本事業では、地域内外の中小企業・スタートアップや大企業、大学等が連携して、地域の課題解決を図るためのプロジェクトや、多様な主体が交流できる会員組織(コミュニティ)の立ち上げなど、イノベーション創出に向けた取組を進めています。
このインタビュー連載では、多摩地域のイノベーションをリードする注目企業をご紹介することで、皆様に多摩地域の魅力を発信していきます。
昭和から平成に元号が代わったころ、空前のバンドブームが巻き起こりました。株式会社シーズプレイスの森林育代・代表取締役も、渦中にいた一人。その後、起業家に転じ、現在は立川市を中心に子育て支援や地域活性化事業を展開しています。当時の経験が、企業経営にどういった形で反映されているのかなどについて聞きました。
バンドブームをけん引した番組で初代チャンピオン
- 音楽とのかかわりについて教えてください
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森林:中学3年生の時にお年玉でギターを買ったのが、音楽の世界に足を踏み入れたきっかけです。プロを目指してさまざまなオーディションを受け、ミュージカルの「ミス・サイゴン」で初代ヒロインを演じた、本田美奈子さん(2005年に38歳の若さで逝去)のバックバンドでデビューを果たしました。バンドブームの火付け役は、通称「イカ天」というテレビ番組。バンド同士が演奏を競うのですが、その初代チャンピオンなんですよ。コロナで機会がうんと減りましたが、今でもアマチュアとしてライブハウスに立っています。
仕事と子育てを両立できなければ退職という風潮を打破したい
- 起業のきっかけは何でしょうか
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森林:30歳の時、「プロ活動はやめ、音楽は趣味で続けていこう」と決心し、初めて就職しました。仕事は英会話スクールの営業です。24時間中、働き続けているようなハードな職場でした。20年ほど前の話ですが、女性でさえも育休を取得するのが難しい時代。保育園から「お子さんが熱を出したので迎えに来てください」と連絡があった時も、職場は「なんで行かなきゃならないの」といった反応でした。結局、子育てとの両立は難しい状況だったので、2カ月で退職という道を選ばざるを得ませんでした。両立できなければ、女性が退職するのは当たり前。そんな風潮を打破したいという気持ちが芽生えました。
子供が小学生になったのを機に地元の武蔵村山市で、地域のさまざまな課題解決に取り組んでいる市民活動に携わるようになります。その経験を活かして、女性が活躍できる街づくりを行政と進めたいという思いから、2012年には、NPO法人「ダイバーシティコミュ」を設立します。ダイバーシティとコミュニティ、コミュニケーションから名づけました。当時はダイバーシティという言葉がまだまだ浸透しておらず、「お台場?」なんて言われました。
仕事と子育てを両立させる女性の活躍を広げるため会社を設立
- どういったNPOを目指していたのですか
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森林:自立した組織です。おかげさまで公共施設の運営を受託したことによって、人を雇用できるようになりました。健康保険証をスタッフに渡した瞬間は感動しましたね。ただ、NPOだと制限があり、営業活動なども自由にできません。子育てと仕事を両立させる女性の活躍の場をさらに広げるには民間企業による活動が必要だと分かり、株式会社シーズプレイスという会社を、同じ志の仲間と共に新たに設立しました。幸いにも私たちの考えを理解してくれるテナントのオーナーが現れ、立川駅の近くに、コワーキングスペースと保育施設を開設できました。
地元経営者の意識も徐々に変化
- 女性の活躍の場を広げるため、どういった活動を行っていますか
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森林:経営者や従業員への意識啓発や再就職支援などです。女性雇用に対する地元経営者の意識が向上したと思ったきっかけは「ママドラフト会議」というイベント。5回にわたりセミナーを受講した専業主婦が最終日に経営者の前でプレゼンを行い、優秀だと思った女性には「いいね」の札を上げます。経営者はこのイベントを通じ、実は多くの有能な人材が埋もれていることに気づかれたと思います。また、フルタイムではなく一部の時間帯でも働いてもらえれば、会社と本人の双方にメリットがあるとご理解いただけたことも、経営者にとって新たな発見だったのではないでしょうか。実際の雇用にもつながっています。
起業家に必要なのは自己プロデュース力
- ミュージシャン時代の経験は、起業にどういった形で生かされていますか
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森林:音楽の世界には、歌や演奏が上手な人がたくさん存在します。生き残るには「あなたしかダメ」と言われなければならず、「自分しかできないことは何なのか」ということを常に自問自答することが必要です。私自身、プロのミュージシャンを経験したことで、今でも「誰を幸せにするのか」「何をやり遂げたいのか」といったことを大切にしています。こうした自己プロデュース力は、起業家にとって重要なことです。また、バンドでは各メンバーの持ち味を生かして一つの音楽を作り上げていきます。こうした作業は、会社経営に通じるものがあります。
周辺の大学やテック系企業と連携し新サービスも視野
- 今後の事業の方向性について聞かせてください
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森林:シーズプレイスの事業は仮想空間のメタバースと親和性があると思っています。多摩には企業や大学、金融機関、NPOなどのメンバーで構成されたネットワークがあります。現状は事業計画を策定するような段階ではありませんが、そういったコミュニティを活用して、大学やテック系企業と連携しながら、メタバースと組み合わせた新しいサービスを生み出していければいいなあと考えています。
園児は知床半島から奄美大島に匹敵する距離を散歩
- 多摩の魅力はどういったところにありますか
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森林:自然に恵まれているところで、保育施設の園児も毎日のように、公園へ散歩に行っています。歩行距離は長く、入園から卒園までに北海道の知床半島から奄美大島(鹿児島県)まで歩く計算になります。園児は地域住民の愛情にも支えられており、散歩に近所のおじいちゃんがくっついてくることもあります。休みの時は私が自然を満喫する番。多摩川周辺をウォーキングします。お供は冷えたクラフトビールです。
会社情報
会社名 | 株式会社シーズプレイス |
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設立 | 2016年9月 |
本社所在地 | 〒190-0022 東京都立川市錦町1-4-4 サニービル2F |
ウェブサイト | https://csplace.co.jp/ |
事業内容 | 創業・就業、子育て、地域活性化、ダイバーシティ推進事業を柱に、暮らす地域に新しい価値を生み出すソーシャルイノベーションカンパニーです。 私たちは、当事者視点を持って社会課題を地域から解決することに取り組んでいます。 創業・就業:会議室・コワーキングスペース・シェアキッチンの運営、職業紹介など。 子育て:企業主導型保育所、児童発達支援スクール、小学生向けプログラムを運営。 地域活性化:商店街活性化事業や、立川経済新聞などのメディアを運営しています。 ダイバーシティ事業:国立市、武蔵村山市での男女平等参画施設の運営や、自治体との共同事業を行っています。 |