本事業では、地域内外の中小企業・スタートアップや大企業、大学等が連携して、地域の課題解決を図るためのプロジェクトや、多様な主体が交流できる会員組織(コミュニティ)の立ち上げなど、イノベーション創出に向けた取組を進めています。このインタビュー連載では、多摩地域のイノベーションをリードする注目企業をご紹介することで、皆様に多摩地域の魅力を発信していきます。
武蔵村山市にあるグリーンペット株式会社は、新聞紙を原料にした防音・断熱材『エコパルトン』を製造・販売する企業です。環境に優しく機能性に優れたこの製品はどのようにして完成したのか。代表取締役の石井隆之氏、会長の山田昌夫氏、取締役の西脇勇氏、総務部長の服部雅子氏に、『エコパルトン』の魅力と開発に至った経緯について、お話を伺いました。
エコで防音性に優れた断熱材
- 主な事業内容を教えてください。
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石井:弊社の主な事業は防音・断熱材『エコパルトン』の製造・販売です。『エコパルトン』は、セルローズファイバーという新聞紙などの古紙由来の断熱材をマット状(通常は綿状)に成形した製品です。自社工場で製造されるエコパルトンは、売れ残った未使用の新聞紙を原材料としており、環境に優しい製品です。その密度は一般的なセルローズファイバーと比較しても高く、防音・吸音性能に優れており、特に低音域において優れた効果があります。住宅、防音室、自動車、トイレ、スタジオ、工事現場の防音に幅広く活用され、カラオケボックスやシアタールームなどにも使用されています。また、断熱性能も非常に高く、多湿環境でも性能が落ちにくいとされています。
石井:マット状の製品形状は、住宅や自動車内での施工が容易で、DIYにも最適です。さらに、高密度により沈下の心配がなく、取り外しや解体時のリサイクルも容易で、粉塵の発生も少ないです。『エコパルトン』はその多機能性と環境配慮により、さまざまな場所での使用に適しており、持続可能な社会に貢献する製品です。
水をほとんど使わず古紙のリサイクルに成功
- エコパルトンを開発するに至った経緯を教えてください。
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山田:私が理事長を務める『アイデア発明振興会』の有志メンバーたちと2002年から開発に着手した古紙解繊機が全ての始まりです。古紙解繊機は古紙を解繊セルローズ化(繊維素材を細かく分解してセルローズ状にするプロセス)し、リサイクルするための機械です。従来の解繊セルローズ化は大量の水を使って行われるため、大量のヘドロが発生し、その発生したヘドロを廃水処理しなければならず、コストがかかるという課題を抱えていました。私たちが開発した古紙解繊機は水をほとんど使わず、廃液を出さないで古紙をセルローズファイバー化することに成功しました。また、セルローズファイバーはそのままだと綿状(ふわふわの綿埃のような状態)なのですが、弊社はマイクロ波を用いた装置を開発してマット状(形が保たれている状態)に成形することに成功。その成形方法は特許も取得しています。
一度は頓挫した事業が復活し『エコパルトン』が誕生
- 以前は、セルローズファイバーを排水口フィルターや植木用の土の代わりに使う「こぼれない土」として販売していたそうですが、防音・断熱材として売り出すようになったのはいつからですか?
