高度な溶接技術が「はやぶさ2」プロジェクトを成功に導く | 多摩イノベーションエコシステム促進事業
高度な溶接技術が「はやぶさ2」プロジェクトを成功に導く

高度な溶接技術が「はやぶさ2」プロジェクトを成功に導く

東成エレクトロビーム株式会社 上野 邦香

本事業では、地域内外の中小企業・スタートアップや大企業、大学等が連携して、地域の課題解決を図るためのプロジェクトや、多様な主体が交流できる会員組織(コミュニティ)の立ち上げなど、イノベーション創出に向けた取組を進めています。
このインタビュー連載では、多摩地域のイノベーションをリードする注目企業をご紹介することで、皆様に多摩地域の魅力を発信していきます。

                                              

多摩地域には、多くの大企業が研究開発拠点を設けています。東成エレクトロビーム株式会社は、地の利を生かして大企業との取引を積極的に行い、高度な溶接技術に磨きをかけました。その技術が、小惑星の表面サンプルを採取する探査機「はやぶさ2」のプロジェクトに、大きく貢献しました。上野邦香社長に原動力などについて聞きました。

「はやぶさ2」プロジェクトで、人工クレーターを作った衝突装置と同じ装置を手にする上野邦香社長(左)と高島康文常務

大企業の研究開発拠点が多いため多摩に進出

会社の成り立ちを教えてください

上野:農業機械のエンジンを生産する会社に勤めていた父が独立して創業しました。その際、大企業の研究開発拠点が多く試作開発の支援ニーズは高いだろうと考え、多摩地域を選びました。電子ビームという装置を活用した溶接加工会社(電子が高速で対象物に当たった時に熱が発生し、その熱で金属を溶かして接合する技術)として発足し、大企業を中心に評判が口コミで広がって、「東成だったら何とかしてくれるのでは」といった駆け込み寺的な存在になりました。


東成エレクトロビームが保有する電子ビーム溶接機のひとつ

顧客と一緒に作り上げる経験を積み重ね、技術の引き出しを増やす

どういった部分が評価されているのですか

上野:他の手段では不可能な材質の異なる金属同士の溶接や、寸分のずれも許されない加工技術です。社員一人一人の「技術を極めたい」といったモチベーションが強く、医療や航空をはじめとした難易度の高い領域で顧客と一緒に作り上げるという経験を積み重ね、技術の引き出しを増やしてきました。ただ、高度な技術を体得するには長い歳月を要します。言われたことをやれるようになるまでに3年。顧客からお題を与えられて、加工条件を自ら編み出すまでには10年が必要です。

小惑星にクレーターを作る衝突装置の溶接を担当

高い技術が評価され、宇宙航空研究開発機構(JAXA)が実施した「はやぶさ2」プロジェクトで重要な役割を果たしました

上野:小惑星「りゅうぐう」に直径数メートルの人工クレーターを作って、地下サンプルを採取するというミッションがありました。当社はクレーターを作る「インパクタ」という衝突装置の溶接を担当しました。インパクタはステンレス鋼の円盤の内側に、銅の円盤をはめ込んだ構造です。インパクタに仕掛けられた爆薬が起爆すると板厚5㍉の銅板が外れて弾丸の形に変形し、秒速2㌔という猛スピードで地表に衝突します。起爆によって溶接箇所が一度に均一に外れなければ、弾丸の軌道にずれが生じます。宇宙を4年間にわたってさまようには、高い気密性も不可欠。品質要求が極めて高いプロジェクトでした。

クレーターを作る「インパクタ」という衝突装置。ステンレス鋼の円盤の内側に銅の円盤をはめ込んだ構造で、異なる素材同士の溶接というハードルの高い課題をクリアした

国家プロジェクトに貢献できたのは、この上ない喜び

プロジェクトが成功したときの感想は

上野:熱伝導率や融点の異なる異種金属だったため、最適な溶接条件をつかむのに膨大な時間をつぎ込みました。その過程では「受けた仕事は完遂する」という執念が支えになり、検証に検証を重ねた結果、成功につながりました。われわれの企業理念は「ものづくりを通じた社会貢献」です。太陽光や生命の起源・進化の解明につながるような国家プロジェクトに貢献できたのは、この上ない喜びでした。

