本事業では、地域内外の中小企業・スタートアップや大企業、大学等が連携して、地域の課題解決を図るためのプロジェクトや、多様な主体が交流できる会員組織(コミュニティ)の立ち上げなど、イノベーション創出に向けた取組を進めています。このインタビュー連載では、多摩地域のイノベーションをリードする注目企業をご紹介することで、皆様に多摩地域の魅力を発信していきます。
株式会社小嶋工務店は、多摩地域の木材(多摩産材)を使用した家づくりを行う、地域に根差した工務店です。東京の面積の4割は森林で覆われており、まだまだ活用の余地がありますが、同社では、多摩地域で生産された桧や杉などの木材を地産地消することで、輸送などに関する環境負荷の軽減は元より、森林の健全な木材生産サイクルの実現、自然環境維持などへ貢献しています。かつて東京の住宅需要を支えてきた多摩の木材を「TOKYO WOOD」のブランド名で再び世の中に広める活動を続ける小嶋智明代表取締役に、多摩地域の木材にこだわる理由、家づくりにかける思いについて話を聞きました。
第三者機関からの評価を重視し、経営を立て直す
- 会社の成り立ちについて教えてください。
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小嶋:父である現会長が1965年に株式会社小嶋工務店を設立し、1972年には現在の所在地である小金井市内に社屋を構えました。バブル崩壊や消費税増税、その後のリーマンショックの影響などから経営状況は悪化の一途をたどってしまいましたが、2009年に私が社長に就任したのち、第三者の資本を入れて経営の改革を推し進めました。そこで新しく打ち出した方針が、国や東京都、金融機関など第三者機関から評価を得ること。自社の製品を自らアピールするよりも、第三者から評価を得た方が、説得力が増すのではない考えたためです。具体的には、住宅関係の補助事業の採択やコンテストでの受賞など、毎年一つ以上、第三者からの評価を形に残すことを目標としました。その取組はさっそく功を奏し、翌年には弊社の「多摩の木でつくる家~いえともプロジェクト2010~」が国土交通省の長期優良住宅先導事業に採択されました。
多摩の林業を守るために、地元の木材を活用したい
- 多摩の木材にこだわるのはなぜでしょうか。
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小嶋:東京にある会社として「地産地消の無垢の木」を使って多摩の森を守り、地元の林業を活性化させたいという思いが我々にはあります。以前、東京の木材市場で話を聞いたところ、「多摩の木材は鑑賞用。木材として利用しなくていい」と、多摩の木材を否定されてしまったことがありました。このままではいずれ多摩の林業は滅んでしまうと危惧し、地元の製材所や林業家の方々を巻き込んで、多摩の木材を使用した家づくりに取り組むことを決意しました。しかし、実現までの道のりは決して平たんではありませんでした。
理解を得る上で、越えなければならなかった壁
- 具体的にはどのような困難が待っていましたか。
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小嶋:日本の住宅は安くて扱いが簡単な海外産の集成材がよく使われるのですが、多摩の木材は「無垢の木」と呼ばれる、木をそのまま使用した資材です。無垢の木は含水率と強度にバラツキがあるため、消費者に安心して使っていただくためには、品質検査(グレーティング)を行う必要がありました。しかし、高価なグレーティングマシンを導入している製材所は東京にはありません。それに加えて、品質検査を行うと20%ほどの木材が不合格になり、住宅の構造材には使えなくなることも判明しました。従来のやり方を変えることへの抵抗感も相まって、製材所や林業家の理解を得るのは簡単ではありませんでした。
また、多摩の木材を使うにあたってもう一つ解決したい課題がありました。それは乾燥方法です。国内の住宅展示場を周っていて気がついたのですが、ヒノキを使用した家と謳っていても多くの場合でヒノキの香りがしないんです。その理由は、木材を高温乾燥機で人工的に乾燥させているから。人工乾燥の方法を用いれば短期間で出荷できるため、在庫を抱える期間が短いという利点があります。一方で、水分だけでなく木が持つ香りの元である油脂成分も飛んでしまいます。この油脂成分は木の腐朽を防ぐ役割もあり、家の耐久性にも大きく関わってきます。天然乾燥ならこれらのデメリットを全て解決できるのですが、問題は費用対効果が見合わないことです。
地元企業と連携し、多摩発の「TOKYO WOOD」を生み出す
- どのようにしてそれらの問題を解決したのでしょうか。
