本事業では、地域内外の中小企業・スタートアップや大企業、大学等が連携して、地域の課題解決を図るためのプロジェクトや、多様な主体が交流できる会員組織(コミュニティ)の立ち上げなど、イノベーション創出に向けた取組を進めています。このインタビュー連載では、多摩地域のイノベーションをリードする注目企業をご紹介することで、皆様に多摩地域の魅力を発信していきます。
建築士がプロの目で建物の不具合や劣化部位を見つけ出す「インスペクション(※)」。株式会社スペース・デザイン研究所は1991年に町田で創業して以来、日本ではあまり知られていなかったインスペクションを「住まいの健康診断」と位置づけ、住環境の改善に努めてきました。自らを「住まいの町医者」と呼ぶ丹羽啓勝・代表取締役に、事業にかける思いについて話を伺いました。
※インスペクション(inspection)の直訳は「検査」や「点検」。住宅のインスペクションでは、補修が必要な箇所などの現況を把握するために、専門家が建物の劣化状況や不具合の有無を客観的な視点から検査する。
アメリカでインスペクションに出会う
- まずは会社設立の経緯について教えてください。
丹羽:大学の建築学科を卒業した後、大手ゼネコンに就職し、現場管理を歴任しました。その後、かねてから興味のあった住宅業界に移り、住宅関連諸団体で幅広い業務に携わってきました。インスペクションに出会ったのはその当時のことです。研修でアメリカに行った際、現地では新築の家を建てるより既存の家、いわゆる中古物件を購入するケースが一般的で、購入する家の資産価値が価格に見合うのか第三者が点検しないと買えない風潮があると知りました。インスペクションが当たり前だったんですね。さらに、家はDIYでリフォームするのが一般的で、日本のように何でもプロに頼むのではなくて、買った家の資産価値は自分で高めるのが常識。住宅業界の健全な発展のためにも、こうした考え方を日本にも普及させなければいけないと強く感じ、インスペクションの事業を起こしました。
シックハウス症候群問題を改善したい
- スペース・デザイン研究所という社名の由来は?
丹羽:「スペース・デザイン」には二つの意味が込められています。住宅業界は何かと怖いイメージを抱かれがちですが、私はお客様が気軽にお店に入って来られるような、相談しやすい環境(スペース)を作りたい(デザイン)と常々考えていました。もう一つは、当時、アメリカで社会問題になっていたシックビル症候群が関わっています。日本では住宅室内の空気の汚染等による健康障害を総称してシックハウス症候群※と呼ばれ、被害も多数報告されていましたが、当時は不動産業界も建築業界もシックハウス症候群に対する認識がまったくと言っていいほどありませんでした。こうした日本の状況を改善したい、日本の住環境をしっかりとデザインしたい、そういう思いをスペース・デザイン研究所という社名に込めました。弊社では創業以来、シックハウス症候群を予防する住環境づくりに力を入れて取り組んでいます。
※シックハウス症候群は、建材や家具から放出される化学物質や防蟻剤の揮発により、頭痛や目・喉の痛み、めまいなどの健康障害を引き起こす症状
備長炭の効力を世の中に広める
- 具体的にどのような取組みを行っているのでしょうか。
丹羽:シックハウス症候群の原因として考えられているものの一つに防蟻剤があります。白アリを殺すほどの強い成分ですから、人体に多少なりとも影響があると私は考えています。そこで私は白アリを殺すのではなく寄せ付けないという考えの下、炭を用いた「防除」を提案しています。炭に高い防除効果があることは、つくば市にある森林総合研究所で学びました。なかでも備長炭の防除効果は絶大です。例えば、袋に入った備長炭を床下に敷けば防蟻、防虫、防腐の効果を発揮します。パウダー状にした備長炭の塗料を木材に塗って防除する方法もあります。一般的な防蟻剤の効果は5年ですが、備長炭は10年でも20年でも効果が持続するんですよ。この事実を全国に知ってもらいたいというのが、起業した一番の理由です。
住まいの健康診断で家が傷む前に早期発見
- 「住まいの町医者」というキャッチコピーが印象的ですが、インスペクションに対する丹羽様の考え方を教えてください。
