進化計算を始めとした高度な技術を用いて顧客の課題を解決

株式会社タイムインターメディア

執行役員 藤原博文

インタビューに答えていただいた執行役員の藤原博文氏

 本事業では、地域内外の中小企業・スタートアップや大企業、大学等が連携して、地域の課題解決を図るためのプロジェクトや、多様な主体が交流できる会員組織(コミュニティ)の立ち上げなど、イノベーション創出に向けた取組を進めています。このインタビュー連載では、多摩地域のイノベーションをリードする注目企業をご紹介することで、皆様に多摩地域の魅力を発信していきます。

 株式会社タイムインターメディアは、社員の8割以上がプログラマーのIT技術者集団です。教育機関向けICTソリューションや、AI・ブロックチェーン技術を活用した最先端ソリューションを提供。さらに、クラウドサービスやパズル自動生成エンジンの開発など、多岐にわたる事業でクライアントの課題解決を支援しています。執行役員の藤原博文氏に事業内容について詳しく話を聞きました。

頼まれたらどのような分野でも挑戦する

御社の特長はなんでしょうか?

藤原:弊社の特長を一言で言うと、どんな分野のソフトウェア開発にも挑戦する姿勢があることです。お客様の業種は多岐にわたり、特に他社で対応が難しかった案件を解決してきた実績が数多くあります。多くのIT企業は専門分野を絞り、その範囲内で活動していますが、弊社は「顧客の課題を解決できるなら、知らないこと、新しいことでも、調べてすべてやる」という姿勢です。私自身は知識工学センターで研究開発をしており、新しいビジネスのシーズを見つけて、それが事業として成立する見込みがあるかを判断するところまで進めるのが役割です。その後、さらに具体的な事業展開を進める場合は、他のチームが引き継ぎます。

生物の進化の仕組みを模倣したAI“進化計算”

御社のサービス・最適化AIプラットフォーム「TENKEI」に使われている、進化計算とはどのような人工知能システムなのか、ご紹介ください。

藤原:進化計算は、無限に近い組み合わせの数の中から最適な答えを素早く導き出すことを得意とする、生物の進化の仕組みを模倣した技術です。生物がどうやってこんなに賢く、効率的に進化してきたのか、完全にはわかっていませんが、何億年もの時間をかけて少しずつ最適化されてきたわけです。その仕組みをそのまま計算で再現すれば、最適解を素早く導き出せるのではないかという考え方が基本です。本来なら何億年もかかる進化のプロセスを、コンピューターの力で秒や分の単位に縮めて再現するわけです。進化計算そのものは昔から考えられていた技術ですが、計算量が非常に膨大なので、コンピューターの性能が低かった頃は実用的ではありませんでした。それが2010年ごろから計算能力が向上し、ようやく実用化できるようになったんです。
 
弊社では、この進化計算を使った最適化AIプラットフォーム「TENKEI」を提供し、顧客の課題解決に役立てています。進化計算はディープラーニングとは全く異なるアプローチです。ディープラーニングは大量のデータがないと機能しませんが、進化計算はデータがなくても動きます。生物が進化する際、最初からデータがあったわけではありませんよね。それと同じで、ゼロからスタートしても効果を発揮するのが進化計算の強みです。この技術を活用して、いろいろな分野でチャレンジしています。
最適化AIプラットフォーム TENKEI 特設サイト