「我事意識」という考え方を社内に浸透させたい

会社を経営していく上で大事にしていることは何でしょう

上野:新型コロナウイルス感染症の拡大によって意識するようになった、「我事意識(わがこといしき)」という考え方を浸透させたいと思っています。当社はリモートワークを行えない業務形態ですが、各社員の協力によって2年の間、感染者は一人も発生しませんでした。しかし、仮に発生していたら、誰かがカバーする必要がありました。社員には「自分のこととして考えると、何ができるのか」という観点から仕事に取り組んでほしいですね。順調な時には、こういった考えは定着しません。

また、「あの会社は2代目が経営しているけど、社長のことはよく知らない。ただ、この開発の責任者は知っている」といったように社員にスポットが当たる会社にしたいと考えています。

父はワンマンでしたが、私は人に頼るリーダー。優秀な人間を周囲に置いて苦言に耳を傾けるタイプです。同席している高島康文常務も優秀な人間の一人。ありがたい存在です。このような形で、次の20年をどのように進めばいいのかを、常に考えています。

多摩はコレクティブインパクトにぴったりの土壌

多摩地域に拠点を置くことのメリットは

上野:地元の金融機関と企業をつなぐさまざまな会合があり、そこでネットワークが広がる点です。研究開発型企業が集積し交流するので、コラボレーションも起こりやすい。また、会社も自宅も近所のケースが多いため気軽に依頼したり、地方に進出したい時には建設・不動産会社と連携するなど、さまざまな形のビジネスに発展する可能性が大です。大学も集積しており、何でもできる可能性があります。異分野の組織が集まって社会的課題の解決に取り組む「コレクティブインパクト」にぴったりの土壌です。

財務諸表も見せ合う腹を割った付き合い方で企業間の連携を促す

ネットワークの事例を紹介してください

上野:地元金融機関を通じ知り合った経営者同士が自主的に勉強会を開催していますが、財務諸表をお互いに見せ合うような仲間でないと、連携はうまくいきません。このためポケットの中身を全部出すことが、勉強会に参加するための条件となります。四半期に一度は決算書を持ち寄って「今の業績はこうです。今後の見通しはこうです。給与はいくらです」といった説明を行っています。情報はすべて共有。「こんなに借り入れがあって大丈夫なのか」といった話もします。簡単に出来る事ではないが、これくらい腹を割った付き合い方をしなければ、連携で成果を出すのはなかなか難しいと思っています。

地元に愛されるおいしい店も多い

その他に多摩地域の魅力は

上野:自然に恵まれ、緑豊かなところです。地元に愛されるおいしい店も多いのが特徴です。よく足を運ぶ店の一つが、昭島市の「ケンちゃん餃子」。国産材料にこだわっています。東小金井駅近くで焼き菓子を販売している「ビルドルセ」は閉店する予定でしたが、地元の建設会社が事業承継しました。サンドイッチの「メルヘン」は百貨店などでも販売しているため有名ですが、本社は八王子です。休日出勤している社員に出すと喜ばれます。私の好物は人参サンドです。3店とも経営者は私の知り合いですが、その他にも贔屓にしている店はたくさんあります。

会社情報

会社名 東成エレクトロビーム株式会社
設立 1977年6月
本社所在地 〒190-1203 東京都西多摩郡瑞穂町高根651-6
ウェブサイト https://www.tosei.co.jp/
事業内容 当社は電子ビームとレーザといった特殊な高エネルギービームを利用した受託加工業を主軸としている。創業以来社内に蓄積された加工ノウハウによりお客様の技術的な課題に取り組み、試作から量産加工まで行っている。電子ビーム溶接では高強度接合、異種金属間接合、高反射材料や高融点金属の溶接、高精度加工が可能であり、レーザ加工では溶接以外に切断・穴あけ・焼入・肉盛り・マーキングなど多様な加工が可能で、これら2つの技術で顧客のニーズに応えている。またこれまで蓄積されたレーザノウハウから2005年より環境にやさしいレーザクリーニング装置の開発に着手し、現在は装置製造業として、開発・製造・販売も行っている。

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