本事業では、地域内外の中小企業・スタートアップや大企業、大学等が連携して、地域の課題解決を図るためのプロジェクトや、多様な主体が交流できる会員組織(コミュニティ)の立ち上げなど、イノベーション創出に向けた取組を進めています。このインタビュー連載では、多摩地域のイノベーションをリードする注目企業をご紹介することで、皆様に多摩地域の魅力を発信していきます。
株式会社wevetは獣医学部を目指す受験生向けサービスを手掛けるベンチャー企業です。獣医師の資格を持つ代表取締役の上井登志之氏は、学生時代に株式会社wevetを起ち上げ、卒業後は株式会社ガイアックスでDAO事業部のコンサルティングディレクターとしても活躍。現在は経営者、ディレクター、獣医師の3つの顔を持っています。異色の経歴を持つ若手起業家に、起業の経緯や事業内容について詳しく話を聞きました。
小学6年生で獣医師を志す
- 獣医師を目指したのはいつからですか?
上井:子どものころから動物が好きでした。将来は動物園で働きたいと家族に相談したところ、「獣医師なら動物園でも働けるし、動物関係の仕事をする上で選択肢が広がるのでは?」と勧められ、小学6年生のころから獣医師を目指すようになりました。動物の生態はとても奥深く、興味が尽きません。また動物が人の心に与える影響にも昔から関心を持っていました。こうした思いから、高校卒業後は東京農工大学の獣医学部に進学しました。
インターン時代の経験から起業家に転向
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- その後、株式会社wevetを学生起業されています。大学時代にどのような心境の変化があったのでしょうか?
上井:新型コロナウイルス感染症拡大の影響で、大学3年生のときに学校に通えなかった時期が1年間続いたんです。その頃はちょうど卒業後の進路を考える時期でもあったので、ペット関連のベンチャー企業で1年ほどインターンとして働くことにしました。まさに修行のような毎日でした。
その会社は、後継者のいない院長から動物病院を買い取り、若手の獣医師に引き継いでもらい経営効率を上げるというビジネスモデルでした。私は入ってわずか2週間ほどで、沖縄の病院の立て直しに派遣され、2,000件ほどのカルテに記載されたお客様にひたすら電話をかけ続けました。動物病院で営業をするなんて聞いたことないですよね。その後もいくつかの動物病院の事業承継後の立ち上げを受け持ち、いわゆるPMIと言われる統合のために必要な業務改善を行いました。激務でしたが、この経験を通じて「ビジネスは面白いな」と感じ、商売の肌感覚もなんとなく掴んだ気がしました。そこで、学生のほうがリスクを取れると思い、自分で事業を起こすことを決意し、まずは会社を設立しました。
様々な事業を起ち上げ、ほとんどが失敗
- 会社を作るのが先だったのですか? 今の事業の構想はそのあとに考えたのでしょうか?
上井:そうです。最初は具体的な構想もなく、とにかく会社を登記しました。会社新設後、7つほど事業を立ち上げましたが、そのほとんどはうまくいきませんでした。例えば、沖縄から仕入れたトゲオオハリアリを育成し販売する事業です。需要はあったのですが、生産が追い付かず、限界を感じてやめました。いくつもの事業を試みる中で、成功したのが獣医学部を目指す受験生向けの教育事業『ベレクト』です。この事業が軌道に乗り、現在に至っています。
自らの経験を基に始めた事業が軌道に乗る
- 『ベレクト』について詳しく教えていだけますか?
