています。古くからの機械を使って、ひたすら穴を開けるという立派な仕事で受注もあるけど、工場になかなか人が集まらない。発達障がいを持つお子さんの多くは、右から左にものを動かすような仕事を、誇りを持って続けられる力があります。彼らに早くからモノづくりの楽しさを体験してもらえば、いずれ「あのおじちゃんの工場で働いてみない?」と言える。そうした連携によって、人材不足と就労問題の両方を解決できると考えています。

「北野町ハウス」から徒歩2分の場所にある「北野町クラブ」にて

会社情報

会社名 ワイド・リンク株式会社
設立 2020年3月
本社所在地 東京都立川市富士見町7-32-44
ウェブサイト https://widelink-tokyo.com/index.html
事業内容 障害児通所支援(放課後等デイサービス)/高齢者、障害者の日常生活支援 ※2024年開業予定/高齢者通所介護(デイサービス)※2024年開業予定/中小企業向けIT導入支援(DX学校)/映像、動画制作・編集・企画

インタビューをもっと見る

株式会社 菊池製作所のインタビュー
株式会社 菊池製作所

八王子から日本の製造業を支える企業として、ものづくり系スタートアップを積極支援

株式会社VRCのインタビュー
株式会社VRC

3Dアバターの社会実装を通じて、実生活の課題をバーチャルで解決

インタビュー一覧ページへ
コミュニティに参加する