Please note that our machine translation system does not guarantee 100% accuracy. The following limitations may apply:

思い出の詰まった庭木を次の育て手につなぐ「植木の里親」制度を創設

株式会社やましたグリーン

代表取締役 山下 力人

インタビューに答えていただいた山下力人氏

 本事業では、地域内外の中小企業・スタートアップや大企業、大学等が連携して、地域の課題解決を図るためのプロジェクトや、多様な主体が交流できる会員組織(コミュニティ)の立ち上げなど、イノベーション創出に向けた取組を進めています。このインタビュー連載では、多摩地域のイノベーションをリードする注目企業をご紹介することで、皆様に多摩地域の魅力を発信していきます。

 八王子を拠点に造園業を営む株式会社やましたグリーンは、思い出の詰まった庭木を次の育て手につなぐ「植木の里親」制度や、若手育成を目的とした「カットモデル制度」など、独自の取り組みを展開しています。今回は山下力人氏に、こうした事業の背景や想いについて伺いました。

職人の仕事に感動

庭師を志したきっかけは?

山下:小学生のころ、たまたま見ていたテレビ番組で庭師さんが登場するシーンがあったんです。半纏を着て颯爽と働く庭師の姿を見て、「こんなにかっこいい仕事があるんだ」と心をつかまれたのが、庭師への憧れの始まりでした。その想いを胸に、高校入学後すぐに造園業のアルバイトを始めました。初めての現場では、手入れされず伸び放題だった木を、職人さんが一枝ずつ丁寧に剪定していく様子を目の当たりにしました。そして作業が終わるころ、夕日がちょうど剪定された木々の間から透けて差し込み、美しい景色が広がったんです。剪定前はまったく見えなかった向こうの風景が、絶妙な“透け感”で見えるようになっていて、その光景に心から感動しました。「自分も、こんなふうに景色をつくる仕事がしたい」。そう強く感じたのを、今でも覚えています。

剪定は「切る」ではなく「選ぶ」技術

高校卒業後はアルバイト先にそのまま就職されたのですか?

山下:そうですね。その造園会社で社員として働き始めました。ただ、最初から植木を切らせてもらえるわけではなく、ひたすら掃除ばかりの日々。実際にハサミを握って剪定を任されたのは、入社してから3年ほど経ってからでした。庭師の仕事において「枝を切る」というのは、ただの作業ではなく「選ぶ」ことに近いんです。右と左、どちらの枝を残すか。その一本の選択によって、他の枝との絡みや全体のバランスが大きく変わってくる。最初の判断を誤れば、その後の仕上がりすべてに影響してしまう。だからこそ、熟練の職人ほど切る前に頭の中で構成を描ききっていて、すでに完成像が見えている。それができるようになるまでが、本当に難しいんです。

理想を求め、お客さんと向き合う庭仕事へ

独立に至った経緯を教えてください。

山下:もともといつかは独立したいという思いはあったんですが、勤めていた会社がだんだんと方針を変えていって、庭仕事の比重が減り、公共事業一本にシフトしていったんです。そうなると、お客さんとの関わりがまったくなくなってしまって、自分の仕事に対する評価も感じづらい。どんなに丁寧に剪定しても誰からも褒められないし、むしろ「市役所の検査さえ通ればいい」という最低限のクオリティを求められるような環境で、最高の仕上がりを目指すことが許されない雰囲気だったんです。利益優先で効率ばかりが重視される仕事のやり方に、だんだん違和感を覚えるようになっていきました。「これは自分の理想と違うな」と感じて、だったらいっそ独立して、個人のお客さんと向き合いながら、ちゃんと納得のいく庭仕事で生計を立てようと思うようになったんです。

思いを受け継ぐ仕組み“植木の里親”が生まれた原点

“植木の里親”を始めたきっかけは?

山下:あるとき、年配の女性から庭木の撤去の依頼を受けました。どこか寂しそうな表情をされていたので理由を尋ねると、「この木は亡くなった主人がずっと手入れして、大切にしていたものなんです。本当は残しておきたいんだけど、建築業者さんに“これはもう撤去しないと無理だ”って言われてしまって…」と話してくれました。「仕方がないわよね」と言いながらも、その木に込めた思いがにじみ出ていて、私にはどうしても見過ごせなかったんです。そこで、「うちの資材置き場にスペースがあるので、よかったら引き取って育てましょうか」と提案しました。そうしたら、その女性が本当に嬉しそうに「ぜひお願いします」と笑顔を見せてくれて。さっきまで悲しみに沈んでいた顔が一気に明るくなった瞬間、心にピンとくるものがありました。自分がずっとやりたかったのは、こういうことだ。自分の技術で、人を笑顔にすることなんだと。

それ以来、同じように撤去されそうな木があると、「よければ引き取りますよ」と声をかけるようになりました。すると、どのお客様も本当に喜んでくれて。ただ、気づけば引き取った植木がどんどん増えてしまって、このままでは置き場所が足りなくなると感じたんです。そこで次に考えたのが、“育ててくれる人”を見つけること。その活動に「植木の里親」という名前をつけて、発信を始めました。

里親活動がもたらす好循環

植木を引き取ったあとの維持管理は、どのようにされていますか?

