3Dアバターの社会実装を通じて、実生活の課題をバーチャルで解決 | 多摩イノベーションエコシステム促進事業
3Dアバターの社会実装を通じて、実生活の課題をバーチャルで解決

3Dアバターの社会実装を通じて、実生活の課題をバーチャルで解決

株式会社VRC 代表取締役社長 謝英弟

本事業では、地域内外の中小企業・スタートアップや大企業、大学等が連携して、地域の課題解決を図るためのプロジェクトや、多様な主体が交流できる会員組織(コミュニティ)の立ち上げなど、イノベーション創出に向けた取組を進めています。このインタビュー連載では、多摩地域のイノベーションをリードする注目企業をご紹介することで、皆様に多摩地域の魅力を発信していきます。

                                                                    

株式会社VRCの謝英弟(シェー・インディー)社長は中国出身で、2003年に来日し、大学院で画像処理を研究。会社を設立した後は、人体の3D化に特化したビジネスを一貫して手掛けています。現在は3Dのアバター技術を活用した事業を、エンターテイメント、ファッション、ヘルスケア、メタバースなどの領域で展開し、自分そっくりのアバターを使った3Dデータプラットフォームサービスを提供しています。3Dアバターのインフラ企業になることが、謝社長の目標です。

取材にご協力頂いた謝社長

大学院で画像処理について研究

日本に興味を抱いたきっかけは何ですか

謝:子どものころに見た日本発の漫画やアニメです。中学からは独学で「あいうえお」から日本語を学びました。話す機会はなかったですけどね。中国の大学を卒業後は米国もしくは日本のどちらかに留学するかの二者択一でしたが、迷わず日本に決めました。

進路は決めていたのですか

謝:来日した初めのころは、「漫画を描きたい」と思っていましたが、才能がないことに気づいてしまって。ただ、画像に関わる勉強をしたいという思いは捨てきれず、神戸の日本語学校に通った後は早稲田大学の大学院に進学し、画像処理について研究しました。博士課程を修了し学内の助手に就き、念願の研究者・教授への道を本格的に歩み始めましたが、最終的には民間企業で働くという道へと方針転換しました。

多くの人の笑顔を早く見たくて研究職を辞める

方針転換したのはなぜですか

謝:子どもの頃から、人を手助けした後に返ってくる笑顔が好きでした。大学でも人々の生活に役立つと思われる高水準の技術を研究していましたが、「実用化には長い時間を要するなあ」と感じてしまって。それならスピーディーな形で商品化した方が人に役立つと思い、民間企業への就職を決心しました。最初は台湾に本社を置く携帯電話用の半導体メーカー。その次は韓国に本社を置く通信会社で働いていたのですが、働き過ぎで身体の調子が悪くなってしまいました。病院への道すがら、「多くの人の笑顔を見て悔いのない人生を送りたい」といった思いが募り、家族と相談して会社を辞め、独立した次第です。

小さいプロジェクトを積み重ねることで、技術の認知度を高める

人体の3Dアバターに関する会社を創業した後も色々な苦労を重ねたと思います

謝:画像技術が進化する中、次は3D画像だと確信し、3Dアバターに関する先進企業になりたいという思いで2016年に創業しました。 3Dアバターとは、人体を画像処理技術により立体的に表現した技術です。2Dの写真とは違い、360°どの部位でも採寸がわかることと、細かな特徴も捉えられることが特徴です。弊社では、まだあまり一般に普及していない自身の3Dアバターの作成を、誰もが簡単かつ手軽にできるようにしたいと考えております。

最初は運が良かったんですよ。通信会社に勤めていた時の直属の上司に仕事をもらえないかと打診したところ、1年間、継続的に仕事を発注してくれました。また、自社開発の技術が光学機器メーカーに売れたりして、軍資金を蓄えることができました。会社に勢いをつけるために、創業した年にCEATEC(シーテック)というITとエレクトロニクスの国際展示会で、大きなブースを出展。3Dのアバター技術をアピールし、デジタルイメージ部門でグランプリを獲得しました。他の部門で受賞したのは、世界的に著名なエレクトロニクスメーカーばかりでした。

