科学技術への興味が原動力。30年以上続く国分寺のソフトウェア企業 | 多摩イノベーションエコシステム促進事業
科学技術への興味が原動力。30年以上続く国分寺のソフトウェア企業

科学技術への興味が原動力。30年以上続く国分寺のソフトウェア企業

株式会社カイ 代表取締役 堀澤 知義

 本事業では、地域内外の中小企業・スタートアップや大企業、大学等が連携して、地域の課題解決を図るためのプロジェクトや、多様な主体が交流できる会員組織(コミュニティ)の立ち上げなど、イノベーション創出に向けた取組を進めています。このインタビュー連載では、多摩地域のイノベーションをリードする注目企業をご紹介することで、皆様に多摩地域の魅力を発信していきます。

 株式会社カイは、医療や科学技術という領域に特化しながら、国分寺市で30年以上もソフトウェア事業を続けている企業です。社員数は16人と少数精鋭ながら、最先端の技術を用いたプロジェクトをいくつも進めています。「科学技術というテーマへの純粋な興味が経営の原動力」と言う代表取締役の堀澤知義氏に、現在進めている代表的なプロジェクトについて、話を聞きました。

インタビューに答えていただいた堀澤知義代表取締役

大学や企業と連携して様々なプロジェクトを推進

御社の事業概要を教えてください。

堀澤:弊社は、医療と科学技術に特化したソフトウェア、ITおよび業務系システムの開発を行う企業です。設立以来、ロボット動作制御ソフトや画像処理技術、3次元表示ソフト、人工知能、データベース管理システム(DBMS)、インターネット技術といった分野に注力してきました。現在は科学技術とAIを中心とした分野に注力しています。売上としては企業からの受託案件の占める割合が多いですが、弊社の特徴としては、大学や企業と連携して、遺伝子解析や病理画像解析、工業関連など様々なプロジェクトを進めていることが挙げられます。

客先で出会った仲間と共に会社を興す

1991年に株式会社カイを設立されていますが、事業を立ち上げた経緯を教えてください。

堀澤:以前はソフトウェアの開発会社で働いていましたが、そこでは主に業務系のプロジェクトが多く、私の関心は科学技術系のプログラミングに向いていました。大学で数学を専攻していたこともあり、科学技術分野への興味が強かったのです。この会社は、私が30代前半の時に担当していた、東芝の原子力研究所のプロジェクトで出会った方と共同で事業を始めたのがきっかけで設立しました。

AIの時代だからこそ、自分の頭で考えることが大事

企業理念として掲げる「LOVE THINKING」が印象的です。

堀澤:私たちは、特に現代のAIの時代において、「LOVE THINKING-考えることを愛せ」という企業理念は非常に重要だと考えています。AIは大量のデータを学習して確率に基づいた答えを導き出しますが、それをそのまま受け入れるのは危険です。AIに頼り過ぎると、批判的な思考が欠如し、本来の問題解決能力が低下する恐れがあると考えています。特に、これからの時代を生き抜くためには、私たち一人ひとりが疑問を持ち、常に考え続ける姿勢が必要です。単純にAIの結果を受け入れるのではなく、その背後にある原理やロジックを理解し、適切に疑問を投げかけることが、これからの時代を生きる上での鍵となるでしょう。

約30年も続いている単一疾患遺伝病のデータベース

代表的なプロジェクトを教えていただけますか?

堀澤:まず、遺伝子解析のプロジェクトについて説明します。慶応義塾大学と浜松医科大学に弊社が協力をし、ヒトゲノム解読の第一人者である慶応義塾大学の故・清水信義教授のもとで、1995年に単一疾患遺伝病のデータベース『MutationView』を作成しました。このデータベースでは、遺伝子の変異と先天的な遺伝子病との関連性について視覚的にわかりやすく示したものを閲覧できます。遺伝子変異が病気を引き起こすのかどうかを判断するための重要な情報などを、研究者に提供することがこのデータベースの目的です。

 清水先生との連携ができたことにより、このデータベース開発や運用に携わることになりました。30年ほど前、まだ、弊社メンバーが3人のとき、国の予算を色々な研究機関に割り振って入札をする話が出ていました。そこに慶応義塾大学の清水先生のお名前があり、弊社メンバー3人で訪問することにしました。押しかけるような形だったのにも関わらず、気に入っていただきその後、お仕事をさせていただけることになりました。

 このデータベースは、遺伝子そのものの解明にも寄与する重要なリソースであり、現在は浜松医科大学の協力のもとで更新を継続しています。浜松医科大学からの科研費による資金提供の下、弊社がデータ収集を行うとともに本データベースの機能を改良しています。今後、遺伝子診断の研究がさらに進めば、約30年もの間、積み上げてきたこのデータベースは重要な役割を担うはずです。

AIで大腸がんの再発可能性を判定

国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)と共同で、病理画像解析のプロジェクトを行っていると伺いました。

