独自の水処理技術で畜産の現場を助けたい。親子2代に亙るあくなき挑戦 | 多摩イノベーションエコシステム促進事業
独自の水処理技術で畜産の現場を助けたい。親子2代に亙るあくなき挑戦

独自の水処理技術で畜産の現場を助けたい。親子2代に亙るあくなき挑戦

有限会社シューコーポレーション 惣川 修(代表取締役)、惣川 大地(取締役)

 本事業では、地域内外の中小企業・スタートアップや大企業、大学等が連携して、地域の課題解決を図るためのプロジェクトや、多様な主体が交流できる会員組織(コミュニティ)の立ち上げなど、イノベーション創出に向けた取組を進めています。このインタビュー連載では、多摩地域のイノベーションをリードする注目企業をご紹介することで、皆様に多摩地域の魅力を発信していきます。

 有限会社シューコーポレーションが開発・製造販売している水処理装置『BOリアクター』は、独自の鉱物セラミックスと特殊な水流を起こす構造によって、腐植(※1)が生成する水質環境を作ることができる特許装置です。『BOリアクター』を活用して「日本の畜産業を取り巻く環境を改善したい」と語る、創業者の惣川修代表取締役とご子息の惣川大地取締役に、事業へ懸ける思いについて話を伺いました。

※1. 腐植とは植物や動物の遺骸が土壌微生物によって分解されてできる有機物の総称。微生物の活動を促進し、有機物の分解を助けることで水質を改善する効果がある。

インタビューに答えていただいた惣川修氏(左)と惣川大地氏(右)

畜産事業者向けに水処理装置を展開

事業内容についてご紹介ください。

惣川大地:弊社は、畜産業の課題解決と持続可能性向上を目指し、弊社製品の『BOリアクター』を活用した『バイオ飲水プラント』と『バイオ液肥プラント』を畜産事業者の皆様に提案しています。『バイオ飲水プラント』は、家畜用飲水の貯水槽内に『BOリアクター』を設置し曝気(※2)することで、水質を改善する仕組みです。この水質改善により、家畜の悪臭が軽減されるだけでなく、健康増進や生育促進にも顕著な効果が見られます。一方、『バイオ液肥プラント』は、家畜のし尿槽内に『BOリアクター』を設置して曝気することで、し尿成分を分解し、高品質なバイオ液肥として再資源化することができる仕組みです。これにより、廃棄物の削減と同時に、持続可能な農業資源の創出を実現することができます。いずれの仕組みも基本的に『BOリアクター』を既にある貯水槽に設置するだけなので導入が非常にしやすく、メンテナンスも容易であることが特長です。これにより、初期投資を抑えつつ、運用コストも大幅に削減することが可能となります。

弊社は、日本の食料自給率向上には畜産業の発展と有畜農業の推進が不可欠だと考えています。この信念のもと、衰退傾向にある日本の畜産業を、環境に優しく、効率的で魅力ある産業へと変革することを使命としています。私たちの技術が、畜産業の未来を切り開き、持続可能な食料生産システムの構築に貢献できると確信して事業を展開しています。

※2. 水に酸素を送り込む浄水処理工程の一種

水槽外のブロワから円筒構造の『BOリアクター』を通して空気を吹き上げ、水槽内部の水を循環させる

林先生の教えに従い、内水博士の理論を実践

惣川代表はもともと、映像業界でドキュメンタリーを制作していたそうですが、なぜまったくの異業種から転向されたのでしょうか。

惣川修:皆さんそうおっしゃるんですが、私には異業種に移ったという感覚がないんですね。ドキュメンタリーを撮っていたときは、「地球上で人間が生きている意味」が自分のテーマで、自然や教育、農薬問題、ゴミ問題などを扱った作品を制作していました。そうした日々の取材活動の中で、腐植物質による土壌生成理論を提唱した内水護(ウチミズマモル)博士(※3)に出会ってね。かつて、豊かな土壌によって育まれた日本の水は、世界中の船員たちから「赤道を越えても腐らない水」として評判になるくらいきれいだった。ですが、明治以降の日本は水ができる自然の仕組みを壊し続けてきた。時代とともに広葉樹林が杉や松などの針葉樹林に、堆肥は化学肥料に取って代わられた結果、日本の土は土壌菌の層が破壊され、水が壊れてしまった。だから、内水先生の理論を実践すれば、日本の水をかつての姿に戻すことができるのではないかと思い至り、この事業を始めたわけです。