丹羽:一般的なインスペクションは住宅の傷み具合や不具合しか指摘しないのですが、「それじゃだめだよ」と思うんです。傷む前に早期発見できればそれほど修繕費をかけずに済むのに、実際には傷んでから修繕することが多い。私はそういうインスペクションが大嫌いなんです。人間が健康診断を受けて未然に病気を防ぐように、住宅にも健康診断が必要です。例えば、現代の日本の家は昔の家に比べてひさしが浅いため、風雨にさらされるとひさしの付け根と外壁の間から雨漏りが発生することがあり、木材を腐らせる腐朽菌が繁殖してしまいます。「住まいの健康診断」をすることで、そうした住宅の劣化を早める原因を発見することができます。
住まいのかわら版で地域の工務店のファンづくりを支援
- 地域の工務店やリフォーム会社、不動産屋へのコンサルティングにも力を入れているそうですね。
丹羽:「ふれあい会員」という地域密着型、顧客密着型の「儲かる仕組み」づくりを目的とした通信顧問会員制度に取り組んでいます。これまで300社以上に参加していただきました。顧問先の企業には私の経験を生かしてコンサルティングをしたり、「かわら版」という衣食住に関する健康ミニコミ誌をお送りしたりして、顧問先の販促やファン作りに活用してもらっています。チラシにしてもそうですが、自社のPRばかりではそもそも手に取ってもらいにくいでしょう。生活に役立つ情報誌なら興味を持って手に取ってもらえますよね。このかわら版を約30年間毎月発行し続けています。
高齢者宅の2階を学生寮に
- 顧問先の企業と連携した取り組みなどはありますか?
丹羽:不動産会社と連携して取り組んだ事例をいくつか紹介します。例えば、2階建ての家に住んでいる高齢者は階段の上り下りを嫌って1階に寝泊まりすることが多く、2階が空き部屋になりがちです。そこを大学生の寮にするアイデアを提案しました。するとどうなるかというと、下にいるおじいちゃん、おばあちゃんが彼らのご飯を作ってあげたりして若い世代と高齢者の交流が生まれるんです。いいと思いませんか? アパート経営者が高齢で建物の管理ができなくなった際に、長年住んでいる住人が仮大家として代わりに管理をしたり、近所の高齢者が共用部分を掃除するといった仕組みを提案したりして、実際に取り入れてもらったこともありました。他にも、若い世代、特に赤ちゃんがいる家庭は騒音の問題からアパートを敬遠しがちです。そこで、1階と2階を内部階段でつなぐメゾネット方式の住宅にすることで、騒音問題が軽減され、若い世代が安心して入居できるように改築した事例もありました。
町田から全国へ本物の情報を伝えたい
- 創業以来、町田で事業をされていますが、町田の良さとは何でしょうか?
丹羽:町田は関東の“へそ”です。東京23区、埼玉、神奈川、場合によっては静岡も行きやすい。町田は情報の集約点だと思うんですよ。人も物も情報もいろいろなものが集まってくる。ただ、地元の人はその良さに気づいていないのか、うまく活用できていないと思います。もったいないですよね。私はこれからもずっと、この多摩地域から全国に本物の情報を伝えていきたい。住まいも人も長生きするのが当たり前の時代になってきました。でも長生きしても病気がちではだめですよね。健康長寿のためにはどうすればいいのか。住環境という普段の生活で大きな比重を占める部分を大切にする、そんな情報を発信していきたいです。
会社情報
会社名 | 株式会社スペース・デザイン研究所 |
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設立 | 1991年9月 |
本社所在地 | 東京都町田市南成瀬5-1-10 サンプラザ西之久保2C |
ウェブサイト | http://www.sdken.co.jp/ |
事業内容 | 健康&エコ住宅と自然健康素材の研究と企画開発/地域密着・顧客密着型の工務店、リフォーム会社を対象にした住まいの町医者「ふれあい会員」の普及と育成/住まいの健康診断、健康&エコ住宅の各種ご相談/一般生活者向け講習会、講演会、セミナーの講師/住宅業プロ向け講習会、講演会、セミナーの講師/マネジメント、マーケティング、テクニカルのバランスの取れた経営環境づくりを支援。同時に、各社の特長を活かした「仕組み」づくりを支援/イベント・セミナープロデュース/NO.2や後継者育成 |