地域密着で企業の声を伝える。多摩の中小製造業と歩む映像クリエイター
有限会社カンノ・カンパニー
代表取締役社長 菅野契也
本事業では、地域内外の中小企業・スタートアップや大企業、大学等が連携して、地域の課題解決を図るためのプロジェクトや、多様な主体が交流できる会員組織(コミュニティ)の立ち上げなど、イノベーション創出に向けた取組を進めています。このインタビュー連載では、多摩地域のイノベーションをリードする注目企業をご紹介することで、皆様に多摩地域の魅力を発信していきます。
有限会社カンノ・カンパニーは、中小製造業を主な対象に、企業紹介や採用支援を目的とした動画制作を展開しています。顧客の多くは多摩地域に拠点を置く企業で、地域密着型の支援が強みでもあります。代表取締役社長の菅野契也氏は、かつてイタリアへの料理留学を経験し、プログラマーとしての経験を持つなど、異業種での知見も備えるユニークな経歴の持ち主。今回は菅野氏に、これまでのキャリアと現在の事業についてお話を伺いました。
ホームスクールで聖書を学ぶ日々
- 子どものころはホームスクーリングで学ばれていたそうですね。
菅野:キリスト教徒でもある両親が子育てを考えたときに、当時できる最大限の方法としてホームスクーリングを選びました。ただ、家庭で教えるのは決して簡単なことではありません。普通に会社勤めをしていたら、とても子どもと向き合う十分な時間は確保できない。だからこそ、父は教育の時間も大切にできる環境をつくろうと考え、勤めていたIT企業から独立してカンノ・カンパニーを設立しました。
- ホームスクーリングにおける教育方針について教えてください。
菅野:たとえば、英語の教材を海外から取り寄せて使っている家庭もありました。ただ、うちの両親も英語はある程度読めるものの、会話ができるわけではなかったので、「英語教育を家庭でやるのは難しい」という話になりまして。とはいえ、日本でホームスクーリング向けの教材があるかというと、それもあまり見当たらない。そこで取り入れたのが聖書だったんです。聖書は、すべての文字に振り仮名がふってあります。だから子どもでもしっかり読める。キリスト教の家庭ですので、信仰の基本となるこの書物を学ぶことが、まず何より大切だと。カリキュラムらしいものがあったわけではなく、家族で毎日、聖書を最初から最後まで一緒に読み、学ぶ。そうした日々の積み重ねが、我が家のホームスクーリングの中心でした。

本人不在の家族会議でイタリア行きが決定
- イタリアに料理留学された経緯について教えてください。
菅野:大学受験に挑戦したものの志望校には届かず、その後は父が経営する会社に入り、プログラマーとして4年半勤務しました。転機となったのが、2009年のリーマンショックです。IT業界への影響は非常に大きく、業務予算も一気に縮小。そのような中、私が現場に出ている間に、全社会議――といっても家族会議なのですが――が開かれ、帰宅すると突然「契也、イタリアに行くことになったよ」と告げられました。「え?」という感じでしたが、すでに父がイタリアの料理学校を見つけてきていて、両親としては「契也が料理できるようになれば、何かと役に立つだろう」と考えていたようです。というのも、私の家族が通っていた教会では、行事や集まりのたびにホームパーティーのような食事会を開いていて、私は子どものころから味覚が鋭いと両親に言われていました。「契也は味がわかる」と。
イタリアでは、最初の2カ月間は料理学校で座学と実習を受け、その後すぐに家族経営のレストランでの研修が始まりました。結果的に、そのレストランには3年半在籍し、2009年から2014年の11月末まで、現地で本格的な経験を積むことになりました。
- 料理留学から一転、どうして動画制作を始めることになったのですか?
