本事業では、地域内外の中小企業・スタートアップや大企業、大学等が連携して、地域の課題解決を図るためのプロジェクトや、多様な主体が交流できる会員組織(コミュニティ)の立ち上げなど、イノベーション創出に向けた取組を進めています。このインタビュー連載では、多摩地域のイノベーションをリードする注目企業をご紹介することで、皆様に多摩地域の魅力を発信していきます。
JR西国分寺駅から徒歩10分。府中街道沿いに本社を構える武州交通興業株式会社は、50年以上も多摩地域に根差して事業を行っているバス会社です。特に、“福祉送迎”と呼ばれる領域では、全国屈指の実績を誇っています。多摩地域に寄り添いながら、多くの方々の“足”となってきた武州交通興業株式会社の足立邦彦代表取締役社長に、バス事業への思いについて語っていただきました。
創業以来、「特定輸送」を中心に事業を展開
- 事業の概要についてご紹介ください。
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足立:我々はバス事業の中でも「特定輸送」と呼ばれる業務を行っています。バス事業には3つのカテゴリーがあり、一つは路線バスの「乗合」、もう一つは観光用の「一般貸切バス」、そしてもう一つが、我々が専門とする「特定輸送」です。特定輸送とは、任意のお客様と契約を結び、特定の地域を、特定の車両を用いて運行する輸送サービスです。1972年の創業以来、企業や学校、福祉施設等の送迎を中心にバス輸送事業を進めてきました。
障がいを持つ方々の足となる“福祉送迎”に強み
- 御社の事業の特長として福祉送迎に強いとのことですが、どのような事業なのでしょうか。
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足立:福祉送迎とは、知的障がいを持つ方や体に障がいのある方、介護が必要な高齢者の方々を、特別支援学校や介護施設、福祉施設へ送迎する業務で、創業以来ずっと力を入れて取り組んできました。今では全業務のうち約7割を福祉送迎が占めています。弊社には全部で360台の車両がありますが、そのうち、車いす利用者がそのまま乗り込めるリフト付き車両を200台以上保有しています。この台数は日本国内でトップクラスに位置しています。
また、一般的に、障がいを持った方々の送迎サービスでは、ほとんどの場合で、お客様を介助するスタッフ(弊社では添乗員と呼称)が同行します。車両とドライバーのみを派遣し、添乗員は送迎先の学校や施設の先生や職員が務める場合もありますが、どのような状況であっても、添乗員の同行は必ず行われます。これは健常者の送迎には通常見られない特徴です。私どもは添乗員を社員として雇用し、福祉送迎に取り組んでいます。
福祉送迎に取り組むようになったきっかけとは
- なぜ福祉送迎を始めるようになったのでしょうか。
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足立:50年ほど昔のことなので推測ですが、弊社が福祉送迎事業を始めたきっかけは、関係者の家族に障がいを持つ方がいたことが関係していると思われます。当時は障がい者向けのサービスがまだ十分に提供されてなかったため、福祉送迎事業を立ち上げたのだと思います。
- 50年以上も福祉送迎に取り組まれていると、横のつながりもできてくるのではないでしょうか。例えば多摩地域のバス会社同士で連携することはありますか。
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足立:ありますね。同業他社から仕事を紹介してもらうこともあります。現在、バス会社業界は人手不足が深刻で、例えば、「契約している福祉法人から台数を増やしたいから増車をお願いしたいと頼まれたけれど、自分のところではまかないきれないので武州さん助けてくれませんか?」とお願いされることはあります。ライバル企業でも助け合いの精神で仕事を融通し合うことは、多摩地域に限らずこの業界ではよくあることです。
特別支援学校の生徒を受け入れ、障がい者の雇用を生み出す
- 他にも他社と連携した取組などはありますか。
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足立:我々が送迎をさせていただいている特別支援学校の1校と、生徒さんの職場体験の提供や、就職先として雇用する取組を行っています。昨年、1名を雇用し、添乗員として勤務していただいているのですが、お客様から評判が非常に良いため、今後の採用をより積極的に進めていくために、学校と連携して今年からインターンシップの受け入れを始める予定です。当事者の方々にも弊社を見ていただき、「この仕事はどうだろう? 自分に向いているかな?」と考え、経験してもらいたいと考えています。
添乗員以外の職種でも、弊社での様々な業務で彼らが働ける機会を広げることを考えています。添乗員だけに限定すると、どうしても対象となる人数も限られてしまいますし、ご本人の適性というのもありますから。また、バス事業関連への雇用だけでなく、グループ会社で進めている農業関連の事業においても、雇用の選択肢を提供できないかと考えています。農業の働き方と知的障がい者は親和性が高いと考えられているようですので、就労支援の可能性を探るために、情報収集を行っています。