上井:『ベレクト』は獣医学部に入りたい受験生向けの、オンライン個別指導塾です。この事業を始めたのは、自分が受験で苦労した経験があったからです。獣医学部は医学部と比べて受験情報が非常に少なく、私も受験の際はとても苦労しました。
『ベレクト』の講師は全員、現役の獣医学生で、獣医学部がある全17大学の学生が所属しています。自分が目指す大学の講師から指導を受けられる点が強みです。その他の特徴として、授業がない時間の勉強効率を最大化するため、講師が学習計画を作り、進捗を随時チェックできる体制を整えています。また推薦入試の対策も充実させています。
今年はすでに塾生が100名を超えており、『ベレクト』は弊社の中心事業に成長しました。現在、メンバーの大半がこの事業に携わっています。
獣医師×マーケティングの組み合わせを生かした『ペトプロ』
- ベレクトの他にはどのような事業を行っているのでしょうか。
上井:昨年11月に立ち上げた『ペトプロ』という、ペット業界に参入したい企業向けのコンサルティング事業を行っています。いくつか事例を紹介します。葬儀や法要で出す料理を提供している企業がドッグランを作ることになり、同時に冷凍ペットフードを開発したいと相談がありました。弊社のメンバーにペットフーディストの資格を持つ獣医師が在籍していますので、レシピの監修と制作を請け負い、受託から約2カ月経った現在、先方と連携して試作品を作る段階まで進んでいます。その他、千葉県銚子市のサメ加工食品メーカーから余ったヒレを使ったペット用ジャーキーを作りたいと依頼があったり、IT企業からはペット関連デバイスの監修の打診があったりと、様々な業種からお声がけいただいています。
マーケティングの知見もある獣医師はペット業界では珍しい存在ですので、他業界とペット業界の橋渡し役として、市場全体の拡大に貢献できればと考えています。ただ、先ほど例に挙げた企業のように、自前の食品工場やドッグランのような販売チャネルを持っている場合は良いのですが、ゼロからのスタートだと、参入は難しいのが現状です。時には参入を見送るアドバイスをすることもあります。こうした参入の是非も含めて、クライアントとお話しさせていただいています。
新卒でガイアックスに入社した理由
- 上井様は自ら事業を行いながら、一方で上場企業である株式会社ガイアックスでも業務に取り組まれています。なぜでしょうか。
上井:インターンや起業を通じて、自分の成功パターンは「外で学んだことを自分の事業に活かすこと」だと気づきました。そこで、新しいインプットを得られる環境を確保したいなと考えるようになりました。この会社には私同様に、起業家でもあるメンバーが多く在籍しています。
- ガイアックスでの業務内容は?
上井:ガイアックスは起業家を連続的に輩出するスタートアップスタジオで、ソーシャルメディアとシェアリングエコノミー領域、web3・DAO(※1)を用いた事業を展開しています。私はweb3の部署でDAOという次世代型組織を基盤にしたビジネスを展開しています。DAOの代表的な例としてはビットコインがありますが、Uber Eatsのような、プラットフォームとしての仕組みが中央にあり、個人の配達パートナーがそれを利用する形で自動的にビジネスが回る事業はDAO的なビジネスモデルだと言えるでしょう。
※1. DAO(Decentralized Autonomous Organization)とは、「自律分散型組織」を指す。ブロックチェーン技術を基盤として運営される組織であり、従来の中央集権的な管理者や指導者を必要とせず、スマートコントラクトという自動実行されるプログラムを使って組織のルールや意思決定プロセスを実行する。DAOは、様々な分野で活用されており、例えば、DeFi(分散型金融)プロジェクトや、共同で資産を管理したり、特定のプロジェクトに投資するためのコミュニティ運営などがその代表例。
- ガイアックス社とwevetの経営との間でシナジーはありますか?
上井:自分でもそれを見つけたいなと思っているのですが、何かありますかね(笑)。
最近考えているのは、持続可能なビジネスモデルであること(社会的に中長期でポジティブな影響があること)、身近な人に勧められるサービスであること、の2つの軸を意識することで、起業家としての豊かさにつながるのではないかと思っています。そういう意味では、ガイアックスで行っているDAOには大きな可能性があると感じています。例えば、ペットの里親会などは、DAO的な仕組みで運営されているところがあり、親和性が高い分野だと思います。さらにベレクトには、学生の幹部メンバーも在籍しており、裁量権を持って稼働しています。かなり活き活きと仕事をしており、メンバーの雰囲気がとても良いと感じています。このような組織運営の文脈でも、DAOの考え方は十分に生かせるのではないでしょうか。
実は先祖代々続いている多摩地域とのつながり
- 上井様は長野県のご出身とのことですが、多摩地域との関わりは大学時代から?
上井:そうですね。ちなみに、私の父も祖父も農工大の出身で、曽祖父は農工大の前身である東京大学農学部を卒業しているため、4代に渡って多摩地域とは縁があります。「上井家の歴史は多摩とともにある」と言っても過言ではないです(笑)。
多摩地域は大学が多いですよね。農工大も最近では起業する学生を応援する動きが出てきていますが、もっと産学連携が強化されてもいいと思います。能力に差があるわけではなく、単純に機会が少ないだけだと思います。だからこそ、多摩地域の学生が気軽にアクセスできるような、立川のTOKYO創業ステーションTAMAのような施設がもっとあるといいですよね。いっそのこと、「多摩起業DAO」でも作りましょうか(笑)。
会社情報
会社名 | 株式会社wevet |
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設立 | 2021年1月28日 |
本社所在地 | 東京都小金井市梶野町1-2-36 |
ウェブサイト | https://wevet.co.jp/ |
事業内容 | 学習塾の運営/コンサルティング |