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小嶋:まず、品質検査ではじかれた木材を我々が全て買い取ると製材所に約束しました。グレーティングマシンの導入費用は、地域の発展に必要な事業だという我々の思いを東京都に訴え、補助をいただく形で解決し、天然乾燥についても粘り強く地元企業を説得して、最終的には協力を得ることができました。また、多摩の木材のリブランディングの一環として、我々の定めた厳しい基準に合格した木材を「TOKYO WOOD」と再定義し、地場の製材所や林業家、プレカット工場、工務店、建築士らと連携して、TOKYO WOODの魅力を世の中に発信する体制を整えました。TOKYO WOODは、多摩の家づくりに関わる関係者が力を合わせて作り出した、多摩発のブランドなのです。
バスツアーを開催し、“良い家”を作るための“根拠”を見せる
- TOKYO WOODを広めるためにどのような活動をされていますか。
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小嶋:これから家を建てることを考えてくださっているお客様を、多摩の森にご案内するという“TOKYO WOODバスツアー”を年に3回ほど実施しています。多摩の森林や提携している木材市場、丸太を加工する製材所を見学して、1本の柱がどのような工程で作られるのかを見ていただく。その際、林業のパートは林業家、製材のパートは製材所の人に話してもらうなど、 その道のプロに任せています。建築に関わる各工程のプロから直接説明をする、顔の見える家づくりで、私たちの想いをお客様へ一生懸命説明させていただきます。
我々のモットーは「根拠のある家づくり」。良い家を作るために、例えば1本1円の釘ではなく、1本100円の特殊ビスを使っています。ハウスメーカーのブラックボックスとも言える柱の1本からビスの1本まで、全てをお客様にお見せすることで、良い家の「根拠」を提示するのです。“TOKYO WOODバスツアー”も我々の家づくりの根拠を説明する貴重な機会となっています。毎年、お子さんや若いカップル、中高年の方など、幅広い世代の方々に参加いただいておりますが、林業関係者から現場で説明を受け、木材の香りを感じていただく体験などは、通常では触れる機会がないため、ご好評をいただいております。
広がるヒノキの香りに、近所から問い合わせが相次ぐ
- TOKYO WOODで家を建てたお客様からはどのような反応がありましたか。
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小嶋:初めてTOKYO WOODで家を建てたときのことも印象に残っています。本物のヒノキの香りを知らない近所の方々から、あの匂いは何でしょうかという問い合わせが相次ぎました。「これが私たちの作る家の香りなんです」と説明したところ、チラシを配ってもいないのに、多くの近所の方が現場見学会に訪れてくれました。
弊社はこの25年間で、4000棟を超える木造住宅を建築し、お客様から多くの感謝の言葉をいただきました。我々がお客様に説明した「断熱性」や「快適な住み心地」が、実際に住んでみたらまさにその通りだったと言ってもらえることは、工務店冥利に尽きます。
補助金に頼らない、TOKYO WOODのあるべき姿を実現させる
- TOKYO WOODの抱える課題と、今後の展望について教えてください。
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小嶋:実は、多摩の林業は国による花粉症対策事業の補助金に支えられています。この予算があと何年続くのか、補助金がなくなったときにいまのシステムが機能するのか、それがTOKYO WOODの一番の課題です。補助金がなくても林業家、製材所、工務店、全てが利益を生み出せる仕組みを作らないと、我々に未来はありません。私が取り組みたいのはそこなんです。
TOKYO WOODがもっと世の中から評価されてしっかりとした利益を生み出し、公正な分配率で関係各社に還元される。未来の子どもたちのために育林もおろそかにしない。それを実現することこそが、自分に残された最後の仕事だと思っています。
会社情報
会社名 | 株式会社小嶋工務店 |
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設立 | 1965年7月 |
本社所在地 | 東京都小金井市前原町5-8-15 |
ウェブサイト | https://www.k-kojima.co.jp |
事業内容 | 戸建て住宅の建設。多摩産の天然材や、地元多摩の山で育った木材(多摩産材)から生まれた「TOKYO WOOD」という高品質な木材を使い、健康や安全そして価格にこだわった子育て世代にも高機能・高性能な家を提供している。 |