デザインシンキングの基礎を学び、実践的に活用しながらビジネスアイデアを検討するワークショップを令和6年2月に開催しました。
今回は関心テーマ(環境・エネルギー、子ども・教育、物流・モビリティ、健康・医療、観光・レジャー)ごとにグループに分かれ、多摩地域の状況や特徴を踏まえた問いに対してデザインシンキングを用いたディスカッションを行いました。
この報告では、当日のイベントの様子や参加者からのご意見を紹介します。
イントロダクション
―デザインシンキングの基礎講座―
これまでに様々な業界・業種の新規事業創出を多数手掛けてきたカワナ アキ氏を講師に迎え、デザインシンキングの基礎を学びました。
デザインシンキングとは、ユーザ視点に立ち、これまで見えていなかった本質的な課題を発見する手法です。共感(その人の立場・ユーザになって実際に経験してみる・考える)に基づき、ユーザの困りごとなどを解決するために、ユーザにどういった体験を提供するかを試行する実践的な知見として知られています。
本講座では、参加者にデザインシンキングの「考え方」「態度」「メソッド」を知っていただくことを目的に、デザインシンキングの意識や心構え、課題発見のアプローチや問題を構造的に捉える手法、課題解決のためのアイデア出しの手法などを学びました。
グループワーク
―グループワークの流れ―
以下の流れでグループワークを実施しました。
- 課題出し
テーマの対象ユーザに共感してそのユーザが体験の中で感じている課題(ペイン)を参加者それぞれが考えて書き出します。 - 課題のグルーピング
ユーザの抱える課題を構造的に捉えるために、①で出した課題を共通する原因でグルーピングし、グループごとに原因となる要素を書き出すことで、課題が起こる原因の深堀を行います。 - 問いの設定
原因となる課題に対して「どうすれば~~できるだろうか」の形で問いを立て、解決するべき課題を顕在化させます。 - アイデア出し
顕在化した課題の中から優先して解決したいものを選び、その課題を解決するための具体的なアイデアを参加者それぞれが出していき、出たアイデアに対してさらに要素を追加していく心構えで参加者同士が共想することでアイデアを深めていきます。
各テーマのディスカッションの様子
■環境・エネルギー
「多摩地域の豊富な自然資源(木材等)を活用した、新たなライフスタイルとは…?」をテーマとして、課題出しと課題に共通する原因でグルーピングを行ったところ、「林業従事者不足」「林業に対するマイナスイメージ」「森林の活用方法が不明瞭」といった認知度の低さやイメージの悪さが原因となり多くの課題が引き起こされていると考え、「どうすれば林業に対するイメージが変化するか」という問いを立て、解決策をディスカッションしました。
その結果、「若年層への林業教育を実施することで、林業に対する当事者意識を醸成する」「企業内ESG, SDGs担当者向け森林ツアー、林業体験を実施し、現場を体感してもらう」というソリューションアイデアが生まれました。
■子ども・教育
「イノベーション人材育成のための、起業家精神を育む教育体験とは…?」をテーマとして、課題出しと課題に共通する原因でグルーピングを行ったところ、「親は安定した職業に就くことが子の幸せだと考える」「親の経験上、良い成績を取って大学に行くことが正しいと思う」といった親の固定観念が原因となって多くの課題が引き起こされていると考え、「どうすれば、起業家に対する親の固定観念を取り除けるか」という問いを立てて解決策をディスカッションしました。
その結果、「親子参加型の起業教育・体験プログラムを実施し、親が起業について知る機会とする」「多摩にメリットあるイベントにして自治体・コミュニティを巻き込む」というソリューションアイデアが生まれました。
■物流・モビリティ
「人工知能時代において、多摩地域に必要な移動手段・物流手段の変化とは…?」をテーマとして、課題出しと課題に共通する原因でグルーピングを行ったところ、「バスやタクシーの運賃が高く、交通手段への気軽なアクセスが難しい」「事故のリスクなどを鑑みると高齢者が自身で車を運転する心理的ハードルが高い」といった交通システムの利便性の低さが原因となって多くの課題が引き起こされていると考え、「交通システムの採算を改善し、住民にとって利便性の高い交通システムを提供するためには、どのようにしたらよいか」という問いを立て、解決策をディスカッションしました。
