異なる強みを持つ地域の企業が連携し、新しい価値を生み出す | 多摩イノベーションエコシステム促進事業
異なる強みを持つ地域の企業が連携し、新しい価値を生み出す

異なる強みを持つ地域の企業が連携し、新しい価値を生み出す

旭栄研磨加工株式会社 代表取締役 平林 三記央

 本事業では、地域内外の中小企業・スタートアップや大企業、大学等が連携して、地域の課題解決を図るためのプロジェクトや、多様な主体が交流できる会員組織(コミュニティ)の立ち上げなど、イノベーション創出に向けた取組を進めています。このインタビュー連載では、多摩地域のイノベーションをリードする注目企業をご紹介することで、皆様に多摩地域の魅力を発信していきます。

 旭栄研磨加工株式会社はガラスの微細加工を得意とする東久留米市にある企業です。2023年度に多摩イノベーションエコシステム促進事業のリーディングプロジェクトに採用され、東久留米市内の複数の企業で協業しながらプロジェクトを進めています。地域企業の連携という新しいモデルの構築に挑戦している代表取締役の平林三記央氏に、事業内容やプロジェクトについて、話を伺いました。

インタビューに答えていただいた代表取締役の平林三記央氏

旭硝子に製品を納める会社として設立

御社の成り立ちと事業内容をご紹介ください。

平林:当社のルーツは、祖父の兄弟が1924年(大正13年)に始めたガラス加工を専門とする会社にあります。旭栄研磨加工株式会社は祖父の兄弟の息子の代である1968年7月に、旭硝子株式会社(現AGC株式会社)向けに眼鏡用レンズの研磨加工を行う会社として設立されました。社名の「旭」は旭硝子に由来しています。現在は、眼鏡用レンズからは撤退し、主に工業用のガラス部品加工を専門としています。私たちの製品は、例えば、金属を切断するファイバーレーザーの核心部分や、オイルタンカーの油量を確認するセンサーなど、様々な用途で使われています。フォトマスクという、半導体や液晶ディスプレイなどの製造工程で使用される重要なガラス部品の加工も、主力事業の一つです。

御社の強みを教えてください。

平林:弊社は、精密で細い穴の加工において高い技術を持っています。また、少量(100個、200個単位)を試行錯誤しながら作るような加工も得意です。基本的にお客様が図面を送ってきてくださって、それをどういう手順で作るかが腕の見せどころなのですが、複雑な作りのものだと、適切な手順を踏まないと製造に手間がかかってしまいます。私たちは「この順番で、この方法で行うべき」という最適なプロセスを考えながら加工することに長けていると自負しています。

少量生産と精密で複雑な加工が得意分野

多摩ブルー・グリーン賞を受賞した画期的な技術を考案

ガラス加工の技術や装置で様々な特許を取られています。2007年には「硬脆材料の孔あけ加工方法及びその加工装置」で多摩ブルー・グリーン賞の優秀賞も受賞されていますね。

平林:ガラスのような硬くてもろい材料に穴を開ける場合、先端部分にダイヤモンドがついたドリルを使うことが多いのですが、穴の周りに小さな欠けができることが問題でした。この欠けは、見た目だけでなく、ガラスが割れる原因にもなることがあります。私たちが考案した加工法は、簡単に説明すると、ドリルを螺旋状に回転させながら掘ることで、穴を綺麗に開けることができ、しかも、このやり方だとダイヤモンドの刃が長持ちするという利点もあります。

 実は、この加工法の開発には偶然が絡んでいます。ある時、父が機械の設定を間違ったままガラスに穴を開けてしまいました。「やっちゃったな」と思ったところ、なぜか綺麗に穴が開いていたそうです。不思議に思った父が、そこから要因を調べていく中で、この加工法にたどり着きました。現在は特許こそ切れてしまいましたが、いまだにこの業界では広く使われている技法です。

多摩ブルー・グリーン賞を受賞した技術の誕生秘話を語る平林氏

東久留米の企業と連携し、プロジェクトを推進

昨年、多摩イノベーションエコシステム促進事業のリーディングプロジェクトに選定され、多摩地域の企業と連携してプロジェクトを実施されています。どのような内容なのか教えてください。

