本事業では、地域内外の中小企業・スタートアップや大企業、大学等が連携して、地域の課題解決を図るためのプロジェクトや、多様な主体が交流できる会員組織(コミュニティ)の立ち上げなど、イノベーション創出に向けた取組を進めています。このインタビュー連載では、多摩地域のイノベーションをリードする注目企業をご紹介することで、皆様に多摩地域の魅力を発信していきます。
株式会社346は、工業製品における設計・デザインのプロである菅野秀氏と三枝守仁氏が起ち上げた工業デザイン会社です。その業態は、デザインだけでなく設計・製造まで手掛けるなど、一般的なデザイン会社とは一線を画します。製品開発におけるほとんど全ての領域でデザインの力を活用し、工業製品のブランディング、開発、コンサルティングを手掛ける株式会社346の共同代表・菅野秀氏に、事業内容について詳しく話を伺いました。
メーカー時代の開発プロセスに疑問を抱く
- まずは起業の経緯について教えてください。
菅野:以前、メーカーで工業製品の設計をしていた際に、デザインや開発の進め方、部門間のコミュニケーション、成果物の質などに課題を感じていました。特に、デザイナーやエンジニアの部門が分かれていることでそれぞれの部門が保守的になり、もっと良い製品が作れるはずなのにそれが実現できていないという問題意識を持っていました。例えば、エンジニア側はコスト計算や技術的なリスクなどを計算して製品要件を出しますが、デザイナーは使いやすさや見栄えなどのデザイン的な視点から提案をします。その際、最終的な決定は事業責任者が行うため、エンジニアとデザイナーが互いに歩み寄ることはなく、むしろ自分たちの意見をいかに優位にするかに注力してしまい、結果として最適な選択肢が選ばれないというジレンマを抱えていました。そこで、よりスムーズで協力的な開発プロセスを実現できる組織を作りたいという思いから、同じくメーカーで工業デザイナーをしていた三枝と共に、デザイナーとエンジニアの両者が協力し合える会社を設立することにしました。
エンジニアがデザインをしっかり学び、デザイナーが技術やコスト計算、ビジネスモデルといった領域を深く理解することで、両者のコミュニケーションが非常にスムーズになると考えています。そのため、弊社では、各分野を横断して専門性を身につける人材を育成し、組織することをポリシーとしています。
設計や製造を手掛けるデザイン会社
- 御社の事業内容をご紹介ください。
菅野:事業内容は大きく2つに分かれており、1つは受託開発事業、もう1つは自社製品の開発です。受託開発事業をさらに細かく分けると、商品企画、技術開発・設計、製造までを手掛けています。一般的に、デザイン会社はデザインに特化し、一方で受託開発の会社はデザインや企画に十分な力を注いでいない場合が多いですが、弊社は企画から設計、製造までをバランスよく手掛けるのが特徴です。
睡眠研究の権威と連携して製品を開発
- 御社が手掛けた代表的な製品をいくつかご紹介いただけますか?
菅野:睡眠研究の世界的権威である筑波大学の柳沢正史先生が社長を務める株式会社S’UIMIN様と連携し、睡眠計測サービス『InSomnograf(インソムノグラフ)』の製品設計とデザインを手がけました。従来、睡眠を測定するには、病院で専門家のカウンセリングを受け、さまざまなセンサーを装着してベッドで横になり、2〜3日かけて検査を行うのが一般的でした。しかし、この方法は手間がかかり、測定者の負担も大きいため、なかなか実施が難しいものでした。『InSomnograf』は、自宅で類似の測定ができることを強みとしており、従来の専門機器に多い無骨で複雑なデザインとは異なり、個人・家庭向け製品に近い洗練された見た目と、誰でも使いやすいシンプルなデザインを目指しました。S’UIMIN様が持っている要素技術を、ユーザーにとって使いやすく、社会実装に適した形にするためのサポートを行った事例となります。
他にも、堀江貴文さんが取締役を務めるロボットメーカー・株式会社Hakobot様の配送ロボットや、WOTA株式会社様の持ち運べる水再生処理プラント『WOTA BOX』、アサヒビール株式会社様のビールサーバーなど、様々な製品の設計・デザインを手がけさせていただいています。
「あったらいいな」を大切に
- 自社製品もご紹介いただけますか?