その結果、「荷物と乗客の混載による効率的な輸送方法の確立」「コンパクトシティ化による、輸送距離の削減」というソリューションアイデアが生まれました。
■健康・医療
「健康で活力のある社会を実現するためのメンタルケアとは…?」をテーマとして、課題出しと課題に共通する原因でグルーピングを行ったところ、「日々の家事が身体の不調によりできなくなることへの不安」「体調を崩した際の孤独感がメンタルの不調につながる」「寝たきりになった場合などの介護などが家族関係を悪化させる」といった日常的な不調や疲弊が原因となって多くの課題が引き起こされていると考え、「どうすれば健康意識を高めることができるか」という問いを立てて解決策をディスカッションしました。
その結果、「気軽に健康チェックができるようなサービス、機器を利用する」「健康維持を目的としたサークルや健康維持に関連した情報発信ができるコミュニティを形成する」というソリューションアイデアが生まれました。
■観光・レジャー
「増加するインバウンドに選ばれる飲食体験とは…?」をテーマとして、課題出しと課題に共通する原因でグルーピングを行ったところ、「インバウンド観光客が行き先を選ぶための十分な情報が届けられていない」「言語や宗教、支払い方法まで様々な点で多文化を受け入れる体制がない」といった意思決定のための情報不足、多文化への対応不足が原因となって多くの課題が引き起こされていると考え、「どうすれば外国人観光客との深い接点を創れるだろうか」という問いを立て、解決策をディスカッションしました。
その結果、「地域内での外国人との交流機会を創出する」「外国人コミュニティが独自に形成されている実態があり、そこに介入できるアプリ利用やSNS発信などを行う」というソリューションアイデアが生まれました。
デザインシンキングの実践編
―事例の紹介―
実践編では、デザインシンキングを活用した事例としてカワナ氏が現在取り組んでいる『#能登の酒を止めるな!被災日本酒蔵共同醸造支援プロジェクト』についてお話しいただきました。
カワナ氏のチームでは「被災した能登の酒蔵に対して本当に意味のある支援とは何か?」というテーマで課題が起こる原因の深堀を行ったところ、「被災した酒蔵の銘柄の流通とキャッシュフローの2つの流れを止めない」ことが最重要課題であると導き出しました。
そこで、この2つの流れを止めないために全国の酒蔵に対して能登の銘柄酒を造る場所と人材の支援依頼をしたり、キャッシュフローの流れを維持するべくクラウドファンディングを実施したりと被災した蔵を支援する仕組みづくりをしました。
カワナ氏は、「このプロジェクトに限らず、対象となるユーザがどんな課題を持っているのかを抽象化していき、構造的にどんな問題を解決しなければいけないのか考えて、それを踏まえて解決策を実行していくことが大切です。」と話していました。
交流会
自由参加の交流会では、さらに深い情報交換やディスカッション、名刺交換、事業内容の紹介や講師への質問などが行われました。
参加者の声
ご参加いただいた方の声を一部ご紹介致します。
・普段の会議などでは自社リソース視点で物事を考えてしまう傾向にあるため、ユーザ起点で考えるデザインシンキングの考え方は大変参考になりました(中小企業)
・デザインシンキングについて初めて学んだので、内容が新鮮でした。また、ワークを通じてユーザの立場で考えることが大切だと知りました(中小企業)
・普段の会議とは全く異なるポストイットの使い方や思考の仕方、検討の流れが非常に参考になりました。日頃の会議でも取り入れていきたいと思います(スタートアップ)
多くの方に満足いただけるイベントとなりました。
今後もコミュニティ会員向けにイベントを開催していきますので、
ご関心のある方は是非ご入会ください!
コミュニティの入会概要と申し込みページ
https://tama-innovation-ecosystem.jp/community/
コミュニティで今後予定しているイベント
https://tama-innovation-ecosystem.jp/event/