理研や総研と連携し、血管年齢と血圧を同時に測れる血圧計を開発 | 多摩イノベーションエコシステム促進事業
理研や総研と連携し、血管年齢と血圧を同時に測れる血圧計を開発

理研や総研と連携し、血管年齢と血圧を同時に測れる血圧計を開発

株式会社 志成データム 代表取締役 斎藤 之良

 本事業では、地域内外の中小企業・スタートアップや大企業、大学等が連携して、地域の課題解決を図るためのプロジェクトや、多様な主体が交流できる会員組織(コミュニティ)の立ち上げなど、イノベーション創出に向けた取組を進めています。このインタビュー連載では、多摩地域のイノベーションをリードする注目企業をご紹介することで、皆様に多摩地域の魅力を発信していきます。

 町田市で創業から37年、株式会社 志成データムは電子機器、情報機器、医療機器の開発・製造を行っています。モノづくりに人生を捧げてきた代表取締役の斎藤之良氏は、御年70歳。「コキ使われている古希です」と笑顔を見せながら、多摩地域が持つ可能性に向けた独自の視点と、技術者としての尽きない情熱を言葉にしてくれました。

インタビューに答えていただいた代表取締役の斎藤之良氏

経験と技術を注ぎ込んだ主力商品は電子黒板

御社の事業内容を教えてください。

齋藤:弊社は無線データ通信機器を主力にスタートしました。「データム」という名前をつけたのも、データ通信事業を中心にしようと思ったからです。無線モデムやトランシーバー、薄型ディスプレイ関連機器なども製造していました。身近なものではBluetoothが知られていますが、私たちがBluetoothの開発を手掛けたのは20年以上前なので、今の新しい製品技術に驚かされるようなことは少ないです。
 弊社の以前の主力製品は電子黒板でした。起業前はパイオニア株式会社で大型テレビを設計していたので、当時の経験を生かし電子黒板には光学式タッチパネルを搭載しています。電子黒板は、複数の人が画面を共有して理解を深めることができるので、最近は学校やビジネスの現場でも使われています。
 会社の売り上げは、以前は(又は数年前までは)無線機やディスプレイ関連の仕事が8割でしたが、現在の売上の大部分は以前勤めていた会社で血圧計の開発をしたノウハウで、30年以上続けてきている動脈硬化関連の医療機器によるものです。

指で画面を触るだけで文字を書くことができる“電子黒板”

産総研や理研との連携により新たな血圧計が誕生

産業技術総合研究所(産総研)や理化学研究所(理研)と共同で研究を進めて開発した『PASESA(パセーサ)』は、動脈硬化の診断にも役立つ血圧計として、世界的にも注目を集めているそうですね。

齋藤:創業当時から血圧計の研究開発を続けてきた歴史があるので、早くから血管の硬さには注目していました。心筋梗塞や脳梗塞の原因となる動脈硬化のリスクを抑えるためには血管の硬さを把握することが大事だということは、1999年のWHO/ISH(世界保健機関/国際高血圧学会)のガイドラインでも指摘されていたのです。
 弊社では腕の血管の硬さを正確に測る研究を進めておりましたが、社内だけで行うのが難しいという判断がありました。そこで、産総研さんの産学連携の窓口に連携を持ち掛けたところ、たまたま近しい研究を行っている先生がいらっしゃり、スムーズに話が進み、2004年から産総研さんとの共同研究がスタートしました。また、同様にして、弊社から研究課題を持ち掛け2008年から理研さんのスーパーコンピューターで、片腕に装着する装置から得られるデータと身体の中心部分の血管の硬さの関係性を生体シミュレーションで証明するための共同研究を始めました。両研究所との共同研究の結果、約2年かけて新たな血管硬化度指標であるAPI(上腕の血管の硬さ)とAVI(全身的な血管の状態)を開発し、2011年に腕の測定だけで動脈硬化リスクがわかる医用電子血圧計PASESAとして、約2年間の国の審査を経て薬事承認されました。「PASESA」は社内公募の造語で、Prevent ArterioSclerosis and Enjoy Successfui Aging(動脈硬化を予防し、健やかに老いるを楽しむ)という意味が込めています。

