ハッカソンがきっかけで学生起業。電気通信大学発のITベンチャー | 多摩イノベーションエコシステム促進事業
ハッカソンがきっかけで学生起業。電気通信大学発のITベンチャー

ハッカソンがきっかけで学生起業。電気通信大学発のITベンチャー

レッドインパルス株式会社 代表取締役 高橋 健

 本事業では、地域内外の中小企業・スタートアップや大企業、大学等が連携して、地域の課題解決を図るためのプロジェクトや、多様な主体が交流できる会員組織(コミュニティ)の立ち上げなど、イノベーション創出に向けた取組を進めています。このインタビュー連載では、多摩地域のイノベーションをリードする注目企業をご紹介することで、皆様に多摩地域の魅力を発信していきます。

 今年で創業9年目を迎えるレッドインパルス株式会社は、電気通信大学発のITベンチャーです。代表取締役を務める高橋健さんは、電気通信大学の大学院1年時に同級生4人と共に起業しました。「アルバイトばかりしていて優等生ではなかった」と振り返る高橋さんがどのような経緯で起業に至ったのか。現在の事業内容と併せて、詳しくお話を伺いました。

インタビューに答えていただいた高橋健氏

エンジニアを目指す学生をサポートしたい

主な事業内容を教えてください。

高橋:主要な業務内容はITシステムの開発支援です。主に受託開発で、Webアプリやスマートフォンアプリ、あとはITインフラ、最近だとクラウドの構築や運用保守をやっています。少し変わり種でいうと、Raspberry Pi(※1)といった既存のモジュールを組み合わせて、IoTのプロダクトやプロトタイプを作る仕事も請け負っています。

こうしたシステム開発以外に、エンジニアの育成に取り組んでいるのも弊社の特徴の一つです。僕らは学生起業を経て今に至っていることもあり、学生に対する思い入れが強いんです。エンジニアになりたい学生の支援やサポートができたらいいなと思い、学生を対象にしたプログラミング勉強会を開いたり、YouTubeの『ITぷらす』『REDIMPULZ Lab』という二つのチャンネルで動画を配信したりしています。『ITぷらす』は“ずんだもん”という合成音声のキャラクターが、初心者向けにプログラミングやIT知識の解説をする技術系のチャンネルです。『REDIMPULZ Lab』はどちらかというと現役エンジニア向けですね。また最近ですと、『ガクセイハッカソン』というサービスを起ち上げ、初心者でも安心して参加できるハッカソン(※2)として7月から8月にかけて第1回目の開催を予定しています。

※1. 教育用やプロトタイプ作成向けの低価格でコンパクトなシングルボードコンピュータ。多用途に利用でき、プログラミングや電子工作に適している。

※2. プログラマーやデザイナーなどが集まり、短期間でアイデアを出し合いながらソフトウェアやハードウェアを開発するイベント。

レッドインパルスが手掛けるYoutubeチャンネル『ITぷらす』https://www.youtube.com/@it-plus/featured

悔しさをバネにハッカソン行脚。最後は最優秀賞を獲得

学生起業をされたとのことですが、起業に至るまでにはどのような経緯があったのでしょうか。

高橋:もともと電気通信大学の情報通信系の学生で、3年生まではバイトやサークル活動に明け暮れていました。最初のきっかけはハッカソンへの参加です。大学内でたまたま募集告知を見かけて、「就活にも有利になるかもしれないし、ちょっと出てみようかな」と参加しました。4人のチームで今のCTOの菊池もいたのですが、もう、全然ダメで。授業で学んだプログラミングだけではプロダクトは作れないんですね。自分たちの実力のなさを痛感しました。その悔しさから、その後、ハッカソンを見つけたらエントリーするということを続けていました。その結果、大学院1年生のときに、Yahoo! JAPANが開催する大学対抗のハッカソンで最優秀賞をいただくことができました。

そこではどのようなプロダクトを作ったのですか?

高橋:AED(※3)を有効活用したソリューションです。当時はIoTが世の中に広まりだしたころで、AEDをIoT化したプロダクトを作ろうと。具体的には、GPSを使ってAEDから位置情報を取得できるようにしました。例えば目の前で誰かが心肺停止になった際、弊社が開発したスマホアプリを使えば最寄りのAEDを探索してSOSを伝えられます。SOSを受け取ったAEDは、iBeaconというApple社が開発した近接通知システム、もしくはサイネージでAEDの近くにいる方に通知を行います。その通知に気づいた人が要救護者の位置情報を基に、速やかにAEDの運搬を行うことができるという仕組みです。倒れている人のそばからAEDを探しに行くと、戻ってくる時間と合わせて往復の時間がかかりますが、この方法だと片道で済むため時間短縮になるというメリットがあります。また、AEDがネットにつながっているので、普段はサイネージで広告を流すなどして有効活用もできます。

※3. AED(自動体外式除細動器)は、心臓が停止した際に電気ショックを与えて心拍を回復させる医療機器。電気ショックが1分遅れるごとに救命率は約10%ずつ低下する。使い方が簡単で一般市民でも使用でき、公共の場に設置されている。

そこからどういう流れで起業に至ったのでしょうか。

高橋:ハッカソンで作ったプロダクトを事業化できないかなと思い、その後、起業スクールに通ったんですね。そのときは就職も選択肢に入れていて、他の学生と差をつけるためにもちょっと他人とは違ったことをやってみたいという気持ちで、ハッカソンのチームで会社を起ち上げました。起業して分かったのは、アイデアを形にできても、そこからビジネスにつなげるのが難しいということ。ただ、ハッカソンでの実績があったからこそ、現在も事業の主力となっている受託開発の案件受注につながっていると思います。

ゴルフ事業を手掛ける企業と連携し新サービスを開発

これまで手掛けた案件の中から一つ紹介していただけますか?