平林:「地域の中小製造業の連携による微細加工技術を活用した新製品開発」がプロジェクトタイトルになります。多摩地域の中小製造業は、大手企業から業務を受注するなど優れた技術を持つ企業が多いものの、自社製品の開発や販路開拓のノウハウを獲得する機会が不足しているなど、高い技術を活かしきれていないケースも存在しています。そこで東久留米市に所在する4社の中小製造業がそれぞれの強みを活かし、連携してひとつの製品を作り上げる取組を行いました。今回のリーディングプロジェクト事業では、弊社のメイン事業であるガラスへの微細加工技術によるコンバーティング業界を対象にした新製品開発を題材として、この地域連携モデルの創出を行います。具体的には、コンバーティング業界向けの、微細加工を施した印刷用のガラスロールの開発をしています。コンバーティングとは、フィルムや紙などのシート状の素材を、ロールを用いて特定の用途に適した形状に加工・変形させる技術です。本プロジェクトは、このロールをガラスで作る試みに挑戦しています。この試みが上手くいくと、現状使われている金属製のロールの課題である熱による変形や錆・腐食といった諸課題に対する解決策となることができます。連携しているのは、コンバーティング業界を事業活動のフィールドとする株式会社ハイメックス株式会社、工具メーカーの有限会社三井刻印、ワイヤーカットが本業の有限会社オクギ製作所という東久留米市の企業です。それぞれの役割分担としては、ハイメックスさんが彼らの顧客からニーズを聞き出すなど情報を収集し、三井刻印さんが工具を開発。それを使って弊社がガラスロールに微細加工を施し、オクギ製作所さんが自前の測定器で検査をするというものです。地域内の中小企業で連携することで1社だけでは対応が難しい顧客要求に地域で応える体制を模索することを目指しています。地域の企業でサプライチェーンの一端を担い、新しい顧客ニーズに応えていくことで、地域の産業がより盛り上がっていくことも期待できます。さらに、地域企業の連携という新しいモデル構築によりモノづくりへの参入を容易とする環境づくりに寄与していきます。これにより、本検証が多くの若い世代にモノづくりに興味を持ってもらう契機となることを目指します。

プロジェクトのメンバーたち

会社の成長のためプロジェクトに応募

リーディングプロジェクトに応募したきっかけは?

平林:商工会の集まりの際に、昨年度のリーディングプロジェクトに採用されたハイメックスの中島社長から、「締切が近いのだがちょっとやってみないか」と提案されました。私は人見知りをする性格で、前に出たり目立つことが苦手というのもあって最初は躊躇したのですが、この会社を自分の器より大きく成長させるにはこのチャンスを生かさないとだめだと考え直し、エントリーしました。現在は、ガラスでサンプルを作る段階まで来ています。これを持って、これからお客さんからニーズを聞き出していこうという段階です。

プロジェクトメンバーの仕事に刺激を受ける

プロジェクトを進める中で、何か気づきはありましたか。

平林:他社と連携した取り組みは初めての試みでしたが、実際にやってみると得るものが多かったです。例えば、ホームページやポスターの制作などを進める際、みんなで集まって話し合ったのですが、皆さん意思決定から行動までがとても速いんです。例えば、今年1月に東京たま未来メッセで行われた「たま未来・産業フェア」に参加した際に揃いのはっぴを着用しました。その案が出たのが展示会の数日前。たった数日で実際にモノが手元に届いたことに驚きました。我々の社内だけでやるとすごくハードルが高く見えることが、普通にできてしまう。自分自身、とても勉強になりました。製品開発においては他社の販売網を活用する方法はないか、他社の装置(加工装置や掘削装置)をつかうことはできないかなども検討しました。地域が近いこともあり、アクセスしたい顧客が近しかったり、それらの装置を使う際の輸送が簡単だったりと地域が近い企業同士で連携するメリットは大きいと感じます。今回の経験に刺激を受けて、新しい領域に挑戦したいという考えが出てきています。弊社はガラス加工が専門ですが、今ある技術を生かして、シリコンなど他の素材にも守備範囲を広げられないか。完璧を求めすぎず、フットワーク軽く動いてみたいと思っています。

プロジェクトのメンバーに刺激を受けたという

個性的な企業が多数。多摩地域が秘めるポテンシャル

創業以来、多摩地域で事業をされてきていますが、多摩地域の良さはどこに感じますか?

平林:土地が安価な地方に比べて、東京は狭い土地で勝負しないといけません。大量生産に向いていないからこそ、そこで生き残っている企業は、尖った技術を持っていたり、何かしらの個性があると思うんです。そうした企業が結集すれば、大きな力を生み出せるのではないでしょうか。多摩地域は、そうした可能性を秘めていると思います。先日参加した「たま未来・産業フェア」も予想以上の来場者数で、多摩地域の熱を感じました。また、このあたりは近郊の大きな企業を自分の足で回れるため、お客さんと密に会話をして「こんな仕様にできませんかね」といったような相談をしながら仕事を進められるのも魅力の一つです。

海外の企業との取引を増やせないか

今後の目標をお聞かせください。

平林:日本のマーケットが縮小していることを受けて、海外のお客さんを相手にできないかと考えています。実は、1件だけ海外の企業と取引があるんです。アメリカのバイオベンチャー企業です。お付き合いのきっかけは、そこに勤める日本人の方がガラス加工屋を探すなかで、以前、東久留米市に住んでいたらしく、このあたりを調べていたら弊社を見つけたとのことでした。バイオベンチャー企業にガラス加工のニーズがあるとは知りませんでしたが、この縁を生かさない手はありません。まだ具体的な策はないのですが、これを契機に海外のバイオベンチャー企業に横展開できないか、可能性を探っていきたいと考えています。

会社情報

会社名 旭栄研磨加工株式会社
設立 1968年7月
本社所在地 東京都東久留米市八幡町3-6-22
ウェブサイト https://kyokuei-kenma.co.jp/
事業内容 ガラス等、脆性材の精密加工

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