産総研や理研との共同研究によって誕生した血圧計『PASESA』

「まちだテクノパーク」では連携が当たり前

異業種の中小企業が共同開発や地域連携を進める「まちだテクノパーク」で事業を営むメリットを教えてください。

齋藤:1998年に多摩高度化事業準備組合を設立して、「みんなで工業団地を作りましょう」という思いを実現したのが、「まちだテクノパーク」です。この企業群には金属の精密加工を行う会社や、電子部品・製品の製造を行う会社や、ソフトウェアを制作する会社など開発志向の強い様々な会社が集まっているため、互いに専門外の情報を正しく教えてもらえるんです。例えば、産総研や理研と共同研究をしていた当時、弊社はドクターとのつながりがまったくなく、製品を作っても臨床研究を依頼できる医療施設がありませんでした。そんなとき、まちだテクノパーク内の「株式会社レッドゾーン(当時は多摩スプリング)」というバネを作っている会社の役員さんが「リハビリの機械を作ったことがあるよ」と、横浜総合病院を紹介してくれました。そんな協力が、医学界に出入りするきっかけになったんです。

不可能を覆し、「まちだシルクメロン」誕生

1階にある大浩研熱株式会社さんの声かけで、町田市内を中心に10企業が力を合わせて完成までたどり着いた新たなブランド、「まちだシルクメロン」の開発にも力を貸したとか。

齋藤:大浩研熱では、主に水切り・乾燥・除塵・加熱など、各種製造工場で空気の噴出をするエアーノズルの製造販売をされています。大浩研熱の林大輔代表は同い年で、まちだテクノパークにも一緒に入った仲です。彼は流体力学の専門家で、私は電気専門。それまでも情報交換していましたが、「今度メロンを作るんだ」と聞かされて協力しました。それまで日本でメロンの水耕栽培の成功例はありませんでしたが、林代表が中心となって各社の技術・製品を組み合わせてメロンの水耕栽培にチャレンジするというのです。弊社としては血圧計を作るための技術の中にポンプやバルブの機能を安価に制御できる機構があるので、液肥供給装置に生かしました。「メロンの水耕栽培は不可能」と言われている中で様々な試行錯誤をした結果、ゆらぎを持たせながら放射線状に水を流すことで、根腐れせずに多くのメロンを収穫できるようになった。この水耕法は「町田式新農法」と名付けられました。「町田式新農法」が確立した背景には流体力学の専門家である林代表が、自分の頭の中にあるイメージを、いろいろな人の力を借りて実現できたからだと思います。「まちだシルクメロン」は糖度が高くて美味しいです。

日本の縮図と言える多摩地域のメリットとは

多摩地域で仕事をするメリットを、どのあたりに感じていますか。

齋藤:多摩地域は都会的なところもあれば山奥に近いところもある。工業地帯も、農村も、里山的なところもある。高齢化の進む団地もありますよね。つまり、日本の縮図なんです。高齢者の多い多摩ニュータウンなどを考慮すると、都市部にありながら買い物難民、医療難民と呼ばれる方々の健康をどうやって守るのか、という課題も見えてきます。リモート医療などを含め多岐にわたる問題を考えることができるので、市場モデルとして最高なんです。多摩地域は、日本全体に広げられるプロジェクトを検討することができる場所だと思います。

多摩地域から日本全国へ健康の輪を広げたい

現在進めているプロジェクトや今後の展望があれば、教えてください。

齋藤:高齢者が多い団地の調剤薬局にPASESAを置いて、近隣住民の血圧と血管年齢の測定を習慣化してもらう実証実験を行っています。この調剤薬局とは他県主宰の研究会で知り合い、高齢者の健康を守る取り組みとして異業種での協業が実現しました。実証実験は特段の宣伝や広報活動はしていなかったのですが、設置からの3か月で、300名以上の方が自発的にこの実証実験に参加されています。血圧、血管年齢、動脈硬化のリスクがレシートに印字されるので、それを見て自然と健康意識が高まるようです。この試みを、多摩地域の役場、集会所、高齢者施設、ショッピングセンターなどにも広げられたらと考えています。
 通常みなさん健康に注意するのは健康診断前後の1カ月くらいです。一般的な健康アプリも長続きしないようなので、人が集まる場所にPASESAを設置し、血圧と血管年齢を測ることを習慣化してもらえたら良いと思います。実際、調剤薬局での実証データを解析したところ、平均で血圧が「5mmHg」低下し、血管年齢が「4歳」も下がっていました。今は多摩から少し離れた団地の調剤薬局に置いてもらっているので、今後は多摩地域、さらには日本全国へ広げていけたらいいなと考えています。

会社情報

会社名 株式会社 志成データム
設立 1988年1月
本社所在地 東京都町田市小山ヶ丘二丁目2番地5 まちだテクノパーク内センタービル4F
ウェブサイト https://www.shisei-d.co.jp/index.html
事業内容 電子情報ボード、光学式タッチパネル、医療機器、特定小電力データ通信機器の製造

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