外部と連携し、安全・サービスの向上を図る
- 安全対策やサービスの向上についてはどのような取り組みをされていますか。
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足立:弊社では国の安全基準に準拠した上で、独自の基準を設け、部品の購入や交換、点検などを行っています。しかし、長く数多くのバスを運行していると、どうしても事故が起きてしまうこともあります。事故が発生した場合、翌月には事故を起こしたスタッフを対象にドライブレコーダーを使用した研修を実施しています。このドライブレコーダーも、契約で決められている以上の数を設置しています。このように安全性の向上は当然のこととして取り組んでいますが、加えて添乗員のサービスの品質を上げる取組も行っています。例えば、特別支援学校の校長を務められていた先生と連携して定期的に研修を行ったり、外部機関が行う『行動援護従事者講習』という、障がい者の生活を支援するために必要な知識と技術を身につけるための講習に取り組んだりしています。これからやろうと思っているのは、『移動支援従事者講習』です。これは障がいのある方々に対して、外出時の移動支援や日常生活での移動の自立を支援するための専門知識と技術を習得するための講習です。こうした外部との連携を通じて、サービスの向上に努めています。
大型二種免許の取得支援制度を利用し、女性添乗員がドライバーに転身
- 御社のホームページを拝見しますと、人材育成にも力を入れているとお見受けします。
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足立:この業界は人材不足、特にドライバー不足が課題です。そのため弊社では大型二種免許の取得を会社がサポートして、ドライバーを養成しています。弊社はカテゴリーでは運送業ですが、思いはサービス業です。いかにお客様に喜んでいただくか。そのためには、サービスを提供する“人”が重要です。人材は私たちにとって財産であり、ドライバーや添乗員などのスタッフがいなければ事業は成り立ちません。そのため、積極的に人材を登用しており、最近の傾向としては、特に女性の活躍が目立っています。もともと添乗員はほとんどが女性ですが、本社スタッフ、営業所の管理者、ドライバーなど、様々なところで女性社員が増えています。最近、東京都の『女性しごと応援ナビ』※に弊社の女性社員が2名取り上げられました。そのうちの1名は、もともと添乗員として入社して添乗業務を行っていましたが、弊社の大型二種免許取得サポートを利用してドライバーに転向し、現在はハンドルを握って運転業務を行っています。
※『女性しごと応援ナビ』
https://w-job-ouennavi.metro.tokyo.lg.jp/work/work-5641/
https://w-job-ouennavi.metro.tokyo.lg.jp/work/work-5649/
多摩地域の魅力を生かした、新ビジネスを立ち上げる
- 多摩地域は都心へのアクセスが良好で、豊かな自然が残っているなど、多くの魅力を持っています。足立様は、多摩地域の可能性についてどうお考えですか。
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足立:多摩地域には、東京の2分の1に相当する広大な土地があり、人口も400万人を超えています。人や土地というリソースがあるということは、そこから新しい産業やビジネスが生まれてくる可能性を秘めています。実際、我々はBush Camp株式会社という子会社を作り、多摩地域だからこその魅力を生かしたビジネスを昨年から開始しました。主なサービス内容はキャンピングカーのレンタルですが、単なるレンタルに留まらず、通常では宿泊できないような場所での体験を提供することが私たちのビジネスモデルです。例えば、酒蔵の駐車場にキャンピングカーを停めて、試飲を楽しんだりする。通常、お酒を飲んだら車では帰れなくなってしまいますが、キャンピングカーを使えばその場に宿泊できます。実際に利用された方からは「キャンピングカーのレンタル会社は他にもありますが、ワイナリーに宿泊できるという新しい試みに胸が躍りました。ワイン農園の真ん中で宴を開いたり、もぎたてのぶどうをいただいたり、普通の旅じゃ実現できないような経験が子供たちにとっても忘れられない経験となりました」といった声も寄せられました。こうしたサービスをさらに展開し、多摩地域の魅力を広めていきたいと考えています。
会社情報
会社名 | 武州交通興業株式会社 |
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設立 | 1972年5月 |
本社所在地 | 東京都国分寺市西恋ヶ窪1-45-19 |
ウェブサイト | https://www.bushukoutsu.co.jp/ |
事業内容 | 貸切観光バス・リフト付観光バス(一般貸切旅客自動車運送事業)/企業団体送迎バス・福祉送迎バス/地域バス(一般乗合バス)/ハイヤーサービス(一般乗用旅客自動車運送事業)/車両運行管理・車両リース/旅行業/古物商 |