堀澤:大腸がんの再発予測ができる「AIコンパニオン最適治療システム」の開発を行っています。通常、病理画像解析は病理医が行いますが、人間の目では見落とすリスクがありますし、日本の病理医の不足は今や社会課題となっています。そうした現状の課題を解決するために、AIでがんの再発可能性のある・なしを判定するシステムを開発しました。通常大腸がんの再発可能性の判断は、手術をした際に取り出したがんの病理検体を病理医の先生が顕微鏡で観察した結果に基づき行っています。このシステムでは、術後5年以内に再発した、再発しなかった患者のがんの病理検体の画像を多数学習し、新たな大腸がん患者のがん病理検体の画像を読み込ませることで、術後5年以内でのがんの再発可能性があるかを判断します。がんの再発可能性がないと判断された患者さんは、再発リスクが低い状態で身体的負荷のある抗がん剤治療を行わないという選択を取ることが可能です。そのような患者さんはQOL(生活の質)が上がるだけではなく、金銭的負担の低減もできます。現在、開発したAIは約400万枚の画像を学習しており、テストデータを90%以上の精度で評価できています。NEDOさんのような国内外の様々なプロジェクトに参画している団体ならではの課題に対する取り組み方や、情報量の多さなど、普段弊社だけで行う事業では携われない経験をしました。社会課題は多面的な要素が絡み合って課題となっているケースがほとんどです。一社だけではすべての要素の解決を行うことはできませんが、今回のように別の事業体や、複数のステークホルダと同じ社会課題解決に向かうことで、解決できる社会課題は多いと感じました。

AIの画像判断により視覚的にがんの再発あり・なしが分かるようになっている。テストデータでは90%以上の精度を誇る

鹿島建設と共同で“現場で使えるAI”を開発

民間企業との協業についても教えてください。

堀澤:ゼネコン大手の鹿島建設株式会社と協力し、建設現場で生コンクリートの硬さを測定する技術の開発を進めています。現在、生コンクリートの輸送において品質を簡易に管理する技術が存在せず、主に作業者の経験に依存して生コンクリートを建設現場まで輸送しています。現場まで輸送した後、業界で定められた品質基準テストを行うのですが、せっかく運搬したのにも関わらず、テストをクリアできず生コンクリートが使用できないことがありました。この問題に対して弊社は、パソコン上で開発したAIを用いた画像解析システムを、今回は持ち運び可能な端末で全ての処理が行えるように開発することで、解決しようとしています。この機械は電源不要で、現場での使用が容易です。弊社は特にFPGA(Field-Programmable Gate Array)という種類のICチップを用いて、作業現場にAIを導入し迅速に判断、行動できるシステムの開発に注力しています。FPGAは目的の機能に特化した設計をあらかじめ施してあるため、他のCPUなどのハードウェアで行うのに比べて、目的の処理作業を高効率に行うことができます。本技術を用いて、工事現場に向かう輸送中における生コンクリートの品質を安定化させることを目指しています。この小型化した技術を現場で用いるという方向性は、弊社の戦略として積極的に推進していく予定です。

持ち運び可能な「現場で使えるAI」
他社や大学などと協業するにあたって重要なことは何でしょうか?

堀澤:我々の得意とする分野は、AIの技術を用いたソフトウェアの開発です。そのため、例えば画像解析のようなAIの技術を使ったプロジェクトでは、提携先からデータを提供してもらうことが不可欠です。高度なAI技術を有していても、実際のデータがなければ有効なシステムを開発することはできません。提携先から提供されるデータとそれに伴う情報は、私たちの仕事にとって極めて重要です。

科学技術領域への尽きない興味

30年以上も事業を続けていらっしゃるなかで、堀澤様のモチベーションや原動力となっていることは何でしょうか?

堀澤:会社を設立した当時から、「自分たちの製品を作りたい」という思いは一貫しています。会社を経営する上ではお金が必要ですから、もちろん受託案件も行っていますが、NEDOの助成金を活用するなどして、自社製品の開発を増やしていきたいと考えています。あとは何と言っても、弊社が扱っている科学技術というテーマへの純粋な興味です。それは設立から30年経っても変わりません。遺伝子関連やがん治療など、最先端の技術に触れられますし、専門家の先生方からいろいろな学びを得ることができます。

 また、科学技術の分野では、通常多くの時間を費やし、繰り返し実験を行うことで新たな発見に到達することが一般的です。しかし、コンピューターサイエンスを利用することで、従来の方法では見つけられなかった新しい事実を発見する可能性があります。このようなアプローチが成功したら、やはり純粋に「楽しい」ですよね。

子どものころから慣れ親しんだ国分寺という土地

御社と多摩地域との関わりについて伺います。国分寺が拠点となっている経緯を教えてください。

堀澤:父親が国分寺に家を建てたのがきっかけで、小学生のころから国分寺に住んでいました。30代前半まで国分寺にいたものですから、慣れ親しんだ土地で事業をやろうと思いました。国分寺は都心から近いにもかかわらず、雑木林や畑が残るなど自然が豊かで、落ち着いた雰囲気が魅力です。特に殿ヶ谷庭園やお鷹の道は、私のお気に入りの場所です。

今後の目標は?

堀澤:現在、鹿島建設株式会社と共同で進めているプロジェクトである、生コンクリートの性状判定技術を事業化していくことです。これが成功を収められれば、様々な分野に「現場で活用できるAI技術」を展開していきたいと考えています。

会社情報

会社名 株式会社カイ
設立 1991年2月
本社所在地 東京都国分寺市本町2-7-5 明星ビル302
ウェブサイト https://www.chi.co.jp/
事業内容 医療・科学技術系ソフトウェア開発/AI・機械学習・画像処理等のコンサルティング/IT・業務系システムの開発/医療書籍企画販売

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