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石井:セルローズファイバーが現在の防音・断熱材『エコパルトン』という形になったのは、私が数年前に関与してからのことです。当時、セルローズファイバーのマット化プロセスには成功していましたが、生産工程の自動化が困難で、製造は主に手作業に依存していました。そのため、経営が軌道に乗らず、事業は頓挫。ただ、総務部長の服部が当時の建物をきれいに保ってくれていて、会社も製造装置も機能はせずとも残っていました。そんな状態だった2018年のことです。もともと私は別の会社を経営していますが、以前から会長の山田と知り合いだったこともあり、たまたま古紙再生の事業について知る機会がありました。実際に工場を訪れ、製造工程を見学した際、製造プロセスを自動化し効率化することで事業改善が可能だと考えました。これをアイデア発明振興会のメンバーであり、精密機器製造会社を経営する西脇に相談したところ、西脇が2年の歳月をかけて既存の装置を改良してくれ、自動化に成功。私と西脇はこの時から自身の会社と並行してグリーンペットでも活動するようになりました。
石井:また、あるとき私が『エコパルトン』の原材料を車に積んで運転していた際、車内が驚くほど静かになったことから、この素材が吸音材としても有効である可能性に気づきました。実際に騒音実験をしたところ、吸音材なしの場合はもちろんのこと、一般的に使われるグラスウールの吸音材よりも、高い吸音効果が得られたのです(参考https://www.youtube.com/watch?v=wNdC_H2SE_M&t=261s)。この発見を生かし、『エコパルトン』を防音・断熱材として市場に投入したところ、商品として売れるようになり、商売が成立するようになりました。こうして、『エコパルトン』は現在の形になったのです。
それぞれの能力を結集して事業が成り立つ
- 会長が土台を作り、皆さんの力で製品化に至ったのですね。
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服部:この会社は、非常にユニークなメンバーから成る集団です。西脇と石井は、それぞれ個人で事業を行っており、『エコパルトン』の可能性を信じてこの会社に参加しました。エコパルトン製造のノウハウは会長の山田が持ち、製造装置の管理は西脇が担当しています。一方、私は製造責任者として製造プロセスを取り仕切り、石井はその他の全ての業務を担当しています。つまり、私たち一人ひとりが不可欠で、それぞれの能力を結集して『エコパルトン』を製造しているのです。
西脇氏の技術力を生かして大学と共同研究を進める
- エコパルトンの製造・販売の他に、御社が取り組んでいる事業について教えてください。
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石井:弊社は西脇の技術が高く評価されていて、大学からお声がけいただき、頻繁に共同研究を行っています。また、大学の先生方が弊社を訪れることも多く、例えば、東京都立産業技術大学院大学の学長が西脇の技術を見学するために訪れたこともありました。
西脇:昨年、弊社は関西学院大学の中後研究室と共同で研究を進め、自動ブレーキ付き車いすの開発に取り組みました。この車いすは、傾斜のある道でも自動でブレーキを制御し、真っ直ぐ進むことができる機能を備えています。関西学院大学の学生が月に2回ほど弊社を訪れ、データ収集に協力してくれるなど、両者の間で定期的なやり取りが行われました。他にも、東京工科大学の研究を支援し、脳梗塞で足が不自由になった人のリハビリ用エアロバイクの開発にも携わりました。このように、弊社の技術力を生かした大学との連携により、社会に貢献する研究を行っています。大学との共同研究はアカデミックな知見を吸収でき、金銭的なメリットもあるため、今後も積極的に進めていきたいです。
広いスペースを確保でき、横のつながりもある
- 多摩地域で事業を行うメリットは感じますか。
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石井:弊社は多摩地域の工業地帯に位置しており、一般的に23区内の城南や城東地域などの工業地域と比較すると、家賃が安く、より広いスペースを確保しやすいという利点があります。経営面では、このような環境が固定費の節約につながります。たとえば、『エコパルトン』のような体積が大きい製品を扱う場合、広いスペースが必要です。大きな製品を製造する工場には多摩地域が適していると言えるかもしれません。
山田:お客さんを紹介し合えるような、横のつながりがあるのも多摩地域の良さだと思います。商工会やロータリークラブの活動を通じて多くの企業と関係性が深まりましたので、例えば、主要な取引先だったカシオ計算機株式会社を知り合いの企業に紹介したことがありましたし、逆に他の企業から紹介を受けることもありました。困ったときは助け合う。このような相互に支え合う関係が、多摩地域のビジネスコミュニティにおいて一定の役割を果たしており、その持ちつ持たれつの関係が地域の魅力であると感じています。
『エコパルトン』をもっと世の中に広めるため
- 今後の展望を聞かせていただけますか。
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石井:当社の主要事業は『エコパルトン』の製造・販売ですが、今後は『エコパルトン』の生産設備の販売もやっていきたいと考えています。私たちの目標は、『エコパルトン』を静音環境を求める多くの人々に広めることです。そのために、当社の取組に共感し、応援してくれる企業があれば、是非とも協力を模索し、具体的な話をしたいと考えています。また、『エコパルトン』には我々が知らない使い道がまだまだあるはずです。新しい用途の発見は、ユーザーによって行われることもあり得ますし、他企業との協業を通じて実現するかもしれません。新たな市場の開拓に向けて、当社は柔軟な姿勢で事業を発展させていきたいと考えています。
会社情報
会社名 | グリーンペット株式会社 |
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設立 | 1981年4月 |
本社所在地 | 東京都武蔵村山市伊奈平1-19-4 |
ウェブサイト | https://ecopulton.com/ |
事業内容 | 防音断熱材の研究・開発、製造及び販売/古紙再生による各種製品の開発、製造及び販売/環境保全の研究・開発、製造及び販売 |