山下:この取り組みで課題になるのが「管理」の部分です。植木を引き取ると、当然その後の手入れが必要になります。だからこそ、他の造園業者さんはなかなか手を出さない。人手もお金もかかるうえに、直接的な利益にはつながりにくいんです。正直なところ、最初は深く考えずに始めてしまったんですよね。結果として植木を在庫のように抱えることになり、「もうこれは自分で管理するしかないな」と覚悟を決めました。でも、やってみてわかったのは、管理すること自体にも価値があるということです。たとえば、見習いのスタッフには「自由に剪定してみていいよ」と練習の場を提供できます。実際の庭では失敗できませんが、ここなら思い切って挑戦できる。技術を磨くにはうってつけの環境です。

さらに、この事業があることで採用面でもプラスに働いています。面接に来た方が「この植木の里親の活動に共感して、一緒にやりたいと思いました」と言ってくれることが多くて、採用コストと管理コストを天秤にかけると、結果的には相殺できるかもしれない。また、既存の庭手入れや造園工事といった本業にも好影響があります。「こんな素敵な取り組みをしている植木屋さんにお願いしたい」と言ってくださるお客様もいて、ブランディングとしても強みになっています。こうして見ると、たとえ管理にコストがかかっても、それを上回る価値が生まれている。今のところは、そう実感しています。

“もらえる植物園”という発想で里親を拡大

植木の里親で一番の課題はなんでしょうか?

山下:やはり引き取り手、つまり里親となってくれる方がまだまだ少ないことです。そこで、どうすれば増やせるかを考えたときに、「じゃあ、もらえる植物園をつくろう」と思い立ちました。とはいえ、最初は立て看板を置いただけの簡素なものでしたが、「ご自由に中を見てください」と開放するスタイルにしたところ、想像以上に里親希望の方が増えていったんです。現在は、特に個人の方の里親が増えていて、小さな植木に関してはかなり引き取りが進むようになってきました。ただ、大きな木になるとまだなかなか動かせていないのが実情で、ここが今いちばんの課題ですね。 お客さまの多くは八王子周辺の方ですが、引き取った植木を届ける先は全国に広がっています。こうした取り組みをしている業者さんはほとんどいないので、10月には長野まで行く予定ですし、福島や新潟、愛知などにも伺っています。地道ですが、一歩ずつ届けていけたらと思っています。

地元企業と連携し、課題の解決に挑む

特に大きな木の引き取りが難しいとのことですが、現在はどのような取り組みを進めていますか?

山下:最近は、営業力に長けた地元企業の方々と連携しながら、課題解決に取り組めないかと模索しています。たとえば、木材加工を営む隣町の「kitokito」さんからは、「営業を手伝いましょうか」とお声がけいただきました。そのお返しとして、弊社では引き取りが難しい木を活かして商品化する提案をしています。実際には、物理的な制約から木を移動できないケースも少なくありません。たとえば、家の裏庭に植えられた木が成長しすぎて、道路を挟んだ場所からはクレーンが届かないこともあります。そういった場合でも、伐採した木を記念品として加工することで、思い出を“かたち”として残すことができます。今後は、こうした提案も積極的に展開し、想いを受け継ぐ手段を広げていきたいと考えています。

若手庭師の成長を支える「カットモデル制度」

若手育成のためにユニークな取り組みをされていると伺いました。

山下:先ほどお話ししたように、庭師の見習い期間が非常に長く、正直かなりつらいんです。実際、僕の仲間も「ハサミを持てるまでの3年間」が耐えきれず、途中で辞めていってしまいました。このままでは、庭師になりたいと思う若い人は増えないだろう。そんな危機感が出発点でした。そこで、「できるだけ早い段階で、実際にハサミを持ち、剪定の経験を積ませたい」との思いから始めたのが、このカットモデル制度です。もちろん、お客さまにとっても大切なお庭なので、最初はご理解いただけるか不安もありました。ただ、プロの庭師が手入れするよりも低価格でご提供する形にしたところ、想像以上に好評で。無料にしてしまうと事業としては続かないため、適正価格を設定しながら、今も継続しています。若手の育成と、お客さまの満足を両立させる取り組みとして、手応えを感じています。

地域から広げる「一企業一里親」のモデル

今後、植木の里親活動をどのように広げていきたいと考えていますか?

山下:特に八王子をはじめとする多摩地域の企業の方々に、まずは1本でも2本でも引き取ってもらえるような関係性を広げていきたいと考えています。たとえば、「八王子市で引き取られた植木を、地元・八王子の企業が里親として育てている」といった事例が増えてくれば、それ自体が“地産地消”のようなストーリーになりますし、他の地域にも同じ仕組みを展開していくきっかけになるはずです。結果として、伐採される木を少しでも減らせる。まずは多摩エリアから、そうした成功モデルを築いていきたいと思っています。

今いちばん力を入れているのは、特に“大きな木”の里親を増やすことです。これがうまくいって、「一企業一里親」のような形が広がれば、次に起こるのは植木不足だと思っています。つまり、「引き取りたい企業はあるのに、在庫が足りない」という状況です。その段階になって初めて、こちらから無料で引き取りますといった対応が可能になる。そうなれば、思い入れのある木を「本当は伐採したくない」と悩んでいる方々を、より多く救えるようになるはずです。

現状では、特に遠方のお客様からの引き取り依頼は、どうしても高額な運搬費がネックになって断られてしまうケースが多くあります。だからこそ、まずは地域内での成功事例を重ね、そして将来的には、全国に共感してくれる造園業者のネットワークを広げていきたいと考えています。地域ごとに支える人がいれば、もっと多くの木と、その思い出をつないでいけるはずです。

会社情報

会社名 株式会社やましたグリーン
設立 2008年4月1日
本社所在地 東京都八王子市下恩方町1207-9
ウェブサイト https://www.yamashitagreen.com/
事業内容 植木の里親/造園工事一式/樹木の剪定、伐採、抜根/外構工事一式/公共工事