未来を見据えてアウトドアブランドを展開する、板金加工の町工場
有限会社小沢製作所
代表取締役社長 小沢 達史

本事業では、地域内外の中小企業・スタートアップや大企業、大学等が連携して、地域の課題解決を図るためのプロジェクトや、多様な主体が交流できる会員組織(コミュニティ)の立ち上げなど、イノベーション創出に向けた取組を進めています。このインタビュー連載では、多摩地域のイノベーションをリードする注目企業をご紹介することで、皆様に多摩地域の魅力を発信していきます。
有限会社小沢製作所は精密板金部品の製造を専門とする企業で、特定のメーカーに依存しない「板金屋のための板金屋」という戦略を採って、事業を展開しています。また、自社製品のアウトドアブランド「OZOPS」を展開し、BtoC事業にも積極的に取り組んでいます。2019年に三代目として事業を継承した、代表取締役社長の小沢達史氏に、現在の事業内容について詳しく伺いました。
多彩な経験を経て、家業を継ぐ
- 小沢様の経歴を拝見すると、東京薬科大学を卒業後、米国ロングアイランド大学に留学しMBAを修了。その後、IT企業でエンジニアとしてご活躍されるなど、非常にユニークなご経験をお持ちです。小沢製作所を事業継承されるまでの歩みについてお聞かせください。
小沢:子どものころから創業者の祖父に「お前は三代目になるんだ」とずっと言われて育ちました。それで自然と「自分が継ぐものだ」と思い込んでいましたが、高校2年生に上がるタイミングで祖父が亡くなってしまって。そのとき祖母から「自分のやりたいことをやりなさい」と言われたのが心に響いて、ちょうどそのころバイオテクノロジーが注目されていたこともあり、東京薬科大学の分子生命科学科に進学しました。しかし、実際に学んでみると、「あまり面白くないな」と感じてきて、卒業後にMBAを取ろうと決めて、ニューヨークのロングアイランド大学に留学しました。
余談ですが、留学してわずか2週間後にリーマンショックが起き、アメリカ人たちが心折れている様子を現地でリアルに体感しました。そのような中でも、マーケティングや組織論を中心に学び、無事に修了することができました。修了後は、日本でワークスアプリケーションズというITベンチャーに入社しました。実は、創業者の牧野正幸さんの本を読んだことがあり、また大学時代からベンチャー企業に興味があったことも入社の後押しとなりました。主な業務はWebサービスや人事評価システムの開発で、ほとんどプログラマーとして働いていました。ただ、ベンチャーはやはりきついんですよ。あのスピード感についていけなくて、2年ほど働いたのち、2013年に家業である小沢製作所に戻りました。当時は父が元気だったので、「まずは現場を叩き上げでやれ」と様々な仕事を経験させてもらいました。少しずつ父が担っていたお客様対応の仕事にもシフトしていき、2019年12月に父から代表を引き継ぎました。それ以降、父は一切口を出さず完全に私に任せてくれて、今では、自分のやりたいことをやりたいように進めながら、会社を経営しています。

Tier2(二次請負)としての役割に徹する戦略
- 御社の事業の特長を教えてください。
小沢:弊社は精密板金部品の加工を専門にしており、完全にTier2(二次請負)としての役割に徹しています。ホームページでも「板金屋のための板金屋」と謳っているのですが、メーカーさんから見れば孫請けの立場に特化している形です。このビジネスモデルを作ったのは父です。一般的な町工場では、自社が得意とするメーカーさんに特化するケースが多いのですが、その場合、1社への依存度が高くなり、その会社の業績が悪化すると一気に厳しい状況に陥るリスクがあります。一方で、リスク分散を図ろうとして複数のメーカーと直接取引を行うのもまた難しいです。例えば、A社から短納期の案件を受注している際に、B社から急に発注があった場合、今後の関係を考慮すると断るのは非常に難しいんです。そこで、弊社ではメーカーと密接に連携しているTier1(一次請負)の企業に対して営業を行い、「弊社を第2工場のように扱ってください。無理な案件や自社で処理しきれない案件があれば、ぜひ弊社に回してください」とお願いしています。こうすることで取引先の分散が可能となり、経営の安定につながっています。年間の売上は約2億円、従業員数は役員を含めて15名ほどです。現状の規模感としては非常に適正ではないかと考えています。
第2の柱となる事業を作るためアウトドアブランドを立ち上げる
- 自社製品であるアウトドアブランド、OZOPSを始めた経緯は?
小沢:八王子市が実施している「はちおうじ未来塾」という経営者育成プログラムに参加していた際に、『ライフ・シフト』という本を読んだのがきっかけです。その本を通じて、人口減少が進む未来を考えたとき、「このまま受託製造だけを続けていたら、いずれ行き詰まる」という危機感を抱きました。そこで、「受託以外にも自社で柱になる事業を作らなければダメだ」と考え、自社製品を作る決断をしました。アウトドアブランドにした理由は、単純に自分がキャンプ好きだったことと、板金で作れるものが多く、自社の機械をそのまま活用できるというメリットがあったからです。
2019年11月に、最初の製品となる調理用ストーブを作り、八王子市のふるさと納税の返礼品にも採用されました。ただ、そこからどうやって売ればいいのかが全く分からず……。そんなとき、「町工場プロダクツ」という全国の町工場が集まる団体があり、その会長さんに展示会への出展を勧められたんです。それが2020年2月、ちょうどコロナ禍が始まったタイミングでした。バイヤーさんたちは、これから“おこもり”需要やアウトドア需要が増えることを見越していて、製品への期待値が高かったんです。当時はまだ「ガレージブランド」という言葉もあまり浸透していない時期でしたが、石井スポーツさんやヨドバシカメラさん、全国のアウトドアショップから次々と買い注文をいただき、おかげさまでかなりの売り上げを上げることができました。

