実践的アプローチを用いて子どもたちの可能性を育む、西八王子のプログラミング教室

IT自由研究室

代表 中島 由紀

インタビューに答えていただいた代表の中島由紀氏

 本事業では、地域内外の中小企業・スタートアップや大企業、大学等が連携して、地域の課題解決を図るためのプロジェクトや、多様な主体が交流できる会員組織(コミュニティ)の立ち上げなど、イノベーション創出に向けた取組を進めています。このインタビュー連載では、多摩地域のイノベーションをリードする注目企業をご紹介することで、皆様に多摩地域の魅力を発信していきます。

 西八王子駅から徒歩2分の場所に、子どもたちにプログラミングの楽しさを教える『IT自由研究室』があります。中島由紀代表は大学でデータ分析講師・研究員を務める傍ら、このプログラミング教室を通じて子どもたちへのIT教育に尽力されています。研究者と教育者の二つの顔を持つ中島代表に、IT自由研究室の指導方針や指導内容について詳しく話をうかがいました。

教育には「実体験」が大事

本業は別にお持ちとのことですが、子ども向けのプログラミング教室を始めた経緯を教えてください。

中島:昼間は大学の地方創生系の研究所に所属していて、研究員として活動するのがメインの仕事です。それと並行して、学生さんにマーケティングの視点でデータ分析を教えています。これを始めたのが2015年なのですが、教え始めたころに驚いたのが、学生さんのExcelスキルにすごい格差があったことなんです。高校までに一定時間、学んできているはずなのですが、苦手意識を持っている子はなかなか苦労していました。。そこで、まずは自分が好きなテーマで数値を集めてもらい、それをExcelでまとめて、「どのような結果を知りたいか、どんな傾向が出るか」といったことを一緒に考えるようにしたんです。すると、学生のみんなが楽しみながら取り組んでくれるようになりました。

こうした経験もあり、教育には「実体験」が大事だということを痛切に感じており、10年以上大切にしてきました。そんななか、小学校でプログラミング教育が必修化され、学校が急速にオンライン化を進める一方で、当時はまだ、子どもたち全員にパソコンが行き渡っていなかったり、ネット環境が整っていない家庭もまだ多くありました。そこで、「自分に何かサポートできることがあるのではないか」と考え、このIT自由研究室を立ち上げることにしました。

ITを使って好きなことを深く探求できる場所にしたい

IT自由研究室の指導方針は?

中島:IT自由研究室では「プログラミング教室」という名前を使っていますが、実際にはITやデジタルを使って「何をしたいのか」を探求する場にしたいと思っています。ここで自分の得意分野を見つけて、深く探求できる場所にしたいというのが当初からの思いです。指導方法は、他のフランチャイズ型の教室とは異なるやり方をしています。多くのパソコン教室やプログラミング教室では、用意された教材を順番に進めていく形式が多いですよね。しかし、それだと応用力が身につきにくく、「自分はこれを作りたい。では何をすればいいのか」という発想が生まれにくいんです。好きではないことでは吸収力も下がるので、本人の目的意識が本当に大事だと思っています。この教室も2025年の3月で丸4年を迎えますが、その思いをずっと大切にしながら運営してきました。

スクラッチを使ってゲームを作る

どのような教材を使用しているのでしょうか。

中島:基本的に、弊社では「スクラッチ」というMIT(マサチューセッツ工科大学)が開発した教材を使っています。スクラッチは、世界中の小学生年代の子どもたちが使っていて、プログラミングの基礎がぎゅっと凝縮された教材です。また、MITが提供しているカリキュラムは、汎用性の面や知識の積み上げの面でも本当に素晴らしく、それをベースに教えています。

子供たちのモチベーションとしては、やはり「ゲームを作りたい!」が一番なんですよね。それは絶対に尊重してあげます。ただ、作りたいゲームが、いまのスキルではかなり難しいことも多いです。そんなときは実際のゲームを見せながら、その裏にあるコードを解説していきます。すると、みんな「これは難しそうだ……」と思うことも多いですが、そこで「大丈夫、半年くらいでこれに近いことできるよ」と伝えると、一気にやる気が出るんです。

プログラミングを教えるにあたり、私たちは「細分化」を大事にしています。最初はとにかくゲームで遊んでもらい、「このゲームはどんな要素で成り立っているのか」「何をどうするとどうなるのか」を考えてもらいます。こうして細分化することで、難しそうに見えるゲームでも、「じゃあ順番にやってみよう」となり、自分でできる部分とできない部分が見えてきます。そして、次第に「これ、僕でもできるじゃん!」という自信につながっていくんです。

子どもたちが使っているスクラッチの作業画面

アレンジ大賞で子どもたちのスキルとモチベーションをアップ

子どもたちがプログラミングを学ぶ上で、何がモチベーションになっている印象ですか?