アスクルの在庫配置システムを400倍に高速化

電気通信大学と共同で手掛けたアスクルの業務最適化のプロジェクトについてご紹介ください。

藤原:このプロジェクトでは、アスクルが抱える大量の注文データを効率的に処理するため、全国にある物流センターの在庫配置を最適化することが目的でした。当時、BtoBの配送を担う物流センターが8カ所あり、どの物流センターにどの商品を置けば効果的かを考える必要がありました。たとえば、複数の商品が同時に注文されたとき、同じ物流センターから配送できれば荷物を1つにまとめられますが、別々の物流センターから送ると送料が倍かかります。この送料を削減することが、コストダウンの大きなポイントでした。ただし、アスクルは「翌日配送」の制約があるため、特定の商品を複数の物流センターに分散して置いておく必要があります。アスクルの従来の方法では計算が遅すぎて実用性に欠けたため、「高速化してほしい」という依頼を受けました。アスクルではそれまでPythonというプログラミング言語を使用していましたが、Pythonは特にデータ評価部分で処理速度が遅く、例えば受注が1000万件ある場合、それを順番に調べるだけで膨大な時間がかかっていたんです。そこで、データ評価の高速化に優れたRustという別のプログラミング言語を活用するなど、さまざまな工夫を行い高速化しました。これにより、最終的に計算速度を400倍に改善することができました。
アスクル、電気通信大学、タイムインターメディアが AIによる物流センター在庫配置最適化に向け、協働で実証実験を開始

大学のシステム開発で教育機関からの信頼を獲得

御社は教育機関、特に大学のシステムを数多く手がけています。

藤原:実は最初から「教育分野をやろう」と思っていたわけではありません。当時、多くの大学が高額な大型コンピューターでシステムを運用していましたが、年間で何億円もかかる上に、性能的には10分の1程度の値段のコンピューターでも十分対応できることが分かっていました。ただ、実際に切り替える大学はなかったんです。おそらく、変化を嫌って漫然と同じことを続けていたのだと思います。そんななか、国士舘大学から「大型コンピューターをやめたいけど、なんとかならないか」と依頼がありました。学生数が1万5000人と大規模な大学ですが、「うちでやります」と手を挙げ、全システムをクラウド化しました。これがおそらく日本で最初の、1万人以上規模の大学のシステムをクラウド化した例だと思います。この経験で大学のシステム運用のノウハウが身につき、他大学からも声がかかるようになりました。

大学と共同でシステム開発をした例もあります。例えば山梨学院大学では、授業の履修システムを作りました。山梨学院大はスポーツで有名ですが、実習授業が多いので、定員の上限や単位の組み合わせなど、細かい制約がたくさんあります。例えば、保健体育の教員免許の取得を目指す場合とスポーツの民間資格の取得を目指す場合では履修内容が変わりますし、実習ごとに「20人まで」といった上限も守らなければいけません。こうした複雑な条件をクリアしつつ、効率的に必要な単位を取れるようなシステムを、進化計算を使って開発しました。

研究はパズルゲームを解くため

2018年に御社が作ったナンプレがギネス記録に認定されていますが、それまでナンプレは事業の一環として取組んでいたのでしょうか。

藤原:そもそもナンプレだけでなくパズルゲーム全般が好きで事業としてやっていました。ギネス記録を取ったのも、その流れの一環ですね。これまでいろいろな出版社にナンプレの問題を提供してきました。昔は問題を人間が手作業で作って、難易度の確認も実際に解いてストップウォッチで測ったりしていたんです。それだと手間もコストもかかるし、大量に問題を提供するのは難しい。そこで、自動で問題を作るシステムを作りました。初心者向けの簡単な問題から、上級者向けの難しい問題まで自由に設定できます。すべて進化計算を使っていて、効率的に多くの問題を提供できるようになっています。
祝!ギネス世界記録™認定 MATH POWER 2018 レポート

藤原氏が開発したナンプレ問題作成ソフト
2018年に開催された「数学の祭典 MATH POWER 2018」のイベントコンテンツとして、タイムインターメディア社が提供した巨大ナンプレが、ギネス世界記録に認定された。来場者が会場に掲示された「最大のマルチナンプレ・パズル」をイベント時間内に完成させるという企画だった。
ナンプレは進化計算の研究に役立つから取り組まれていたのでしょうか。

藤原:いやいや、パズルが目的です(笑)。進化計算やコンピューターは、そのための手段ですね。実際、昔のAI研究もパズルから始めた人が多いんです。社会問題はデータが膨大で複雑すぎますが、パズルはシンプルで扱いやすいんですよ。私も中学生のころからパズルが大好きで、パズルを解かせるためにコンピューターを勉強しました。人間がパズルを解くのは疲れるから、コンピューターにやらせようと考えたんです。一番単純な例はこれ(下記写真)ですかね。ぐちゃぐちゃにしてから、元通りに並べ直すタイプのものです。こういうシンプルなパズルを解くために、進化計算やコンピューターの技術を使っていたんです。だから、パズルがあってこそのコンピューターです(笑)。

箱入り娘(左)、箱詰めパズル(ペントミノ)(右)

8ビット時代のマイコンにハマり趣味が仕事に

この業界に入ったのはいつごろから?

