地域の困りごとは地域の中で解決する。小さな創業を支援する地域のプラットフォーム
株式会社タウンキッチン
代表取締役 北池 智一郎

本事業では、地域内外の中小企業・スタートアップや大企業、大学等が連携して、地域の課題解決を図るためのプロジェクトや、多様な主体が交流できる会員組織(コミュニティ)の立ち上げなど、イノベーション創出に向けた取組を進めています。このインタビュー連載では、多摩地域のイノベーションをリードする注目企業をご紹介することで、皆様に多摩地域の魅力を発信していきます。
株式会社タウンキッチンは、シェアオフィスやシェアキッチンなどの創業支援施設を運営し、誰もが自分のアイデアを形にできる「アイデアを育てるプラットフォーム」を提供しています。地域に暮らす人々に寄り添う事業を立ち上げた背景には、どのような思いがあったのか。代表取締役の北池智一郎氏に、現在の事業内容についてお話を伺いました。
網の目からこぼれ落ちてしまう小さな課題を解決する
- 御社の主力事業は?
北池:創業支援施設の運営です。シェアオフィスやシェアキッチンなど、多様な施設を企画・運営しています。大手企業でも行政サービスでもカバーしきれない、網の目からこぼれてしまうような課題はどうしてもありますよね。そのような課題に対しては「こういうサービスがあったらいいな」と気づいた人たちが、当事者となって自分のアイデアで動くしかないんです。だから、地域でそうした困りごとを解決する人を増やしたいなと考えました。100人がそれぞれサービスを作って動ければ、少なくとも100通りの困りごとが解決されるじゃないですか。社会が多様化していくなかで、困りごとはどんどん増えていきます。地域の中でそれを解決していく仕組みを作ることが、私がやりたいことに一番近いと感じたんです。
これまでは創業と言うと、IPOを目指すというイメージが一般的でしたが、「身の丈に合わせた小商い」も立派な創業だと思ったんです。特に多摩地域のような場所では、地に足をつけて、小さくても粘り強く続けていくような起業を応援したいと考えました。現在、東小金井駅そばの高架下にある『コウカシタ・ヒガコインキュベーション』(創業支援施設『KO-TO』『PO-TO』『MA-TO』の総称)では合計150~160社ほど、他にも川崎、西東京、小平、武蔵野、立川、稲城、京都、大阪にある施設をあわせると、全国に330社以上にご利用いただいています。

食の小商いをはじめ、認知症患者の家族向けサービスで起業した方も
- 実際に、どのような分野で起業される方が多いでしょうか。
北池:弊社が事業を展開している郊外は、人がたくさん住んでいる分、子どものいる家族も多いし高齢者も多い。主婦の方がシェアキッチンで空いた時間にフードビジネスを始めたり、都心から離れて家のそばでキャリアを活かして出版事業やアパレル事業を始めたり、子どもが集まる教室を開いたり、子育てや福祉の領域で挑戦したり、様々な分野で起業される方がいます。ほかにも、弊社のシェアオフィスで認知症をテーマに事業に取り組んでいる方は、認知症になった人の家族を支えるサービスはほとんどないという経験から、どこでどんな手続きをしたらいいのか、どういう相談窓口があるのか、その後の相続まで必要な情報を一冊にまとめた「介護者手帳」を作り、困ったときの道しるべを提供されていました。私たちはこうした「地域の困りごとを解決したい」「暮らしのそばで仕事をつくりたい」などの思いを持つ小さな創業者を施設運営を通して支援しています。
事業の鍵は長期的視点を持つ鉄道会社との連携
- 鉄道会社と連携して、駅から少し離れた高架下のスペースを創業支援施設としてうまく活用されていますが、その狙いを教えてください。
北池:駅前のような賃料が高い場所では、坪単価で高い利益を生む業態を入れないと、全体の収支が合いません。また、駅から少し離れた「駅間」と呼ばれる使い勝手が比較的悪い高架下を、単純に駐車場にしてしまうのが正解かというと、それも違うと思います。
これからビジネスを始めたい人にとって、高い賃料のオフィスは必ずしも必要ではありません。高架下の空きキャパシティを活かして、シェアキッチンやシェアオフィスなどの創業支援施設を開設すれば、まちにユニークなお店や事業者が集まります。鉄道会社にとって、沿線地域に魅力的な場所を作ることは、沿線全体の価値を高め、「選ばれるまち」につながりますので、こうした施設の開設は、30年、50年先の地域の魅力を維持するための先行投資と言えるでしょう。現在お付き合いしている鉄道会社は、この考え方を理解してくださり、スムーズにプロジェクトを進められています。私たちは施設を運営する仕組みやノウハウを持っていますが、それを実現するためには、地元に深く長くコミットするプレーヤーが欠かせません。鉄道会社のように、その土地と長期的に関わる企業と一緒に取り組めるかどうかが、私たちの事業の成否を分けるポイントだと考えています。

20年後を見据えた新たなサービスの開発
- 最後に、今後の目標を教えてください。
北池:実は特にこれといった目標はないんですよね。事業計画とか中長期目標も作ってないです。私は起業する前はコンサルティング会社に勤めクライアントの計画策定を支援していましたが、いまは「必ずしも作る必要はない」と思ってます。計画を作っても、例えばコロナのようなことが起きたら、全部ひっくり返るじゃないですか。だから、なるようにしかならないし、成すがままに、というスタンスなんです。
ただ、大きな方向性として思っていることはあります。「うちのまちでもこういうのやりたいのだけど、自分たちにノウハウがない。でも場所はあるから、一緒にやりませんか?」とお声がけいただいたときに、面白そうだなとか、私たちも一緒にやりたいなと思えるなら、小金井を中心にやっているこの事業フォーマットを広げていければと考えています。
また、現在行っている創業支援のフォーマット自体も、10年20年経ったら陳腐化するだろうなと考えています。だからこそ、新しい分野やサービスの研究開発は続けていきたいと思っています。小金井は私たちの基盤なので、ある意味「実験場」みたいなものです。稼げるかどうか分からないからやらない、というのではなく、稼げるか分からないけど「地域に必要だ」と思えることはここでやってみる。もしそれが形になって、「うちのまちでもやりたい」と言ってくれる人がいれば、それを他の場所に展開するのもいいかなと思っています。直近で特に関心があるのは、空き家問題です。これまでも取り組んできましたが、空き家問題の解決はまだまだ難しい部分が多い。いろいろな法的な壁もあって、まさに難解なパズルです。でも、だからこそチャレンジする価値があると思っています。このテーマについては、引き続き取り組んでいきたいですね。
会社情報
会社名 | 株式会社タウンキッチン |
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設立 | 2010年7月28日 |
本社所在地 | 東京都小金井市梶野町1-2-36 |
ウェブサイト | https://town-kitchen.com/ |
事業内容 | 創業支援/施設運営/不動産/メディア |