中島:はじめは、自分が考えたものが動いたり、逆に思っていたのとは違う動きをして、「おおっ!」と驚いたりするのが、子どもたちにとってすごく楽しい瞬間なんですよね。その「思った通りにいかないけどおもしろい」という体験が、モチベーションにつながります。

ただ、変数や演算などを使う段階に入ると、急に難しく感じる子も増えてきます。「作りたいものが思いつかない」というお子さんも少なくありません。スキルを伸ばすために検定を受けてもらったり、私たちも協賛しているプログラミング親子大会に参加してもらったりもしています。でも、大会だと「オリジナル作品を作りましょう」というテーマで困ってしまう子も出てきます。そういう場合は無理に大会に出なくても大丈夫です。そこで、私たちの教室内のイベント「アレンジ大賞」に参加してもらいます。これがとても盛り上がるんです。プログラミング親子大会が0→1で新しいものを作るとしたら、アレンジ大賞は1→10のイメージです。既存のゲームをどうアレンジするかを競う大会で、先生が採点して入賞者を決め、その後は生徒全員で投票して「一番面白い作品」を選びます。全員参加型なので、楽しみながら自然とスキルが伸びていくんです。

プロのエンジニアやイラストレーターが講師として在籍

講師にはどのような方々がいますか?

中島:教室には大学生のアルバイトの方々がいて、他には大人の方で、もともと小中学校のIT支援員をされていた方や、以前エンジニアや講師をされていた方が教室をスタートした当初から関わってくれています。最近では、バリバリの現役エンジニアさんが二人、副業で参加してくれるようにもなりました。一人はサーバー管理やセキュリティ系の専門家、もう一人は組込み系のエンジニアで、まったく異なるスキルを持った方々が加わっています。

加えて、若い女性スタッフもいて、彼女はイラストレーターなんです。そのスキルを生かして、これからデジタルイラストコースを作ろうと考えています。自分でキャラクターを描いて、それを動かしてゲームにするのは楽しいですよね。特にスクラッチなら、自分が描いた絵をそのまま取り込んで使えるので、子どもたちのモチベーションにもつながります。描いたものが動く瞬間は、やっぱりワクワクするんですよ。

ガサガサ探検隊と連携し、子どもたちの理解を深める

地域と連携した取組みを始めたと伺っています。

中島:八王子市の水循環部が協力してやっている「ガサガサ探検隊」というイベントがあるんです。川で生き物を探して、どんな場所にどんな生き物がいるのかといったことや、水温が変わると生き物がどう変化するのかを学べます。毎年大人気で、小学生が100人ほど集まるのですが、その活動をもっと広めたり、別の体験に繋げたりできないかな、と思っていたんです。そこで、「これをデジタルで活用するためには何ができるだろう?」と考え、私たちの教室の生徒6人が有志で「デジタル班」として参加することになりました。当日はカメラで撮影をして、その映像を加工しながらスクラッチでゲームを作ったりしています。また、ガサガサ探検隊を紹介するホームページや、生き物図鑑の作成も進めているところです。実際、2025年の2月に、彼らのデジタル活動を発表する場として「八王子の川はスゴいぞ展」を実現しました。

この活動を通じて、生徒たちは実践的な体験をしています。たとえば、ホームページを制作する際に、はじめはデータが大きすぎる画像を貼ってしまいがちなのですが、そういう失敗を通して「ドットってこういうことなんだ」、「クラウドに保管するとこうなる」といった知識が自然と身についていきます。やはり実際に使ってみないとピンときませんよね。そうした実践を通して学ぶことで、初めて理解が深まるんです。

南浅川の自然に魅せられて八王子に移り住む

中島様にとって、多摩地域の魅力は何でしょうか。

中島:八王子に来る前は新宿に住んでいたのですが、南浅川がすごく気に入り八王子に引っ越してきました。川と歩道がこんなに近い場所が東京都内にあるなんて、本当に驚きました。護岸の要所には座れる階段スペースもあり、水もきれいだし、魚もたくさんいて、視線をあげると高尾山がみえる!こんなに自然豊かな場所に住めたら、長生きできて人生も豊かになるのではないかと思ったんです。こちらに来てからは「南浅川定点観測員」という、川の様子を観察する活動を始めました。それがきっかけで、八王子市の水循環部さんともいろいろと情報交換させてもらえるようになりました。

いま考えているのは、「体験」をキーワードに、農家さんや商店街、高尾山、鉄道といったテーマで企業とコラボして、実践的な取り組みを広げられたらいいなということです。八王子には私の大好きな南浅川をはじめ、体験の素材が本当にたくさんあります。農業もあれば高尾山もある。こうした地域の魅力を生かしていきたいなと思っています。

会社情報

会社名 IT自由研究室
設立 2021年
本社所在地 東京都八王子市千人町2-2-13エリア248_1階
ウェブサイト https://it-jiyukenkyu.com/
事業内容 小・中学生向けプログラミング教室の運営