菅野:缶飲料専用のオープナー『DAVI Can Opener』という製品です。このオープナーを使えば、どのような缶でも上部をフルオープン(缶の上部が大きく開いた状態)にできるよう設計されており、缶ビールや缶チューハイなど様々な飲み物に使用可能です。
- 自社製品を開発するにあたってどのような視点を大切にされていますか?
菅野:まだ解決されていない問題や、「あったらいいな」と思うものを常に意識しています。普段の生活の中でそうしたニーズに気づいたら社内で議論を重ね、そこに事業性が見込めそうであれば、実際に検証し、事業として成立するかを確かめる。そういったプロセスからプロダクトが生まれます。弊社の社員は、プロダクトやものづくりが好きな人が多いです。面白いアイデアがあると、自然と社内で共有されるなど、会話の中でアイデアが膨らむことが多いですね。
デザインとは「最適化」すること
- デザインをする上で最も重視していることは?
菅野:一言で言えば、僕たちが行うデザインは「最適化」だと考えています。見た目のかっこよさも最適化の一要素ですし、使いやすさも同様です。また、ビジネスモデルの成立性、つまりどれくらいのコストで製品を作れるかといった点も最適化の一部です。これらの要素をバランスよく統合し、最適なアウトプットや製品仕様を作り上げることが、私たちが定義するデザインの役割です。受託開発においては、こうしたデザインの文脈に加え、クライアントごとの特徴や企業風土、ブランド価値を尊重することも重要です。すでに各企業の中に存在する資産価値の高い要素については、積極的に活用していくことを心がけています。
普遍的で長く愛されるディーター・ラムスのデザイン
- 尊敬している工業デザイナーはいますか?
菅野:特に尊敬しているのは、ブラウン社の製品を数多く手がけてきた世界的な工業デザイナー、ディーター・ラムス氏です。彼のデザインは、今見ても非常に洗練されており、昔の製品であっても全く古臭さを感じさせません。デザインには大きく2つの要素があると思います。一つは、トレンドに合わせ、その時代のユーザーに強く訴求する華やかな表現。そしてもう一つは、シンプルで普遍的、長く使い続けられるデザインです。私たちは、どちらかというと後者のデザイン思想を強く持っている会社です。ディーター・ラムス氏のデザインは、現在でも色あせることなく、学ぶべき点が非常に多いと考えます。
デザイン会社の枠を超えて事業規模を拡大する
菅野:当社はデザインをサービスとして提供することを主軸にしていますが、事業の規模を拡大するという数値的な目標もあります。社員数約20人という現在の規模でも、デザイン業界の中では中堅に位置していると思いますが、これまでのデザイン会社があまり取り組んでこなかった方法で、より高い付加価値を提供していきたいと考えています。
また現在、自社開発の割合は全体の15%ほどですが、将来的には受託開発と半々、つまり50%程度にまで増やしたいと考えています。その理由はいくつかあります。まず、デザインや製造、技術開発などをお客様に提供する際、自分たち自身がプレイヤーであることが信頼感につながるからです。また、お客様に提供する知識やノウハウも自社開発で蓄積できる点が大きなメリットです。さらに、受託開発のビジネスモデルは需要の波があり、売上のコントロールが難しい領域です。一方、自社開発の場合は、一度製品をリリースすれば、ある程度売上の予測が立ち、安定的な収益を見込むことができます。また、受託案件が減少した際に、社内リソースを自社開発に振り向けることで、リソースの平準化を図ることが可能です。そうしたバランスを取るためにも、受託開発と自社開発の両方にバランスよく取り組むことが理想だと考えています。
会社情報
会社名 | 株式会社346(サンヨンロク) |
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設立 | 2017年7月 |
本社所在地 | 東京オフィス 東京都小金井市中町2-24-16農工大・多摩小金井ベンチャーポート 202・206号室(東京農工大学小金井キャンパス内 |
ウェブサイト | https://346design.com/ |
事業内容 | 工業製品の製造販売ならびに修理・保守業務/工業製品、ソフトウェアの企画・設計・デザイン業務/工業製品、ソフトウェアのブランディング・マーケティング業務/企業経営全般に関する情報の提供及びコンサルタント業務/前各号に付帯関連する展示、店舗の企画・設計・デザイン業務/前各号に付帯関連する紙媒体、ホームページ、動画の企画・設計・デザイン・制作業務/前各号に付帯関連するエンジニアリング、発明研究、調査およびその利用業務/前各号に付帯関連する一切の事業及び業務 |