※3. 東京大学出身の内水護博士は、日本の土壌学者であり、腐植物質による土壌生成理論(通称・内水理論)を提唱した。内水博士は、腐植物質の存在により土壌は自然のフィルターとして機能し、水質浄化において重要な役割を果たしていると解説している。

とはいえ、まったく未経験の分野でもあります。なぜ、ご自身で実践しようと思ったのでしょうか。

惣川修:林竹二(ハヤシタケジ)(※4)という宮城教育大学の学長を務めた先生の影響が大きかった。内水博士に会う10年前に、林先生のドキュメンタリー映画を制作していたのですが、僕は先生にすっかり魅了されてしまい、その後ずっと尊敬し私淑していたんですね。林先生からはいろいろなことを教わりましたが、特に心に刻まれたのは「学んだことの証しは、唯一、変わることである」ということ。いくら「分かった」と思っても自分が変わらなければ学んだことにならない。10年後に、内水先生に出会い、日本の水が壊れている、蘇らせなければならないと「学んだ」のだから、「やらなければならない」となったのは自然な流れだった。とはいえ、簡単じゃない。だって当時は何にも技術がないわけだから。

※4. 林竹二(東北大学名誉教授、宮城教育大学学長)は、日本の教育学者で教育哲学や道徳教育の分野で知られる。教育の本質と人格形成を重視し、多くの著作を残し、教育現場での実践にも貢献した。

ある要素の組み合わせでブレイクスルーを果たす

『BOリアクター』の開発にはどのくらいの時間がかかったのでしょうか。

惣川修:約15年かな。もともと火山岩は土壌改善に効果があると分かっていたので、最初は腐植や自然石を使っていたのですが、途中で日本の法律が変わり飲水の処理をする機械の中に自然石や土を入れてはいけなくなった。そこで活性炭やセラミックを試したのだけど、どうも効果が限定的だった。なんとかこの状況を打破しなければと試行錯誤を繰り返すなかで、たどりついたのが、シリカと角閃石を独自の方法で焼結したセラミックと特殊な水流を生み出すプレート弁の組み合わせだったのです。

どうやってその組み合わせがひらめいたのでしょうか。

惣川修:思い出せない(笑)。いくつものひらめきと試行錯誤の末としか言い表せません。

惣川大地:いずれにしても、この組み合わせが一番のブレイクスルーでした。このセラミックも特別な作りで、角閃石とシリカパウダーを粘土で固めて、1300度の炉で焼いたものです。

惣川修:よくあるセラミック型の浄水器は800度から1000度で焼いているのですが、その温度だと汚れを吸着してしまって、使っているうちに効果が減ってしまう。でも1300度で焼くと、割れない限りは半永久的に使えます。弊社のセラミックは数珠状にするために穴を開けており、普通にこれを1300度で焼くと割れてしまうのですが、弊社独自の焼き方でそれを防いでいます。実は、この焼き方は特許を取っていないんです。焼き方のノウハウがバレちゃうからね。それで、ようやく完成したと思ったら、俺も随分と年を取ってきていて、そんな時、息子がこれを引き継ぎたいと言ってくれました。

数珠状につながれたセラミックと特殊な水流を生むプレートを組み合わせて円筒構造の『BOリアクター』は作られている

大地さんの意識を変えた、ある養豚業者のエピソード

なぜ跡を継ぎたいと? それまでどのようなお仕事をされていたのですか?

