本事業では、地域内外の中小企業・スタートアップや大企業、大学等が連携して、地域の課題解決を図るためのプロジェクトや、多様な主体が交流できる会員組織(コミュニティ)の立ち上げなど、イノベーション創出に向けた取組を進めています。このインタビュー連載では、多摩地域のイノベーションをリードする注目企業をご紹介することで、皆様に多摩地域の魅力を発信していきます。
株式会社コアシステムジャパンは、独自の「ヘテロコア光ファイバーセンサー」技術を活用し、過酷な環境下でのIoTセンシングシステムを提供する、創価大学発のベンチャー企業です。この画期的な技術を駆使して、社会インフラや防災分野における設備・構造物の維持管理、危険診断業務のデジタルトランスフォーメーション(DX)を推進しています。創価大学名誉教授でもある、同社の渡辺一弘代表取締役会長CEOに、事業の詳細について話を伺いました。
電気から光へ。センサーのスタンダードを変える
- まずは御社の事業概要についてご紹介ください。
渡辺:従来、インフラの点検・保全、災害防止、セキュリティといった分野においては電気センサーが多く使用されてきましたが、弊社ではそれに代わる独自の光ファイバーセンサーを開発しています。光ファイバーセンサーは、電気センサーに比べて消費電力が少なく、高感度で長距離測定が可能であるなど、様々なメリットを持ちます。また、これまでの光ファイバーセンサーは、光ファイバー内を伝播する光の波長依存性や干渉効果が外部環境の変化によって変わる性質を利用していますが、弊社の「ヘテロコア光ファイバーセンサー」は、光の強度変化のみを検出するシンプルな方式を採用しているため、コストを大幅に削減でき、外部温度に依存しない、つまり極寒地から高温地帯まで幅広い環境で使用できる強みを持っています。
光ファイバーセンサーの社会実装を可能にしたヘテロコア構造
- ヘテロコア光ファイバーセンサーとはどんなものかを教えていただけますか?
渡辺:まずそもそもの話として、通信用に使われる光ファイバーは、コア内に閉じ込めた光を外部環境の影響を受けずに伝送することを目的に設計されています。光通信においては外乱を排除することが必須であり、そのため光ファイバーをセンサーとして利用することは本来の目的とは逆のアプローチとなります。一方で、センサーは外部環境の情報をいかに内部の光信号に反映させるかが主な目的です。この点に、光ファイバーセンサー開発の難しさがあります。通常の通信用光ファイバーは、そのままではセンサーとして利用するのが困難なのです。
そこで私たちが開発したのが「ヘテロコア構造」です。ヘテロコア構造とは、光ファイバーの途中に、通常のコアより少し細いコア径の光ファイバーを融着挿入する構造です。このように異なるコア径を持つことから「ヘテロコア」と呼んでいます。この径の違いにより、局所的に感度を数百倍に拡大し、再現性のある応答を実現することが可能になります。この革新的な技術が、ヘテロコア光ファイバーセンサーの核心となる要素です。
創価大学の学生たちと生み出した発明を社会実装したい
- ヘテロコア構造はどのようにして開発したのですか?