現在はブランド展開の過渡期に
- OZOPSのブランドコンセプトは?
小沢:「もっと気軽に、もっと楽しく外遊び」です。製品を通じて、お客様が外での時間をより楽しく過ごせるようなアイテムを作ることを基本理念としています。ただ、現在ブランドの方向性がちょうど過渡期に差し掛かっている状況です。
というのも、ギフトショーでバイヤーさんと話していた際に「もうギアは溢れている。これからは体験だよ」とアドバイスを受けたことがきっかで、自分で組み立てるタイプの体験型の小焚台を開発しました。これを出したときに、今後の方向性が定まりました。パーツをパチパチと外して組み立てるだけで完成するもので、道具は一切不要。子供もプラモデルのような感覚で楽しめる製品です。そして最近、開発したのがこの組み立て式ランタンシェードです。これら体験型の製品は、親子で一緒に過ごす時間を作ることができるだけでなく、親が子どもに渡すことで、親だけの自由な時間を確保できるという付加価値もあります。
現在のOZOPSは、大人向けの製品と子ども向けの体験型製品が混在してしまっている状態です。そのため、OZOPSを思い切ってリニューアルし、さらに新しいブランドも立ち上げようと考えています。イメージとしては、ベネッセコーポレーションが展開している進研ゼミのように、子どもの成長に合わせてサービスや製品を継続的に提供していく形です。一度購入して終わりではなく、長期的にお客様とつながる製品展開を目指していきたいと考えています。


国内需要の減少に備えて海外進出を狙う
- OZOPSの海外展開は視野に入れていますか?
小沢:そうですね。製造業の国内需要が減少した場合に備えて、海外市場から直接売り上げを獲得できる体制を整える必要があると考えています。現在、狙っているのはヨーロッパとアメリカです。ただし、欧米に製品を輸出するにはPL保険(生産物賠償責任保険)に加入する必要があり、そのコストが年間で約100万円と高額です。そのため、直接輸出ではなく、販売代理店を通じた形での展開を検討しています。9月にローンチ予定の新しいプロダクトがあるのですが、それをまずドイツに持っていく計画です。そのため、今後の重要なステップは、信頼できる販売代理店とのネットワークを自分たちで構築することだと考えています。
長期的には東南アジアも視野に入れています。特にインドネシアは現在、急成長している市場です。インドネシアはやっと自分たちの消費から子どもの未来に目を向ける段階に入ってきたと思うんです。10年後には、物質的には十分満足し、子どもたちへの投資や教育、親子の時間といった“時間の価値”に重きを置く消費が広がると思います。そのときに、こうした価値観に応える製品を提案できるようにしていきたいですね。
- 海外向け製品のコンセプトについて教えてください。
小沢:海外向け製品は、キャンプ場で“親の時間”を作るという点にフォーカスする予定です。キャンプをしているご家庭ではよくある話ですが、親は自分の時間を確保するために、子どもにゲーム機を渡してしまうことがあります。最近ではファミリー向けのキャンプ場にWi-Fiが飛んでいるところもけっこうあるんです。ただ、それを見ている親たちは罪悪感を覚えています。せっかくキャンプ場に来ているのに、子どもがゲームをしている姿を見て満足している親はほとんどいないと思います。そこで、親が罪悪感を持たずに子どもと少し離れた時間を過ごせる、それでいて子どもも楽しめる、そのような製品の開発を目指しています。この課題を解決できれば、親も子どももよりキャンプを楽しめるはずです。

受託製造と自社製品という両輪で成長を目指す
- 最後に、今後の展望をお聞かせください。
小沢:現在取り組んでいる本業、つまり受託の部品製造は、これからも絶対に続けていきます。ここをやめる気はまったくないですし、これが、自分たちが社会に一番貢献できている部分だと考えています。Tier1(一次請負)の企業からのニーズに応え、「こんなことをしてくれて助かっている」と言っていただけることで信頼が生まれ、それがリピートにつながっています。この基盤は、今後も伸ばしていきたいと思っています。
ただ、受託部品製造は、作ったものがどこで動いているのか見えないことが多いですよね。そういった点で、製造現場のスタッフたちには少し寂しさがあるのも事実です。その点、自社製品の場合は使う人の顔が見えるので、スタッフにとってもやりがいが大きいんです。また、自社製品を手がけることが、普段の部品製造にも良い影響を与えていて、「もっと丁寧に作ろう」という意識やプライドが確実に育っているのを感じています。
もちろん、自社製品を「いつまでにどれくらいの規模にする」といった具体的な計画の策定は難しく、不確実性が高いのが実情です。しかし、一番大事なのは行動を止めないこと。動き続けなければ、すべてが終わってしまいますから。だからこそ、これからも継続的に取組み、自社製品を通じて利益率をさらに向上させていきたいと考えています。そして、受託製造と自社製品という両輪をバランスよく運営しながら、会社の成長を一層加速させていきたいと思います。
会社情報
会社名 | 有限会社小沢製作所 |
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設立 | 1966年12月1日 |
本社所在地 | 東京都八王子市美山町2161-6(美山工業団地内) |
ウェブサイト | http://www.ozawass.co.jp/ |
事業内容 | 精密板金部品製造/レーザー加工/筐体製造 |