菅野: 日本に帰国後は料理関係の仕事に就いたのですが、契約上のトラブルがあり、やむなく父の会社に戻ることになりました。ところが、私が不在だった間にプログラマーの業務は大きく変化しており、いざ復帰してみると、以前とは比べものにならないほど難易度が上がっていたんです。ちょうどそのころ、カメラマンとして活動していた妹が動画制作にも携わっていて、「動画もやってみたら?」と声をかけてくれたのが転機でした。そこから徐々に興味を持ち、2015年からはインタビュー形式で企業の魅力を引き出す、BtoBマーケティング向けの動画制作に本格的に取り組むようになりました。

中小製造業専門の動画制作が事業の柱に
- 中小製造業に特化するようになったのは、どのような理由からでしょうか?
菅野:三鷹の商工会とのご縁をきっかけに、中小製造業の企業を紹介していただく機会が増え、次第に“中小製造業に特化した動画制作”が事業の主軸となっていきました。かつてはテレビ局や制作会社の専売特許だった映像制作も、機材の低価格化により、今では個人でも十分に対応できる時代です。そのため、取材から撮影、編集までのすべてを基本的に一人で手がけています。
町工場は限られたスペースで稼働していることが多く、大がかりな撮影機材や複数のスタッフが入ると、作業の妨げになってしまうことがあります。また、現場で働く方のなかにはカメラを前に緊張してしまう方も多く、「いつも通りでお願いします」と声をかけても、どうしても手が止まってしまったり、動きがぎこちなくなったりすることも少なくありません。その点、私のスタイルは小型の機材で、できる限り目立たずに自然な様子を捉える撮影方法です。気づけば「いつの間にか撮られていた」と感じてもらえるような距離感を大切にしており、そのおかげで、結果的に自然体で魅力的な映像が仕上がることが多いです。「思っていた以上にきれいに撮れている」「この雰囲気なら安心して任せられる」と喜んでいただけることも多々あります。また、スケジュール面でも柔軟に対応しており、極端な話、「明日来てほしい」といった急なご依頼にもお応えできる体制を整えています。

幅広い世代が集まる教会で培われた能力
- これまでのユニークなご経験が、今の事業にどう活かされていると感じますか?
菅野:そうですね、やはりホームスクールで育ったことは、私のコミュニケーション力のベースになっていると思います。よく「学校に通っていないと友達がいないんじゃないか」と心配されることもありますが、実際にはそんなことはありません。教会にはずっと通っていて、そこにはホームスクーリングをしている仲間も多く、平日でも日常的に顔を合わせていました。教会という場には、子どもからお年寄りまで、さまざまな世代の人たちが集まります。おじいさん・おばあさんと話すこともあれば、自分の親世代の方とも会話をし、赤ちゃんと遊ぶこともある。まさに“縮小された社会”がそこにあり、その中で自然とコミュニケーション力が育まれていったのだと思います。
映像制作の現場では、撮られる側の方は基本的にみなさん素人ですから、カメラの前で緊張されるんですよね。そうした場面で、いかに緊張を和らげ、自然な姿を引き出せるか。そのときにこそ、子どもの頃から培ってきたコミュニケーション力が生きていると感じます。さらに、事業を始めてから10年ほど三鷹を拠点に中小製造業の現場を見続けてきたことで、製造業ならではの知見も蓄積されてきました。たとえば撮影の際に注意すべき点や、工場特有のリズム、現場の空気感など、実際に多くの現場を見てきたからこそ分かることがありますし、それが映像のクオリティにも直結していると思います。
コンサルティングと内製化支援
- 御社が強みとしている点について教えてください。
菅野:映像に慣れていない方に対して、撮影の進め方や表情の出し方などを丁寧にサポートできることは、大きな強みだと思っています。ただ動画を撮影するだけでなく、その活用方法まで含めて提案できる点も特徴です。今は「動画をホームページに載せています」「YouTubeにアップしています」といった使い方だけでは、なかなか再生回数や成果にはつながりにくいのが現実です。だからこそ、動画をどう活用すれば効果的か、マーケティングや広報の観点からコンサルティングするところにも、今後はより力を入れていきたいと考えています。
また、「動画の内製化支援」にも取り組んでいます。これは、企業の皆さんがスマートフォンや身近なツールを使って自社で撮影・編集できるようにする取り組みです。たとえば、最近では「Canva」などのツールを使って手軽に動画編集もできるようになってきました。そうしたツールの使い方に加え、SNSでの発信時に「こういう内容は載せたほうが良い」「これは避けたほうがいい」といったアドバイスも行っています。
今の時代、動画の主な用途は大きく二つに集約されると考えています。一つは顧客獲得、もう一つは人材採用です。特に採用活動においては、もはや動画は欠かせないツールになりつつあります。たとえば、私が支援した六花公園エリアのある企業では、社内に動画チームを作ってYouTubeに複数の動画を公開したところ、「こういう雰囲気の会社なら働いてみたい」と応募・入社してくれた方が実際に出てきました。プロジェクトチームのメンバーと「やって良かったね」と喜びを分かち合えたのは、私にとっても非常に印象的な出来事でした。

お客様に寄り添う姿勢
- 事業を行ううえで、大切にしている考え方は何ですか?