渡辺:この技術は、1995年ごろに創価大学で研究をしていた際に学生たちとともに開発したものです。もともと私は長年レーザーの研究を専門としていて、当時は光ファイバーの分野に取組み始めたばかりだったため、その分野の常識にとらわれなかったのが功を奏したのかもしれません。約10ミクロンの光ファイバーを切断し、間に5ミクロンの光ファイバーを接続したところ、その細さが偶然にも最適な条件となり、うまく機能しました。ただ、大学での発明というのは、多くの場合、発明しただけで終わってしまうことが多いんです。特許を取得すれば、大学の先生方はそれで満足して、「自分は特許を持っている」と誇らしげに話す。でも、それだけで終わらせてしまっては意味がありません。特許を権利化することは重要です。それをどう社会に実装し、実際に役立てるかはもっと重要です。その思いから、私は会社を設立することを決断しました。
大手ゼネコンと連携し福島の下水道管理に着手
- 建設業界の奥村組との協業についてもご紹介ください。
渡辺:奥村組とは下水道管路の老朽化対策や局所的な豪雨による内水氾濫の軽減を目的として、下水道内部の水位モニタリングシステムを共同開発しました。日本には明治時代から一度も手をつけられていない下水道が多く存在します。これまで、その調査を担ってきたのは、地方自治体の土木課の職員でした。しかし、調査のノウハウを持つベテラン職員方々は次々に定年退職しており、その作業の大変さから若い世代はなかなか増えてきません。下水道をすべて作り直すのは莫大なコストと時間がかかるため、下水道管理は長年、大きな課題として放置されてきました。そこで奥村組がこの問題に着手し、弊社の光ファイバーセンサ技術と連携し、千葉県柏市、福島県いわき市で包括的民間委託事業として具体的な管理を任されるようになりました。
省電力で長持ちが最大の魅力
- 奥村組はヘテロコア光ファイバーセンサーのどこに魅力を感じたのでしょうか。
渡辺:最大の魅力は、消費電力の少なさです。電気センサーは外部電源の供給が必要ですが、ヘテロコア光ファイバーセンサーは乾電池で稼働します。マンホールの中にAC電源があると思いますか?当然、ありません。つまり、このセンサーは単独で動作可能なのです。さらに、リチウム乾電池を使用すれば、約3年間も動き続けます。この点は奥村組にも非常に評価されました。一度マンホール内に設置した後、頻繁に電池交換に行くのは大変ですからね。また、データは無線で取得可能なため、作業員がわざわざマンホール内に入る必要はありません。車で近くまで行き、受信機で簡単に計測データを取得できるのです。
光源をLEDにすることで低価格化にも成功
- 他にはどのようなメリットがありますか?
渡辺:まず、圧倒的に低価格であることです。従来の光ファイバーセンサーは電気センサーに比べてコスト面で課題がありましたが、弊社の製品はその約10分の1以下のコストを実現しています。このコスト削減が可能になった理由は、光源を従来の半導体レーザーではなく、より安価なLEDに切り替えられた点にあります。この実現を可能にしたのが、ヘテロコア構造の採用による技術革新です。
さらに、金属を使用する電気センサーに対し、光ファイバーは金属を使用しないため水環境下での利用が可能です。水は金属を腐食させる性質があるため、電気センサーでは長期使用が難しくなります。また、ラインが地上に露出している場合、雷を引き込むリスクも伴います。雷が発生すると、下流に設置されたセンサーや上流にあるコントローラーがすべて故障する可能性があり、大きな被害を招く恐れがあります。
また、このセンサーは温度の影響を受けないという大きな特長があります。通常、電気センサーや従来の光ファイバーセンサーは温度に反応してしまいます。そのため、水位を測定したい場合でも温度の影響を補正する必要があり、これがコスト増の一因となっていました。しかし、このセンサーは温度依存を排除することで、精度とコスト効率の両立を実現しています。
水素社会の到来に備えて
- 今後、注力していきたい分野は何ですか?
渡辺:水素センサーです。これから水素社会が到来すると、水素センサーは不可欠な存在になります。なぜなら、水素濃度が大気中で5%以上になると、弱い静電気でも爆発を引き起こすためです。光ファイバーセンサーが優れている理由は、電気を使わない点にあります。現在も水素センサーは存在しますが、多くが電気式です。例えば電気式は、接触燃焼方式と言って通電した金属触媒で水素を少量燃焼させて検知する仕組みです。実質的に電気を排除するセンサーが求められる場面では、弊社のヘテロコア光ファイバーセンサーが大きな役割を果たせると考えています。水素センサー分野はまだまだ開発途上であり、これから積極的に攻めていきたいですね。
会社情報
会社名 | 株式会社コアシステムジャパン |
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設立 | 2008年7月 |
本社所在地 | 東京都八王子市本町24-8 クラフトビルⅢ 3F |
ウェブサイト | https://core-system.jp/ |
事業内容 | 光ファイバーセンサーによる屋外環境セキュリティ・防災・インフラモニタリング製品の開発、製造、販売、システムインテグレーション/受託技術開発 [ハードウェア、ソフトウェア、光ファイバー応用]/産学官連携事業の推進/知的財産権の譲渡、許諾 |