藤原:コンピューターに本格的にハマったのは、1970年代の日本の最初のマイコンブームのころですね。当時は8ビットの時代で、趣味でいろいろ試していました。それを記事にして発表していたら、出版社から声をかけられて、趣味が仕事になりました。そのころは雑誌が中心でしたが、徐々にソフトウェアの販売も始まり、それを担当していました。ただ、当時のソフトウェアはゲームが主流で、自分がやりたい技術的なことはできなかったんです。それでその仕事を辞めて、技術計算系の会社に移りました。

そこは渋谷にあって、ハッカーが集まるような会社でした。日米のインターネット回線を引っ張ってきて、日本で最初にインターネットを動かした場所でもあります。そこで自然とインターネットやUnix(※1)に触れるようになりました。当時、日本ではUnixを扱える人がほとんどいなかったので、その中で新しい技術や知識をどんどん吸収しました。ちょうど第2次AIブームの頃で、政府が人工知能の研究機関を作るなどしており、そこから研究員が遊びに来たりと、いろいろな刺激を受ける環境でしたね。※1.現在ではUnix系OSがクラウド、サーバ、スパコンからパソコン、モバイル端末、組み込み機器に広く使われている。

進化計算で宅地の区割りを瞬時に実行

多摩地域に関連した事業も行っていると伺いました。

藤原:多摩地域では戸建て住宅が多いですよね。例えば、(写真のような)506平米の土地があって、このグリーンの部分が道路に面しているとします。この土地をいくつかの区画に分割するのが「宅地の区割り」です。例えば、ある住宅メーカーがこの土地を5区画に分割して販売しようと考えた場合、システムを使えばボタン一つで瞬時に最適な分割が可能です。これまで、このような作業は人間が手作業で行っていました。そのため、その土地が価値あるものかを判断するには時間がかかり、外注に出すことも多かったんです。その間に他社に土地を取られてしまうこともありました。このシステムなら、最適な分割案を瞬時に提示できます。特に多摩地域のような戸建て住宅が多いエリアでは需要が高いと考えています。

ボタン一つで条件に合った最適な区割りを計算するシステムを開発

若者は失敗を恐れずに何事にもチャレンジしてほしい

これからの日本を背負う若い世代に期待したいことはありますか?

藤原:若者はどんどんチャレンジするべきだと思います。インドや東南アジアと比べると日本はどうしても縮こまっている印象です。昔はみんなチャレンジして、“ちゃんと”失敗してました。その積み重ねが経済発展につながったんです。今は「いい点数を取ること」が目的化してますが、点数が良くても成功する人ばかりではありません。むしろ、チャレンジした人のほうが成功しています。弊社に来て、チャレンジして飛び出していった人間も数多くいます。仮想通貨取引所bitFlyerのCTOは弊社の元社員で、他のエンジニアたちも一緒に活躍しています。失敗してもいいので、若い皆さんにはもっともっとチャレンジしてほしいですね。

会社情報

会社名 株式会社タイムインターメディア
設立 1998年4月1日
本社所在地 東京都新宿区四谷坂町 12-22 VORT四谷坂町
ウェブサイト https://www.timedia.co.jp/
事業内容  eビジネス事業開発およびデジタルマーケティング戦略に関するコンサルティング/デジタルメディアにおけるクリエイティブおよびコンテンツ企画・制作/ITシステムの企画、設計、構築、運用保守サービス全般/自社製品およびクラウドサービスの開発と提供/パズル自動生成エンジンの開発およびパズル問題の提供 <知識工学センター> 東京都調布市小島町1-1-1電気通信大学UECアライアンスセンター217