菅野:少し当たり前に聞こえるかもしれませんが、「お客様に寄り添う姿勢」は常に大切にしている考え方です。とくに製造業の方々にとって、PRや情報発信はあまり馴染みのない領域であることが多く、ご要望をそのまま受け取るのではなく、一緒に考えることを意識しています。たとえば「10分くらいの動画を作りたい」とご相談を受けた際には、「他社の10分間の動画を最後まで観たことはありますか?」とお聞きすることもあります。多くの場合、実際には見ていない。であれば、他の人も同じではないでしょうか。そういった視点から、「何を、誰に、どう伝えたいのか」を丁寧に整理しながら、一緒に考えていきます。
「それはYouTubeに載せるより、営業先でタブレットで見せる方が効果的では?」とか、「展示会で使うのであれば、こういった構成が適していますよ」といったように、用途に応じた活用方法まで踏み込んでご提案することを心がけています。お客様から言われたことをそのまま形にするのではなく、本質的に何を実現したいのかを一緒に掘り下げ、より良い形に導いていく。それが自分の強みであり、大切にしている姿勢です。
英語が堪能な助産師の妹をプロデュースしたい
- 今後の展望について教えてください。
菅野:動画制作は引き続き力を入れていきますが、それとは別に、今考えているのが飲食関連の事業です。イタリアとのつながりを生かして、食材の輸入なども含めて何か取り組めないかと構想を練っているところです。もう一つ、まだ家族の間では“冗談半分”で話している段階ではあるのですが、私としては本気で取り組んでみたいと思っていることがあります。私には妹が3人いるのですが、すぐ下の妹はカメラマンとして活動していて、現在の動画制作にも関わっています。そして、3番目の妹は助産師をしています。実は、私たち兄妹はみんな英語が話せるのですが、この助産師の妹も英語が堪能で、海外から来日した妊婦さんのケアを行うこともあるんです。ただ、言葉の壁や文化の違いもあり、その対応は簡単ではありません。英語を話せる助産師というのは、ニーズが高いにもかかわらず、まだ数が少ない印象があります。だからこそ、そうしたスキルを持つ妹をプロデュースするような形で、海外から来た妊婦さんに向けた支援体制を整えるプロジェクトに取り組んでみたい。そんな構想も、これから少しずつ形にしていけたらと思っています。
会社情報
| 会社名 | 有限会社カンノ・カンパニー |
|---|---|
| 設立 | 1990年1月 |
| 本社所在地 | 東京都三鷹市下連雀3-38-13-1001 |
| ウェブサイト | https://kanno.com/ |
| 事業内容 | WEB動画の企画・撮影・編集・配信/ビジネス、サービスのスタートアップ支援/WEBマーケティング企画、運営/データベース・システム開発 |