でも、今から振り返ると出展は無謀な取り組みでしたね。生まれたての赤ちゃんのような会社なのに背伸びし、いかに最新技術を保有しているのか、といった点ばかりにこだわってしまって。肝心の技術の中身はなかなか理解してもらえませんでした。

このため顧客のニーズに沿って、アバターを使ったコミュニケーションスタンプを作るアプリのプロジェクトや、アパレル企業向けの採寸機能の開発、フィットネスクラブでの体型の可視化などの3Dアバターが活躍できる小さいプロジェクトを順次立ち上げ、技術をアピールするという戦略を取り入れました。その積み重ねによって関連技術に対する認知度が高まっていったのです。

3Dアバターによる採寸データの例

3Dアバターを使ったサービス提供とは

3Dアバターは現在、主にどういった分野で使われていますか

謝:アパレル業界では、バーチャル試着というサービスを提供しています。具体的には店舗の試着室などに設置されたボディスキャン装置に入って、自分そっくりのアバターを生成。スマートフォンのバーチャル試着アプリで活用し、自分の体型に合わせたファッションコーディネートを閲覧して楽しむことができます。

アパレル産業は大量生産・廃棄に伴う環境問題が深刻化していますが、バーチャル試着を活用すれば「このサイズの服が欲しい」といった情報を事前に把握できるようになります。必要な分だけを生産するスタイルになるので、産業構造を根本から変えていくと思っています。

そのほかにも、前述した採寸データの活用もできますし、アバターの見た目を活用してエンタメやコミュニケーションの分野でも活用が可能です。話題のメタバース空間に自分のリアルな3Dアバターで入ることもできるのです。購買データなどの生活上のさまざまなデータを連携させて自分の身体データを連携させながら、複数の分野で活用ができる仕組みを作って提供しています。

3Dアバターによるデジタル試着サービスの例

常に努力を重ね、みんなが利益を得られるようなWin-Winの世界を

社内の雰囲気はいかがですか

謝:20代前半から60代後半のメンバーで構成されており、性別や国籍も不問。それぞれ考え方や視点も異なりますが、「どれがベストなのか」という観点からロジカルに物事を考え、意見を統一するような社風が形成されています。社員の信頼関係も強く、ベテラン社員のアドバイスを受け入れて若手社員が自分のプランを微修正した結果、リスクを回避できたケースもあります。 社訓は「明勤利衆(めいきんりしゅう)」。私の造語です。現在取り組んでいることが正しいのかを常に考え、努力を積み重ね、外部の人も含めて皆が利益を得られるようなWin-Winの世界を構築したい、という願いが込められています。

行政の支援が手厚く、さまざまな情報が舞い込んできた

八王子に本社を置いたことで、どういったメリットを享受しましたか

謝:我々のようなディープテック系企業は、東京の都心部だと多いかもしれませんが、八王子では珍しい存在。そのせいか、創業時から行政機関のサポートは充実していました。当初は採用に困っていたのですが、優秀な人材を紹介してもらえました。また、われわれがリクエストしていないにもかかわらず、金融機関をはじめさまざまネットワークに関する情報が、次々と舞い込むようになりました。製造業が活発な土地柄であるため、部品加工は近所の企業に頼んでいます。大いに助かっています。

八王子は自然と都会が融合したパワースポット

高尾山を登ることが好きなようですね

謝:美しい山だし、霊気満山と言われるように、とにかくパワーをもらえる場所です。以前は年間に数十回も登っていました。

創業前に八王子を訪れたことがなかったのですが、実際に来たら意外に都会でびっくり。一方で自然が充実しているのはうれしい限り。ディープテックの世界にいると、喧騒から逃れたい時もありますが、こうした自然環境に身を置くと心が浄化されるからです。うまくバランスが取れた土地だと実感しています。

会社情報

会社名 株式会社VRC
設立 2016年5月
本社所在地 〒192-0046 東京都八王子市明神町2-26-9 MZビル301C
ウェブサイト https://www.vrcjp.com/index.html
事業内容 株式会社VRCは安全に簡単に使えるクロスボーダーな3Dインフラを提供することで、実空間上で解決できない課題をバーチャル上で課題解決し、人々のより良い生活を実現していきます。

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