古紙によるバイオエタノールで地球環境に貢献 | 多摩イノベーションエコシステム促進事業
古紙によるバイオエタノールで地球環境に貢献

古紙によるバイオエタノールで地球環境に貢献

森田紙業株式会社 代表取締役 森田 臣

 本事業では、地域内外の中小企業・スタートアップや大企業、大学等が連携して、地域の課題解決を図るためのプロジェクトや、多様な主体が交流できる会員組織(コミュニティ)の立ち上げなど、イノベーション創出に向けた取組を進めています。このインタビュー連載では、多摩地域のイノベーションをリードする注目企業をご紹介することで、皆様に多摩地域の魅力を発信していきます。

                                    

 自動車や航空機用に使う国産バイオ燃料の普及に向けた動きが活発化しています。バイオ燃料は植物や動物などの生物資源から作られる燃料で、代表的なものとして、米やトウモロコシなどを発酵させて取り出すバイオエタノールなどが知られています。
 森田紙業株式会社は、木を原料とする古紙によるバイオエタノールを開発。すでに消毒液を商品化し、航空機用燃料としての活用を目指しています。森田臣社長に、その狙いなどについて聞きました。

取材にご対応頂いた森田臣社長

創業のきっかけはセメント袋の再利用ニーズの高まり

森田紙業は、社長のご祖父様が創業したのですね。

森田:ええ。私が3代目です。祖父は空襲で両親を亡くし、兄弟の面倒を見なければならなかったため、戦後は新宿でさまざまな仕事に携わりました。その中で目を付けたのが、当時紙袋で流通していたセメント袋の再利用です。その頃の新宿は建設ラッシュ。大量のセメントが必要でしたが、新品のセメント袋を作る会社が少なく、とても間に合っていなかった。そこで、セメント袋の再利用に対するニーズが高まったのです。
 リユース関連の仕事は儲かったらしいですよ。現在の貨幣価値に換算すると、1日で20万円ほど稼げたのではないでしょうか。そんな市場環境を踏まえ、セメント袋や米袋に使われるクラフト古紙専門の問屋として1950年に創業しました。

社長には34歳という若さで就任

どのような経緯で入社され、社長になるまではどのような会社生活でしたか。

森田:自分の意志で大学を卒業後に入社しました。最初は生産工程、営業と様々な職種を経験しました。今思うと、社長になるまでの間は、2代目の社長であった父に後押ししてもらった部分も大きいです。本業の営業活動や異業種交流会への参加などでの人脈構築など、将来的に社長になるための準備をさせてもらっていたのだと思います。祖父や父、周りの社員の方々、取引先の方々、経営者の方々から多くのことを勉強させてもらい、支えられながらの社員生活でした。

若くして社長に就任されました。

森田:父は、私が40歳を過ぎなければ社長の座を譲ることはできない、という考えでした。30歳代で社長に就任すると、統計上、会社を潰す確率が高いというのが理由です。しかし、持病があって寿命を察知していたのでしょう。突然、「来期からやれ」と言われ、2016年9月に継ぎました。父が亡くなる直前で、34歳の時です。社長に就任後は「父はすごい苦労をしていたのだな」と尊敬が増しました。

全国から毎日古紙が運ばれます

バイオエタノールの開発は在庫対策の一環でもある

バイオエタノールの開発という新規事業に取り組んだ背景は

森田:父は新しいものに対して慎重で、新規事業にはまったく関心を示しませんでした。しかし私は、古紙市場は右肩上がりが望めないため、何か違うことに取り組まなければと思っていました。バイオエタノールに興味を持ったきっかけは、友人が教えてくれた「木からエタノールを作れる」というレポートです。紙の原料は木材。「古紙からもできる」と、開発に取り組みました。
 また、古紙は仕入れの調整が難しく、市況が悪化して大量の在庫を抱える時があります。それを防ぐために購入を停止したり断ったりすると、信頼関係が途切れ、市況の回復時に調達できなくなる可能性があるため、いかに在庫を有効活用するかが重要です。エタノールの生産は、在庫の有効活用の一環でもあります。

木材を原料に作られたバイオエタノールを用いた消毒液

航空機用燃料のプロジェクトも進む

バイオエタノールはどういった使われ方をしているのですか

森田:事業化に当たってはバイオベンチャーと提携し、エタノールによるアルコール消毒液を作りました。ボトルの一部のデザインは、障害のあるアーティストの方が描いた作品を起用しECサイトで販売する取組も開始しています。他にも、消毒液や販売価格の一部を、必要としている国や地域へ寄付する仕組みの導入を検討しています。また、古紙からバイオジェット燃料を作り飛行機を飛ばす『紙ひこうきプロジェクト』も進めます。資源の乏しい日本ならではのプロジェクトだと自負しており、SDGS(持続可能な開発目標)の観点から選ばれるようになるでしょう。

コミュニケーションの活性化に向け、社長による「社員からのメール購入」制度導入

社内の雰囲気を良くするために、どういったことに取り組んでいますか。

森田:祖父、父の時代は社長に物申すようなことは絶対にできない雰囲気でした。それは良くないので、コミュニケーションには力を入れています。ある企業の成功事例を導入し、その週に頑張ったことを週に一度メールで報告してもらい、日曜日の朝に返信するようにしています。家族やペットのこと、料理などの趣味のことなどどんな内容でも頑張ったことを報告していただければいいのです。社内でお会いした時に「〇〇どうでしたか?」など私から声掛けでき、社員との話のきっかけ作りになります。メールは1通当たり250円で購入します。1カ月に4回報告すると500円がボーナスとして上乗せされ、計1500円の報酬となります。6カ月間にわたって毎週提出すれば、半期の賞与にさらに3万円を上乗せする仕組みです。

異業種の経営者の考え方が大いに参考に

多摩地域に本社があることで、どういったメリットを享受していますか

森田:高い技術力を保有する企業が多く、銀行などの紹介によって、そのトップの方々と交流できる点です。私は他の企業に勤めたことがないだけに、技術開発や人事労務の話など、異業種の経営者の考え方や働き方は大いに参考になります。個別に相談に乗ってもらうこともあります。多摩地域に本社があって本当に良かったと思っています。

古紙以外の素材も扱い、創業100周年に向けて成長していく

今後の成長戦略は

森田:古紙事業で扱うクラフト古紙はニッチな商品ですが、この領域では3割のシェアを誇り、「クラフト古紙といえば森田だ」と評価されるようになりました。この事業は祖父の代からの大切な事業なので、引き続き守っていきたいです。一方で、時代の変化に沿うような、バイオエタノールなどの古紙以外の事業も育てていきたいと考えています。東日本大震災とロシアによるウクライナ侵攻によって部品や資源のサプライチェーンが崩壊し、国内回帰の流れが加速しています。バイオエタノールはバイオマスプラスチックの原料にもなるので、こうした流れにうまく乗っていけば、創業100年に向けて弾みがつくでしょう。

会社情報

会社名 森田紙業株式会社
設立 1966年7月
本社所在地 〒190-1221 東京都西多摩郡瑞穂町箱根ヶ崎2113
ウェブサイト http://morita-shigyo.co.jp/
事業内容 クラフト古紙専門リサイクル会社。 クラフト古紙を製袋会社、精米工場、食品工場、プラスチック成型工場等より集荷し、 安定した品質の製紙原料へと精製して、各製紙メーカーへの販売を行う。

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