惣川大地:私は大学を卒業してからはずっとIT業界で働いていたのですが、その間父の会社のことは「得体の知れない商売をしている会社」くらいにしか思っていなかったんです。しかし、コロナ禍をきっかけに自分自身の生き方を見つめ直す機会がありまして、そんな中、母から「父の会社が資金繰りに苦しんでいる」という話を聞かされたんです。「土地と家を売って会社を清算しようと思っている」と言われたとき、これは自分が何とかしなければならないと思いました。

ただこの時点では「とりあえずやる」という感じで、正直、この装置や事業にはあまり魅力を感じていませんでした。そんな私の考えをガラッと変えてくれたのが、弊社の製品を導入いただいているある養豚業者様に伺ったお話でした。

その養豚業者の方は、配合飼料ではなく食物残渣を使って豚を育てるこだわりを持たれているのですが、20年間いろいろな取り組みをしても、飼料の腐敗臭や糞尿の臭いが強く、近隣住民からの苦情に悩まされていたそうです。行政からの悪臭苦情に関する電話を受ける度に、近隣住民に迷惑をかけているという申し訳ないという気持ちで、どうにかしたいと試行錯誤を繰り返されていたとのことでした。

そんな中、あるきっかけで弊社の装置を導入したところ、なんと半年も経たないうちに、周囲の住民の方から「もう養豚業はやめてしまったのですか?」と言われるほど、臭いの問題が解決したそうなんです。この話を聞いて、父が開発したこの装置が持つ大きな意義と可能性に気づかされました。

沖縄県と連携し実証実験に成功

現在はどのようなところから引き合いがあるのでしょうか。

惣川修:畜産が盛んな鹿児島県の曽於市から依頼があり、市が運営する南九州畜産獣医学拠点という施設に『バイオ飲水プラント』を導入してもらいました。他にも展示会に参加したことをきっかけにある商社に興味を持っていただき、インドの酪農会社への展開を模索してもらっています。牛乳には乳腺組織から剥離した体細胞が含まれていて、日本では1mlあたり20~30万個以下が基準と言われています。牛の健康状態が悪いと体細胞数が基準値を超えてしまい、出荷価格にペナルティが課されてしまうのですが、飲水を改善することでその数値を大きく低減できる。その実証実験を24年7月から8月の間にインドで行う予定です。

惣川大地:実は一足先に沖縄県の実証実験プラットフォームを活用して沖縄県の酪農業者に装置を導入してもらい、今年の4月から約2カ月間での体細胞数の変化を計ったんです。すると、もともと平均で21万から23万だった値が、1カ月経ったころから急激に減り始め、2カ月で6万~8万まで減少しました。ちなみに、日本では10万以下は最上級の基準と定められています。牛乳の生産量世界一の国であるインドでも同様の結果が出れば、大規模に導入してもらう道が開けるかもしれません。

たま未来産業フェアがベトナム進出への足掛かりに

今年のたま未来・産業フェアに出展されていますが、そこでの収穫はありましたか?

惣川大地:懇親会で知り合った方がベトナムの商社とつながりがあり、紹介してくれました。ベトナムは日本以上に畜産現場における課題が多いそうで、すぐに弊社の装置に興味を持っていただき、現地の畜産業者に翻訳した資料をたくさん配布してくれたんです。ただ、ベトナムではまだ実証データがないため新規での参入は難しいかなと思っていたところ、ちょうど今週、弊社の製品を試してみたいという養鶏場が見つかり、これからテスト導入することになりました。展示会に出展しなければベトナムとのつながりもできなかったので、出展して良かったですね。

この技術で世界を変えたい

最後に今後の目標をお聞かせください。

惣川修:僕はどうしても日本の畜産の現場を助けたい。畜産業者の可処分所得を増やすことで、汚くてなかなか儲からない仕事というイメージを覆すのが最大の目標です。

惣川大地:若い人たちがやってみたいと思うような産業にしていくための起爆剤になりたいですね。もう一つの目標が、東南アジアやインドへの進出です。弊社の装置はコンパクトでリーズナブルに設置できるのも特長です。日本より環境が悪く、かつ投資金額も限られているような東南アジアやインドでもこの技術を活用してもらいたい。シューコーポレーションを、世界を変えることができる会社にしていきたいです。

会社情報

会社名 有限会社シューコーポレーション
設立 1990年4月10日
本社所在地 東京都狛江市中和泉3-26-1
ウェブサイト https://www.mizutukuri.co.jp/
事業内容 独自技術による水処理装置の製造販売

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