高橋:ゴルフ場のマネジメントをしている企業からの相談を受けて、『HITORI de GOLF』という、一人でも気軽にゴルフ場を予約できるサービスを開発しました。ゴルフのコースは一般的に3~4人で回るじゃないですか。面倒な日程調整をしたり、仲間を集めたりするのは大変です。このサイトでは、ゴルフをしたい人同士をマッチングするサービスを提供しており、ゴルフ仲間を探している人に重宝されています。僕らは企画段階から入り、これまで様々な開発を手掛けてきた経験を生かして、システム設計などデザイン以外の開発をすべて担当しました。

ITツールを使えていない企業のDX

受託開発の他に、他社と協業して新サービスを起ち上げた経験はありますか?

高橋:そうした事例はまだないので、これから挑戦していきたいところではありますね。例えば、レベニューシェア(※4)のように、一緒にビジネスを伸ばしていくような、納品して終わりという受託の枠を超えたサービスに取組んでみたいです。

僕らは課題に対して「こういった技術を適用すれば効率化できるのでは」と提案するのが得意です。実は、株式会社カミナシという現場DXプラットフォームを手がける企業の創業期のプロダクトは弊社が開発を手がけました。ですから、情報を紙で管理しているような企業のDXなどは相性がいいと思います。食品工場など紙で情報管理している現場をたくさん見てきましたので、そうした経験に基づいた提案ができると自負しています。

※4. レベニューシェアは、複数の企業や個人が相互に協力して事業を行い、その事業から得られる収益(レベニュー)を分配(シェア)するビジネスモデル。各企業、個人の収益は事前に定めた「分配比率」を基に分配される。

大学発ベンチャーのメリットとは

御社は電気通信大学発のベンチャー企業としての一面もあります。大学発ベンチャーのメリットを教えていただけますか?

高橋:まず前提として、大学発ベンチャーにも二つのタイプがあります。一つは研究室や研究成果からスピンオフした、コア技術を持ったベンチャー。もう一つが、僕らのような学生ベンチャーです。後者のメリットとして実感するのは、営業をする際に興味を持ってもらいやすいという点でしょうか。オフィスの住所が電気通信大学の中にあるので、「大学に会社があるってどういうこと?」と会話のきっかけにもなりますしね。他には採用面でのメリットも感じます。電通大の学生さんがインターンやアルバイトで手伝ってくれたり、そこから新卒で入ってくれたりした方もいます。電通大の学生さんは企業からも人気がありますが、普段から優秀な学生と関わりを持っていれば弊社のような小さな会社でもその方を採用できることがあるので、メリットは大きいです。

働くなら多摩地域。高橋さんが感じる多摩の魅力

電気通信大学は調布に位置しています。多摩地域で事業をするメリットは感じますか?

高橋:人によって好みは異なりますが、私は緑や自然がある環境のほうがのびのびと仕事ができるし、都心があまり好きではない人にとっては多摩地域で働くメリットのほうが大きいのではないかと思います。それほど田舎じゃないですしね。打ち合わせで都心に出るにしても、調布から新宿なんてすぐです。コロナ禍を経て在宅勤務をする人が多くなりましたが、23区外のほうが家賃も安いですし、環境も良い。知り合いのエンジニアは調布や国立に住んでいますし、実は僕も東久留米にマイホームを買ったばかりです。場所にあまりとらわれない働き方をしている人にとって、多摩地域は魅力的な場所ではないでしょうか。

思い立ったその日から行動しよう

これから会社を起こしたいと考えている若い方に向けて、学生起業をした高橋さんから伝えたいことはありますか?

高橋:起業をするなら早いに越したことはないと思います。年を重ねるほど守りに入っていきがちですし、体力も落ちてきます。僕は学生時代の前半はアルバイトに明け暮れていましたが、あのときから会社を起こしていたらもっと違う未来があったのかもしれません。将来、起業を考えているのであれば、思い立ったその日から行動するのがよいのではないかなと思います。もちろん一度、就職するのもありだとは思います。実は僕も大学院を卒業後、レッドインパルスを離れてITコンサルの企業に就職しています。就職しないと得られない経験や人脈もありますから。今はそこで得た財産をレッドインパルスの経営に生かせていると思います。

会社情報

会社名 レッドインパルス株式会社
設立 2016年10月12日
本社所在地 東京都調布市調布ケ丘1丁目5-1 電気通信大学 西11号館 411号室
ウェブサイト https://redimpulz.com/
事業内容 システム開発支援/ITエンジニア育成

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